■ はじめに:「その決断、どの型ですか?」
私たちは日々、無数の意思決定をしています。
ランチで何を食べるか、上司にどう報告するか、プロジェクトの方向性をどう定めるか——。
そのすべてが、何らかの型(decision-making type)に基づいた判断であることを、私たちは意外と意識していません。
心理学や行動経済学では、意思決定を大きく以下の3つに分類することがよくあります。
- ランダム型:偶然に任せる
- ヒューリスティック型:直感や経験則に従う
- オプティマル型:理論的に最善を目指す
しかし現実の意思決定はもっと複雑です。この3分類では足りません。
本稿では、「意思決定の拡張モデル」として、8タイプ構造を提示します。
■ 意思決定の基本3タイプ
1. ランダム型(Random Decision)
完全に無作為な判断。コイントスやくじ引きに似た構造で、選択肢の差が無視されます。
- 利点:判断負荷がゼロ
- 欠点:一貫性や成果が保証されない
- 使用例:優劣がつけられない選択肢、遊び
2. ヒューリスティック型(Heuristic Decision)
経験則や直感で「そこそこ良い」答えを出す。カーネマンらの研究で有名な「認知バイアス」もここに分類されます。
- 利点:素早く対応できる
- 欠点:誤判断のリスクが高い
- 使用例:緊急対応、日常判断、営業トーク
3. オプティマル型(Optimal Decision)
情報を全て集め、数学的に最適解を導く。AIや合理的意思決定モデルがこれに該当します。
- 利点:最善の成果を出しやすい
- 欠点:コストと時間が膨大
- 使用例:経営戦略、医療判断、金融投資
■ 拡張5タイプ:現実に近づくための視点
4. ルールベース型(Rule-Based)
あらかじめ定められたルールに従う判断。法律、業務マニュアル、AIのif-thenルールなど。
- 使用例:交通規則、工場の工程判断、行政処理
5. 感情駆動型(Affective)
「なんとなく嫌な気がする」など、情動に駆動される選択。意思決定の多くはここに分類されうるとする研究も。
- 使用例:恋愛判断、リーダーシップ、ブランド選好
6. 社会的参照型(Social Referencing)
他人の行動や意見を基にする判断。「みんなが使っているから自分も使う」といった選択。
- 使用例:SNS上の流行、集団意思決定、権威への従属
7. インクリメンタル型(Incremental)
大きな意思決定をせず、小さな変更を重ねて最適化する。政策や制度設計の現場で重要。
- 使用例:制度改革、組織運営、リーン開発
8. 直観型(Intuitive)
膨大な経験を背景に、「一瞬でわかる」ような判断。将棋のプロや熟練外科医などが持つスキル。
- 使用例:プロフェッショナルの判断、危機管理、交渉術
■ 「MECE」構造としての確認
この8分類は、ビジネスフレームワークでよく使われるMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)=モレなくダブりなくに整備されています。
| タイプ | 判断基盤 | 実行負荷 | 主な適用文脈 |
|---|---|---|---|
| ランダム型 | 偶然 | 最低 | 同等選択、遊び |
| ヒューリスティック型 | 経験則・直感 | 低 | 日常判断、緊急時 |
| オプティマル型 | 論理・数理 | 高 | 経営、AI、金融 |
| ルールベース型 | 明文化された規範 | 中 | 法律、業務マニュアル |
| 感情駆動型 | 情動・感覚 | 中 | 恋愛、ブランディング |
| 社会的参照型 | 他者・社会的期待 | 中 | SNS、文化、消費行動 |
| インクリメンタル型 | 小変更の積み重ね | 中 | 制度改革、組織変化 |
| 直観型 | 熟練と暗黙知 | 中〜高 | 医療、交渉、スポーツ |
■ おわりに:どの型で「考えているか」に気づくこと
自分の意思決定が、どの型に属しているかを知ることは、「問いの質」を高める鍵でもあります。
たとえば──
- オプティマル型で考えたいのに、実際は感情駆動型になっていないか?
- 他人に合わせていると思っていたが、実はヒューリスティックにすぎなかったのでは?
そうした気づきが、自身の意思決定を言語化し、他者と共有し、アップデートする一歩となります。
「意思決定を見える化する」という構えこそが、構造的思考の始まりかもしれません。



