ルールは命題になるか?──「まずAしてからBせよ」の構造を問う

◆ 手続きは命題か?

「まず手を洗ってから、料理を始めてください」 「パソコンを起動したら、ログイン画面でIDとパスワードを入力してください」

こうした指示文・手続き文は、命題(proposition)と言えるでしょうか? つまり、「真か偽か」で評価できる文と言えるのでしょうか?

答えは一見「NO」に見えます。 なぜなら、これらは事実の記述ではなく、「操作の順序」を示しているからです。 しかし、ここにもやはり命題的な構造が隠れています。


◆ 手続き文の構造:命題+条件+順序

手続き文を分析すると、そこには次のような要素が含まれています:

(1) Aをせよ(操作命令)
(2) Bをせよ(別の命令)
(3) Aが完了した後にBを行う(順序関係)

この (3) が重要です。これは時間的・論理的順序を表しており、命題的に書くと:

Do(A) → Do(B)(Aの後にBを実行)

つまり、手続きは**一連の命令文の集合+論理構造(if/then)**で構成されているのです。


◆ フローチャートと命題論理の接点

プログラミングや業務設計で用いられるフローチャートは、 命題論理と驚くほど似た構造を持っています。

例:

[手を洗った?] → Yes → [料理を始める]
                ↓
              No → [まず手を洗う]

この構造は以下のように命題化できます:

Washed(手) → Start(料理)
¬Washed(手) → Wash(手)

命令の連鎖も、論理条件と命題の束として記述できるのです。


◆ AIはどう扱うか?──プランニングと条件命題

AIは手続きを扱う際、プランニング(計画立案)や推論エンジンを使います。

たとえば、「Aした後でBせよ」は、以下のように処理されます:

Precondition(B) = A_done
Effect(A) = A_done
→ If ¬A_done, then do A first

つまりAIは、各操作に対して条件付き命題のネットワークを構築し、 その順序と条件をもとに行動を最適化します。

手続き = 命令文の集まり + 命題による制約と順序関係


◆ 手続きは命題に還元されるのか?

完全に命題化できるかといえば、ニュアンスや実行タイミングなど曖昧な部分も残ります。 しかし、AIの世界では「世界の状態」と「行動」を結びつけるために、 手続きは必ず命題的記述に変換されています。

とりわけ、

  • 条件:前提が満たされているか?
  • 実行:いつ何を行うか?
  • 効果:どの状態が得られるか?

といった観点から、操作命令と命題のハイブリッド構造として再構成されています。


◆ おわりに:ルールは命題と手続きの交差点にある

「まずAしてからBせよ」という手続き文。 それは一見すると命題ではありませんが、その中には:

  • 命令(action)
  • 条件(if/then)
  • 順序(before/after)

という論理的構造が明確に組み込まれています。

手続きは、世界の操作方法を記述する“実践の論理”。 AIはそれを、命題的構造へと変換して理解し、実行します。

私たちが何気なく使う「ルール」は、 実は命題と行動のあいだにあるハイブリッド言語なのです。