◆ 定義は命題なのか?
「正方形とは、四辺の長さが等しい長方形である」 「酸とは、水素イオンを放出する物質である」
こうした定義文は、いかにも“真理らしい顔”をしています。 けれど、これらは本当に命題なのでしょうか? ──つまり、「真か偽かを問える文」なのでしょうか?
あるいは、定義は命題ではなく、まったく別の働きを持っているのでしょうか? 今回はこの問いに、論理とAIの両方の視点から迫ってみます。
◆ 「とは〜である」の論理構造
まず、「AとはBである」という形式の文を素朴に命題化してみましょう。
例:
「正方形とは、四辺の長さが等しい長方形である」
これは命題にすると:
∀x (正方形(x) ⇔ 長方形(x) ∧ 四辺等長(x))
つまり、「正方形」という概念を「長方形かつ四辺が等しいもの」と定義づける文であり、 単に真偽を問うだけでなく、「語の意味の境界線を明示している」わけです。
◆ 命題と定義の違いは何か?
| 比較軸 | 命題 | 定義 |
|---|---|---|
| 形式 | AはBである | AとはBである |
| 真偽 | 問える | 通常は問わない(公理的に採用) |
| 機能 | 世界の状態を記述する | 概念の境界を定める |
| AI的解釈 | 事実知識(Knowledge) | 概念構造(Ontology) |
命題は「事実の記述」ですが、定義は「語・概念の設計図」です。 とくにAIにおいては、定義はオントロジー(概念構造)を支える基本単位として機能します。
◆ AIの視点:定義は世界の地図である
AIが世界を理解する際、「事実」と「定義」は区別されます。
🔹 命題的知識:
正方形(この図形)
→ 推論できる事実:辺の長さが等しい、かつ長方形である
🔹 定義的知識(オントロジー)
定義:正方形(x) ⇔ 長方形(x) ∧ 四辺等長(x)
→ 知識ベース上の概念の構造ルール
つまり、AIは定義を「推論ルールの種」として扱うのです。 そのため、定義は命題ではなく、命題を生み出す装置とも言えるでしょう。
◆ 図解で見る:定義の論理構造
┌────────────┐
│ 正方形(x) │
└────────────┘
⇔
┌────────────┬────────────┐
│ 長方形(x) │ ∧ │ 四辺等長(x) │
└────────────┴────────────┘
定義とは、「AとはB」の形式に見えて、実は「A ⇔ B」の**両含意(双方向の論理関係)**なのです。
◆ おわりに:定義が命題を生む
「定義は命題ではないか?」という問いの答えは、 **「定義は命題“そのもの”というより、命題を可能にする“仕組み”である」**という形になりそうです。
人間もAIも、世界を理解するには、ただ事実を集めるだけでは足りません。 その前に、「世界をどう分類するか」「語をどう設計するか」という、 概念の地図=定義が必要になります。
命題の裏には、定義という「目に見えない論理装置」がある。 そう思ってもう一度、身近な「とは〜である」を眺めてみてください。 きっと、その奥に精緻な論理の影が見えてくるはずです。



