1. 企業プロフィール:デジタルクリエイト株式会社
業種: ウェブサイト制作・受託開発
従業員数: 48名
設立: 2012年
年間売上: 約2億8000万円(前年度)
組織構成:
- 経営陣(代表取締役、取締役CTOの2名)
- 営業部(7名)
- デザイン部(12名)
- 開発部(18名)
- プロジェクトマネジメント部(6名)
- 管理部(3名)
デジタルクリエイト株式会社(以下、DC社)は創業以来、地域の中小企業から大企業まで幅広い顧客にウェブサイト制作サービスを提供してきました。創業から7年間は順調に成長を続け、業界でも一定の評価を得ていました。しかし、ここ2年間で業績が停滞し、特に直近1年間では明らかな下降傾向にあります。
2. 直面している問題(問題の認識)
代表取締役の佐藤氏が現状を把握するために営業データを確認したところ、以下の問題点が明らかになりました:
- 売上減少: 前年比12%減
- 新規案件獲得数: 前年比25%減
- リピート案件: 前年比18%減
- 平均案件単価: 15%減少(120万円→102万円)
- 営業利益率: 18%から11%に低下
佐藤社長は「業界の競争激化」や「コロナ後の予算削減傾向」が原因ではないかと考えていましたが、なぜ自社だけがこれほど影響を受けているのかが分かりませんでした。この状況を打開するため、問題解決のアプローチを導入することにしました。
3. 問題のセグメンテーション(S)
まず、漠然とした「業績低下」という問題を細分化するために、複数の角度から問題を分解しました。
3.1 時間軸による分解
経理データを四半期ごとに分析した結果:
- 業績低下は約2年前(8四半期前)から徐々に始まっていた
- 特に直近4四半期で急激に悪化
- 問題の進行が加速している傾向
3.2 サービス別の分解
サービスライン別の売上データを分析:
- コーポレートサイト制作:前年比8%減
- ECサイト開発:前年比32%減(最も落ち込みが大きい)
- ランディングページ制作:前年比5%増
- CMS構築・カスタマイズ:前年比28%減
- 保守・運用サービス:前年比2%増
3.3 顧客セグメント別の分解
顧客属性ごとの受注状況:
- 製造業:前年比30%減
- 小売業:前年比15%減
- サービス業:前年比5%減
- 大企業(従業員300人以上):前年比35%減
- 中小企業:前年比8%減
3.4 社内プロセス別の分解
各業務プロセスの状況を分析:
- 営業プロセス:提案から受注までの成約率が35%から22%に低下
- 開発プロセス:納期遅延プロジェクトが15%から28%に増加
- 品質管理:顧客からの手戻り要求が平均30%増加
- 顧客対応:クレーム報告が15件から27件に増加
3.5 問題間の相関関係分析
上記のデータから、いくつかの相関パターンが見えてきました:
- 大企業・製造業向けECサイト案件の減少が特に顕著
- 納期遅延とクレーム増加には強い相関
- 成約率低下と平均単価減少は同時期に進行
4. 原因のターゲティング(T)
セグメンテーションで見えてきた問題の詳細を踏まえ、DC社は以下の方法で原因分析を進めました。
4.1 データ収集方法
1. 受注・失注案件の分析
- 実施内容: 過去1年間の全提案案件(62件)の提案書、見積書、顧客とのやり取りを再確認
- 着目点: 失注理由の記録、競合他社との比較、価格設定など
- 具体的な作業: 営業担当者ごとに担当案件の一覧表を作成し、受注・失注の傾向を分析
2. 顧客フィードバック収集
- 実施内容:
- 失注した大口案件(5件)の担当者に電話インタビュー
- 最近のプロジェクト10件について完了後アンケートを分析
- クレーム対応記録の内容分析
- データ整理方法:
- すべてのフィードバックを「機能性」「デザイン」「コスト」「納期」「コミュニケーション」「提案内容」の6カテゴリに分類
- 各カテゴリ内でさらに詳細な要因に分類
3. 競合分析
- 実施内容:
- 同地域の主要競合3社のウェブサイト内容、サービス、事例を詳細分析
- 顧客から入手した競合の提案書2件の分析
- 業界団体の市場動向レポートの確認
- 分析方法:
- 自社と競合の提案内容を「技術力」「デザイン力」「提案の具体性」「価格」「実績アピール」の5項目で5段階評価
4. 社内実態調査
- 実施内容:
- 全部門長との個別面談(各1時間)
- 開発チームとデザインチームそれぞれでグループディスカッション
- 退職者3名への電話インタビュー
- 調査方法:
- 半構造化インタビュー形式で実施
- 議事録を取り、発言内容をカテゴリ分け
5. プロジェクト実績データ分析
- 実施内容:
- 過去2年間の全プロジェクト(83件)の工数記録分析
- 見積工数と実績工数の乖離分析
- 部門別・担当者別の生産性分析
- 分析方法:
- プロジェクト管理ツールから抽出したデータをExcelで集計
- 見積時間と実績時間の差異が大きいプロジェクトの特徴を抽出
4.2 データ分析と原因特定
上記のデータを分析した結果、以下の4つの主要な原因が明らかになりました:
原因1: 技術的陳腐化と専門性不足
分析結果:
- 失注案件の40%で「技術提案が物足りない」「他社の方が新しい技術を提案していた」というフィードバックあり
- 競合分析で判明した事実:主要競合は全てレスポンシブデザイン、PWA、ヘッドレスCMSなど最新技術を前面に出している
- 社内調査で開発者の67%が「新技術のキャッチアップ時間がない」と回答
- 大企業向けECサイト案件(最も減少が大きい領域)では特に技術力についての指摘が多い
客観的な裏付け:
- 自社ポートフォリオ分析:過去1年の納品サイトのうち、最新技術(Jamstack、Next.js、ヘッドレスCMS等)採用は15%のみ(競合は平均45%)
- 社内の技術研修:過去1年間で公式な技術研修は2回のみ実施
原因2: プロジェクト管理の非効率性
分析結果:
- 納期遅延した案件の85%で「要件定義の不明確さ」が記録されている
- 工数オーバーしたプロジェクトの平均超過率:38%
- プロジェクトマネージャーへのインタビューで全員が「案件数が多すぎる」と回答(1人当たり平均7.5案件を同時管理)
- クレーム記録の分析:「進捗報告の不足」が全体の42%を占める
客観的な裏付け:
- プロジェクト管理ツールのデータ:要件変更の記録が平均して1プロジェクトあたり15回
- PMごとの担当案件数とクレーム発生率に強い相関(相関係数r=0.78)
原因3: 価値提案力の弱さ
分析結果:
- 失注案件の顧客インタビューで65%が「ビジネス成果への言及が少なかった」と回答
- 競合提案書分析:競合は「ROI」「集客効果」「コンバージョン率」に焦点、自社は「デザイン性」「使いやすさ」に重点
- 営業資料分析:自社の提案書では具体的な数値目標や成果指標の記載が少ない
- 特に製造業向け提案(減少率が高い分野)で成果イメージの具体性に欠ける
客観的な裏付け:
- 過去の成功事例10件を分析した結果、効果測定や成果報告を体系的に行っていたのは2件のみ
- 営業研修内容の確認:技術的な内容や製品知識が中心で、顧客のビジネス課題解決の視点が薄い
原因4: アフターフォロー体制の不足
分析結果:
- リピート率低下と納品後のフォロー状況には強い相関
- 顧客アンケートで「納品後のサポート」が最も評価の低い項目(5点満点中平均2.3点)
- 保守契約率が2年前の65%から現在は42%に低下
- 競合分析:主要競合は全て積極的な保守プランを提案し、定期報告会やアクセス解析サービスを含めている
客観的な裏付け:
- 顧客接触記録:納品後3ヶ月以内に能動的に連絡しているケースは全体の31%のみ
- 保守契約の内容分析:競合に比べてサービス内容が限定的(セキュリティアップデートが中心)
4.3 原因の優先順位付け
4つの原因を「影響度」「改善容易性」「改善スピード」の3軸で評価した結果:
| 原因 | 影響度(10点満点) | 改善容易性(10点満点) | 改善スピード(10点満点) | 総合スコア |
|---|---|---|---|---|
| 技術的陳腐化 | 9 | 6 | 4 | 19 |
| プロジェクト管理の非効率性 | 8 | 8 | 7 | 23 |
| 価値提案力の弱さ | 9 | 7 | 6 | 22 |
| アフターフォロー不足 | 7 | 9 | 8 | 24 |
これらの分析結果から、「アフターフォロー体制の不足」と「プロジェクト管理の非効率性」が最も優先的に取り組むべき課題と判断しました。ただし、4つの課題は相互に関連しているため、並行して取り組む必要があります。
5. アクションプランの策定と実施
優先順位付けした原因に基づき、各課題に対する具体的なアクションプランを策定しました。
5.1 アフターフォロー体制の強化(最優先)
目標: 1年以内に保守契約率を65%まで回復、リピート案件を20%増加
具体的施策:
- カスタマーサクセスチームの新設
- 内容: 既存スタッフ2名を再配置して専任チームを編成
- 役割: 納品後の定期フォロー、効果測定レポート作成、追加提案
- KPI: 全顧客への最低月1回の接触、四半期ごとの定期レポート提出
- 期限: 1ヶ月以内に体制構築
- 保守サービスの刷新
- 内容:
- ベーシック(現行の保守内容)
- スタンダード(ベーシック+アクセス解析レポート月次提出)
- プレミアム(スタンダード+改善提案+軽微な修正対応)の3プラン化
- 価格戦略: 現行の保守料金を「スタンダード」として設定し、選択肢を増やす
- 期限: 2週間でプラン設計、1ヶ月以内に販促資料作成
- 内容:
- 顧客コミュニケーション計画の策定
- 内容:
- 納品後1週間、1ヶ月、3ヶ月時点での定型フォローアップ
- アクセス解析データに基づく改善提案テンプレート作成
- オンラインダッシュボードで顧客が常に状況を確認できる仕組み
- ツール導入: 顧客管理CRMシステムの導入(既存の社内システムとの連携)
- 期限: 6週間以内に完全実施
- 内容:
実施責任者: 営業部長と新設カスタマーサクセスチームリーダー
必要リソース:
- 人員:既存スタッフの再配置(2名)
- 予算:CRMシステム導入費用(初期60万円+月額5万円)
- ツール:アクセス解析・レポーティングツール(月額3万円)
5.2 プロジェクト管理の効率化
目標: 納期遅延を28%から10%以下に削減、工数超過を平均38%から15%以下に削減
具体的施策:
- PM負荷の適正化
- 内容: PM一人あたりの同時担当案件数を最大4件に制限
- 方法:
- プロジェクト規模に応じた案件ポイント制導入(小:1、中:2、大:3)
- PMあたり最大ポイント数を8ポイントに設定
- 案件引き継ぎルールの明確化
- 実施方法: 現行案件の再分配と一時的な外部PM(2名)の契約
- 期限: 2週間以内に計画策定、1ヶ月以内に完全移行
- 要件定義プロセスの強化
- 内容:
- 要件定義書のテンプレート刷新(項目の具体化、チェックリスト追加)
- 要件確定前の技術メンバーによるレビュー必須化
- 要件変更管理プロセスの厳格化(変更による影響範囲・工数の明示)
- 運用ルール: 要件定義書の承認フローを明確化(クライアント・PM・技術リード)
- 期限: 3週間以内にテンプレート作成、研修実施後に全プロジェクトに適用
- 内容:
- プロジェクト管理ツールの活用徹底
- 内容:
- 既存ツールの使用ルール再設定(日次更新必須項目の明確化)
- ダッシュボード改善(プロジェクト健全性指標の可視化)
- 週次レビュー会議の効率化(30分/週を厳守、問題プロジェクトのみ詳細議論)
- 教育: 全PMとチームリーダー向け半日研修の実施
- 期限: 1ヶ月以内に完全実施
- 内容:
実施責任者: プロジェクトマネジメント部長とCTO
必要リソース:
- 人員:外部PM契約(2名×3か月、計240万円)
- 教育:PM研修(外部講師招聘、15万円)
- ツール:プロジェクト管理ツールのカスタマイズ(20万円)
5.3 価値提案力の強化
目標: 提案成約率を現状の22%から30%以上に改善、平均案件単価を15%向上
具体的施策:
- 提案フォーマットの刷新
- 内容:
- ビジネス成果を中心とした提案構成への変更
- 定量的な目標設定と効果測定方法の明記
- 業種別の成功事例と数値実績を盛り込んだテンプレート作成
- 方法: 外部コンサルタントと協働での開発
- 期限: 6週間以内に新フォーマット完成、2ヶ月以内に全面移行
- 内容:
- 営業担当者のスキルアップ
- 内容:
- ビジネス課題ヒアリング手法の研修(2日間)
- 業種別ビジネスモデル理解促進のための勉強会(月1回)
- 成功事例の社内共有会(隔週実施)
- 教材: 業種別の質問リスト、提案シナリオ集の作成
- 期限: 3ヶ月以内に全営業担当者が研修完了
- 内容:
- 提案検討会の導入
- 内容:
- 500万円以上の案件は必ず事前検討会を実施
- 営業・デザイン・開発の代表者が参加
- 顧客課題に対する解決策の多角的検討
- 運用: 週1回の定例会として設定(90分/回)
- 期限: 2週間以内に開始
- 内容:
実施責任者: 営業部長とデザイン部長
必要リソース:
- 外部コンサルタント(提案力強化、100万円)
- 営業研修費用(20万円)
- 提案資料制作費(30万円)
5.4 技術力・専門性の向上
目標: 最新技術採用案件を1年以内に全体の40%以上に、技術関連の失注理由を40%から10%未満に減少
具体的施策:
- 技術研修プログラムの体系化
- 内容:
- 四半期ごとの重点技術テーマ設定(Jamstack、ヘッドレスCMS等)
- 月2回の社内技術勉強会開催(ランチタイム利用)
- 外部研修・カンファレンス参加枠の設定(年間予算化)
- 方法: 技術ロードマップ作成とスキルマップ管理
- 期限: 1ヶ月以内に年間計画策定、3ヶ月以内に全面実施
- 内容:
- スペシャリストチームの編成
- 内容:
- ECサイト専門チーム(4名)
- フロントエンドエキスパートチーム(3名)
- CMS/バックエンド専門チーム(3名)の編成
- 役割: 専門案件の主担当+他案件の技術サポート
- 期限: 2ヶ月以内に編成完了
- 内容:
- 技術情報の集約と共有体制
- 内容:
- 技術ナレッジベースの構築(開発標準、ベストプラクティス集)
- コードレビュー体制の強化(主要案件は必ず複数人レビュー)
- 技術ブログの定期発信(月2回)
- ツール: 社内Wikiシステムの拡充
- 期限: 3ヶ月以内に基盤整備完了
- 内容:
実施責任者: CTO及び開発部長
必要リソース:
- 教育予算:外部研修参加(年間120万円)
- 書籍・オンライン学習材料(年間30万円)
- 技術情報管理ツール(月額5万円)
6. 実施結果と効果測定
DC社は上記のアクションプランを6ヶ月間実施し、以下の結果を得ました。
6.1 短期的成果(3ヶ月時点)
- アフターフォロー体制:
- 保守契約率:42%→51%(+9ポイント)
- 既存顧客からの追加案件:前年同期比34%増
- 顧客満足度:前回調査比12%向上
- プロジェクト管理:
- 納期遅延率:28%→18%(-10ポイント)
- 平均工数超過率:38%→25%(-13ポイント)
- PM一人当たり担当案件数:7.5件→4.2件
- 価値提案力:
- 提案成約率:22%→26%(+4ポイント)
- 平均案件単価:前年同期比5%増
- 大型案件(500万円以上)の獲得:2件(前年同期は0件)
- 技術力・専門性:
- 社内勉強会実施:計6回(参加率平均88%)
- 技術ナレッジベース:150記事作成
- 最新技術採用案件比率:15%→22%
6.2 中期的成果(6ヶ月時点)
- 売上指標:
- 四半期売上:前年同期比5%増(2年ぶりのプラス成長)
- 営業利益率:11%→15%(+4ポイント)
- 受注残高:前年同期比18%増
- 案件構成:
- ECサイト案件:前年同期比15%増(最も改善した分野)
- 製造業顧客からの受注:前年同期比8%増
- 保守・運用収益:前年同期比23%増
- 組織状況:
- 従業員満足度:前回調査比15%向上
- 退職率:前年の18%から7%に低下
- 採用:優秀な技術者3名の採用に成功
7. 学びと知見
このケーススタディから得られた主な教訓は以下の通りです:
7.1 問題解決アプローチの有効性
- データによる問題の可視化: 感覚的な判断ではなく、具体的なデータ分析により的確な原因特定が可能に
- セグメンテーションの重要性: 大きな問題を細分化することで、具体的な打ち手が見えてくる
- 優先順位付けの効果: 限られたリソースを最も効果的な領域に集中投下できた
7.2 ウェブ制作業界の成功要因
- 技術力だけでは不十分: 技術的専門性と顧客ビジネス理解の両方が必要
- 継続的関係の重要性: 単発の制作よりも長期的な伴走が顧客満足と収益安定につながる
- 組織体制の影響: プロジェクト管理体制が品質と収益性を大きく左右する
7.3 業績回復のための教訓
- 内部要因の重要性: 外部環境(競争激化、経済状況)よりも内部要因(プロセス、人材、体制)の改善が大きな効果
- 複合的アプローチの必要性: 単一の施策ではなく、複数の施策を組み合わせた総合的な改革が有効
- 定量的効果測定の意義: 具体的な数値目標設定と定期的な効果測定により、PDCAサイクルを回せた
8. まとめ
DC社の事例は、ウェブサイト制作会社が直面する典型的な課題と、問題解決アプローチによって業績回復を果たした好例です。特に以下の点が重要でした:
- 問題を感覚ではなくデータで捉え、細分化して分析したこと
- 複数の情報源から原因を特定し、優先順位をつけたこと
- 具体的で実行可能なアクションプランを策定し、責任者と期限を明確にしたこと
- 短期的な成果指標を設定し、継続的に効果測定を行ったこと
このアプローチは、規模や専門領域を問わず、多くのウェブ制作会社の経営改善に応用できるでしょう。重要なのは、漠然とした問題意識から一歩踏み出し、体系的な問題解決プロセスを実践することです。



