近年、日本政府はAI(人工知能)人材の育成とAI教育の充実に向けた施策を加速させています。AI戦略2019では2025年を目標年と位置づけ、人材育成の数値目標を掲げてきました(例えば「リテラシーレベル」人材50万人/年、応用基礎25万人/年、AIエキスパート2,000人/年の育成を2025年度までに達成する目標 ([PDF] デジタル人材の育成・確保に向けて))。これを踏まえ、2025年に至るまで初等教育から社会人教育まで幅広い改革と施策が展開され、2023~2025年には生成AI(生成型AI)の普及を踏まえた新たな方針も打ち出されています (【参考資料3-3】新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版(主な初等中等教育局関係記載の抜粋))。以下、各分野ごとの最新動向を詳述します。
初等・中等・高等教育のAIカリキュラム改革
初等・中等教育では、プログラミング教育や情報教育の強化が進められています。2020年度からの新学習指導要領で小学校でのプログラミング教育が必修化され、中学校でも情報活用スキルの指導が充実されました。また**「GIGAスクール構想」により一人一台端末と校内ネットワークが整備され、デジタル技術を活用した学びの基盤が構築されています(令和5年までに全国で展開) (【参考資料3-3】新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版(主な初等中等教育局関係記載の抜粋))。高校では「情報Ⅰ」**が共通必履修科目となり、2025年度からの大学入学共通テストにも新教科「情報」が追加されました (新課程入試のポイント | これからの入試 | 河合塾 Kei-Net)。これは、高校で習得した情報リテラシーや基礎的なプログラミング・データ活用力を大学入試に反映し、全国的に底上げする狙いがあります (新課程入試のポイント | これからの入試 | 河合塾 Kei-Net)。
生成AIへの対応も始まっています。文部科学省は2023年7月、学校現場における生成AIの活用に関する暫定ガイドラインを策定しました (【参考資料3-3】新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版(主な初等中等教育局関係記載の抜粋))。ガイドラインでは、児童生徒の発達段階に応じた生成AI活用の留意点や、情報モラル教育の重要性、AIの利活用と人間の学びとのバランス確保などが示されています。また、令和5年度には全国の**37自治体・52校を「生成AIパイロット校」**に指定し、各校に最大100万円の支援を行って生成AI活用の先行事例研究を実施しました (【資料2-1】文部科学省説明資料)。小学校4校、中学校26校、高校等22校が参加し、2024年3月に取組状況のアンケートを実施して知見を収集しています (【資料2-1】文部科学省説明資料)。これらの成果は今後の正式なカリキュラムへの反映や指導体制の整備に活かされる見込みです。
高等教育(大学・高専)でも、AI・データサイエンスに関する教育改革が推進されています。文部科学省は全ての大学生がデータサイエンス・AIの基礎リテラシーを身につけることを目標に掲げ、カリキュラム開発や教員研修を支援しています ([PDF] デジタル人材の育成・確保に向けて)。例えば、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」では、大学の教育課程における初級~応用レベルのAI・データサイエンス教育プログラムを認定し、その普及を図っています ([PDF] AI戦略2019と数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度 …)。この制度により、理系のみならず文系含む幅広い学生にAIリテラシー教育を提供する取り組みが全国で進んでいます。政府目標では、2025年度に年間25万人規模の大学生がAI応用基礎スキルを身につけることを掲げており ([PDF] デジタル人材の育成・確保に向けて)、実際に多くの大学がデータサイエンス副専攻プログラムやAI入門科目を全学必修化する動きを見せています。
AIリテラシー向上に向けた政府主導の施策
AIリテラシーの底上げは、日本の労働者全体にとって急務と位置づけられています。AIリテラシーとは「AIを理解・活用し、その成果を批判的に評価できる能力」と定義され、必ずしもAIの専門開発スキルではなく**「AIを効果的に使いこなし、監督し、批判的思考を持つ能力」**を指します。政府はこのリテラシー向上のため、官民連携で幅広い施策を展開しています。
一つは政府職員を含む公共部門のリテラシー向上です。内閣府の「AI戦略2019」に沿い、各省庁の職員に対するAI研修教材が整備されました。例えば、政府は有識者や大学教授の協力を得て職員向けAIリテラシーeラーニング教材を作成し、今後職員研修で展開予定とされています。国外に比べ遅れている官公庁のAI活用を促す狙いで、AIの基礎知識から活用事例、リスク管理まで網羅したコンテンツが提供される見込みです。
また、一般国民や企業社員向けにはオンライン講座やガイドラインの整備が進みます。政府は2023年、「生成AI時代に対応したDX推進スキル標準(デジタルスキル標準)Ver.1.1」を策定し、ビジネスパーソンが生成AIを適切に活用するためのスキル項目や注意点を盛り込みました ([PDF] デジタルスキル標準 ver.1.1 2023年8月 – 経済産業省)。これにより企業は人材育成計画に生成AI活用スキルを組み込みやすくなっています。同時に、内閣府や総務省は市民向けにAI・データ活用の入門教材を公開したり、各地の教育委員会と連携してAIリテラシー普及セミナーを開催するなど、国民全体の底上げに取り組んでいます。さらに、欧州で成果を上げたフィンランド発の無料オンライン講座「Elements of AI」など海外の事例も参考にしつつ、日本版の大規模オンラインAI講座の提供も検討されています(※フィンランドでは人口1%に当たる人々がこの講座で学び、EU全域に拡大した実績があります)。
学校教育でのリテラシー教育充実も政府主導です。前述のとおり、新しい資本主義の実行計画(2023年改訂版)では「生成AIの普及を見据え、AIの基礎知識などAIリテラシー教育も充実させる」方針が明記されました (【参考資料3-3】新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版(主な初等中等教育局関係記載の抜粋))。これを受けて文部科学省は小中高生向け教材の充実や教師研修に乗り出しています。例えば、情報科の教員向けに最新AI動向を学ぶ研修プログラムを提供し、生徒にチャットGPT等の仕組みや付き合い方を教える指導法を普及させています。また、民間の教材提供も奨励しており、2023年にはNPO法人「みんなのコード」が生成AIの基礎を学べるオンライン教材「みんなで生成AIコース」を全国の学校に無償提供するといった動きも出ています。官民の連携によって、子どもから大人まで幅広い層のAIリテラシー底上げが図られています。
産学連携によるAI人材育成プログラム
企業と大学の連携による人材育成も活発化しています。政府はAI人材育成において「官民及び大学の協力」を不可欠と位置づけており、各種プロジェクトで産学連携を推進しています。その結果、大学と企業が協働してカリキュラム開発や研修を行う事例が増えています。
大学では、産学協働のAI教育プログラムが各地で立ち上がっています。例えば、大阪公立大学は次世代のAI人材育成を目的に**「次世代学際AI・基幹AI人材育成の国際連携プログラム」を2024年度に開始し、2025年4月には新たな学生を受け入れる予定です。このプログラムでは国内外の研究機関・企業と連携し、AIそのものを研究する高度専門人材と、各分野でAIを活用できる実践的人材の双方を育成するカリキュラムを提供しています。同様に、名古屋大学など東海地域の大学連合による「TokAI BOOST」**プロジェクトや、大阪大学の次世代AI人材育成事業など、政府の支援を受けたコンソーシアム型の取り組みも見られます。これらのプログラムでは、企業からの講師派遣やインターンシップ受入、奨学金支給など産学が役割分担し、理論と実践の双方で学生を鍛える仕組みになっています。
企業側でも人材育成と教育界への協力が戦略の一部となっています。IT企業や製造業を中心に、自社内にAI研修プログラムを設けたり、大学の教育課程に協力企業として参画する動きがあります。例えば、サイバーエージェント株式会社は2023年より全社員対象の「生成AI徹底理解リスキリング講座」を社内開講し、2025年末までに全エンジニアの半数がAIを駆使できるよう育成する目標を掲げています。また、埼玉大学ではNTT東日本グループと協働して産学協働の生成AI活用講義を実施し、地域企業と連携した実践的教育で理工系人材の育成に取り組んでいます。このように、大学は理論教育の場を提供し企業は実践知や最新技術トレンドを提供するという形で役割分担し、即戦力となるAI人材を社会に送り出す仕組みが整いつつあります。
さらに、経済産業省や内閣府は企業と教育機関をつなぐハブとして、コンテストやハッカソン、共同研究プログラムを支援しています。例えば、官民連携で開催されるAI人材コンテストや、トップAI企業と大学院生をマッチングするインターンシップフェア等が定期的に行われており、優秀な人材の発掘・育成と企業への誘導が図られています。政府は資金面・制度面で環境を整え、実行段階では大学・企業が協働するという体制が築かれてきています。
社会人のリスキリングとAI人材育成
DX(デジタルトランスフォーメーション)の波に対応し、**社会人のリスキリング(学び直し)**も大きな政策テーマとなっています。岸田政権は2022年、「人への投資」として今後5年間で1兆円をリスキリング支援に投じる方針を表明しました (政府が5年で1兆円を投資 「リスキリング」でAI時代を生き抜く | 2023年2月号 | 事業構想オンライン)。これはAIやデータ活用が各産業に浸透する中で、労働者が時代に取り残されないための大規模投資であり、企業内研修・公的職業訓練・オンライン講座補助など多面的な施策に充てられます。
具体策の一つが、社会人向けの補助金制度や講座提供です。経済産業省はリスキリング支援策として、民間のAI研修講座を受講する社会人に補助金を出しています。例えば、あるAI教育企業の「ディープラーニング基礎」コース(通常受講料16.5万円)が、公的補助の活用で実質6万円程度で受講可能になるなど、受講費用の負担軽減が図られています。このような制度により、働きながら低コストでAIスキルを身につけることができる環境が整えられています。また、厚生労働省も職業訓練の一環でデータサイエンスやAI基礎講習を全国のハローワーク等で提供し、転職希望者や復職希望者のスキルアップを支援しています。
官民連携のコンソーシアムも設立されました。2022年6月には政府・自治体・企業が参加する**「日本リスキリングコンソーシアム」**が発足し、プラットフォームを通じて誰もが無料や低額で学べる講座を提供しています (リスキリングの理解と推進ーAI・DX時代の人財育成をどう進めて …)。このコンソーシアムでは2023年、「AI人材育成白書」を発行して具体的な人材育成手法を提言するとともに、Google社が提供する生成AI講座「AI Essentials」を新規会員4,000人に無料提供するといった取り組みを行いました。民間企業からは最新の教材や講師が提供され、政府・自治体がそれを広く周知し受講者を募るという協力体制です。
企業側でも従業員のリスキリング投資が進んでいます。調査によれば、多くの企業が社内にDX人材育成部署を設け、eラーニングやワークショップ形式でAI基礎研修を行っています。特に生成AIの登場以降、「チャットボットの業務活用法」「AI時代のプロンプトエンジニアリング」等の新講座を設ける企業が増えています。また、人材の新規採用においても**「AIリテラシー保有者」を優先する動き**がみられ、人事部門が主導して社員のAIスキル診断を行い不足スキルを補う研修計画を策定するといった例もあります。政府の後押しを受け、社会全体でリスキリングによるAIスキル向上が促進されています。
国際競争力強化策(留学生受け入れ・海外AI人材の確保)
日本がAI人材を確保し国際競争力を高めるためには、国内人材の育成と並んで海外から優秀な人材を呼び込むことも重要です。この点で、政府は留学生の受け入れ拡大や高度外国人材の定着支援に注力しています。
まず、外国人留学生の受け入れについて大きな施策が打ち出されました。文部科学省は2025年、インドの理工系大学院生を対象に1人当たり年間300万円規模の留学支援(金銭給付)を行う方針を決定しました。これはインド工科大学(IIT)などトップ校の大学院生約270~300人を念頭に、渡航費・授業料・生活費を包括支援する奨学金制度であり、2028年度までに該当するインド人留学生数を倍増させる目標が掲げられています。背景には、日本国内のAI人材不足(2030年に約12万人不足との予測)と、AI人材大国であるインドから優秀者を呼び込みたい狙いがあります。実際、インドはAI人材の宝庫とされ、AI関連スキル保有者数は他国を圧倒するとの指摘もあり、日本としてもこうした人材を取り込むことで産業競争力の強化につなげたい考えです。
日本政府は留学生受け入れ全体の数値目標も引き上げています。かつて「留学生30万人計画」(2020年目標)を掲げていましたが、現在は**「留学生40万人計画」**へとスケールアップし、2033年までに外国人留学生を40万人まで増やす目標を持っています (日本経済新聞にて当社が発表した「世界のITエンジニアレポート」が紹介されました)。同時に、日本人学生の海外留学も50万人まで増やす目標(現在の約2倍)を掲げ、グローバルな人材交流を促進する方針です (日本経済新聞にて当社が発表した「世界のITエンジニアレポート」が紹介されました)。こうした双方向の人的交流によって、海外の知見を持つ人材を増やし、日本の技術力・研究力を底上げしようとしています。特にAI分野では、外国人留学生が日本企業や研究機関に就職・定着しやすいよう、インターンシップ受入れや日本語習得支援、企業側の受け入れ体制整備なども併せて推進されています。
さらに、高度外国人材のビザ緩和や誘致策も講じられています。日本では高度専門職ポイント制による優遇ビザを整備し、AI研究者やエンジニアなど高スキル人材が比較的スムーズに長期在留できる枠組みがあります (高度人材ポイント制による出入国在留管理上の優遇制度 – 法務省)。近年、他国との人材獲得競争が激化する中で(例:韓国が最先端分野人材向け「トップティアビザ」を新設 (韓国でAI分野など人材不足、日本や中国と争奪戦―中国メディア))、日本も自国の制度を見直し、**スタートアップ創出を目指す外国人に最長2年間滞在を認める「J-Find(未来創造人材)ビザ」**の導入など、新たなスキームを設けています (アメリカ人起業家が選んだ日本の田舎での1年間。J-Findビザ取得 …)。これは必ずしもAI専門家に限ったものではありませんが、AI分野の起業や研究を志す海外人材にとって日本で活躍するチャンスを広げる措置です。
民間企業も海外人材確保に動いています。国内のIT企業は海外のAIエンジニアを積極採用する傾向を強めており、インドや東南アジアの技術者をリモート雇用したり、外国人エンジニア専門の人材サービスを利用して社内の多様性を高めています。政府もこうした企業努力を支援するため、受け入れ企業への助成金や各種手続きのワンストップ窓口整備などを行っています。また、日本国内の研究機関に海外のトップAI研究者を招聘するための基金創設や、英語で研究ができる環境整備(研究拠点の国際化)も進められており、世界中の頭脳を日本に引き寄せる土壌作りが行われています。
以上のように、日本のAI人材育成政策は国内教育の改革から社会人の学び直し、そして海外人材の受け入れまで多角的に展開されています。政府が戦略と資金の枠組みを提示し、それを受けて教育機関・企業・民間団体が具体的プログラムを実行する形で官民の役割分担がなされています。2025年以降も、生成AIの進化やグローバル競争に対応しながら、これら施策はアップデートと拡充が図られていく見通しです。日本がAI人材の育成と活用で国際的に遅れを取らないよう、政府は引き続き「人への投資」を重視した政策を推進していくと考えられます (政府が5年で1兆円を投資 「リスキリング」でAI時代を生き抜く | 2023年2月号 | 事業構想オンライン)。
Sources:
- 内閣府・総務省・文部科学省など政府発表資料(AI戦略、中間とりまとめ、学習指導要領改訂関連資料 等)
- 野口竜司「政府が5年で1兆円を投資 『リスキリング』でAI時代を生き抜く」事業構想 2023年2月号 (政府が5年で1兆円を投資 「リスキリング」でAI時代を生き抜く | 2023年2月号 | 事業構想オンライン)
- 文部科学省 初等中等教育局「生成AIの利活用に関するガイドライン(暫定版)」説明資料(令和5年7月) (【資料2-1】文部科学省説明資料)
- みんなのコード提言「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案」(2024年7月)
- 楽楽NOTE (富士翔大郎)「AI人材不足解消へ、日本がインド人留学生に年間300万円支援を決定」(2025年2月14日)
- (一社)生成AI活用普及協会「生成AI人材採用宣言プロジェクト2025」発表内容 他最新ニュース・専門家解説記事.



