1次情報以外は2次情報、3次情報に過ぎない

1. 「1次情報以外は2次情報、3次情報に過ぎない」とは?

1.1 情報の階層構造

  • 一次情報(1次情報, primary information / primary sources)
    もっとも直接的な情報源です。たとえば、以下のようなものが一次情報に該当します。
    • ある出来事を実際に目撃した人の証言やインタビュー(目撃証言・体験談)
    • 学術研究の場合:研究者自身が行った実験データ、生データ(観測データなど)
    • 公式機関の一次資料:政府のオリジナル文書、議事録、裁判資料など
    • 史料学におけるオリジナルの歴史資料:古文書・公文書・当時の日記など
    • 企業が公開する原本の統計資料やプレスリリース(ただし元データがある場合はその元データのほうがさらに一次情報となる)
  • 二次情報(2次情報, secondary information / secondary sources)
    一次情報をもとに解釈・分析・要約・説明を加えたもの。いわば「一次情報を他者の視点・言葉で伝え直す」形です。
    • 学術論文の“レビュー論文”
    • 新聞記事やニュースサイトの記事(記者が直接情報源にあたって取材しているならば、そこには一次情報も一部含む場合がありますが、全体としては編集部の解釈・編集が入るため二次情報の性質が強くなる)
    • 教科書(歴史教科書、理科の教科書なども原文献・原データをまとめた二次情報)
    • ジャーナリストや評論家によるレポート
  • 三次情報(3次情報, tertiary information / tertiary sources)
    二次情報をさらに再編集・要約したり、複数の二次情報を引用してまとめたりしたもの。ニュースのまとめサイトや、個人がSNSやブログで「〜というニュースを見た」と書き込む場合も、元記事にアクセスしているにすぎないなら三次情報に当てはまります。

このように、情報には「一次→二次→三次…」と重層的な構造があります。「一次情報以外は、厳密にはそれ以上の下位レベル(2次・3次…)の情報にすぎない」という主張は、情報が媒体を通じて転送・編集されるごとに、必ず何らかの意図や解釈、誤解、偏見が入りやすい、という指摘でもあります。

1.2 このテーゼの意義

「一次情報を押さえずに、二次・三次情報だけで判断すると誤りが生じやすい」というのが、このテーゼの背景にある考え方です。とくにマスメディアでは、一次情報にアクセスしにくい事案ほど、二次以降の情報が何重にも拡散される構造になっており、その過程で話が歪んだり誤解されたりする危険があります。


2. 具体例:一次情報・二次情報・三次情報が混在するケース

2.1 科学研究の世界

  • 例:医学分野の研究論文
    ある病気に対して新薬の治験を行った研究チームがいたとします。この研究で得られた「生データ」(血液検査値・被験者数・有意差など)は一次情報です。しかし、それを踏まえて書かれた英語の学術論文(オリジナルペーパー)は「一次情報を直接載せている」という意味では一次情報に近いですが、それを別の研究者や雑誌編集者がレビューし、まとめた総説論文(Review Article)は二次情報となります。さらに、その総説論文に基づいて一般向けに書かれたサイエンス誌の記事は三次情報に近く、そしてそれを引用してSNSで「〜という研究結果があるらしい」と要約した書き込みは、さらに何次か先の情報になるでしょう。
  • 問題が起きるパターン
    新薬の効果に関する一次情報(研究データ)をきちんと読めば、「被験者は何名で、そのうち何割が効果を示したか」などの詳細が明確にわかります。しかし、二次情報や三次情報だけを見ると、記者やSNSユーザーの主観や理解レベルに左右され、「すごく効くらしい」「全然効かないらしい」と極端な見出しになるケースもあります。
    こうした断片的・飛躍的なまとめが広まると、現場の科学者が想定していない誤解が一般世論で定着することがあります。

2.2 ジャーナリズムの世界

  • 例:政治報道
    国会答弁の議事録は一次情報です。議事録はほぼ逐語録(文字起こし)で残されています。一方、新聞やテレビのニュースは、その議事録の一部のみを抜粋して流し、解説を付け加えます。これが二次情報にあたります。
    さらに、それを読んだ一般の人やブロガーが「〜という発言があったようだ」と自分なりの解釈をつけて書いた記事やSNS投稿は三次情報です。原文にあたらず、報道記事からだけ情報を得ているので、二重三重に情報が伝言ゲーム化していきます。
    • 歪曲の一例: 議員が長い発言の中で何か比喩的表現を使った場合、ニュースではそこだけを切り取って報道されるかもしれません。それをさらに受け取った人が誇張した表現でSNSに書き込むと、「議員がとんでもない暴言を吐いた」という話になってしまうこともあります。実際の議事録(一次情報)を確認すれば文脈や意図がわかるはずが、そこを省略する報道や二次以降の情報だけが拡散されると、完全にニュアンスが変わったまま広がってしまいます。

2.3 歴史研究の世界

  • 例:歴史教科書・解説書
    歴史学における一次情報(一次史料)は、当時に書かれた文書・日記・役所の公文書などです。ところが、それらをまとめて解釈した歴史研究者の論文や教科書は二次情報です。さらに、その教科書をベースに「有名戦国武将はこんな人だった」とブログを書くと三次情報です。
    • 問題点: 一次史料そのものの解釈は研究者間で意見が分かれる場合もあるのですが、いつの間にか「〜という説が定説だ」という形で二次以降の情報が広まると、実際は研究者間でも意見が割れていた事実が見えなくなり、「歴史の真実」という形で一つの定説だけが大衆に伝わってしまいます。

3. なぜ二次情報・三次情報が問題を引き起こしやすいのか

3.1 情報の「伝言ゲーム」化

典型的には「伝言ゲーム」が起こります。少しずつ解釈が加わり、意図せずとも要点が省かれたり、強調点がズレたりします。とくにSNS時代は、第三者が要約した情報をさらに別の人が要約して拡散するケースが当たり前になりました。結果、オリジナルのニュアンスがかなり失われ、誤解が雪だるま式に膨らむ恐れがあります。

3.2 刺激的な部分だけが切り取られやすい

特にマスメディアやインターネットニュースは「視聴率」や「クリック数」を重視するため、どうしてもタイトルや見出しに刺激的な単語やセンセーショナルな文言を持ってきがちです。これは情報を最大限に注目させる戦略ですが、一方でそこだけが独り歩きし、真意が削ぎ落とされてしまうリスクがあります。

3.3 報道機関のバイアス・スポンサーの存在

マスメディアは完全に中立というわけではなく、スポンサーやオーナー企業、広告主の意向によって多少なりとも編集方針にバイアスがかかることがあります。二次情報・三次情報のレイヤーで増幅されることで、読者・視聴者が受け取る情報は必ずしも一次情報に忠実ではない可能性が高まります。


4. マスメディアの問題点を抉り出す

ここまでの構造を踏まえて、マスメディアの問題点をあえて深く抉り出してみましょう。

  1. 一次情報の提示時間・紙面スペースの制限
    • テレビのニュース番組は1本のニュースに割ける時間が限られており、新聞も紙面スペースが限られています。そのため、ニュースの本質ではないが重要な背景情報を省略せざるをえないケースが多い。
    • 結果として、どうしてもインパクト重視の短いまとめになりがちで、一次情報(発言全文など)をそのまま伝えるのは難しい。
  2. 編集・校閲・見出し付けの恣意性
    • 記事そのものには公平性を配慮していても、結局は編集部が「どの部分をどの順番で強調するか」を決めます。ニュース見出しやサムネイル画像の付け方一つで世間に与える印象は大きく変わります。
    • これは二次情報化において避け難いプロセスですが、編集者・記者に悪意がなくても結果として大きなバイアスがかかり得る。
  3. アクセスの偏り
    • メディアはしばしば、取材や報道のしやすさ、注目度の高さでネタを選びます。衝撃的な事件やスキャンダルを大きく扱い、地味な問題は小さく報じられる。こうした報道傾向により、世間の認知はさらに歪んでいきます。
    • 特定の政治家やスポンサーに近い記者クラブがあれば、一次情報を特定メディアだけが先に入手することもあります。そのメディアの解釈が二次情報として広まりやすくなり、情報の多様性が損なわれる。
  4. コンテンツ化・エンタメ化
    • テレビ・新聞・ネット記事は「情報提供」というより「コンテンツ」として商業的価値を優先してしまう場合がある。売上を伸ばすために過剰に煽ったり、センセーショナルなタイトルを付けたりすることで、正確性よりも面白さや目新しさが前面に出やすくなる。
    • これは視聴者側も刺激的な話題を好むという需要と供給の関係があり、社会全体の問題とも言えます。

5. 「一次情報」を求める重要性

5.1 ファクトチェック

近年「ファクトチェック」という言葉が広まりました。これは、ある報道や発言、記事の内容が事実に即しているか、一次情報や信頼できる原データに基づいて検証する行為を指します。ファクトチェックの必要性が叫ばれるのは、まさに二次情報・三次情報の広がりが早く、しかも誤りが修正されにくいという現状があるからです。

5.2 自ら一次情報へアクセスする姿勢

インターネットが普及した現代、議事録や論文などもオンライン公開されることが増えました。以前よりは一次情報にアクセスしやすくなっているともいえます。

  • たとえば国会の会議録は「国会会議録検索システム」で容易に閲覧できますし、多くの学術論文や公開データベースもあります。
  • 一般人が一次情報を直接読めば、少なくとも第三者の主観やバイアスが入った情報よりは正確性を高めることができます。

もちろん、専門性の高い分野では素人が一次情報を読んでも理解が難しいことがありますが、それでも一次情報を当たる意義は大きいでしょう。理解を深める努力をすれば、二次・三次情報だけを見て判断するのと比べて大幅に誤解を避けられます。

5.3 情報リテラシー教育の必要

学校教育でも、情報化社会で生きる上での「情報リテラシー」や「メディアリテラシー」を強化する動きがあります。一次情報と二次情報を区別し、どこにオリジナルソースがあるのかを意識しながら読み解く訓練は今後ますます重要になります。


6. まとめと提言

  1. 一次情報を確認する姿勢を持とう
    • 新聞やテレビの報道だけでなく、議事録・統計データ・論文などのオリジナルソースを可能な限り確認することが大切です。
    • SNSやまとめサイト、ニュースアプリの短い要約だけで判断しない。
  2. 二次情報や三次情報はフィルターがかかっていると認識する
    • 情報を加工するプロセスで、必ず何らかのバイアスや編集意図が入ってしまうことを自覚しましょう。
    • 特にセンセーショナルな内容や煽り系の見出しは、注意深く精査が必要です。
  3. メディアの構造や政治的背景を知る
    • マスメディアは単なる“公器”ではなくビジネスであり、様々な勢力との利害関係がある可能性があります。スポンサー・広告主などの影響は少なからずあることを忘れないように。
    • また、自分自身のイデオロギーやバイアスも常に点検する必要があります。
  4. 専門家の解説も鵜呑みにせず一次資料にあたる努力
    • 学者や評論家が行うテレビの解説やコラムも、彼らの専門分野や主観的解釈が入っています。
    • 本当に重要な問題では、専門家の意見も踏まえつつ、一方で元データや原著論文を読んで確認することが理想です。

7. 終わりに

「1次情報以外は2次情報、3次情報に過ぎない」というテーゼは、一見当たり前のようで、実は多くの人が普段の生活やニュースの受け取り方で軽視してしまいがちな点を突いています。情報は編集・要約・解釈を通じて拡散されやすい一方で、オリジナルソースに当たる機会は意外と少ない。そこにマスメディアの限界と、私たちの情報リテラシーが試される大きな問題が潜んでいます。

マスメディアからのニュースを目にするとき、あるいはSNSで流れる情報を目にするとき、「これは一次情報か? それとも二次以降か?」 と意識するだけでも、情報の受け取り方が変わります。二次・三次情報を否定するわけではありませんが、それが“二次(あるいはそれ以上)”であることの自覚を持って読み解く必要があります。もし十分に疑問が生じる内容であれば、一次情報に近づく努力をしてみるのが建設的でしょう。

マスメディアの問題点は、こうした複雑な編集やビジネス構造によって情報が歪みやすいことにあります。私たち一人ひとりが、「どの情報がどのレイヤーに属するのか」を意識し、一次情報へのアクセスを追求していくことで、誤解や扇動から距離を置き、より健全な言論空間を育んでいけるのではないでしょうか。