ライフスキルとしての意思決定:ChatGPTを使ったケーススタディ

以下のケーススタディでは、ライフスキルのひとつである「意思決定スキル」に注目し、ChatGPT(およびそのコードインタープリター機能)を具体的なツールとして活用するプロセスを示します。架空の登場人物「Aさん」が、自身のキャリア選択にまつわる意思決定を進めるケースを例に、どのようにChatGPTとやり取りをしながら客観的情報を収集し、意思決定を整理していくかを解説します。


ケース概要

  • 場面設定: Aさんは大学卒業を控えた大学4年生。就職活動をしている最中に、「すぐに就職するか、それとも大学院に進学して研究を深めるか」という大きな選択に直面しています。
  • 選択肢:
    1. 大学院(国内)に進学する
    2. 海外の大学院に進学する
    3. 企業に就職する

Aさんはどちらも魅力的に感じつつも、将来のキャリアや経済面を含めて「本当にどれを選べばいいのか」悩んでいます。そこで、ChatGPTを活用しながら情報を整理し、最終的な判断を下すプロセスをケーススタディとして示します。


ステップ別の意思決定プロセス

ステップ1. 問題・目的の明確化

  1. 意思決定の主題:
    • 「大学卒業後の進路:大学院(国内/海外) or 企業就職」
  2. 意思決定の目的:
    • 長期的に満足度の高いキャリアを築きたい
    • 経済的な安定も重視したい
    • 自分がワクワクできる分野で専門性を高めたい
  3. 条件や制約:
    • Aさんの現在の貯金額は約100万円
    • 家族からのサポートはある程度可能(上限は+100万円程度)
    • 英語力はTOEFL iBT 90点程度で、海外院進学にはやや追加の英語学習が必要
    • 企業内定は1社獲得済みだが、研究職ではない

ステップ2. 情報収集(ChatGPTの活用)

AさんはChatGPTに対して、次のような情報収集や下準備を依頼してみます。

2-1. 大学院進学(国内)に関する情報

  • ChatGPTへの質問例:
    「日本国内で大学院(理工学系修士課程)に進学した場合の学費や奨学金制度、平均的な修学年数はどのくらいですか?」
    • ChatGPTは参考情報として、国公立・私立の学費の目安や日本学生支援機構の奨学金の概要、修士課程の標準修業年限(2年)などを教えてくれます。
  • 可能ならばコードインタープリターを使用した追加分析(例):
    • 例えば、過去数年分の国公立大学院の学費データや奨学金給付実績データ(政府や大学の統計情報として公開されているCSVなど)を取り込み、総額負担のシミュレーションを行うことができます。
    • ChatGPTに「奨学金を月5万円借りた場合の返済シミュレーションをPythonで作成して」と依頼すれば、コードインタープリターで簡単なローン計算が可能です。

2-2. 海外大学院進学に関する情報

  • ChatGPTへの質問例:
    「アメリカの大学院(同じ理工学系)に進学した場合の年間費用の目安は?奨学金やTA/RA(Teaching Assistant / Research Assistant)制度の情報も教えてください。」
    • ChatGPTは米国大学院の学費レンジ(州立・私立の違い)、TA/RAを活用した学費免除制度、大学別の奨学金情報の概略などを提供できます。英語ソースからも引用できるため、国内の情報源だけでなく、世界中の情報にアクセスしやすいのもメリットです。
  • コードインタープリターを使用した追加分析(例):
    • 「以下の大学リスト(大学A, 大学B, 大学C)について、学費・奨学金額・生活費の概算データを入力したCSVファイルをアップロードしたので、費用を比較しやすい表を作ってください。」
    • ChatGPTのコードインタープリターにCSVをアップロードし、学費と生活費を合計して年間コストを比較するテーブルやグラフを自動生成できます。
    • この分析により、「都市部にある大学の方が学費はわずかに高いが、TAの補助が充実している」といった視覚的・定量的な理解が進むでしょう。

2-3. 企業就職に関する情報

  • ChatGPTへの質問例:
    「現在内定のある企業での平均年収やキャリアパス、研究開発職へ異動できる可能性などの参考情報を教えてください。」
    • ChatGPTは求人サイトや企業の公式情報の概略を基に、業界水準の平均年収やキャリアパス事例を整理することができます(※あくまで公開情報・一般論ベース)。
  • 追加で他社との比較:
    • 「同業界の大手企業の平均年収データと比較したいので、表にまとめてください。」
    • これにより、業界標準と自社の給与水準との乖離を定量的に把握しやすくなります。

ステップ3. 選択肢の比較・整理(ChatGPTによる可視化)

3-1. メリット・デメリット表の作成

Aさんは、ChatGPTに「今回の3つの選択肢について、メリット・デメリットを簡単な表にまとめてください」と依頼します。ChatGPTは例えば下記のような表を生成できます(例示):

選択肢メリットデメリット
大学院(国内)– 学費が比較的安価- 日本語で学べる- 国内でのネットワーク構築– 海外経験が得られにくい- やや限定的な研究環境になる可能性
大学院(海外)– 国際的ネットワーク- 英語力・グローバルスキルの向上- 研究施設が充実している場合が多い– 学費・生活費が高額- 語学面・文化面での適応が必要
企業就職– 経済的に安定しやすい- 社会人経験・実務能力が身につく– 研究を深める機会が少ない- 専門領域を離れる可能性あり

3-2. 意思決定マトリックス

さらに、Aさんは「意思決定マトリックス」を用いて、各選択肢を「将来の専門性」「経済面」「興味・やりがい」「家族のサポート」などの評価軸で数値化して比較するようChatGPTに依頼します。ChatGPTとの対話の例は以下のようになります。

Aさん:
「意思決定マトリックスを作りたいと思います。評価軸は4つ(専門性、経済面、興味・やりがい、家族サポート)で、それぞれ10点満点で評価してみます。私は仮で以下の数値をつけました。これを表にまとめて、平均点を出してください。」

  • 大学院(国内): 専門性 8, 経済面 6, 興味・やりがい 8, 家族サポート 9
  • 大学院(海外): 専門性 9, 経済面 4, 興味・やりがい 10, 家族サポート 6
  • 企業就職: 専門性 5, 経済面 9, 興味・やりがい 6, 家族サポート 8

ChatGPT(回答例):

| 選択肢            | 専門性 | 経済面 | 興味・やりがい | 家族サポート | 合計 | 平均(÷4) |
|-------------------|--------|--------|---------------|--------------|------|----------|
| 大学院(国内)    | 8      | 6      | 8             | 9            | 31   | 7.75     |
| 大学院(海外)    | 9      | 4      | 10            | 6            | 29   | 7.25     |
| 企業就職          | 5      | 9      | 6             | 8            | 28   | 7.00     |

「平均点では大学院(国内)が7.75と最も高く、次いで大学院(海外)が7.25、企業就職が7.00です。あくまでAさんの主観による点数化ですが、定量化することで比較の一助とできます。」

こうした数値化・視覚化を通じて、自分の価値観や優先度を改めて整理できます。

3-3. コストシミュレーション(コードインタープリターの活用例)

「大学院(海外)」と「大学院(国内)」にかかる費用をより具体的に見積もるため、Aさんは次のようにChatGPTに依頼します。

Aさん:
「以下の条件でコストシミュレーションをしたいので、Pythonで計算してください。

  • 国内院:年間学費 50万円×2年、生活費(実家通いで月10万円)×24ヶ月 = 240万円
  • 海外院:年間学費 200万円×2年、生活費(寮や下宿で月15万円)×24ヶ月 = 360万円
  • 海外院の場合はTAや奨学金で年間50万円分補填される可能性があるので、その場合の総額も計算してください。
    さらに、私の自己資金100万円と親からのサポート100万円を差し引いた場合の不足額も出してください。」

ChatGPTのコードインタープリターにPythonコードを入力し、出力結果を得ると、以下のようになります(例):

# ケース別のコスト計算

domestic_tuition = 50 * 2  # 2年間の学費 (万円)
domestic_living = 10 * 24  # 24ヶ月の生活費 (万円)
domestic_total = domestic_tuition + domestic_living

overseas_tuition = 200 * 2 # 2年間の学費 (万円)
overseas_living = 15 * 24  # 24ヶ月の生活費 (万円)
overseas_total = overseas_tuition + overseas_living

# 海外でTA/奨学金が年間50万円×2年の場合
scholarship = 50 * 2
overseas_total_with_scholarship = overseas_total - scholarship

# 自己資金と親サポート分を差し引いた不足額
self_fund = 100
parent_support = 100
total_support = self_fund + parent_support

domestic_insufficiency = domestic_total - total_support
overseas_insufficiency = overseas_total - total_support
overseas_insufficiency_with_scholarship = overseas_total_with_scholarship - total_support

print("国内大学院総額:", domestic_total, "万円")
print("国内不足額:", domestic_insufficiency, "万円")
print("海外大学院総額:", overseas_total, "万円")
print("海外不足額:", overseas_insufficiency, "万円")
print("海外(奨学金あり)総額:", overseas_total_with_scholarship, "万円")
print("海外(奨学金あり)不足額:", overseas_insufficiency_with_scholarship, "万円")

出力例(イメージ):

国内大学院総額: 340 万円
国内不足額: 140 万円
海外大学院総額: 680 万円
海外不足額: 480 万円
海外(奨学金あり)総額: 580 万円
海外(奨学金あり)不足額: 380 万円

この結果から、Aさんは「海外院だと数百万円の不足額が発生するため、アルバイトやさらなる奨学金・ローンなど具体的な資金計画を立てねばならない」という現実的な判断ができます。


ステップ4. 結論・行動計画

  1. 自分の気持ちを再確認:
    定量的データやChatGPTが示したメリット・デメリットを踏まえたうえで、「やはり海外院の研究テーマが魅力的だが、資金面が厳しい」「国内院であれば専門性の高さを保ちつつ、経済的に多少余裕がある」など、自分の心の声・優先度を見直します。
  2. 家族・指導教員・企業担当者への相談:
    ChatGPTの情報だけに頼らず、実際に親や指導教員、内定先の担当者などにもアドバイスを求めます。ChatGPTとのやり取りで整理したポイントを共有すると相談がスムーズです。
  3. 最終決定:
    • 仮にAさんが「海外大学院は金銭面でリスクが高いので、まずは国内大学院で研究を始め、博士課程以降やポスドクで海外に行く」という結論を選んだとします。
    • あるいは「奨学金や教育ローン、TAの機会を最大限活用すれば海外も不可能ではない」と判断して海外進学を決めるかもしれません。
    • いずれにせよ、選択肢ごとのメリット・デメリットと経済シミュレーション、主観的な満足度をバランスよく検討しているので、後悔を最小化した意思決定が期待できます。

まとめ

このケーススタディでは、ライフスキルの一部としての「意思決定スキル」を鍛え、実際の選択を行うためにChatGPTを活用する手順を示しました。重要なポイントは以下のとおりです。

  1. 問題・目的を明確化: どのような意思決定が必要で、何を最優先するのかを言語化する。
  2. 情報収集: ChatGPTを用いて多角的な情報にアクセスし、国内外の学費・キャリア情報など客観的データを得る。
  3. 整理・分析: コードインタープリターを活用して簡単な費用シミュレーションや比較表の作成を行うなど、定量化による可視化を行う。
  4. 結論と行動: ChatGPTの知識やツールを使って得た情報をベースに、最終的には自分の価値観やリアルな相談先を踏まえて決定し、具体的な行動に移す。

ライフスキルとしての意思決定は、客観的な根拠と主観的な価値観の両輪で行われるべきものです。ChatGPTを「情報の整理・分析ツール」として活用することで、より合理的かつ納得感のある意思決定プロセスを作り上げることができます。