LLMによる「無難な回答」を避けるためのケーススタディ:ビジネス編

以下に、ビジネス領域での「バイアス抽出 → 軸づくり → マトリックス展開」の一連のプロンプト例を提示します。ここでは仮に 「EC(オンライン販売)業界の新規ビジネスアイデア」 を考える事例とします。実際の業界やサービス分野を変えれば、そのまま応用できます。


ステップ1:バイアス抽出プロンプト

まずは、EC業界における「当たり前」や「常識」とされているものを洗い出します。LLMに以下のように指示を与えてください。

【バイアス抽出のためのプロンプト例】

私たちはEC(オンライン販売)の新規ビジネスアイデアを考えたいと考えています。
EC業界には、どのような“常識”や“当たり前”が存在しているでしょうか?
例として、
- 大規模なプラットフォーム(Amazon、楽天など)での出店が当たり前
- 配送は早ければ早いほどよい
- メーカーや卸元から直接仕入れて販売
- 商品レビューや口コミが購買の決め手になる
- セールを頻繁に行うことで顧客を獲得する

などが挙げられます。なるべく多面的に、業界の常識(バイアス)をリストアップしてください。

出力イメージ(例)

LLMからは、例えば以下のようなリストが返ってくることが想定されます。

  • 配送コストはできるだけ安く設定する
  • 消費者への接点は基本オンラインのみ
  • カスタマーサポートはFAQやチャットボットで完結
  • セールやクーポンで集客
  • ポイント還元が大きいほうがよい
  • BtoC取引が中心 … など

ステップ2:軸づくりプロンプト

抽出したバイアスを、両極端に分かれる形で「○○ <–> △△」という軸として可視化してもらいます。軸は3つでも4つでも構いませんが、まずは2~3個の軸を作ると扱いやすいです。

【軸づくりのためのプロンプト例】

先ほど抽出してもらった“EC業界の当たり前”リストをもとに、
それぞれを「○○ <--> △△」という形で、両極端に分かれる“軸”として表現してください。

例:
- 「大手プラットフォーム依存 <--> 自社ドメイン自立」
- 「超高速配送 <--> 超スロー配送」
- 「新品販売のみ <--> 中古やレンタルを混在」

このように、可能な限り二極構造を見つけて、箇条書きで示してください。

出力イメージ(例)

  • 大手プラットフォーム出店 <–> 自社サイト展開(プラットフォーム非依存)
  • 即日/翌日配送 <–> ゆっくり/まとめて配送
  • 価格重視・ディスカウント戦略 <–> 付加価値重視・高価格帯戦略
  • オンライン完結型 <–> オフライン(体験型店舗)連動
  • 汎用的な商品 <–> 超ニッチ・専門特化商品
  • etc.

ステップ3:マトリックス展開・ズラしプロンプト

ここで、作った軸を2つ(あるいは3つ)ピックアップし、4象限や8パターンのように組み合わせてアイデアを生成します。さらに「ちょっとだけズラす」「真逆にぶっ飛ばす」など、段階を指定して突飛なアイデアも引き出すのがポイントです。

【マトリックス展開のためのプロンプト例】

先ほど作成した軸一覧から、2つの軸を選んで
4象限のマトリックスを作り、新しいビジネスアイデアを生み出してください。

1. 軸A: 「大手プラットフォーム依存 <--> 自社サイト運営」
2. 軸B: 「即日/翌日配送 <--> ゆっくり/まとめて配送」

これらを組み合わせて、以下の4パターンを作りましょう。

A1. プラットフォーム依存 × 即日配送  
A2. プラットフォーム依存 × ゆっくり配送  
B1. 自社サイト運営 × 即日配送  
B2. 自社サイト運営 × ゆっくり配送  

【具体的要望】
- 各パターンで「ちょっとだけズラす」アイデアと「真逆にぶっ飛ばす」アイデアをそれぞれ1つずつ考えてください。  
- そのアイデアの特徴や、実際に事業化する際のメリット/デメリットを箇条書きで示してください。  
- 最後に、4つのパターンを比較して、一番実現可能性の高いものとその理由を分析してください。

出力イメージ(例)

たとえば「自社サイト運営 × ゆっくり配送」では…

  • ちょっとズラす例: 「環境負荷を下げるため、週1まとめ配送モデルを採用し、送料を大幅に削減。顧客には自社オリジナルのマガジンや動画コンテンツを提供し、待つ時間の付加価値体験を設計する」
  • 真逆にぶっ飛ばす例: 「自社のドローン配送網は使わず、徒歩や自転車ボランティアであえて超スロー配送を行う。ローカルコミュニティと提携して、顧客との接点を増やすことで、購入者と地域社会の繋がりを演出する」

など、ちょっとあり得ないくらい振り切ったアイデアも混ぜるようLLMに指示すると、発想の幅が広がります。


最終仕上げ:アイデア評価と次のアクション

上記の手順で得られたビジネスアイデアを、LLMに再度以下のようなプロンプトで評価・検証させましょう。

これまでに出してもらった4象限×2パターン(計8アイデア)について、
- 市場規模の見込み
- 必要な初期投資
- 競合優位性
- リスクや懸念点

などの観点から、それぞれ評価してください。
また、それらを踏まえた上で「最も着手しやすいアイデア」「ハイリスクハイリターンなアイデア」「実装難易度は高いが差別化につながるアイデア」など、いくつかのカテゴリーに仕分けて提案してみてください。

こうすると、LLMの「演繹・帰納が得意」な部分が活かされ、アイデアの検証段階でも有用なフィードバックが得られます。


まとめ

  1. バイアス抽出
    • まずは業界の「当たり前」をリストアップし、意図的に可視化する。
  2. 軸づくり
    • 抽出したバイアスを「○○ <–> △△」という形で極端に分け、“ズラし”の余地を作る。
  3. マトリックス展開
    • 作成した軸を組み合わせて、4象限や8パターンなどを強制的に考えさせ、普段ならあり得ないビジネスモデルも含めてアイデア出し。
    • 「ちょっとズラす」「真逆にぶっ飛ばす」など指示を分けて、幅広い発想を引き出す。
  4. 評価と検証
    • 出てきたアイデアをLLMに演繹・帰納的に検証させ、メリット・デメリットやリスクを分析する。

このフローを踏めば、LLMが「無難な答え」に収まりがちな状況を打破しやすくなり、“一歩先を行く”ビジネスアイデアにつながる可能性が高まります。