1. ケース概要
ある大学が、社会の変化に合わせて学部の構成やカリキュラムを大幅に改編しようとしています。
- 背景
- 学生数が微増しているが、少子化を考えると今後減少するかもしれない。
- AIやデータサイエンス系のスキルが求められる時代に対応したい。
- 既存の学部(文系/理系/芸術系など)間で一部重複カリキュラムがあり、効率化を検討中。
- 各学部の教員や外部の有識者など、ステークホルダーが多く、意見が合わない部分もある。
- 目的
- 学部や専攻の再編成案を策定する。
- 社会的ニーズに合い、学生満足度が高まる学習環境を整備する。
- 予算や教員数の制限をクリアしながら最大の効果を狙う。
このとき、アブダクション→演繹→帰納 の各推論観点で、LLMにいろいろ聞いてみます。
2. アブダクション的プロンプト(仮説生成)
【状況】
- AI/データサイエンス分野の需要は高いが、既存学部(情報学部・経営学部など)では十分に対応できていない。
- 文系学部の学生にもプログラミングやデータ分析スキルが必要だとの声がある。
- 教職員は「学生が興味を持つ新しい分野を設置するべきだ」という意見と、「既存学部の強化を優先すべきだ」という意見に分かれている。
【指示】
1. 上記状況を踏まえ、いま大学が取りうる“学部改編”の新しいシナリオや構想プランを、自由に複数案(3~5案など)提示してください。
2. それぞれの案について、なぜそのように考えられるか(根拠・理由)を簡潔に述べ、当局が納得できるような説明を仮説としてまとめてください。
3. 特に「学際的に文系×理系を融合した新学部を作る」「現行学部にAIリテラシー必修を導入する」などのアイデアを盛り込んでください。
ねらい: 大まかな状況(観察)を提示し、それを「最も合理的に説明・解決できそうな学部再編プラン」を複数「仮説」として生成させる。まさにアブダクション的発想です。
3. 演繹的プロンプト(前提からの必然的結論)
【前提・ルール】
- 大学予算は「新学部1つ増やすなら、既存学部を1つ統合または廃止しなければならない」という財政規定がある。
- 「一定の学生数を集められない学部/専攻は運営が継続できない」という学内規則がある。
- 3年後までに卒業生の就職率が80%を下回った学部は、募集停止の可能性がある。
【観察】
- 今回提案されたプランAでは、新学部を2つ新設する構想がある。
- しかし既存学部の統廃合は最小限にとどめたいという声が大きい。
【指示】
1. この「財政規定」と「学内規則」を真と仮定した場合、プランAをそのまま実行すると、どのような結果/結論が必然的に起こると考えられますか。
2. 新学部を2つ増やすなら既存学部をどれか1つ以上廃止せざるを得ないという事態になるのか、論理的に説明してください。
3. それに伴うリスクや矛盾点を演繹的視点で提示し、大学当局として考慮すべき要素を列挙してください。
ねらい: 「財政規定」や「学内規則」という厳密な前提があるとき、あるプランを推し進めると論理必然的に発生する帰結は何か? をLLMに問う。演繹的思考を促すのがポイント。
4. 帰納的プロンプト(過去の実例からの一般化)
【観察・データ】
- 過去10年間に類似の大学改編を行った事例20件を調査したところ、
- 成功した大学:学部を統合して特色ある1学部を作り、入学志望者が大幅に増加
- 失敗した大学:ただ名前を変えただけ、教員・カリキュラムが大きく変わらず学生数が減少
- 成功例いくつかで共通していた点:学部横断カリキュラムの設計、産学連携の実施、国内外から教員を公募
- 失敗例で多かった要因:内部調整に時間を要してカリキュラム刷新が先延ばし、教員間の対立など
【指示】
1. これら20大学の成功例・失敗例を踏まえて、私たちの大学が同じ轍を踏まないためには何が最重要か、帰納的に一般化してください。
2. 成功事例から学ぶべきキーファクターを3~5点ほど挙げ、なぜそれが効果的なのかを説明してください。
3. 失敗事例の共通原因が今の大学にも当てはまるかどうかを検証し、対策案を提示してください。
ねらい: 過去の類似事例から「どういうパターンなら成功し、どういう要因が失敗を招くか」を確率的・経験的にまとめる。LLMに「帰納的推論」を促して、一般法則や注意点を導いてもらうわけです。
5. 応用例:3ステップ連携プロンプト
このケーススタディを一気通貫で使う場合、LLM対話の流れはこうなるかもしれません。
- アブダクション・フェーズ
- 「学部改編に関する現状と課題を説明する → “どんな新プランが考えられるか?” と複数アイデアを自由に出してもらう」
- 演繹・フェーズ
- 「財政規定や学内ルールを示して、『このプランを実行するとどうなるか?』 を論理的に導いてもらい、予測されるリスクや矛盾を洗い出す」
- 帰納・フェーズ
- 「過去事例の統計や他大学の成功/失敗例を提示し、確率的/経験的にベストプラクティスを抽出してもらう」
最後に総合的な結論をLLMにまとめさせることで、「ひらめき (abduction) → 論理的必然性チェック (deduction) → 経験的一般化 (induction)」 の三段活用が実現します。
6. このケーススタディの意義
- 大学改革という複合的テーマ: 教育、財務、組織、社会ニーズなど多角的視点が必要。これらをLLMで総合的に扱うと、実際の議論でも活かしやすいシミュレーションが得られます。
- 三種の推論形式を通じた思考整理:
- アブダクションで大胆な発想をし、
- 演繹で整合性やロジック上の必然を検証し、
- 帰納で過去事例やデータから成功確率を見積もる。
この「発想→検証→一般化」の流れは、意思決定プロセスの良いモデルケースになります。
- LLM活用の応用例: LLMは抽象度の高い課題にも対応できるため、上記のような複雑なテーマにも有効です。ただし、実運用では誤情報や偏りが混入しないよう、外部のリアルデータや専門家の意見との照合が必須になります。
まとめ
本ケーススタディ「大学の学部改編プロジェクト」は、さまざまな要素を含む複雑なテーマですが、アブダクション・演繹・帰納それぞれの切り口を持ち込むことで、豊かな議論を生み出せます。
- アブダクション: “新しい学部・カリキュラム” という仮説(アイデア)を自由に生み出す。
- 演繹: ルールや規定を前提にすると、どんな結論(メリット・デメリット)が必然的に起きるかを検証。
- 帰納: 過去事例やデータから一般化し、「成功の確率が高い手法・条件」を導く。
LLMに対する具体的なプロンプト例を提示したことで、実際の運用イメージを持ちやすくしたつもりです。もちろん、提示したのはあくまで「一例」であり、実際には「予算の具体額」「教員数のシミュレーション」「どんな学部が新設されたかの事例リスト」など、さらに詳細なデータを織り交ぜれば、より具体的かつ説得力のある議論が可能になるでしょう。