序章:日本語文法を学ぶ意義
日本語文法を深く学ぶことは、単に正しい文章を理解し、書けるようになるだけでなく、以下のような多くの利点をもたらします。
- コミュニケーション能力の向上: 微妙なニュアンスを正確に伝え、誤解を防ぐことができるようになります。
- 論理的思考力の強化: 文の構造を理解することで、複雑な情報を整理し、論理的に考える力が養われます。
- 言語感覚の洗練: 日本語の美しさ、豊かさを深く理解し、より洗練された表現力を身につけることができます。
- 日本語教育への応用: 日本語を母語としない人に、より効果的に日本語を教えることができるようになります。
- 日本語研究への貢献: 言語学的な視点から日本語を分析し、日本語研究に貢献することができます。
第1部:文の構造
日本語の文は、主に以下の要素から構成されます。
- 文節: 意味のまとまりを持つ最小単位。
- 主語: 動作や状態の主体を表す。
- 述語: 主語の動作や状態、性質などを説明する。
- 修飾語: 主語や述語、他の修飾語を詳しく説明する。
- 接続語: 文と文、文節と文節をつなぐ。
- 独立語: 他の文成分とは関係なく、単独で存在する。
1.1. 文節
文節は、日本語の文を構成する基本的な単位です。一つの文節は、原則として「自立語+付属語」または「自立語のみ」で構成されます。
- 自立語: 単独で意味をなす語。名詞、動詞、形容詞、副詞、連体詞、接続詞、感動詞など。
- 付属語: 単独では意味をなさず、自立語に付いて文法的な意味を付け加える語。助詞、助動詞など。
例:
- 「美しい/花/が/咲いた。」 (「美しい」「花」「が」「咲いた」の4つの文節)
- 「静かに/歩く。」 (「静かに」「歩く」の2つの文節)
- 「ああ、/きれいだ。」 (「ああ」「きれいだ」の2つの文節)
文節の区切り方は、意味のまとまりを意識することが重要です。特に、助詞や助動詞は、自立語とくっついて一つの文節を構成することが多いです。
1.2. 主語と述語
文の基本的な骨格をなすのが、主語と述語です。
- 主語: 動作や状態の主体を表す部分。「何が/誰が」にあたる。助詞「が」「は」などがつくことが多い。
- 述語: 主語の動作や状態、性質などを説明する部分。文の最後に位置することが多い。動詞、形容詞、形容動詞、名詞+断定の助動詞「だ」などが用いられる。
例:
- 「学生が / 勉強する。」 (主語: 学生が、述語: 勉強する)
- 「空が / 青い。」 (主語: 空が、述語: 青い)
- 「彼女は / 先生だ。」 (主語: 彼女は、述語: 先生だ)
主語は、文脈によって省略されることも多いです。特に、話し言葉では主語が省略されることが一般的です。
1.3. 修飾語
修飾語は、主語や述語、他の修飾語を詳しく説明する部分です。
- 連体修飾語: 名詞を修飾する。連体詞、形容詞、形容動詞、動詞の連体形、名詞+格助詞「の」などが用いられる。
- 連用修飾語: 動詞、形容詞、形容動詞、副詞を修飾する。副詞、動詞の連用形、形容詞・形容動詞の連用形(「~く」「~に」)、名詞+格助詞「に」「で」などが用いられる。
例:
- 「赤い / 花 / が / 咲いた。」 (連体修飾語: 赤い、被修飾語: 花)
- 「ゆっくりと / 歩く。」 (連用修飾語: ゆっくりと、被修飾語: 歩く)
- 「昨日 / 図書館で / 本を / 借りた。」 (連用修飾語: 昨日、図書館で、被修飾語: 借りた)
修飾語は、文に情報を付け加え、より具体的な描写を可能にします。
1.4. 接続語
接続語は、文と文、文節と文節をつなぐ役割を果たします。
- 順接: 前の事柄から当然予想される結果を表す。「だから」「それで」「すると」など。
- 逆接: 前の事柄とは反対の結果や予想外の事柄を表す。「しかし」「けれども」「ところが」など。
- 並列: 二つ以上の事柄を並べて述べる。「そして」「また」「あるいは」など。
- 添加: 前の事柄に情報を付け加える。「さらに」「その上」「しかも」など。
- 対比: 二つの事柄を比較して対照する。「一方」「他方」「それに対して」など。
- 説明: 前の事柄を詳しく説明する。「なぜなら」「というのは」「つまり」など。
- 転換: 話題を変える。「さて」「ところで」「それでは」など。
例:
- 「雨が降ってきた。だから、傘をさした。」 (順接)
- 「勉強した。しかし、テストはできなかった。」 (逆接)
- 「リンゴとそしてミカンを買った。」 (並列)
接続語を適切に使うことで、文と文の関係を明確にし、論理的な文章を構成することができます。
1.5. 独立語
独立語は、他の文成分とは関係なく、単独で存在する文成分です。
- 感動詞: 喜び、悲しみ、驚きなどの感情を表す。「ああ」「おや」「もしもし」など。
- 呼びかけ: 人に呼びかける言葉。「ねえ」「おい」「すみません」など。
- 応答: 呼びかけに応じる言葉。「はい」「いいえ」「ええ」など。
- 提示: これから話す事柄を示す言葉。「さて」「それでは」「次に」など。
例:
- 「ああ、美しい景色だ。」 (感動詞)
- 「もしもし、田中さんですか。」 (呼びかけ)
- 「はい、そうです。」 (応答)
独立語は、文に感情や臨場感を加えたり、会話をスムーズに進めたりする役割を果たします。
第2部:品詞
日本語の語は、その文法的な性質によっていくつかのグループに分類されます。これを品詞と言います。日本語の主な品詞は以下の10種類です。
- 名詞: 事物の名称を表す。
- 代名詞: 人や物を指し示す。
- 動詞: 動作や存在を表す。
- 形容詞: 事物の性質や状態を表す。
- 形容動詞: 事物の性質や状態を表す。
- 副詞: 動詞、形容詞、形容動詞、他の副詞を修飾する。
- 連体詞: 名詞を修飾する。
- 接続詞: 文と文、文節と文節をつなぐ。
- 感動詞: 喜び、悲しみ、驚きなどの感情を表す。
- 助動詞: 動詞、形容詞、形容動詞、名詞に付属して、様々な意味を付け加える。
- 助詞: 名詞、代名詞、動詞、形容詞、形容動詞、副詞などに付属して、文法的な関係や意味を付け加える。
2.1. 名詞
名詞は、人、物、場所、事柄など、具体的なものから抽象的な概念まで、あらゆる事物の名称を表す品詞です。
- 普通名詞: 一般的な事物や概念を表す。「本」「机」「人」「学校」「音楽」など。
- 具体名詞: 触ったり見たりできる具体的なものを表す。「りんご」「車」「建物」など。
- 抽象名詞: 形のない概念や考えを表す。「自由」「平和」「時間」「歴史」など。
- 固有名詞: 特定の人や場所、団体などを表す。「東京」「富士山」「山田太郎」「ソニー」など。
- 数詞: 数や順序を表す。「一」「二」「三」「一つ」「二つ」「三つ」「一番」「二番」「三番」など。
- 基数詞: 数量を表す。「1」「2」「3」「100」「1000」など。
- 序数詞: 順序を表す。「1番」「2番」「3番」「第1」「第2」「第3」など。
- 代名詞的用法: 名詞が代名詞のように使われる場合。「こちら」「あちら」「どこ」「だれ」など。
- 形式名詞: 形式的な意味を持ち、実質的な意味を持たない名詞。「こと」「もの」「ため」「わけ」「はず」など。他の語句と組み合わされて様々な文法的機能を果たします。
- 「勉強することが好きだ。」 (こと: 動作・行為を名詞化)
- 「美味しいものを食べたい。」 (もの: 事物・事柄を名詞化)
- 「合格するために頑張る。」 (ため: 目的を表す)
- 「遅刻したわけを説明する。」 (わけ: 理由を表す)
- 「明日雨が降るはずだ。」 (はず: 推測を表す)
- サ変動詞性名詞: 「~する」という動詞と組み合わさって、複合動詞を形成する名詞。「勉強」「運動」「仕事」「散歩」「結婚」など。
- 「勉強する」「運動する」「仕事する」「散歩する」「結婚する」
名詞は、文中で主語、目的語、補語、連体修飾語、同格語など、様々な役割を果たします。
格助詞との関係:
名詞は、格助詞と組み合わさることで、文中の役割(格)が明確になります。
- が: 主格を表す。「学生が勉強する。」
- を: 目的格を表す。「本を読む。」
- に: 場所、時間、対象、相手などを表す。「学校に行く。」「8時に起きる。」「友達にプレゼントをあげる。」
- へ: 方向を表す。「図書館へ行く。」
- と: 共同行為者、比較対象などを表す。「友達と映画を見に行く。」「兄と背比べをする。」
- から: 起点、理由、材料などを表す。「家から学校へ行く。」「風邪から熱が出た。」「米から酒を作る。」
- より: 比較の基準を表す。「昨日より今日の方が暖かい。」
- で: 場所、手段、材料、原因などを表す。「図書館で勉強する。」「電車で行く。」「木で家を作る。」「病気で休む。」
- の: 所有、所属、同格などを表す。「私の本」「大学の先生」「医者の山田さん」
名詞の活用:
名詞は基本的に活用しませんが、一部の名詞は、接尾語が付くことで活用することがあります。
- 「時」: 「時めく」「時めかす」
- 「色」:「色めく」「色めかす」
名詞の語形成:
名詞は、他の語と組み合わさったり、接頭語や接尾語が付いたりすることで、新しい名詞を作ることができます。
- 複合名詞: 二つ以上の名詞が組み合わさってできた名詞。「消しゴム」「腕時計」「青空」
- 接頭語+名詞: 「お酒」「ご飯」「未成年」「不可能」
- 名詞+接尾語: 「大きさ」「嬉しみ」「先生方」「人間性」
2.2. 代名詞
代名詞は、人や物、場所、方向などを直接指し示す代わりに、それらを指し示す語です。文脈によって何を指しているかが決まります。
- 人称代名詞: 人を指す代名詞。
- 一人称: 話し手を指す。「私」「僕」「俺」「私たち」「我々」など。
- 二人称: 聞き手を指す。「あなた」「君」「お前」「あなたたち」「君たち」など。
- 三人称: 話し手と聞き手以外の第三者を指す。「彼」「彼女」「彼ら」「あれ」「これ」「それ」「あの方」「この方」「その方」など。
- 指示代名詞: 物や場所、方向を指す代名詞。
- 近称: 話し手に近いものを指す。「これ」「ここ」「この」「こちら」「こっち」など。
- 中称: 聞き手に近いもの、または話題になっているものを指す。「それ」「そこ」「その」「そちら」「そっち」など。
- 遠称: 話し手からも聞き手からも遠いものを指す。「あれ」「あそこ」「あの」「あちら」「あっち」など。
- 不定称: どれを指すか特定できないものを指す。「どれ」「どこ」「だれ」「どれか」「どこか」「だれか」など。
- 疑問代名詞: 疑問を表す代名詞。「何」「誰」「いつ」「どこ」「どちら」「どれ」など。
- 「何を食べますか。」
- 「誰が来ますか。」
- 「いつ行きますか。」
- 「どこにいますか。」
- 「どちらが好きですか。」
- 「どれを選びますか。」
代名詞の注意点:
- 日本語の人称代名詞は、英語などに比べて種類が豊富で、使い分けが複雑です。丁寧さや親しさの度合い、性別、年齢などによって適切な代名詞を選ぶ必要があります。
- 三人称代名詞は、日本語ではあまり使われず、指示代名詞や名詞で代用することが多いです。
- 指示代名詞は、文脈によって何を指しているかが変わるので、注意が必要です。
- 疑問代名詞は、疑問文だけでなく、反語や修辞疑問などにも用いられます。
代名詞と指示語:
指示代名詞は、指示語と呼ばれることもあります。指示語は、代名詞だけでなく、連体詞や副詞としても用いられます。
- 指示代名詞: 「これは本です。」
- 指示連体詞: 「この本は面白い。」
- 指示副詞: 「こうすれば良い。」
2.3. 動詞
動詞は、動作、作用、存在、状態を表す品詞で、文の述語の中心となります。日本語の動詞は、語尾が変化する活用という特徴を持ちます。
動詞の種類:
動詞は、意味や文法的な性質によっていくつかの種類に分類されます。
- 意味による分類:
- 動作動詞: 主語の具体的な動作を表す。「走る」「食べる」「書く」「読む」「話す」など。
- 作用動詞: 主語が他の対象に働きかける動作を表す。「壊す」「作る」「教える」「運ぶ」など。
- 存在動詞: 人や物の存在を表す。「ある」「いる」など。
- 状態動詞: 主語の状態や変化を表す。「できる」「見える」「聞こえる」「なる」「変わる」など。
- 心理動詞: 人の心理状態を表す。「思う」「考える」「感じる」「悲しむ」「喜ぶ」など。
- 文法的な性質による分類:
- 自動詞: 目的語を必要としない動詞。「鳥が飛ぶ。」「雨が降る。」
- 他動詞: 目的語を必要とする動詞。「本を読む。」「窓を開ける。」
- 可能動詞: 可能の意味を表す動詞。「読める」「行ける」「書ける」など。五段動詞の未然形に「れる」を付けた形が多い。
- * 使役動詞: 使役の意味を表す動詞。「せる」「させる」など。「子供に本を読ませる。」
- * 受身動詞: 受け身の意味を表す動詞。「れる」「られる」など。「先生に褒められる。」
- * 授受動詞: 物の授受を表す動詞。「やる」「あげる」「くれる」「もらう」「いただく」など。
動詞の活用:
日本語の動詞は、語尾が変化することで、時制、相、態、様態、丁寧さなどの文法的な意味を表します。この語尾の変化を活用といいます。動詞の活用は、大きく分けて五段活用、上一段活用、下一段活用、カ行変格活用、サ行変格活用の5種類があります。
- 五段活用: 語尾が「ア、イ、ウ、エ、オ」の五つの段に変化する。「書く(か-か-く-く-け-け)」「読む(よ-み-む-む-め-め)」「話す(はなさ-はなし-はなす-はなす-はなせ-はなせ)」「待つ(ま-ち-つ-つ-て-て)」「死ぬ(し-に-ぬ-ぬ-ね-ね)」など。
- 上一段活用: 語尾が「イ、イ、イル、イル、イレ、イヨ」と変化する。「起きる(おき-おき-おきる-おきる-おきれ-おきよ)」「着る(き-き-きる-きる-きれ-きよ)」「見る(み-み-みる-みる-みれ-みよ)」「射る(い-い-いる-いる-いれ-いよ)」「居る(い-い-いる-いる-いれ-いよ)」など。
- 下一段活用: 語尾が「エ、エ、エル、エル、エレ、エヨ」と変化する。「食べる(たべ-たべ-たべる-たべる-たべれ-たべよ)」「寝る(ね-ね-ねる-ねる-ねれ-ねよ)」「感じる(かんじ-かんじ-かんじる-かんじる-かんじれ-かんじよ)」など。
- カ行変格活用: 「来る(こ-き-くる-くる-くれ-こい)」の一語のみ。
- サ行変格活用: 「する(せ-し-する-する-すれ-せよ/しろ)」「~する」(愛する、勉強する、など)
活用の種類と活用形:
活用形 | 五段活用 | 上一段活用 | 下一段活用 | カ行変格 | サ行変格 |
---|---|---|---|---|---|
未然形 | 書か- | 起き- | 食べ- | 来- | せ-, し- |
連用形 | 書き- | 起き- | 食べ- | き- | し- |
終止形 | 書く | 起きる | 食べる | くる | する |
連体形 | 書く | 起きる | 食べる | くる | する |
仮定形 | 書け- | 起きれ- | 食べれ- | くれ- | すれ- |
命令形 | 書け | 起きよ | 食べよ | こい | せよ/しろ |
活用の意味:
動詞の活用形は、それぞれ文中で異なる文法的意味を表します。
- 未然形: 否定、推量、意志、可能、使役、受身などを表す。「書かない」「起きよう」「食べられる」「させる」「れる」
- 連用形: 連用修飾、中止、並列、過去・完了などを表す。「書き始める」「起きて」「食べてから」「きて」「した」
- 終止形: 文末で述語となる。「本を書く。」「朝起きる。」「ご飯を食べる。」「明日来る。」「勉強する。」
- 連体形: 名詞を修飾する。「書く人」「起きる時間」「食べる物」「くる人」「すること」
- 仮定形: 仮定条件、逆接条件などを表す。「書けば」「起きれば」「食べれば」「くれば」「すれば」
- 命令形: 命令を表す。「書け!」「起きよ!」「食べよ!」「こい!」「しろ!」
動詞のアスペクト:
動詞は、動作や状態の継続、完了、反復などの時間的な様相を表すアスペクトという要素を持っています。アスペクトは、動詞の活用形や補助動詞、副詞などによって表されます。
- 継続: 「~ている」「~てある」「~続ける」
- 完了: 「~た」「~てしまう」
- 反復: 「~たりする」「たびたび~する」
- 瞬間: 「~する」「~ぱっとする」
動詞のテンス・ヴォイス:
- テンス: 時制を表す。日本語の動詞は、基本的には現在形と過去形しかなく、未来形は「~だろう」「~つもりだ」などの助動詞や副詞で表されます。
- ヴォイス: 態を表す。能動態、受動態、使役態などがあります。
複合動詞:
名詞や動詞の連用形に、他の動詞が複合してできた動詞。「走り出す」「飛び込む」「書き続ける」「考え直す」「押し進める」など。
2.4. 形容詞
形容詞は、事物の性質や状態を表す品詞で、名詞を修飾したり、述語になったりします。日本語の形容詞には、大きく分けて二つの種類があります。
- イ形容詞: 語尾が「~い」で終わる形容詞。「大きい」「小さい」「高い」「低い」「美しい」「楽しい」「面白い」「暑い」「寒い」「良い」「悪い」など。
- ナ形容詞: 語幹が名詞と同じ形をしており、語尾に「~な」を付けて名詞を修飾し、「~だ」を付けて述語になる形容詞。「静かだ」「綺麗だ」「有名だ」「親切だ」「便利だ」「簡単だ」「丈夫だ」「賑やかだ」「幸せだ」「嫌いだ」など。語幹が漢語であることが多いですが、「大きな」「小さな」のように和語もあります。
形容詞の活用:
形容詞は、動詞と同じように活用しますが、活用の種類は少なく、語尾の変化も単純です。
- イ形容詞の活用: 活用形 基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 高い 高かろ- 高く- 高い 高い 高けれ-
- 未然形: 否定の助動詞「ない」、推量の助動詞「う・よう」などに続く。「高くない」「高かろう」
- 連用形: 連用修飾、中止、並列などに用いられる。「高くなる」「高くて」「大きくて小さい」
- 終止形: 文末で述語となる。「山が高い。」
- 連体形: 名詞を修飾する。「高い山」
- 仮定形: 仮定条件、逆接条件などに用いられる。「高ければ」
- ナ形容詞の活用: ナ形容詞の活用は、名詞に断定の助動詞「だ」が付いたものとほぼ同じです。 活用形 基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 静かだ 静かだろ- 静かで(に) 静かだ 静かな 静かなら(ば)
- 未然形: 否定の助動詞「ない」、推量の助動詞「う・よう」などに続く。「静かでない」「静かだろう」
- * 連用形: 連用修飾、中止、並列などに用いられる。「静かになる」「静かで」「綺麗で親切」
- * 終止形: 文末で述語となる。「部屋が静かだ。」
- * 連体形: 名詞を修飾する。「静かな部屋」
- * 仮定形: 仮定条件、逆接条件などに用いられる。「静かならば」
形容詞の用法:
- 名詞の修飾: 形容詞は、連体形で名詞を修飾します。「大きい家」「静かな公園」
- 述語: 形容詞は、終止形で文末の述語となります。「山が高い。」「部屋が静かだ。」
- 連用修飾: 形容詞は、連用形で動詞や他の形容詞を修飾します。「高く飛ぶ」「美しく咲く」「大きくて重い」
形容詞の語形成:
形容詞は、他の語と組み合わさったり、接尾語が付いたりすることで、新しい形容詞を作ることができます。
- 複合形容詞: 二つ以上の語が組み合わさってできた形容詞。「青白い」「細長い」「心細い」
- 形容詞+接尾語: 「楽しさ」「暑さ」「悲しみ」「弱々しい」「古めかしい」
形容詞と副詞:
形容詞の連用形は、副詞のように動詞や形容詞を修飾することがあります。
- 「早く走る」(「早い」の連用形)
- 「高く飛ぶ」(「高い」の連用形)
- 「静かに話す」(「静かだ」の連用形)
一部の形容詞は、語尾に「く」を付けて副詞として使うことができます。
- 「早く起きる」(「早い」)
- 「高くなる」(「高い」)
- 「深く考える」(「深い」)
2.5. 形容動詞
形容動詞は、名詞に「~な」を付けて連体修飾語になり、「~だ」を付けて述語になる品詞です。形容動詞は、名詞と形容詞の中間的な性質を持っています。
形容動詞の種類:
形容動詞は、その語幹の性質によって、いくつかの種類に分類できます。
- 性質・状態を表すもの: 「静かだ」「賑やかだ」「穏やかだ」「鮮やかだ」「真面目だ」「誠実だ」「健康だ」「病気だ」など。
- 感情・感覚を表すもの: 「好きだ」「嫌いだ」「得意だ」「下手だ」「幸せだ」「不幸だ」「愉快だ」「不愉快だ」「自由だ」「不自由だ」など。
- 様態を表すもの: 「堂々としている」「こっそりしている」「のんびりしている」「はっきりしている」「いろいろだ」「さまざまだ」「別だ」「特別だ」など。
形容動詞の活用:
形容動詞の活用は、ナ形容詞の活用とほぼ同じです。
活用形 | 基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 |
---|---|---|---|---|---|---|
簡単だ | 簡単だろ- | 簡単で(に) | 簡単だ | 簡単な | 簡単なら(ば) |
- 未然形: 否定の助動詞「ない」、推量の助動詞「う・よう」などに続く。「簡単でない」「簡単だろう」
- 連用形: 連用修飾、中止、並列などに用いられる。「簡単になる」「簡単で」「綺麗で丁寧」
- 終止形: 文末で述語となる。「問題が簡単だ。」
- 連体形: 名詞を修飾する。「簡単な問題」
- 仮定形: 仮定条件、逆接条件などに用いられる。「簡単ならば」
形容動詞の用法:
- 名詞の修飾: 形容動詞は、連体形で名詞を修飾します。「静かな図書館」「健康な体」
- 述語: 形容動詞は、終止形で文末の述語となります。「海が穏やかだ。」「彼女は元気だ。」
- 連用修飾: 形容動詞は、連用形で動詞や形容詞を修飾します。「静かに話す」「綺麗に咲く」「真面目で優しい」
形容動詞と名詞・副詞:
形容動詞は、連用形に「に」を付けることで、副詞のように動詞を修飾することができます。
- 「静かに歩く」「丁寧に説明する」「真面目に働く」
また、一部の形容動詞は、語幹のまま副詞として使われることもあります。
- 「堂々と入場する」「こっそり逃げる」「はっきり言う」
形容動詞の語形成:
形容動詞は、他の語と組み合わさったり、接尾語が付いたりすることで、新しい形容動詞を作ることができます。
- 複合形容動詞: 二つ以上の語が組み合わさってできた形容動詞。「不真面目だ」「不健康だ」「無責任だ」
- 形容動詞+接尾語: 「静かさ」「重要性」「丁寧さ」「健康的」
2.6. 副詞
副詞は、動詞、形容詞、形容動詞、他の副詞を修飾し、状態、程度、様態などを詳しく説明する品詞です。副詞は、文中で様々な位置に置くことができ、文全体を修飾することもあります。
副詞の種類:
副詞は、その意味や機能によって、いくつかの種類に分類できます。
- 状態の副詞: 動作や状態の様子を表す。「ゆっくり」「はっきり」「しっかり」「こっそり」「どんどん」「ぐんぐん」「にこにこ」「がっかり」など。
- 「ゆっくり歩く」「はっきり言う」「こっそり覗く」
- 程度の副詞: 動作や状態の程度を表す。「とても」「すごく」「少し」「ちょっと」「かなり」「たいへん」「もっと」「さらに」「ほとんど」「まったく」など。
- 「とても美味しい」「少し疲れた」「もっと勉強する」
- 様態の副詞: 動作や状態のやり方、方法を表す。「わざと」「うっかり」「たまたま」「ぜひ」「必ず」「きっと」「どうにか」「なんとか」など。
- 「わざと間違える」「うっかり忘れる」「ぜひ行きたい」
- 頻度の副詞: 動作や状態の頻度を表す。「よく」「ときどき」「たまに」「いつも」「毎日」「時々」「全然」「めったに」など。
- 「よく行く」「ときどき会う」「全然食べない」
- 時間・時期の副詞: 時間や時期を表す。「すでに」「もう」「まだ」「すぐ」「まもなく」「先に」「後で」「昨日」「今日」「明日」「以前」「かつて」など。
- 「すでに終わった」「もう寝る時間だ」「明日出発する」
- 数量の副詞: 数量を表す。「たくさん」「少し」「いっぱい」「大勢」「少しも」「何も」など。
- 「たくさん食べる」「少し残す」「何も言わない」
- 呼応の副詞: 後に続く特定の言葉と呼応して意味をなす。「決して~ない」「まるで~ようだ」「もし~ば」「どうか~ください」など。
- 「決して諦めない」「まるで夢のようだ」「もし雨が降れば」「どうか許してください」
- 陳述の副詞: 話し手の態度や判断を表す。「おそらく」「たぶん」「まさか」「よもや」「どうせ」「果たして」など。
- 「おそらく雨だろう」「まさか彼が」「どうせ無理だ」
副詞の用法:
- 動詞の修飾: 「ゆっくり歩く」「はっきり言う」「こっそり逃げる」
- 形容詞の修飾: 「とても美味しい」「少し寒い」「かなり大きい」
- 形容動詞の修飾: 「本当に静かだ」「とても元気だ」「少し難しい」
- 他の副詞の修飾: 「もっとゆっくり」「とても上手に」「少し前に」
- 文全体の修飾: 「幸い、雨は降らなかった。」「残念ながら、試合は中止になった。」
副詞の語形成:
副詞は、他の品詞から派生したり、複合したりすることで作られることが多いです。
- 形容詞の連用形: 「早い」→「早く」「高い」→「高く」「静かだ」→「静かに」
- 名詞+助詞: 「昨日」「今日」「明日」「朝」「昼」「夜」「上」「下」「前」「後」「中」「外」「横」「周り」など
- 動詞の連用形+「に」: 「喜んで」「悲しんで」「怒って」「歩いて」「走って」など
- 擬態語・擬音語: 「きらきら」「どきどき」「ざあざあ」「ごろごろ」など
- 複合副詞: 「あちこち」「時々」「必ずしも」「恐らくは」など
副詞と他の品詞との区別:
副詞は、他の品詞、特に形容詞の連用形と混同しやすい場合があります。副詞は活用しませんが、形容詞は活用します。
- 「早く走る」(副詞)
- 「早い電車に乗る」(形容詞の連体形)
第3部:その他の文法事項
ここまで、日本語文法の主要な要素について解説してきました。この章では、より高度な文法事項について詳しく見ていきます。
3.1. 敬語
敬語は、話し相手や話題の人物に対する敬意を表すための表現です。日本語の敬語は、世界でも類を見ないほど複雑で、多様な表現が存在します。
敬語の種類:
敬語は、大きく分けて尊敬語、謙譲語、丁寧語の3種類に分類されます。
- 尊敬語: 話し相手や話題の人物の動作や状態を高める表現。「いらっしゃる」「おっしゃる」「なさる」「召し上がる」「ご覧になる」など。
- 謙譲語: 話し手自身の動作を低めることで、間接的に相手を高める表現。「伺う」「申し上げる」「いたす」「頂戴する」「拝見する」など。
- 丁寧語: 話し相手に対する丁寧な気持ちを表現する。「です」「ます」「でございます」「ございます」など。
敬語の使い方:
敬語は、誰に対して、どのような場面で使うかによって、適切な表現が異なります。相手との関係性、年齢、社会的地位、状況などを考慮して、使い分ける必要があります。
敬語の注意点:
- 二重敬語:尊敬語と謙譲語、または複数の尊敬語を同時に使うこと。誤用とされることが多い。「おっしゃられる」「拝見なさる」など。
- 過剰敬語:必要以上に敬語を使うこと。相手に不自然な印象を与えてしまう。「お電話を頂戴いたしました」など。
- 尊敬語と謙譲語の混同:「伺う」(謙譲語)を「お伺いする」(尊敬語)と誤用するなど。
3.2. 複文
複文は、複数の文が組み合わさってできた文です。接続詞や関係詞などを使って、文と文をつなぎます。
- 重文: 対等の関係にある文を接続詞でつないだ文。「雨が降ったが、試合は続行された。」「勉強もしたし、運動もした。」
- 複文: 主従関係にある文を接続詞や関係詞でつないだ文。「雨が降ったので、試合は中止になった。」「私が読んでいる本は面白い。」
3.3. テンスとアスペクト
日本語の動詞には、テンス(時制)とアスペクト(相)という概念があります。
- テンス: 動作や状態が起こる時間を表す。日本語には、現在時制と過去時制があります。未来時制は、助動詞や副詞などを使って表します。
- 現在時制:「行く」「食べる」
- 過去時制:「行った」「食べた」
- 未来時制:「行くだろう」「行くつもりだ」
- アスペクト: 動作や状態の継続、完了、反復などの時間的な様相を表す。
- 継続相:「読んでいる」「書いている」
- 完了相:「読んだ」「書いた」
- 経験相:「読んだことがある」「書いたことがある」
- 開始相:「読み始める」「書き始める」
- 継続開始相:「読み続ける」「書き続ける」
3.4. 談話構造
談話構造は、複数の文がどのようにつながり、全体としてどのような意味を構成しているかを分析するものです。談話構造を理解することは、自然で分かりやすい文章を書くために重要です。
- 主題化: ある情報を主題として提示し、その主題に関する情報を付け加えていくことで、談話を構成していく方法。
- 旧情報と新情報: 既に話題になっている情報(旧情報)と、新たに提示される情報(新情報)を区別することで、談話をスムーズに進める方法。
3.5. その他の話題
- モダリティ: 話し手の判断や態度を表す表現。「~だろう」「~かもしれない」「~はずだ」「~ようだ」「~らしい」など。
- ヴォイス: 文の主語と動作主の関係を表す。能動態、受動態、使役態などがある。