はじめに
Chain-of-Thought(CoT)推論を活用することで、言語モデルは複雑な問題やマルチステップの推論が必要なタスクに対して、ステップバイステップで解答を導き出すことができます。以下に、CoT推論を引き出すためのプロンプト例と、それに対するLLMの応答例を示します。
プロンプト例とLLMの応答例
例1:算数の文章題
プロンプト:
次の問題を解いて、思考プロセスを詳しく説明してください。
あるクラスには男子が15人、女子が13人います。このクラスから男女ともに同じ人数を選んでチームを作りたいです。最大で何人のチームを作ることができますか?
LLMの応答:
まず、男子は15人、女子は13人います。
男女ともに同じ人数を選ぶ必要があるので、チームに入れられる男子と女子の人数は、どちらか少ない方の人数に制限されます。
女子は13人しかいないので、最大でも13人の女子しか選べません。
したがって、男子も13人までしか選べません。
よって、最大で13人の男子と13人の女子を選んで、合計26人のチームを作ることができます。
答え:26人
例2:論理パズル
プロンプト:
次の論理パズルを解き、思考プロセスを詳細に説明してください。
3つの箱があります。1つにはリンゴ、1つにはオレンジ、もう1つにはリンゴとオレンジの混合が入っています。箱にはそれぞれ「リンゴ」「オレンジ」「混合」とラベルが貼ってありますが、すべて間違っています。あなたは1つの箱から果物を1つだけ取り出して中身を確認できます。その情報を基に、各箱の正しい中身を特定してください。
LLMの応答:
- 問題の整理:
- 箱は3つあり、ラベルはすべて間違っている。
- ラベルは「リンゴ」「オレンジ」「混合」。
- 中身は「リンゴのみ」「オレンジのみ」「リンゴとオレンジの混合」。
- 戦略:
- ラベルがすべて間違っているので、ラベルと中身は一致しない。
- 1つの箱から果物を1つ取り出して、その情報を使う。
- 解答:
- 「混合」とラベルされた箱から果物を1つ取り出す。理由は、ラベルが間違っているため、この箱は「混合」ではない。
- 仮に、「混合」と書かれた箱からリンゴを取り出したとする。
- 推論:
- 「混合」とラベルされた箱はリンゴのみである。
- 「リンゴ」とラベルされた箱は間違っているので、混合かオレンジ。
- しかし、「リンゴ」とラベルされた箱は「混合」ではありえない(「混合」はすでに特定されたため)。
- したがって、「リンゴ」とラベルされた箱はオレンジのみ。
- 残った「オレンジ」とラベルされた箱は混合になる。
- 結論:
- 「混合」とラベルされた箱:リンゴのみ。
- 「リンゴ」とラベルされた箱:オレンジのみ。
- 「オレンジ」とラベルされた箱:混合。
例3:数学の問題
プロンプト:
以下の方程式を解き、解く過程を詳しく示してください。
2x + 3 = 7
LLMの応答:
- 方程式を書き出す: \( 2x + 3 = 7 \)
- 両辺から3を引く: \( 2x + 3 – 3 = 7 – 3 \) \( 2x = 4 \)
- 両辺を2で割る: \( \frac{2x}{2} = \frac{4}{2} \) \( x = 2 \)
- 答え: \( x = 2 \)
例4:言語問題
プロンプト:
次の文章の中で、名詞をすべて列挙してください。
「昨日、私は公園で友人とサッカーをしました。」
LLMの応答:
- 文章を確認する:
- 昨日
- 私
- 公園
- 友人
- サッカー
- 名詞を列挙:
- 昨日
- 私
- 公園
- 友人
- サッカー
例5:歴史の質問
プロンプト:
第二次世界大戦は何年に終結しましたか?また、その終結に至る主要な出来事を順を追って説明してください。
LLMの応答:
- 第二次世界大戦の終結年:
- 1945年に終結しました。
- 主要な出来事:
- 1945年5月8日:ヨーロッパ戦線でドイツが無条件降伏し、「V-Eデー」(Victory in Europe Day)となる。
- 1945年8月6日:アメリカが広島に原子爆弾を投下。
- 1945年8月9日:アメリカが長崎に原子爆弾を投下。
- 1945年8月15日:日本がポツダム宣言を受諾し、終戦を発表。
- 1945年9月2日:日本が正式に降伏文書に調印し、第二次世界大戦が終結。
- まとめ:
- 第二次世界大戦は1945年に終結し、ヨーロッパとアジアでの主要な出来事が終戦に大きく影響を与えました。
例6:科学の問題
プロンプト:
光が水から空気中に進むとき、光の進む方向はどのように変化しますか?その理由を詳しく説明してください。
LLMの応答:
- 光の屈折について: 光が異なる媒質間を通過するとき、速度が変化し、進行方向が曲がる現象を「屈折」といいます。
- 水から空気への屈折:
- 媒質の屈折率:
- 水の屈折率は約1.33。
- 空気の屈折率は約1.00。
- 速度の変化:
- 光は水中では空気中よりも遅く進みます。
- 水から空気に移るとき、光の速度は増加します。
- 進む方向の変化:
- スネルの法則により、光は入射角と屈折角の間で関係が成り立ちます。
- 光が密な媒質(水)から疎な媒質(空気)に進むとき、屈折角は入射角よりも大きくなります。
- 結論:
- したがって、光は法線から離れる方向に曲がります。
- 答え: 光は水から空気中に進むとき、法線から離れる方向に屈折します。
例7:プログラミングの問題
プロンプト:
以下のPythonコードの出力を予想し、その理由を説明してください。
python
def create_multipliers():
return [lambda x: i * x for i in range(5)]
multipliers = create_multipliers()
results = [m(2) for m in multipliers]
print(results)
```
**LLMの応答:**
1. **コードの解析:**
- 関数`create_multipliers`は、`lambda x: i * x`を要素とするリストを返します。
- リスト内包表記で`i`は`0`から`4`までの値を取ります。
2. **重要なポイント:**
- ラムダ関数はクロージャであり、変数`i`への参照を保持します。
- しかし、リスト内のすべてのラムダ関数は同じ`i`を参照し、ループの最後の値である`4`になります。
3. **結果の計算:**
- `multipliers`には5つのラムダ関数がありますが、すべて`i`が`4`として計算されます。
- `results = [m(2) for m in multipliers]`では、各ラムダ関数に`2`を渡します。
- 各計算は`4 * 2 = 8`となります。
4. **出力:**
- `[8, 8, 8, 8, 8]`
5. **答え:**
`[8, 8, 8, 8, 8]`
6. **解決策(期待する動作を得るには):**
- ラムダ関数のデフォルト引数を使用して、`i`の現在の値をキャプチャします。
python
return [lambda x, i=i: i * x for i in range(5)]
- この修正により、`results`は`[0, 2, 4, 6, 8]`となります。
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### 例8:医療のケーススタディ
**プロンプト:**
70歳の女性が突然の片側の筋力低下と言語障害を訴えて救急外来に来ました。この患者の最も可能性の高い診断は何ですか?また、その理由を説明してください。
**LLMの応答:**
1. **症状の整理:**
- 突然の片側の筋力低下(片麻痺)
- 言語障害(失語症)
2. **年齢と性別:**
- 70歳の女性
3. **最も可能性の高い診断:**
- 脳卒中(脳梗塞または脳出血)
4. **理由:**
- **突然の発症:** 脳卒中は急性発症が特徴です。
- **片側の筋力低下:** 脳の一側の障害で起こります。
- **言語障害:** 言語中枢の障害を示唆します。
- **高齢者:** 脳卒中のリスクが高い。
5. **結論:**
- 最も可能性の高い診断は脳卒中(おそらく脳梗塞)です。
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### 例9:歴史的な分析
**プロンプト:**
産業革命がイギリスで始まった主な要因を3つ挙げ、それぞれについて詳しく説明してください。
**LLMの応答:**
1. **豊富な資源:**
- **石炭と鉄の存在:** イギリスは豊富な石炭と鉄鉱石を有しており、機械の動力源と製造に必要な材料を提供しました。
2. **経済的要因:**
- **資本の蓄積:** 植民地貿易や海運業で得た富が産業投資に回されました。
- **金融制度の発達:** 銀行や株式市場が発達し、資金調達が容易でした。
3. **政治的・社会的要因:**
- **安定した政治体制:** 他国に比べて政治的混乱が少なく、経済活動が促進されました。
- **特許制度の確立:** 発明者の権利が保護され、技術革新が奨励されました。
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### 例10:ビジネスの問題
**プロンプト:**
ある商品を1個あたり500円で仕入れ、30%の利益を見込んで販売価格を設定したい。消費税(10%)を含めた販売価格はいくらになりますか?計算過程を示してください。
“`
LLMの応答:
- 仕入れ価格:
- 500円
- 利益の計算:
- 利益額 = 仕入れ価格 × 利益率
- 利益額 = 500円 × 30% = 150円
- 税抜き販売価格の計算:
- 税抜き販売価格 = 仕入れ価格 + 利益額
- 税抜き販売価格 = 500円 + 150円 = 650円
- 消費税の計算:
- 消費税額 = 税抜き販売価格 × 消費税率
- 消費税額 = 650円 × 10% = 65円
- 税込み販売価格の計算:
- 税込み販売価格 = 税抜き販売価格 + 消費税額
- 税込み販売価格 = 650円 + 65円 = 715円
- 答え:
- 販売価格は715円(税込)となります。
まとめ
これらの例では、プロンプトで「思考プロセスを詳しく説明してください」や「解く過程を示してください」と指示することで、LLMがChain-of-Thought推論を活用してステップバイステップの解答を生成しています。これにより、ユーザーは解答までの道筋を理解しやすくなり、信頼性の高い情報提供が可能となります。
また、追加の事例では、科学、プログラミング、医療、歴史、ビジネスといったさまざまな分野の問題に対して、CoT推論を用いたプロンプトとそれに対するLLMの応答例を示しました。これにより、LLMがどのようにステップバイステップで思考し、論理的な結論に到達するかを具体的に理解できます。