高度なプロンプトエンジニアリング手法の事例集

1. プライミング: モデルにコンテキストや例を提供することで、望ましい出力を導き出す手法です。

  • Few-Shot Learning: 少数の例を提供することで、モデルがタスクを理解しやすくなります。
    • 例:「以下の例のように、日本語の文章を英語に翻訳してください。
      • 例1:こんにちは -> Hello
      • 例2:こんばんは -> Good evening
      • 翻訳:お元気ですか -> How are you?」
    • 説明: 翻訳タスクを指定し、2つの例を提供することで、モデルが3つ目の文章を正しく翻訳する確率が高まります。
  • Chain-of-Thought Prompting: 複雑な推論タスクでは、モデルに思考過程を説明させることで精度が向上します。
    • 例:「13に5を足して、その結果を2倍にするといくつですか? 思考過程を説明しながら答えてください。 -> 13 + 5 = 18
      18 * 2 = 36
      答え: 36」
    • 説明: 計算過程を明示的に要求することで、モデルが正しい答えにたどり着くのを助けます。

2. 制約の明確化: 出力形式、長さ、内容など、具体的な制約を設けることで、モデルの生成するテキストを制御します。

  • Output Format: 出力形式を指定することで、モデルが生成するテキストの構造を制御できます。
    • 例:「俳句の形式で桜について書いてください。
      -> 淡き紅染め
      春の風に乗る花びら
      空に舞い上がる」
    • 例:「JSON形式で商品の情報をまとめてください。
      -> {“商品名”: “りんご”, “価格”: “100円”, “産地”: “青森県”}」
    • 説明: 俳句やJSONなど、特定の形式での出力を要求することで、後処理の手間を省いたり、他のアプリケーションとの連携をスムーズにしたりできます。
  • Length Constraints: 出力の長さを制限することで、簡潔な回答を得ることができます。
    • 例:「100文字以内で要約してください。
      -> (対象のテキストを入力) -> (100文字以内の要約)」
    • 説明: 文字数制限を設けることで、冗長な回答を防ぎ、必要な情報に絞ることができます。
  • Constraints on Content: 特定のキーワードを含める/除外する、特定のスタイルで書くなど、コンテンツに関する制約を設けることができます。
    • 例:「ポジティブな言葉を使って商品のレビューを書いてください。 -> この商品は素晴らしいです!デザインが美しく、機能性も抜群です。買ってよかったです。」
    • 例:「専門用語を使わずに説明してください。 -> 量子コンピューターは、従来のコンピューターとは異なる原理で動作する、とても速いコンピューターです。」
    • 説明: キーワードやスタイルを指定することで、特定の目的に沿ったテキストを生成させることができます。
  • Persona Prompting: 特定のペルソナを設定することで、望ましいスタイルやトーンで応答を生成させます。
    • 例:「あなたは経験豊富なシェフです。美味しいパスタのレシピを教えてください。 -> 新鮮なトマトとバジルを使ったシンプルなパスタがおすすめです。良質なオリーブオイルとニンニクを使うのがポイントです。詳しいレシピは以下をご覧ください…(レシピの詳細)」
    • 説明: ペルソナを設定することで、まるで特定の役割を演じる人物が書いたかのようなテキストを生成させることができます。

3. 外部情報活用: 現状ではChatGPT単体では不可能ですが、将来的な発展や、ユーザー自身の手によって外部情報を取り入れることで、より精度の高い、または豊富な情報を伴った出力を得られます。

  • Knowledge Retrieval: 関連する情報を提供することで、モデルの知識不足を補えます。
    • 例:「地球の直径は約12,742kmです。
      地球の直径は? (Wikipediaの記事を参考に) -> 地球の直径は約12,742kmです。(Wikipediaによると、赤道直径は約12,756km、極直径は約12,714kmです。) 」
    • 説明: モデルがアクセスできない情報や最新の情報などを提供することで、より正確な回答を得ることができます。(現状ではユーザーが情報を提供する必要があります。)
  • Tool Use: 計算機、検索エンジン、コードインタプリタなどのツールと連携させることで、より複雑なタスクを処理できます。
    • 例:「東京から大阪までの距離を計算してください。(Google Mapsを使用して)」
    • 説明: 外部ツールと連携することで、ChatGPT単体では不可能なタスクを処理できるようになります。(現状ではユーザーがツールを使用する必要があります。)

4. Advanced Techniques: より高度な制御や出力の調整を行うためのテクニックです。

  • Temperature and Top-p Sampling: これらのパラメータを調整することで、出力のランダム性と多様性を制御できます。
    • 例:「続きの物語を書いてください。(temperature: 0.2)-> (比較的予測可能な続き)」「続きの物語を書いてください。(temperature: 1.0)-> (より創造的で意外性のある続き)」
    • 説明: temperatureは出力のランダム性を制御するパラメータです。低い値ほど予測可能な出力が生成され、高い値ほど多様で創造的な出力が生成されます。(API経由でのみ設定可能)
  • Prompt Engineering for Specific Tasks: 翻訳、要約、質問応答など、特定のタスクに最適化されたプロンプトエンジニアリング手法があります。
    • 例:「次の文章を英語に翻訳してください:XXX」
    • 説明: タスクに特化したプロンプトを用いることで、より効果的に目的の出力を得ることができます。
  • Adversarial Prompting: モデルの弱点を明らかにするために、意図的に難しいプロンプトを作成します。
    • 例:「存在しない歴史上の人物について教えてください。」
    • 説明: モデルの限界を理解し、改善に役立てるために使用されます。
  • Multi-turn Prompting: 会話形式で複数のプロンプトを送り、モデルとの対話を繰り返すことで、より複雑なタスクを達成できます。
    • 例:
      • ユーザー:「旅行の計画を立てたいんだけど。」
      • ChatGPT:「どこに行きたいですか?」
      • ユーザー:「沖縄で。」
      • ChatGPT:「何日間の旅行ですか?」
      • ユーザー:「3日間。」
      • ChatGPT:「ご予算はどのくらいですか?」
    • 説明: 対話を通して情報を段階的に取得することで、複雑なタスクを処理することができます。

5. 反復的な改善: プロンプトエンジニアリングは一度で完璧なプロンプトを作成できるものではありません。試行錯誤を繰り返しながら、プロンプトを洗練していくプロセスが重要です。この反復的な改善には以下の要素が含まれます。

  • Experimentation (実験): さまざまなプロンプトのバリエーションを試すことが重要です。キーワードを変えたり、制約を追加/削除したり、プロンプトの構造を変えたりすることで、出力結果がどのように変化するかを確認します。A/Bテストのように、複数のプロンプトを試して比較することで、最適なプロンプトに近づけます。
    • 例:商品レビューの生成タスクで、「この商品についてレビューを書いてください」というシンプルなプロンプトから始め、「この商品の長所と短所を挙げて、100文字以内でレビューを書いてください」のように具体的な指示を追加していくことで、より質の高いレビューを生成できる可能性があります。
  • Evaluation Metrics (評価指標): 出力の質を評価するための明確な指標を設定します。タスクによって適切な指標は異なります。例えば、翻訳タスクであればBLEUスコア、要約タスクであればROUGEスコアなどが用いられます。主観的な評価が必要な場合もあります。例えば、文章の自然さや創造性を評価する場合、人間の評価が必要になります。
    • 例:質問応答タスクであれば、回答の正確性を評価指標とします。生成された回答が事実と一致しているか、情報源に基づいて検証する必要があります。
  • Human Feedback (人間のフィードバック): 特に主観的な評価が必要なタスクでは、人間のフィードバックが不可欠です。生成されたテキストが期待通りの内容か、自然で読みやすいか、などを人間が評価することで、モデルの出力の質を向上させることができます。
    • 例:詩の生成タスクでは、韻律や比喩表現の適切さ、全体的な美しさなどを人間が評価することで、より洗練された詩を生成するようにモデルを導くことができます。

これらの要素を組み合わせて、プロンプトを継続的に改善していくことで、ChatGPTなどの大規模言語モデルからより高品質で望ましい出力を得ることができるようになります。 プロンプトエンジニアリングは、いわばモデルとの対話を通じて、その能力を引き出すための技術と言えるでしょう。