GPTモデルにおいて、入力シーケンスのトークン数と出力トークン数が必ずしも一致しないのはなぜか?

はじめに

GPT(Generative Pre-trained Transformer)モデルにおいて、入力シーケンスのトークン数と出力トークン数が必ずしも一致しない理由について、詳細かつ具体的に解説します。出力トークンの長さがどのように決定されるのか、またその背後にあるメカニズムや設定について理解することで、GPTモデルの生成プロセスをより深く理解することができます。

1. 出力トークンの長さの決定要因

出力トークンの長さが入力シーケンスと異なる理由は、GPTの生成プロセスが動的であり、複数の要因によって出力長が決定されるためです。以下に主要な要因を詳述します。

1.1. 生成プロセスの動的性質

GPTはオートレグレッシブ(自己回帰)モデルとして設計されており、出力トークンを一つずつ生成します。各トークンの生成は、これまでに生成されたトークンと入力プロンプトに依存しており、固定長ではなく動的に決定されます。

生成ステップの概要:

  1. 初期入力: ユーザーからのプロンプト(入力シーケンス)。
  2. トークン生成: モデルは現在のシーケンスに基づいて次のトークンを予測。
  3. シーケンスの拡張: 生成されたトークンがシーケンスに追加される。
  4. 繰り返し: ステップ2と3を繰り返し、停止条件が満たされるまで続行。

このプロセスにより、出力トークンの長さはユーザーの入力とは独立して決定されます。

1.2. 最大生成長(Max Token Limit)

モデルが生成するトークン数には、最大生成長と呼ばれる制限があります。この制限は、モデルの設定や使用するAPI、ハードウェアリソースによって異なります。

例:

  • GPT-3の場合: 最大生成長は通常2048トークンですが、モデルや設定により異なる場合があります。
  • GPT-4の場合: より大きなシーケンス長をサポートしていることが多いです。

最大生成長は、生成プロセスが無限に続くのを防ぎ、計算資源を効率的に使用するために設定されています。

1.3. 停止条件(Stop Conditions)

出力生成を終了させるための停止条件が設定されている場合、生成プロセスはこれに基づいて終了します。主な停止条件には以下があります:

  • 特定の停止トークン: 例えば、改行文字や特定のシンボルが生成された時点で停止。
  • ユーザー指定の終了条件: API呼び出し時に特定の条件を設定可能。
  • パターンマッチング: 一定のパターンが出力に現れた時点で停止。

例:

# OpenAI APIのパラメータ例
response = openai.Completion.create(
    engine="text-davinci-003",
    prompt="自然言語処理について説明してください。",
    max_tokens=100,
    stop=["。"]
)

上記の例では、停止トークンとして句点「。」が指定されており、このトークンが生成された時点で出力が終了します。

1.4. 生成戦略とサンプリング方法

生成戦略やサンプリング方法も、出力トークンの長さに影響を与えます。主な生成戦略には以下があります:

  • グリーディー法(Greedy Sampling): 各ステップで最も確率の高いトークンを選択。シンプルですが、多様性に欠ける。
  • ビームサーチ(Beam Search): 複数の候補を同時に追跡し、最適なシーケンスを探索。より自然な出力が期待できるが、計算コストが高い。
  • トップKサンプリング(Top-K Sampling): 上位K個のトークンからランダムに選択。多様性を確保しつつ、品質を維持。
  • トップPサンプリング(Top-P/Nucleus Sampling): 累積確率がPに達するまでのトークンからランダムに選択。柔軟な多様性を提供。

これらの戦略により、出力の長さや内容が変動します。

1.5. ユーザー指定のパラメータ

ユーザーがAPIを利用する際に指定するパラメータも、出力トークンの長さに直接影響します。主なパラメータには以下があります:

  • max_tokens: 生成する最大トークン数を指定。これにより、出力の長さが制限されます。
  • temperature: 出力のランダム性を制御。高温度では多様な出力が得られ、結果として長い出力になる可能性があります。
  • top_p: トップPサンプリングにおける累積確率の閾値を設定。

例:

response = openai.Completion.create(
    engine="text-davinci-003",
    prompt="AIの未来について議論してください。",
    max_tokens=150,
    temperature=0.7,
    top_p=0.9
)

上記の設定では、最大150トークンまで生成され、出力の多様性は適度に保たれます。

2. 出力長の決定メカニズムの詳細

出力トークンの長さは、上記の要因が複合的に作用して決定されます。以下に、それぞれの要因がどのように影響を与えるかを具体的に説明します。

2.1. 初期入力とコンテキスト

入力シーケンス(プロンプト)の内容や長さは、生成される出力に影響を与える重要な要素です。特に、モデルは入力に対する適切な応答を生成するために、必要なだけトークンを生成します。

例:

  • 短い質問: 短い出力が生成されやすい。
  入力: "天気はどうですか?"
  出力: "今日は晴れです。"
  • 詳細な説明要求: 長い出力が生成されやすい。
  入力: "量子コンピュータの基本原理について詳しく説明してください。"
  出力: "量子コンピュータは、量子ビット(キュービット)を基盤とし、従来のビットとは異なる重ね合わせやエンタングルメントといった量子力学的現象を利用して情報を処理します。..."

2.2. トークン生成の停止条件

停止条件が満たされると、生成プロセスが終了します。これにより、出力トークンの長さが制御されます。

具体例:

response = openai.Completion.create(
    engine="text-davinci-003",
    prompt="歴史について教えてください。",
    max_tokens=50,
    stop=["\n", "終了"]
)

この場合、50トークンに達するか、改行や「終了」という単語が生成されるまで出力が続きます。

2.3. モデルの確率分布と選択戦略

モデルは次のトークンを選択する際に、確率分布に基づいて決定します。選択戦略(グリーディー法、ビームサーチ、トップKサンプリング、トップPサンプリングなど)は、生成されるトークンの多様性や長さに影響を与えます。

  • グリーディー法: 最も確率の高いトークンを選択するため、出力が短くなりやすい。
  • トップKサンプリング: 一定の多様性を持たせつつ、出力が長くなる可能性がある。
  • トップPサンプリング: 柔軟な多様性を提供し、より自然な長さの出力が期待できる。

2.4. ユーザー設定による制御

ユーザーは生成プロセスに対して様々な設定を行うことができます。これにより、出力トークンの長さを意図的に制御することが可能です。

主な設定例:

  • max_tokens: 生成するトークン数の上限を設定。
  • temperature: 高温度設定ではより多様な出力が得られ、結果として出力長が変動しやすくなる。
  • presence_penalty: 新しいトピックの導入を促進し、出力の長さに影響を与える。
  • frequency_penalty: 同じ単語の繰り返しを減少させ、多様な表現を促進。

具体例:

response = openai.Completion.create(
    engine="text-davinci-003",
    prompt="環境保護の重要性について議論してください。",
    max_tokens=200,
    temperature=0.9,
    top_p=0.95,
    presence_penalty=0.6,
    frequency_penalty=0.5
)

この設定では、多様で詳細な議論が期待され、出力トークン数が増加する可能性があります。

3. 出力長の決定プロセスの流れ

以下に、出力トークンの長さがどのように決定されるかをステップバイステップで示します。

3.1. 初期入力の処理

  1. ユーザー入力: ユーザーがプロンプトを入力。
   "AI技術の未来について考察してください。"
  1. トークン化: 入力テキストがトークンに分割され、トークンIDにマッピングされる。
   ["AI", "技術", "の", "未来", "について", "考察", "してください", "。"]
   トークンID: [3001, 4002, 5003, 6004, 7005, 8006, 9007, 10008]

3.2. 埋め込みと位置埋め込みの適用

  1. トークン埋め込み: 各トークンIDが埋め込みベクトルに変換される。
  2. 位置埋め込み: 各トークンの位置に応じた位置ベクトルが加算される。
   埋め込み + 位置埋め込み = 各トークンの最終ベクトル

3.3. デコーダブロックを通じた変換

  1. 自己注意機構: 各トークンが他のトークンとどのように関連しているかを計算。
  2. マルチヘッド注意: 複数の注意ヘッドが並行して情報を処理。
  3. フィードフォワードネットワーク: 非線形変換を適用し、表現力を高める。
  4. 残差接続と層正規化: 各層の出力を安定化し、次の層に伝達。

このプロセスがモデルの全層で繰り返され、最終的な出力ベクトルが得られる。

3.4. ロジット計算とソフトマックス適用

  1. ロジット計算: 最終出力ベクトルが語彙サイズに対応する重み行列と線形変換され、各トークンのスコア(ロジット)が計算される。
   Z = H * W_vocab + b_vocab
  1. ソフトマックス関数: ロジットにソフトマックスを適用し、各トークンの出現確率を得る。
   P_i = exp(Z_i) / sum_j exp(Z_j)

3.5. トークンの選択と生成

  1. トークン選択: 確率分布に基づいて次のトークンが選択される(グリーディー法、ビームサーチ、トップKサンプリング、トップPサンプリングなど)。
   選択されたトークンID: 11009
  1. シーケンスの拡張: 選択されたトークンがシーケンスに追加される。
   新しいシーケンス: [3001, 4002, 5003, 6004, 7005, 8006, 9007, 10008, 11009]
  1. 停止条件のチェック: 最大生成長に達しているか、停止条件が満たされているかを確認。満たされていれば生成終了。

3.6. 生成プロセスの繰り返し

停止条件が満たされるまで、ステップ3.3から3.5を繰り返し、必要なトークン数が生成される。

4. 具体的な出力長決定の例

以下に、具体的な設定とそれに基づく出力長の決定プロセスを示します。

4.1. 設定例

response = openai.Completion.create(
    engine="text-davinci-003",
    prompt="人工知能の倫理的側面について論じてください。",
    max_tokens=100,
    temperature=0.7,
    top_p=0.9,
    stop=["。", "\n"]
)

4.2. 生成プロセス

  1. 初期入力: トークンID列がモデルに入力される。
  2. トークン生成:
  • モデルは最初のトークンを生成。
  • 次に、そのトークンをシーケンスに追加し、再度次のトークンを生成。
  • このプロセスを繰り返し、各ステップで生成されたトークンがシーケンスに追加される。
  1. 停止条件の適用:
  • 句点「。」または改行が生成された時点で生成を停止。
  • または、100トークンに達した時点で停止。

4.3. 生成結果の例

人工知能の倫理的側面について論じてください。
→ 人工知能の倫理的側面は、プライバシーの保護、バイアスの排除、公平性の確保など、多岐にわたります。これらの側面を考慮することで、AI技術が社会に与える影響を最小限に抑えることが可能となります。

この例では、停止条件として句点が指定されており、1文が生成された時点で生成が終了しています。

5. 実装上のポイント

出力トークンの長さを制御する際に考慮すべき実装上のポイントを以下に示します。

5.1. APIパラメータの適切な設定

  • max_tokens: 必要に応じて適切な値を設定し、過度な長文生成を防ぐ。
  • stop: 明確な停止条件を設定することで、意図しない長文生成を防止。
  • temperatureとtop_p: 生成の多様性と品質のバランスを調整し、適切な出力長を促進。

5.2. トークン数の計算

生成プロセス中に、既存のトークン数と生成されるトークン数を常に追跡し、max_tokensに達しないように注意する。

5.3. 動的生成の管理

リアルタイムで生成プロセスを監視し、必要に応じて早期停止や強制停止を実装することで、効率的な出力管理を行う。

6. 数学的視点からの出力長決定

出力トークンの長さは、生成プロセスの確率的な性質と設定された制約条件に基づいて決定されます。以下に、数学的な視点からそのメカニズムを説明します。

6.1. トークン生成の確率分布

各生成ステップで、次のトークン \( t_i \) は以下の確率分布に基づいて選択されます:

\[
P(t_i | t_1, t_2, \dots, t_{i-1}, \text{入力})
\]

ここで、\( P \) は条件付き確率分布を表し、過去のトークンと入力プロンプトに依存します。

6.2. 生成の停止確率

生成プロセスが停止する確率は、各ステップで生成される停止トークンの確率 \( P_{\text{stop}} \) に依存します。停止条件が満たされる確率は以下のように表現できます:

\[
P_{\text{stop at step } i} = P(t_i \text{ is a stop token}) \times \prod_{j=1}^{i-1} \left(1 – P(t_j \text{ is a stop token})\right)
\]

これは、ステップ \( i \) で停止トークンが生成される確率と、それ以前のステップで停止トークンが生成されなかった確率の積です。

6.3. 期待される生成長

停止確率に基づいて、生成されるトークンの期待値(期待生成長) \( E[L] \) は以下のように計算されます:

\[
E[L] = \sum_{i=1}^{\infty} i \times P(\text{stop at step } i)
\]

ただし、実際の実装では無限のステップを考慮することは不可能なため、通常は最大生成長 \( M \) に制限され、計算は以下のように行われます:

\[
E[L] = \sum_{i=1}^{M} i \times P(\text{stop at step } i)
\]

7. まとめ

GPTモデルにおける出力トークンの長さは、入力シーケンスの長さとは独立して動的に決定されます。主な決定要因として、生成プロセスの動的性質、設定された最大生成長、停止条件、生成戦略やサンプリング方法、そしてユーザーが指定するAPIパラメータなどが挙げられます。

これらの要因が複合的に作用することで、GPTは柔軟かつ適応的なテキスト生成を実現しています。ユーザーはこれらの設定を適切に調整することで、期待する出力長や内容に近いテキストを生成することが可能です。