GPTシーケンス(プロンプト)の入力からデコーダによる最終出力までを具体的なデータで説明

はじめに

GPT(Generative Pre-trained Transformer)は、OpenAIによって開発された大規模言語モデル(LLM)であり、Transformerアーキテクチャに基づいています。本解説では、GPTの具体的なデータフローと内部処理について、より詳細かつ具体的なデータを用いて説明します。トークンの分割、多次元ベクトルへの変換、自己注意機構の動作、デコーダの層構造、出力生成プロセスなど、GPT特有の特徴を踏まえた視点から解説します。

1. GPTの基本構造

GPTは、Transformerのデコーダ部分のみをスタックした構造を持ちます。以下に、GPTの主要な構成要素を示します。

  • トークナイザー(Tokenizer)
  • トークン埋め込み層(Token Embedding Layer)
  • 位置埋め込み層(Positional Embedding Layer)
  • 複数のデコーダブロック(Decoder Blocks)
  • 自己注意機構(Self-Attention Mechanism)
  • フィードフォワードネットワーク(Feed-Forward Network)
  • 残差接続と層正規化(Residual Connections and Layer Normalization)
  • 出力層(Output Layer)

GPT-4などの最新モデルでは、数百層のデコーダブロックが積み重ねられ、各層が高度な表現力を持つように設計されています。

2. 入力プロセス

2.1. テキストの入力

ユーザーがGPTに入力するテキスト(プロンプト)は、まず前処理としてトークン化されます。例えば、以下の入力テキストを考えます。

入力テキスト:

"自然言語処理は面白いです。"

2.2. トークン化(Tokenization)

GPTでは、BPE(Byte Pair Encoding)や類似のサブワードベースのトークナイザーが用いられます。これにより、未知の単語や複合語も効果的に処理できます。

トークン化例:

["自然", "言語", "処理", "は", "面白い", "です", "。"]

各トークンは語彙リストに基づき一意のIDにマッピングされます。

トークンID例:

["自然" -> 15001, "言語" -> 16002, "処理" -> 17003, "は" -> 18004, "面白い" -> 19005, "です" -> 20006, "。" -> 21007]
トークンID列: [15001, 16002, 17003, 18004, 19005, 20006, 21007]

2.3. 埋め込み(Embedding)

2.3.1. トークン埋め込み

トークンIDは、埋め込み層を通じて高次元のベクトルに変換されます。例えば、埋め込み次元が 1024 次元の場合、各トークンIDは 1024 次元のベクトルにマッピングされます。

トークン埋め込み例:

ID 15001: [0.15, -0.23, ..., 0.47] (1024次元)
ID 16002: [0.56, 0.34, ..., -0.12] (1024次元)
...

2.3.2. 位置埋め込み(Positional Embedding)

Transformerはシーケンスの順序を理解できないため、位置埋め込みが各トークン埋め込みに加算されます。位置埋め込みは、固定または学習可能なベクトルであり、トークンの位置情報をモデルに提供します。

位置埋め込み例:

位置0: [0.01, 0.02, ..., 0.03] (1024次元)
位置1: [0.04, 0.05, ..., 0.06] (1024次元)
...
位置6: [0.19, 0.20, ..., 0.21] (1024次元)

埋め込み + 位置埋め込み:

トークン埋め込み(ID 15001) + 位置0埋め込み = [0.16, -0.21, ..., 0.50]
トークン埋め込み(ID 16002) + 位置1埋め込み = [0.60, 0.39, ..., -0.06]
...

3. デコーダブロックの詳細

GPTの中核を成すのは、複数のデコーダブロックの積み重ねです。以下に、1つのデコーダブロック内の各コンポーネントについて具体的に説明します。

3.1. 自己注意機構(Self-Attention Mechanism)

自己注意機構は、各トークンがシーケンス内の他のトークンとどの程度関連しているかを計算します。GPTでは、単方向(左から右)での注意機構が採用されており、因果関係を維持します。

自己注意の計算ステップ:

  1. クエリ、キー、バリューの生成:
  • 各トークン埋め込みベクトル \( X \) に対して、線形変換を行いクエリ \( Q \)、キー \( K \)、バリュー \( V \) を生成します。
  • 具体的には、
    \[
    Q = XW_Q
    \]
    \[
    K = XW_K
    \]
    \[
    V = XW_V
    \]
    ここで、\( W_Q, W_K, W_V \) は学習可能な重み行列です。
  1. 注意スコアの計算:
  • クエリとキーの内積を計算し、スケーリング因子 \( \sqrt{d_k} \) で割ります。
    \[
    \text{Attention_Score} = \frac{QK^T}{\sqrt{d_k}}
    \]
  • ここで、\( d_k \) はキーの次元数です。
  1. マスクの適用(因果マスク):
  • GPTでは、未来のトークン情報が漏洩しないように因果マスクを適用します。これにより、各トークンは自身以前のトークンのみを参照します。
    \[
    \text{Attention_Score} = \text{Attention_Score} + \text{Mask}
    \]
    マスクは、未来の位置に対して大きな負の値(例: \(-10^9\) )を設定します。
  1. ソフトマックスと重み付き和:
  • ソフトマックス関数を適用して注意重みを得た後、バリューと重みを掛け合わせて出力を得ます。
    \[
    \text{Attention_Weights} = \text{softmax}(\text{Attention_Score})
    \]
    \[
    \text{Attention_Output} = \text{Attention_Weights} \cdot V
    \]

3.2. マルチヘッド注意機構(Multi-Head Attention)

マルチヘッド注意機構は、自己注意機構を並列に複数回実行し、異なるサブスペースで情報を捉えることを可能にします。GPTでは、通常12ヘッドから48ヘッドが採用されます。

マルチヘッドの計算ステップ:

  1. ヘッドごとの自己注意計算:
  • 各ヘッド \( h \) に対して、自己注意機構を独立に計算します。
    \[
    \text{Head}_h = \text{Attention}(Q_h, K_h, V_h)
    \]
  1. ヘッドの結合と線形変換:
  • 全てのヘッドの出力を結合し、再度線形変換を行います。
    \[
    \text{MultiHead_Output} = \text{Concat}(\text{Head}_1, \text{Head}_2, …, \text{Head}_H) W_O
    \]
    ここで、\( W_O \) は結合後の重み行列です。

3.3. 残差接続と層正規化(Residual Connections and Layer Normalization)

各サブレイヤーの出力に対して残差接続を適用し、その後層正規化を行います。これにより、勾配消失問題の緩和と学習の安定化が図られます。

計算ステップ:

X = LayerNorm(X + MultiHead_Output)

3.4. フィードフォワードネットワーク(Feed-Forward Network)

各デコーダブロック内には、2層の全結合ネットワークが存在します。活性化関数としてGELUが使用されます。

フィードフォワードの計算ステップ:

FFN_Output = GELU(X * W_1 + b_1) * W_2 + b_2

ここで、\( W_1, W_2 \) は全結合層の重み行列、\( b_1, b_2 \) はバイアス項です。

3.5. デコーダブロックの積み重ね

GPTでは、上述のデコーダブロックが数百層(例:GPT-3は96層、GPT-4はさらに多層)積み重ねられています。各層が前の層の出力を入力として受け取り、より深い文脈理解を実現します。

4. 出力生成プロセス

4.1. 最終層の出力

最終デコーダブロックの出力は、シーケンスの各トークンに対する高次元ベクトル(例:1024次元)です。これらのベクトルは次のステップで処理されます。

4.2. ロジット計算

出力ベクトルは、語彙サイズ(例:50,000語)に対応する出力層へと送られます。具体的には、最終層の出力 \( H \) に対して、語彙サイズに対応する重み行列 \( W_{\text{vocab}} \) を用いてロジット \( Z \) を計算します。

\[
Z = H W_{\text{vocab}} + b_{\text{vocab}}
\]

ここで、\( W_{\text{vocab}} \) は埋め込み行列の転置、\( b_{\text{vocab}} \) はバイアス項です。

4.3. ソフトマックスによる確率分布

ロジット \( Z \) にソフトマックス関数を適用して、各トークンの出現確率 \( P \) を得ます。

\[
P_i = \frac{\exp(Z_i)}{\sum_{j=1}^{V} \exp(Z_j)}
\]

ここで、\( V \) は語彙サイズです。

4.4. トークンの選択

確率分布 \( P \) から次のトークンを選択します。選択方法には以下のような戦略があります:

  • グリーディー法(Greedy Sampling): 最も確率の高いトークンを選択。
  • ビームサーチ(Beam Search): 複数の候補を同時に探索し、最適なシーケンスを選択。
  • トップKサンプリング(Top-K Sampling): 上位K個のトークンからランダムに選択。
  • トップPサンプリング(Top-P/Nucleus Sampling): 累積確率がPに達するまでのトークンから選択。

トークン選択例:

確率分布: [0.05, 0.15, 0.50, 0.30]
選択: トークン3(確率0.50)

4.5. トークンのデコーディング

選択されたトークンIDは、語彙リストに基づいて実際のトークン(単語やサブワード)に変換され、出力テキストとして提供されます。

デコーディング例:

トークンID 17003 -> "処理"

5. 具体的なデータフローの例

以下に、具体的な入力から出力までのデータフローをステップバイステップで示します。

5.1. 入力プロンプト

"自然言語処理は面白いです。"

5.2. トークン化とトークンIDへのマッピング

トークン化:
["自然", "言語", "処理", "は", "面白い", "です", "。"]

トークンID:
[15001, 16002, 17003, 18004, 19005, 20006, 21007]

5.3. 埋め込みと位置埋め込み

トークン埋め込み:
[
  [0.15, -0.23, ..., 0.47],  # ID 15001
  [0.56, 0.34, ..., -0.12],  # ID 16002
  [0.78, -0.45, ..., 0.33],  # ID 17003
  [0.22, 0.11, ..., -0.05],  # ID 18004
  [0.60, -0.30, ..., 0.50],  # ID 19005
  [0.10, 0.25, ..., 0.40],   # ID 20006
  [0.05, 0.10, ..., 0.15]    # ID 21007
]

位置埋め込み:
[
  [0.01, 0.02, ..., 0.03],  # 位置0
  [0.04, 0.05, ..., 0.06],  # 位置1
  [0.07, 0.08, ..., 0.09],  # 位置2
  [0.10, 0.11, ..., 0.12],  # 位置3
  [0.13, 0.14, ..., 0.15],  # 位置4
  [0.16, 0.17, ..., 0.18],  # 位置5
  [0.19, 0.20, ..., 0.21]   # 位置6
]

埋め込み + 位置埋め込み:
[
  [0.16, -0.21, ..., 0.50],  # トークン1 + 位置0
  [0.60, 0.39, ..., -0.06],  # トークン2 + 位置1
  [0.85, -0.37, ..., 0.42],  # トークン3 + 位置2
  [0.32, 0.22, ..., 0.07],   # トークン4 + 位置3
  [0.73, -0.16, ..., 0.65],  # トークン5 + 位置4
  [0.26, 0.42, ..., 0.58],   # トークン6 + 位置5
  [0.24, 0.30, ..., 0.36]    # トークン7 + 位置6
]

5.4. デコーダブロックを通じた変換

5.4.1. 自己注意計算

  1. クエリ、キー、バリューの計算:
   Q = X * W_Q
   K = X * W_K
   V = X * W_V

ここで、\( X \) は埋め込み + 位置埋め込み行列(7トークン × 1024次元)、\( W_Q, W_K, W_V \) は 1024 × 1280 の重み行列(例えば、8ヘッドの場合、各ヘッド160次元)。

  1. 注意スコアの計算:
   Attention_Score = (Q * K^T) / sqrt(160)

ここで、\( Q \) と \( K \) は (7 × 1280) 行列となり、Attention_Score は (7 × 7) 行列になります。

  1. マスクの適用(因果マスク):
   Attention_Score += Mask

Maskは下三角行列で、未来の位置に対して大きな負の値を設定します。

  1. ソフトマックスと重み付き和:
   Attention_Weights = softmax(Attention_Score)
   Attention_Output = Attention_Weights * V

Attention_Weights は (7 × 7) 行列、Attention_Output は (7 × 1280) 行列になります。

5.4.2. マルチヘッド注意の結合

MultiHead_Output = Concat(Head1, Head2, ..., Head8) * W_O

ここで、各Headの出力は (7 × 160) 行列であり、Concat後は (7 × 1280) 行列となります。\( W_O \) は (1280 × 1024) の重み行列です。

5.4.3. 残差接続と層正規化

X = LayerNorm(X + MultiHead_Output)

これにより、デコーダブロックの出力が正規化され、次の層への入力となります。

5.4.4. フィードフォワードネットワーク

FFN_Output = GELU(X * W_1 + b_1) * W_2 + b_2

ここで、\( W_1 \) は (1024 × 4096)、\( W_2 \) は (4096 × 1024) の重み行列です。GELU関数により非線形性が導入されます。

5.4.5. 残差接続と層正規化

Output = LayerNorm(X + FFN_Output)

これで1つのデコーダブロックが完了します。このプロセスが複数層にわたり繰り返されます。

5.5. 最終出力と次のトークン生成

最終デコーダブロックの出力が、語彙サイズに対応するロジットに変換され、ソフトマックスを経て次のトークンが生成されます。例えば、次のトークンとして「興味」が選択された場合、出力シーケンスは以下のようになります。

"自然言語処理は面白いです。興味"

このプロセスが繰り返され、ユーザーの指示に従った長文が生成されます。

6. データ変換の数学的詳細

6.1. 線形変換

埋め込みベクトルの線形変換は、以下のように表されます。
\[
Y = XW + b
\]
ここで、\( X \) は入力ベクトル、\( W \) は重み行列、\( b \) はバイアス項です。例えば、埋め込み次元が1024、出力次元が4096の場合、\( W \) は (1024 × 4096) の行列です。

6.2. ソフトマックス関数

ソフトマックス関数は、入力ベクトルの各要素を正規化して確率分布に変換します。
\[
\text{softmax}(z_i) = \frac{\exp(z_i)}{\sum_{j=1}^{V} \exp(z_j)}
\]
ここで、\( z_i \) はロジットの各要素、\( V \) は語彙サイズです。

6.3. 注意機構の計算

注意スコアの計算は、クエリとキーの内積を用いて行われます。
\[
\text{Attention}(Q, K, V) = \text{softmax}\left(\frac{QK^T}{\sqrt{d_k}}\right) V
\]
ここで、\( d_k \) はキーの次元数です。

6.4. GELU活性化関数

GELU(Gaussian Error Linear Unit)は、次のように定義されます。
\[
\text{GELU}(x) = x \cdot P(X \leq x)
\]
近似式として、
\[
\text{GELU}(x) \approx 0.5 \cdot x \cdot \left(1 + \tanh\left(\sqrt{\frac{2}{\pi}} \left(x + 0.044715 x^3\right)\right)\right)
\]
この関数は、非線形性を導入し、モデルの表現力を高めます。

7. モデルの訓練と最適化

7.1. 教師あり学習

GPTは、大量のテキストデータを用いて次のトークンを予測するタスクで訓練されます。具体的には、シーケンス内の各トークンに対して、次に来るトークンを予測するように学習します。

損失関数:
\[
\text{Loss} = -\sum_{i=1}^{N} \log P(y_i | y_{<i})
\]
ここで、\( y_i \) は正解トークン、\( y_{<i} \) はそれ以前のトークンです。

7.2. 最適化アルゴリズム

モデルのパラメータは、Adam(Adaptive Moment Estimation)などの最適化アルゴリズムを用いて更新されます。Adamは、モーメント(平均と分散)を利用して適応的に学習率を調整します。

パラメータ更新式:
\[
\theta = \theta – \eta \cdot \frac{m}{\sqrt{v} + \epsilon}
\]
ここで、\( \theta \) はモデルのパラメータ、\( \eta \) は学習率、\( m \) は一次モーメント(移動平均)、\( v \) は二次モーメント(移動平均の二乗)、\( \epsilon \) は数値安定性のための小さな定数です。

7.3. 正則化と正規化技法

過学習を防ぐために、以下の正則化技法が採用されます:

  • ドロップアウト(Dropout): 特定のニューロンをランダムに無効化することで、モデルの汎化性能を向上させます。
  • 重み減衰(Weight Decay): パラメータの絶対値を抑制することで、モデルの複雑さを制御します。
  • 層正規化(Layer Normalization): 各層の出力を正規化し、学習の安定性を高めます。

8. GPTの特徴的な要素

8.1. オートレグレッシブ(Autoregressive)モデル

GPTはオートレグレッシブモデルであり、シーケンス内の各トークンはそれ以前のトークンに依存して生成されます。これにより、文脈に沿った自然なテキスト生成が可能となります。

8.2. 単方向自己注意(Unidirectional Self-Attention)

GPTはデコーダのみを使用し、単方向(左から右)での自己注意機構を採用しています。これにより、未来のトークン情報がモデルに影響を与えないようにしています。

8.3. スケーラビリティと並列処理

GPTは大規模なパラメータ数を持ち、並列処理に適した設計がされています。これにより、膨大なデータセットを効率的に学習することが可能です。

9. 実装上の考慮点

9.1. 計算資源と効率

GPTのような大規模モデルは、膨大な計算資源とメモリを必要とします。以下の技術が効率的な学習と推論に寄与します:

  • 分散学習(Distributed Training): 複数のGPUやTPUを用いて並列に学習を行います。
  • 混合精度学習(Mixed Precision Training): 16ビットと32ビットの精度を組み合わせて計算効率を向上させます。
  • メモリ最適化技法: モデルのパラメータや中間層の出力を効率的に管理し、メモリ使用量を削減します。

9.2. モデルの圧縮と蒸留

大規模モデルのデプロイを容易にするため、モデル圧縮や知識蒸留が用いられます。

  • 知識蒸留(Knowledge Distillation): 大規模な教師モデルから小規模な生徒モデルへ知識を移転し、計算効率を向上させます。
  • 量子化(Quantization): パラメータを低精度で表現し、モデルサイズと計算量を削減します。
  • プルーニング(Pruning): 不要なパラメータや接続を削除し、モデルの軽量化を図ります。

9.3. バッチ処理とシーケンシャル処理

バッチ処理は、データを効率的に並列処理するために重要です。しかし、生成タスクではシーケンシャルなトークン生成が必要となり、バッチ処理とのバランスが求められます。以下の手法が用いられます:

  • バッチサイズの最適化: メモリ制約内で最大限のバッチサイズを設定します。
  • キャッシング(Caching): 生成時に前のトークンの計算結果をキャッシュし、効率を向上させます。

10. 高度なトピック

10.1. トランスフォーマーの拡張

GPTは基本的なTransformerデコーダを基盤としていますが、以下のような拡張が施されています:

  • スパースアテンション(Sparse Attention): 注意機構をスパースにすることで、計算量を削減しつつ性能を維持します。
  • メモリー効率の向上: 長いシーケンスに対する効率的な処理を可能にする改良が加えられています。

10.2. ファインチューニングと転移学習

事前訓練済みのGPTモデルは、特定のタスクに対してファインチューニングされます。これにより、少量のタスク特有のデータで高い性能を発揮します。

ファインチューニングのステップ:

  1. 事前訓練済みモデルのロード
  2. タスク特有のデータセットで追加訓練
  3. 出力層の調整(必要に応じて)
  4. モデルの評価と微調整

10.3. マルチモーダル学習

最近のGPTモデルでは、テキスト以外のモーダル(画像、音声など)を統合したマルチモーダル学習が進められています。これにより、異なるデータ形式を統一的な表現空間にマッピングし、複雑なタスクに対応します。

マルチモーダル学習の例:

  • 画像キャプション生成: 画像データを入力として受け取り、対応するテキストキャプションを生成。
  • 音声認識と生成: 音声データをテキストに変換し、テキストから音声を生成。

11. 実装例(コードスニペット)

以下に、PyTorchを用いたGPTの簡略化された実装例を示します。具体的なデータフローを理解するための参考としてご活用ください。

import torch
import torch.nn as nn
import torch.nn.functional as F

class GPT(nn.Module):
    def __init__(self, vocab_size, embed_dim, num_layers, num_heads, ff_dim, max_seq_len):
        super(GPT, self).__init__()
        self.token_embedding = nn.Embedding(vocab_size, embed_dim)
        self.position_embedding = nn.Embedding(max_seq_len, embed_dim)
        self.layers = nn.ModuleList([
            DecoderBlock(embed_dim, num_heads, ff_dim) for _ in range(num_layers)
        ])
        self.ln_f = nn.LayerNorm(embed_dim)
        self.output_layer = nn.Linear(embed_dim, vocab_size)

    def forward(self, x):
        seq_len = x.size(1)
        positions = torch.arange(0, seq_len).unsqueeze(0).to(x.device)
        x = self.token_embedding(x) + self.position_embedding(positions)
        for layer in self.layers:
            x = layer(x)
        x = self.ln_f(x)
        logits = self.output_layer(x)
        return logits

class DecoderBlock(nn.Module):
    def __init__(self, embed_dim, num_heads, ff_dim):
        super(DecoderBlock, self).__init__()
        self.self_attn = nn.MultiheadAttention(embed_dim, num_heads)
        self.ln1 = nn.LayerNorm(embed_dim)
        self.ffn = nn.Sequential(
            nn.Linear(embed_dim, ff_dim),
            nn.GELU(),
            nn.Linear(ff_dim, embed_dim)
        )
        self.ln2 = nn.LayerNorm(embed_dim)

    def forward(self, x):
        attn_output, _ = self.self_attn(x, x, x, need_weights=False)
        x = self.ln1(x + attn_output)
        ffn_output = self.ffn(x)
        x = self.ln2(x + ffn_output)
        return x

# モデルの初期化
vocab_size = 50000
embed_dim = 1024
num_layers = 48
num_heads = 16
ff_dim = 4096
max_seq_len = 1024

model = GPT(vocab_size, embed_dim, num_layers, num_heads, ff_dim, max_seq_len)

# ダミー入力
input_ids = torch.randint(0, vocab_size, (1, 7))  # バッチサイズ1、シーケンス長7
logits = model(input_ids)
print(logits.shape)  # 出力: torch.Size([1, 7, 50000])

このコードスニペットでは、以下のプロセスが実装されています:

  1. トークン埋め込みと位置埋め込みの加算
  2. 複数のデコーダブロックを通じた自己注意とフィードフォワードの適用
  3. 最終層正規化と出力層によるロジットの生成

12. まとめ

本解説では、GPTの具体的なデータフローと内部処理について詳細に説明しました。トークン化から埋め込み、デコーダブロックを通じた多層変換、自己注意機構の動作、出力生成プロセスまで、各ステップでデータがどのように変換されるかを専門的な視点から明らかにしました。