Transformerのデコーディング手法において、「Top-Pサンプリング」を採用した場合、確率分布や累積確率はどの場所に保存されますか?

Top-Pサンプリング(Nucleus Sampling)を採用した場合、確率分布や累積確率は通常、モデルの内部の一時的なメモリ(バッファ)に保存されるというのが一般的な理解です。これについてもう少し具体的に解説していきます。

1. 確率分布と累積確率の保存場所

a. モデルの内部バッファ

Top-Pサンプリングでは、各ステップで次のトークンを生成する際、Transformerのデコーダが出力する次のトークンの確率分布(ソフトマックスの結果)を使います。この確率分布は、テンソル(ベクトル)としてメモリ上に保持され、次に行う操作で利用されます。テンソルは計算フレームワーク(例えば、PyTorchやTensorFlow)のメモリ(RAMまたはGPUメモリ)に格納されます。

例えば、以下のように計算フレームワーク上で生成する場合:

import torch

# 仮に確率分布(logits)を生成する例
logits = torch.randn(1, vocab_size)  # 語彙数分のスコアを持つ
probs = torch.softmax(logits, dim=-1)  # ソフトマックスを使って確率に変換

probs は語彙全体に対する確率分布を含むテンソルで、これがメモリに保持され、次の処理に使われます。

b. 一時的な累積計算

累積確率を計算する際、ソフトマックスの結果から累積分布を作成します。この計算も同様に、テンソルとして一時的に保持されます。具体的には、次のような操作が行われます:

  1. 確率分布を降順にソートします。
  2. 累積確率を計算します(つまり、各トークンまでの確率の合計を保持する形で累積されていきます)。
sorted_probs, indices = torch.sort(probs, descending=True)  # 確率を降順にソート
cumulative_probs = torch.cumsum(sorted_probs, dim=-1)  # 累積確率を計算

cumulative_probs には累積確率が保持され、この情報を基にどのトークンセットまでを選択するかを決定します。この累積確率も一時的に計算フレームワークのメモリに保持され、計算が完了した後は不要になります。

2. 長期間保存されることはない

確率分布や累積確率は、一時的にメモリに保持されるだけであり、長期保存されるものではありません。以下の特徴があります:

  • 一時的な計算結果:各トークンの予測時に一時的に計算され、次のトークンの生成に使用された後には、通常メモリから消去されます。
  • 次のステップには利用しない:各ステップごとに新たに確率分布と累積確率を計算するため、前のステップで計算した累積確率は保存されず、次のステップには影響しません。

3. GPUまたはCPUメモリでの管理

確率分布や累積確率の計算は、通常GPUメモリまたはCPUメモリ上で実行されます。このため、どちらで計算が行われるかは使用している計算リソースに依存します。

  • GPUメモリ:モデルの推論がGPUで行われる場合、確率分布や累積確率の計算もGPU上で実行され、その結果も一時的にGPUメモリに保存されます。GPUメモリは高速な計算を可能にしますが、メモリ量には限りがあるため、これらのデータは逐次的に生成して使われるだけです。
  • CPUメモリ:計算がCPU上で行われている場合、同様にCPUのメモリに確率分布や累積確率が保存されます。これは一般的には、リソースが限られた環境やリアルタイムでないアプリケーションに使われます。

4. 保存される対象としての役割

確率分布や累積確率は、主に次の手順のために一時的に使われますが、これらは生成されるシーケンスに直接保存されるわけではありません。実際に保存されるのは最終的に選択されたトークン(出力シーケンス)であり、確率や累積値は選択の基準に過ぎません。

まとめ

  • 確率分布や累積確率はTransformerデコーダがトークンを生成する際に一時的に使用する情報です。
  • それらの確率や累積値はGPUやCPUのメモリ上に保持され、次のトークンを決定するために使われますが、長期的には保持されないことが一般的です。
  • 各ステップごとに新たに確率分布と累積確率が計算されるため、保存されるのは最終的に選ばれたトークンの系列(生成されたテキスト)であり、確率そのものは計算後すぐにメモリから削除されます。

Top-Pサンプリングに限らず、他のサンプリング手法やビームサーチなどのデコーディング手法でも、確率分布やその派生した情報は計算の過程で一時的に使われるものであり、最終的には生成されたトークン列(テキスト)のみが重要な出力として残ります。