トランスフォーマーモデルの重要な特徴の一つは、その内部で使用される重み行列の数と、それらがどのように学習されるかにあります。本記事では、トランスフォーマーにおける重み行列の概要と、それぞれの学習プロセスについて詳細に解説します。
トランスフォーマーにおける重み行列の種類
トランスフォーマーモデルには、いくつかの異なる種類の重み行列が存在します。それぞれの重み行列には異なる役割があり、モデル全体で協力して動作することで、自然言語処理タスクを高精度に解決します。
1. エンベディング層の重み行列
まず、各トークン(単語など)を数値のベクトルに変換するために、エンベディング層の重み行列が使用されます。これにより、入力された単語は高次元の空間内で意味を持つベクトルに変換されます。このエンベディングベクトルは、その後のトランスフォーマーモデルで使用される基礎的な表現となります。
2. クエリ、キー、バリューの重み行列((W_Q, W_K, W_V))
次に、トランスフォーマーモデルのアテンション機構においては、クエリ(Q)、キー(K)、バリュー(V)を生成するための重み行列が使用されます。これらの重み行列は、入力の埋め込みベクトルを基にして、文脈中での各トークンの関連性を判断するために使用されます。具体的には、
- クエリ(Q): 他のトークンがどれだけ注目すべきかを問い合わせる役割
- キー(K): そのトークン自体が持つ情報の内容を表す
- バリュー(V): 注意を払うべき情報そのものを保持
これらはすべて学習可能な重み行列であり、訓練を通じて調整され、トランスフォーマーが文脈を理解し、最も重要な情報を選び取れるようになります。
3. マルチヘッドアテンションの重み行列
自己アテンションは一つの観点からトークン同士の関係性を評価しますが、マルチヘッドアテンションは複数の観点からそれを行います。それぞれのヘッドごとに独自の重み行列が存在し、各ヘッドが異なる関係性や特徴を抽出します。マルチヘッドアテンションにより、多様な情報を効果的にモデルに取り入れることが可能になります。
4. フィードフォワードネットワークの重み行列
自己アテンションの後、各トークンの表現はフィードフォワードネットワークに入力されます。この層も独自の重み行列を持っており、より複雑なパターンを学習することを目的としています。フィードフォワードネットワークは各トークンごとに独立して適用され、線形変換と活性化関数によってトークンの表現を変換します。
トランスフォーマーモデルの学習プロセス
同時並行での重み行列の学習
トランスフォーマーモデルの学習は、エポックと呼ばれる繰り返しの中で、すべての重み行列が同時並行に最適化されます。具体的には、以下の手順で行われます:
- 順伝播(フォワードパス): 入力テキストがエンベディング層を通り、クエリ・キー・バリューの生成、アテンション計算、フィードフォワードネットワークなどを経て、最終的な出力が得られます。
- 損失の計算: 生成された出力と、正しいターゲット(教師データ)との誤差を計算します。この誤差は損失関数を使って数値化されます。
- バックプロパゲーション(誤差逆伝播法): 損失を最小化するために、すべての重み行列に対して誤差を逆伝播させ、勾配を計算します。この勾配に基づいて、各重み行列が少しずつ調整されます。
- 重みの更新: 勾配に基づいて、モデル内のすべての重み行列が同時に更新されます。これにより、トランスフォーマー全体が最適化され、次のトークンをより正確に予測できるようになります。
重み行列ごとの個別学習ではない
重要なのは、トランスフォーマーモデルの全ての重み行列が個別に別々の目的で学習されているのではなく、全体の損失関数を最小化するために同時に調整されるという点です。これにより、各層や各重み行列が協調して動作し、全体としてより高い性能を実現します。
まとめ
トランスフォーマーモデルでは、エンベディング層、クエリ・キー・バリューの重み、マルチヘッドアテンション、フィードフォワードネットワークなど、多くの重み行列が使用されます。しかし、それらは個別に学習されるわけではなく、全体の損失を最小化するために同時に学習されます。この同時並行の最適化が、トランスフォーマーモデルの高い性能の鍵となっています。
今後の研究では、これらの重み行列の最適化手法や計算効率をさらに向上させることで、より高速かつ高性能な自然言語処理モデルが開発されることが期待されます。