LLMのチャットや会話型のインタラクションにおいて、過去のプロンプト(ユーザーからの入力)と過去の出力(モデルからの応答)がシークエンスにどのように含まれ、位置埋め込みがどのように順序を管理するかについて詳しく解説します。
質問の再確認
質問内容:
シークエンスには過去のプロンプトだけではなく、過去の出力も含まれますか。すなわち、次のプロンプトが入力された時の順序をモデルがカウントする場合、過去のプロンプト+過去のモデルからの出力も含まれて順序が定められるかという質問です。
1. シークエンス内のプロンプトと出力の扱い
1.1 シークエンスとは何か?
トランスフォーマーモデルにおけるシークエンス(Sequence)とは、モデルが一度に処理する入力データの連続したトークンの集合を指します。チャットや会話型のアプリケーションでは、このシークエンスには以下の要素が含まれます:
- ユーザーからのプロンプト(入力): ユーザーがモデルに対して送信するメッセージや質問。
- モデルからの出力(応答): モデルがユーザーのプロンプトに対して生成する回答や反応。
1.2 シークエンスに含まれる要素
チャットのシナリオでは、過去のプロンプトと過去の出力の両方がシークエンスに含まれます。具体的には、以下のような形でシークエンスが構成されます:
[USER]: こんにちは!
[ASSISTANT]: こんにちは!今日はどのようなご用件でしょうか?
[USER]: トランスフォーマーモデルについて教えてください。
[ASSISTANT]: トランスフォーマーモデルは...
このように、ユーザーとアシスタントのメッセージが交互に連なった形でシークエンスが形成されます。モデルはこの全体のシークエンスを一つの連続した入力として処理します。
2. 位置埋め込みによる順序の管理
2.1 シークエンス全体での位置埋め込み
シークエンス内の各トークンには、絶対的な位置情報が付与されます。つまり、ユーザーのプロンプトもモデルの出力も、シークエンス全体の中で連続した位置としてカウントされます。以下に具体例を示します:
1. [USER]: こんにちは! → トークン位置1~N
2. [ASSISTANT]: こんにちは!今日は... → トークン位置N+1~M
3. [USER]: トランスフォーマーについて教えてください。 → トークン位置M+1~P
4. [ASSISTANT]: トランスフォーマーモデルは... → トークン位置P+1~Q
このように、シークエンス全体として位置が連続的に割り当てられるため、モデルは過去のプロンプトと出力の順序関係を正確に把握できます。
2.2 特殊トークンによる区別
チャットシステムでは、ユーザーとアシスタントのメッセージを区別するために、特殊なトークン(例: [USER]
, [ASSISTANT]
)が使用されます。これにより、モデルはどの部分がユーザーの入力でどの部分が自身の出力かを識別できます。
例:
[USER]: こんにちは!
[ASSISTANT]: こんにちは!今日はどのようなご用件でしょうか?
ここで、[USER]
と[ASSISTANT]
は特殊トークンとしてシークエンス内に挿入され、それぞれのメッセージの開始を示します。この特殊トークンもシークエンスの一部として位置埋め込みが適用され、全体の順序関係を維持します。
2.3 位置埋め込みの適用例
以下に、具体的な位置埋め込みの適用例を示します:
シークエンス:
1. [USER]: こんにちは!
2. [ASSISTANT]: こんにちは!今日はどのようなご用件でしょうか?
3. [USER]: トランスフォーマーモデルについて教えてください。
4. [ASSISTANT]: トランスフォーマーモデルは...
位置埋め込みの適用:
[USER]
の「こ」 → 位置1[USER]
の「ん」 → 位置2- …
[ASSISTANT]
の「こ」 → 位置N+1- …
- 次の
[USER]
の「ト」 → 位置M+1 - …
- 次の
[ASSISTANT]
の「ト」 → 位置P+1 - …
このように、全てのトークンがシークエンス全体の中で一意の位置を持つため、モデルは過去のプロンプトと出力の両方を含めた順序情報を正確に把握できます。
3. モデルのコンテキスト管理
3.1 コンテキストウィンドウの概念
トランスフォーマーモデルには、コンテキストウィンドウ(Context Window)という概念があります。これは、一度にモデルが処理できるシークエンスの長さに制限があることを意味します。例えば、GPT-3では約4,096トークンまでがコンテキストウィンドウとして設定されています。
3.2 長い会話の管理
チャットが長くなると、過去のメッセージがコンテキストウィンドウを超える可能性があります。この場合、以下のような方法で管理されます:
- 古いメッセージの削除:
- シークエンスの先頭から古いメッセージを順次削除し、新しいメッセージを追加します。
- 要約の利用:
- 過去のメッセージを要約し、重要な情報のみを保持します。
- 階層的なコンテキスト管理:
- 複数のレベルでコンテキストを管理し、重要度や関連性に応じて情報を保持・削除します。
これにより、モデルは常に最新かつ関連性の高いコンテキストを保持しつつ、位置埋め込みを適切に適用できるようになります。
4. 実装上の考慮点
4.1 シークエンスの一貫性
シークエンス内で過去のプロンプトと出力を一貫して含めることで、モデルは会話の流れや文脈を一貫して理解できます。これにより、より自然で関連性の高い応答が生成されます。
4.2 トークン化と位置埋め込みの統合
シークエンス内の全てのトークン(プロンプトと出力を含む)に対して位置埋め込みが適用されます。具体的には、各トークンの埋め込みベクトルに対応する位置埋め込みベクトルが加算されます。これにより、モデルは各トークンの意味と位置情報の両方を同時に考慮して処理を行います。
4.3 相対位置埋め込みの利用
一部の高度なモデルでは、相対的な位置埋め込み(Relative Positional Embedding)が採用されています。これは、シークエンス全体ではなく、トークン同士の相対的な距離に基づいて位置情報を提供します。これにより、より柔軟なコンテキスト理解と長距離依存関係のキャプチャが可能になります。
5. 具体的な例
以下に、ユーザーとアシスタントのやり取りをシークエンスとしてモデルに入力する具体例を示します。
5.1 初回のプロンプトと出力
[USER]: こんにちは!
[ASSISTANT]: こんにちは!今日はどのようなご用件でしょうか?
- 位置埋め込み:
[USER]
の「こ」 → 位置1[USER]
の「ん」 → 位置2- …
[ASSISTANT]
の「こ」 → 位置N+1- …
5.2 次のプロンプトと出力
[USER]: トランスフォーマーモデルについて教えてください。
[ASSISTANT]: トランスフォーマーモデルは...
- 位置埋め込み:
[USER]
の「ト」 → 位置M+1[USER]
の「ラン」 → 位置M+2- …
[ASSISTANT]
の「ト」 → 位置P+1- …
このように、全てのメッセージが連続したシークエンスとして処理され、各トークンに対して一意の位置が割り当てられます。これにより、モデルは会話の流れを一貫して理解し、適切な応答を生成できます。
6. まとめ
6.1 シークエンス内のプロンプトと出力の包含
- 過去のプロンプトと出力の両方がシークエンスに含まれる:
- モデルはユーザーからの入力と自身の出力を一連のトークンとして処理します。
6.2 位置埋め込みによる順序の管理
- シークエンス全体の位置が連続的にカウントされる:
- プロンプトと出力の順序がモデルに明確に伝わります。
6.3 実装上のポイント
- 特殊トークンの使用:
- ユーザーとアシスタントのメッセージを区別しやすくします。
- コンテキストウィンドウの管理:
- 長時間の会話では、適切なコンテキスト管理が必要です。
6.4 モデルの理解と応答の一貫性
- 一貫したシークエンス管理により、自然で関連性の高い応答が可能:
- モデルは過去の会話履歴を基に、適切な文脈理解と応答生成を行います。
参考文献
- Vaswani, A., Shazeer, N., Parmar, N., et al. (2017). Attention is All You Need. arXiv preprint arXiv:1706.03762.
- Devlin, J., Chang, M.-W., Lee, K., & Toutanova, K. (2018). BERT: Pre-training of Deep Bidirectional Transformers for Language Understanding. arXiv preprint arXiv:1810.04805.
- Dai, Z., Yang, Z., Yang, Y., Carbonell, J., Le, Q. V., & Salakhutdinov, R. (2019). Transformer-XL: Attentive Language Models Beyond a Fixed-Length Context. arXiv preprint arXiv:1901.02860.
最後に
本解説では、トランスフォーマーモデルにおけるシークエンスの構成と位置埋め込みの役割について詳しく説明しました。特に、チャットや会話型のインタラクションにおいては、過去のプロンプトと出力の両方がシークエンスに含まれ、それぞれの順序がモデルによって適切に管理されることが重要です。これにより、モデルは会話の流れを理解し、自然で一貫した応答を生成することが可能となります。