最近、人工知能(AI)や自然言語処理(NLP)の分野で、「大規模言語モデル(LLM)」と「ベクトルデータベース」という用語を耳にすることが増えてきました。これらは、いずれも最新のAI技術を支える重要な要素ですが、役割や使われ方に大きな違いがあります。この記事では、LLMの内部処理とベクトルデータベースの違いを解説し、その理解を深めてみましょう。
LLMの内部処理:多次元ベクトル空間での計算
まず、大規模言語モデル(LLM)は、GPTやBERTのようなモデルで、大量のテキストデータを基にして、文脈を理解し、意味に基づいて次の単語やフレーズを生成することができます。LLMは以下のようなプロセスで動作します:
- トークン化とエンベディング
入力されたテキストは、トークンと呼ばれる単位(単語やサブワード)に分解され、これらのトークンは多次元ベクトルに変換されます。各トークンは高次元空間の中で位置づけられ、意味の似ている単語ほど近い位置に存在します。 - パラメータ行列による処理
モデル内部には、学習によって調整されたパラメータ行列(重み)が存在します。これらの行列を使って、トークンベクトルを次々に変換し、次に生成すべきトークンや文を予測します。この過程で、モデルは文脈や単語の意味的なつながりを計算し、次の最も適切な単語を選びます。 - 多次元ベクトル空間での計算
これらの変換は、すべて多次元ベクトル空間で行われます。モデルが学習したパラメータを使って、入力ベクトルが高次元空間内でどのように動くかが決定されます。これにより、文脈に合った自然な文章が生成されます。
ベクトルデータベース:情報の効率的な検索
一方、ベクトルデータベースは、LLMとは異なり、主に検索や類似性マッチングのために使われます。ベクトルデータベースは、テキストや画像などのデータをベクトル化し、それを多次元ベクトル空間に保存しておき、検索時にクエリと類似したベクトルを効率的に見つける仕組みです。以下がその主な機能です:
- データのベクトル化
ドキュメントや画像などのデータをあらかじめベクトルに変換して保存します。このベクトルはデータの特徴や内容を数値化したもので、例えば、似た内容の文書同士は空間内で近くに配置されます。 - 高速な類似検索
クエリが入力されると、そのクエリをベクトル化し、保存されたベクトルと比較して、最も類似したデータを見つけます。これにより、大量のデータの中から関連情報を素早く検索できるのが特徴です。 - 情報統合
ベクトルデータベースは、検索エンジンやAIのサポート役として使われることが多く、例えば、LLMが質問に答える際に、外部の知識ベースやドキュメントから必要な情報を引き出す際に利用されます。
LLMとベクトルデータベースの違い
これらをまとめると、LLMとベクトルデータベースは、以下の点で異なります:
- LLMは推論・生成を行うモデル:LLMは、文脈を理解し、テキストを生成するために使われます。内部で多次元ベクトル空間を利用しているものの、学習済みのパラメータを使って、次に来るべき単語やフレーズを予測することに特化しています。
- ベクトルデータベースは検索のためのデータベース:ベクトルデータベースは、事前にベクトル化されたデータを格納し、必要なときにそのデータを類似性に基づいて検索するために使われます。LLMのようにテキストを生成するのではなく、既存のデータを効率的に検索するのが目的です。
まとめ
LLMとベクトルデータベースは、いずれも多次元ベクトル空間を利用していますが、その役割は大きく異なります。LLMは、テキストの生成や文脈理解に重点を置いており、内部のパラメータを通じて計算が行われます。一方、ベクトルデータベースは、データの類似性検索に特化しており、既存の情報を効率的に検索するために利用されます。両者の違いを理解することで、AI技術の幅広い応用がより深く理解できるでしょう。