LLM(大規模言語モデル)におけるエンベディングパラメータは、モデルのアーキテクチャ設計およびトレーニングプロセスに基づいて慎重に設定されます。これらのパラメータは「ハイパーパラメータ」として知られ、モデルの性能と計算リソースのトレードオフを考慮しながら決定されます。以下に、エンベディングのパラメータに関する詳細を記述します。
1. エンベディングベクトルの次元数(embedding dimension)
エンベディングにおいて最も重要なパラメータの一つはエンベディングベクトルの次元数です。この次元数は、トークン(単語、サブワード、文字など)をベクトル空間においてどのように表現するかを決定します。エンベディング次元は、しばしば「埋め込みサイズ」とも呼ばれ、その選定はモデルの性能に大きな影響を与えます。このエンベディングベクトルの次元数はハイパーパラメータであり、モデル設計の段階で人間が決定します。また、エンベディング行列のパラメータ数は、エンベディング次元と語彙サイズを掛け算したもので決まります。たとえば、語彙サイズが50,000でエンベディング次元が12,288であれば、エンベディング層のパラメータ数は50,000 × 12,288 = 614,400,000になります。
- 次元数の選定基準
- 性能と計算コストのバランス: エンベディング次元が大きくなるほど、トークン間の意味的な関係をより豊かに捉えることが可能ですが、それに伴い計算コストやメモリ消費も大幅に増加します。そのため、次元数の選択はタスクの規模や計算資源に依存します。小規模なタスクや限られたリソースの下では、次元数を128や256程度に抑えることが推奨されますが、大規模なモデル(例えばGPT-3など)では1024次元以上が一般的です。
- データの複雑さ: トレーニングデータが豊富で文脈の複雑さが高い場合、次元数を大きくすることでより詳細な意味表現を行うことが可能となります。多様な文脈や関係性を捉えるためには、高次元が望ましいことが多いです。
2. 語彙サイズ(vocabulary size)
エンベディング行列は、語彙サイズとエンベディング次元の両方のサイズを持つ行列です。語彙サイズとは、モデルがトレーニング中に認識するトークンの総数を指します。この語彙サイズは、トレーニングデータに基づいて自動的に決定され、BPE(Byte-Pair Encoding)やWordPieceといったサブワード分割技術によって調整されます。
- 語彙サイズの選定
- サブワード分割の適用: 近年のLLMでは、語彙サイズを効率的に管理するためにサブワード分割技術が広く使用されています。これにより、未知の単語や稀少なトークンにも柔軟に対応できます。例えば、GPT-3では約5万のトークンが語彙に含まれます。
- メモリと計算資源の考慮: 語彙サイズが大きくなるとエンベディング行列のサイズも増加し、メモリ使用量や計算コストが増加します。そのため、語彙サイズはハードウェアの制約を考慮して最適化されます。
3. パラメータの初期化
エンベディング行列の各要素は、トークンをベクトルで表現するための重み(ウェイト)であり、トレーニングの初期段階でランダムに初期化されます。この初期化は、モデルの収束を促進し、トレーニングの安定性を確保するために重要です。
- 初期化手法
- Xavier初期化やHe初期化といった手法が広く用いられています。これにより、重みが適度にランダムかつ均等に分布し、勾配消失や勾配爆発といった問題を防ぎます。
- 事前学習済みエンベディングの利用: 場合によっては、Word2VecやGloVeなどの事前学習済みエンベディングを初期値として使用することもあります。これにより、初期段階から意味的な情報を持つエンベディングが利用でき、トレーニングの効率を向上させます。
4. 正規化とドロップアウト
エンベディング層でも、過学習を防止しモデルの汎化性能を高めるために、正規化とドロップアウトが適用されます。
- 正規化: レイヤーノルム(Layer Normalization)やバッチノルム(Batch Normalization)などの正規化技術がエンベディング層の重みに適用されます。これにより、重みの安定性が向上し、トレーニング過程での勾配の振る舞いが安定します。
- ドロップアウト: ドロップアウトは、エンベディング層の一部のユニットをランダムに無効化することで過学習を抑制します。これにより、モデルが特定のパターンに依存することを防ぎます。
5. トレーニング方法
エンベディング行列の各パラメータは、他のモデルパラメータと同様に勾配降下法を用いて更新されます。エンベディングの学習は、損失関数を最小化するプロセスを通じて行われ、バックプロパゲーションによって重みが更新されます。このようにして、トークン間の文脈的な意味の関係性をモデルが学習します。
- 微調整(ファインチューニング): 大規模言語モデルでは、事前学習済みエンベディングを特定のタスクやドメインに適応させるために微調整を行います。これにより、モデルの性能が特定の用途に最適化されます。
6. エンベディング次元、語彙サイズ、パラメータ数の違い
以下の表は、LLMにおけるエンベディング次元、語彙サイズ、パラメータ数の違いを示しています。
項目 | 説明 |
---|---|
エンベディング次元 | 各トークンを表現するベクトルの次元数。モデルの性能と計算資源のバランスを考慮し、ハイパーパラメータとして決定される。トークン間の意味的関係を捉える能力に影響する。 |
語彙サイズ | モデルが認識するトークンの総数。トレーニングデータに基づき自動的に決定される。サブワード分割技術などを使い、効率的に管理される。語彙サイズが大きくなるとエンベディング行列も大きくなる。 |
パラメータ数 | モデル全体の学習可能な重みやバイアスの総数。エンベディング層のパラメータ(エンベディング次元 × 語彙サイズ)に加え、トランスフォーマー層、自己注意機構などの全ての重みを含む。 |
モデル全体のパラメータ数は、エンベディング層のパラメータ数に加え、トランスフォーマー層や自己注意機構、フィードフォワード層などの重みやバイアスも含まれます。エンベディング次元はトークンをベクトルでどのように表現するかを決定するものである一方、パラメータ数は全ての学習可能な重みとバイアスの合計を示します。例えば、GPT-3ではエンベディング次元が12,288ですが、モデル全体のパラメータ数は約1750億に達します。このように、エンベディング層のパラメータ数はモデル全体のパラメータ数の一部に過ぎませんが、その品質はモデルの性能に大きな影響を与えます。
- スケーリングと計算資源: 大規模モデル(例: GPT-3の1750億パラメータ)では、エンベディング次元数と計算資源は密接に関連しています。大規模なデータセットを処理し高品質な出力を得るためには、高次元エンベディングと膨大な計算リソースが必要です。
まとめ
エンベディングのパラメータ設定には、エンベディング次元、語彙サイズ、初期化手法、正規化・ドロップアウト、トレーニング方法など多岐にわたる要素が関与します。これらの要素は、モデルの規模、計算リソースの制約、およびトレーニングデータの特性を考慮して慎重に決定されます。これによって、モデルはトークン間の意味的な関係を効果的に学習し、さまざまな自然言語処理タスクにおいて優れた性能を発揮することが可能になります。