大規模言語モデルにおけるエンベディングとエンコーディングの違い

エンベディングとは

定義

エンベディング(Embedding)とは、離散的なデータ(主にテキストや単語)を高次元の連続的なベクトル空間にマッピングする手法です。これは、元のデータの意味的・文法的な情報を保持しつつ、機械学習アルゴリズムが扱いやすい形式に変換することを目的としています。

種類

  1. 単語エンベディング(Word Embedding):
  • 単語を固定長のベクトルに変換します。
  • 例: Word2Vec, GloVe, FastText
  1. 文エンベディング(Sentence Embedding):
  • 文全体をベクトルに変換します。
  • 例: InferSent, Universal Sentence Encoder
  1. 文脈エンベディング(Contextual Embedding):
  • 単語の文脈に依存したベクトルを生成します。
  • 例: ELMo, BERT, GPT

目的と役割



すべてのトークンは、特定の学習を開始したモデルにおいて同じ数のパラメーター(すなわち同じ次元数のベクトル)を持ちます。これは、各トークンのパラメーター数が異なる場合、エンベディングやその後のAttention機構などの計算が行えないためです。すべてのトークンが同じ次元数を持つことで、計算の効率化と一貫性の保持が可能になります。これにより、モデルはバッチ処理やテンソル操作を通じて効率的に学習を行うことができます。ただし、例えば「りんご」のような単語をエンベディングする場合、次元が増えるように見えることもあります。これは、元の単語が持っていなかった多数のパラメーターを持つベクトル表現に変換されるためで、次元の増加と情報の表現力の増大を伴います。

  • 汎用的表現の提供: 多様なNLPタスクに共通して利用可能な表現を提供。

エンコーディングとは

定義

エンコーディング(Encoding)は、情報をある形式から別の形式へ変換するプロセス全般を指します。大規模言語モデルにおいては、主にテキストデータをモデルが理解・処理可能な形式に変換することを指します。エンベディングもエンコーディングの一種ですが、エンコーディングはより広範な概念を包含します。

種類

  1. 文字エンコーディング(Character Encoding):
  • テキストをバイナリ形式に変換する。
  • 例: UTF-8, UTF-16, ASCII
  1. トークナイゼーション(Tokenization):
  • テキストをトークン(単語、サブワード、文字など)に分割する。
  • 例: BPE(Byte Pair Encoding)、WordPiece
  1. 位置エンコーディング(Positional Encoding):
  • シーケンス内のトークンの順序情報を追加する。
  • トランスフォーマーモデルで使用。

シーケンスとは、一般的にトークン(単語やサブワードなど)の並び順を指します。シーケンスの範囲は文内の単語の順序や、段落全体の文の順序など、様々なレベルで定義できます。しかし、大規模言語モデルにおいては通常、シーケンスは文中の各トークンの順序を指します。この順序情報を保持することで、モデルは文の意味や文脈を正確に理解することができます。

  1. マルチモーダルエンコーディング:
  • テキスト以外のデータ(画像、音声など)を統合してエンコードする。

目的と役割

エンコーディングの主な目的は、情報を機械学習モデルが処理しやすい形式に変換することです。これにより、モデルは入力データの構造や意味を効果的に学習できます。具体的な役割は以下の通りです:

  • データの標準化: 異なる形式やスケールのデータを統一的な形式に変換。
  • 情報の保持と強調: 重要な情報を保持し、モデルが注目すべき特徴を強調。
  • 計算効率の向上: データの変換により、計算資源の効率的な利用を可能に。

エンベディングとエンコーディングの違い

概念的な違い

  • エンベディング:
  • エンコーディングの一形態。
  • 特に意味的・文脈的な情報を保持する連続ベクトルへの変換に焦点を当てる。
  • 主にNLPの高次元表現に使用。
  • エンコーディング:
  • より広範な概念で、データ形式全般の変換を指す。
  • エンベディング以外にも、文字コード変換、トークナイゼーション、位置情報の付加などを含む。

実装上の違い

  • エンベディング:
  • 学習可能なパラメータとしてモデル内で実装されることが多い。
  • 事前学習済みのエンベディングを利用する場合もある。
  • 例えば、Word2Vecでは単語ごとに固定のベクトルを持つ。
  • エンコーディング:
  • データ前処理の一環として実装されることが多い。
  • トークナイゼーションや文字コード変換など、モデルに入力する前のステップとして行われる。
  • 例えば、BPEではサブワード単位にトークンを分割する。

応用上の違い

  • エンベディング:
  • 主にモデル内部でのデータ表現として使用。
  • トランスフォーマーの入力層や隠れ層で活用。
  • エンコーディング:
  • モデルへの入力前後のデータ変換全般に関与。
  • モデルの前処理や後処理として利用。

具体的な技術と手法

エンベディング手法

  1. Word2Vec:
  • Skip-gramモデル: 中心単語から周囲の単語を予測。
  • CBOWモデル: 周囲の単語から中心単語を予測。
  • 意味的類似性を持つ単語が近接するベクトル空間を学習。
  1. GloVe(Global Vectors for Word Representation):
  • 単語共起行列に基づく手法。
  • グローバルな共起統計を活用し、単語の意味的関係を捉える。
  1. FastText:
  • 単語をn-gramの集合として扱う。
  • 未知語や形態素の変化に強い。
  1. ELMo(Embeddings from Language Models):
  • 文脈依存型エンベディング。
  • 双方向LSTMを使用し、文脈に応じて単語のベクトルを動的に生成。
  1. BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers):
  • トランスフォーマーを基盤とした文脈依存型エンベディング。
  • 双方向の自己注意機構を活用。
  1. GPT(Generative Pre-trained Transformer): トランスフォーマーのデコーダー部分を使用。トランスフォーマーにはエンコーダーとデコーダーの2つの部分がありますが、GPTはそのうちのデコーダー部分のみを使用して次のトークン(単語)を予測します。具体的には、入力となるトークンの系列から次のトークンを一つずつ予測して文章を生成します。このため、GPTは「生成」に特化しており、「自己回帰型」モデルと呼ばれます。つまり、前の単語の情報を使って次の単語を一つずつ予測していくという手法です。
  • 次の単語を予測するタスクで学習。

エンコーディング手法

  1. トークナイゼーション:
  • テキストをトークンに分割。
  • 単語レベル: 単語単位で分割。
  • サブワードレベル: BPEやWordPieceなど、より細かい単位に分割。
  1. 位置エンコーディング:
  • シーケンス内のトークンの位置情報を追加。
  • トランスフォーマーでは固定位置エンコーディングや学習可能な位置エンコーディングを使用。
  1. 文字エンコーディング:
  • 文字を数値に変換。
  • 一般的にはUTF-8などの標準的な文字コードが使用される。
  1. 特殊トークンの追加:
  • 文の開始や終了、パディングなどの目的で特殊なトークンを追加。
  1. 正規化とクリーニング:
  • テキストデータの前処理として、正規化や不要な文字の除去を行う。

エンベディングとエンコーディングの統合

エンベディングとエンコーディングは、データ処理パイプラインの異なる段階で機能しつつも、相互に補完し合います。一般的なNLPモデルの処理フローを例にとると以下のようになります:

  1. 入力テキスト: 生のテキストデータ。
  2. エンコーディング:
  • トークナイゼーション: テキストをトークンに分割。
  • 特殊トークンの追加: 必要に応じて特殊トークンを追加。
  • 位置エンコーディングの付加: トークンの順序情報を付加。
  1. エンベディング:
  • 単語エンベディング: 各トークンをベクトルに変換。
  • 文脈エンベディング: モデル内部で文脈に応じたベクトルを生成。

このように、エンコーディングはデータの前処理段階で行われ、エンベディングはモデル内部でのデータ表現として機能します。両者の統合により、モデルは効率的かつ効果的にテキストデータを処理・理解できるようになります。


実世界での応用例

エンベディングの応用

  1. 情報検索(IR):
  • クエリとドキュメントのエンベディングを計算し、類似度に基づいてランキング。
  1. 感情分析:
  • 単語や文のエンベディングを用いて感情のポジティブ・ネガティブを分類。
  1. 機械翻訳:
  • ソース言語とターゲット言語のエンベディングを活用して翻訳精度を向上。
  1. 推薦システム:
  • ユーザーとアイテムのエンベディングを計算し、パーソナライズされた推薦を実現。

エンコーディングの応用

  1. 音声認識:
  • 音声データをテキストに変換する際の前処理としてエンコーディングを活用。
  1. 画像キャプション生成:
  • 画像データとテキストデータのエンコーディングを統合し、キャプションを生成。
  1. 自然言語理解(NLU):
  • 複雑な文脈や意図を理解するためのエンコーディング手法を適用。
  1. セキュリティとプライバシー:
  • データのエンコーディングにより、セキュアな形式で情報を保持・転送。

結論

エンベディングとエンコーディングは、大規模言語モデルにおいて不可欠なプロセスであり、テキストデータを効果的に処理・理解するためにそれぞれ異なる役割を果たしています。エンコーディングは主にデータの前処理や形式変換に焦点を当て、エンベディングはその後のデータ表現として意味的・文脈的な情報を保持するベクトルを生成します。これらのプロセスを統合することで、モデルは高度な自然言語理解と生成能力を実現します。

大規模言語モデルの性能向上や新たな応用の開発において、エンベディングとエンコーディングの最適化は引き続き重要な研究課題となっています。これらの理解を深めることで、より効果的で応用範囲の広いNLPソリューションの構築が可能となるでしょう。