前提は操作できる

結論:「前提は操作できる」という命題は、前提=真理ではなく「目的のために採用した条件セット」だと認めるなら真です。前提は ①切り出し(可視化)→②スイッチ操作(オン/オフ)→③パラメータ調整→④セット差し替え、という4段階で意識的にいじれます。この立場が妥当だとみなせる確率は 80〜90%です(一部は概念設計としての仮説)。


多くの人は、前提を「与えられたもの」だと思っています。

  • 「経済は成長するのが当たり前」
  • 「人口は増えていくものだ」
  • 「国防は国家の仕事だ」

こうしたフレーズは、あたかも「世界の真理」のように語られます。
しかし、思考のOSレベルで見ると、これらはすべて

「ある目的のために採用された、便宜的な前提」

にすぎません。

そして、便宜的に採用したものは、意識さえすれば操作できる
これがここでの主張です。


1. 前提=真理ではなく「作業用の条件セット」

まず、用語の整理から始めます。

  • 主語:前提(Assumption)
  • 述語:操作可能な「作業用の条件セット」である

ここでいう前提は、次のように定義します。

前提
ある目的に対して、「現実をここまで単純化して扱う」と決めた条件の集合。

この定義を採用した瞬間に、論理的帰結が一つ出ます。

  • 真理は操作できない
  • しかし「単純化の仕方」は、目的に応じて選び直せる

したがって、

「前提(=単純化の仕方)は操作できる」

という結論が導かれます。
ここまでの論理一貫性は 80〜90%と見ています。


2. 操作の最初の一手は「切り出し=可視化」

操作できない最大の理由は、前提が見えていないことです。

前提は、多くの場合こういう形で埋まっています。

  • 「普通に考えれば〜」
  • 「常識的に見て〜」
  • 「言うまでもなく〜」

この「言うまでもなく」の部分が、まさに前提です。

2-1. 5W1HとS・P・A・Cで切り出す

前提の可視化に使える基本ツールは2つです。

  • 5W1H:Who / What / When / Where / Why / How
  • S・P・A・C:Subject(主語)/ Predicate(述語)/ Assumption(前提)/ Conclusion(結論)

手順はシンプルです。

  1. 元の主張(S+P+C)を書く
  2. 5W1Hで背景を洗い出す
  3. 背景を「〜とみなす」「〜と仮定する」の形に書き換える

これで、「空気としての文脈」が 前提リスト に変わります。
ここまで来て初めて、「操作できる対象」として前提がテーブルに載ります。


3. 前提操作の4パターン

前提が見えたら、次の4つの操作が可能になります。

3-1. 操作① スイッチ操作(オン/オフ)

命題:

「もしこの前提を外したら、この結論は残るか?」

例:

  • 前提A1:
    • 「金利は今後2年間、ほぼ横ばいとする」
  • 結論C:
    • 「この不動産投資は妥当である」

ここでやることは単純です。

  • A1=ON の世界 → C は成り立つか?
  • A1=OFF(=金利が上がる世界) → C は崩れるか?

この「ON/OFF」の思考実験だけで、

  • どの前提がクリティカルか
  • どの前提は外してもあまり影響がないか

が見えてきます。

前提を操作する最初の形は、トグルスイッチとして扱うことです。


3-2. 操作② パラメータ調整(強くする/弱くする)

次に、前提を「数値付きの仮定」として扱います。

例:

  • A2:
    • 「この市場は年率 3% 成長すると仮定する」

ここで、

  • 1%
  • 3%
  • 5%

と、成長率の前提を変えながら、結論Cがどう変わるかを見る。

これは 感度分析(Sensitivity Analysis) そのものです。

  • 成長率が 1%でも C がほぼ変わらない → 強い前提ではない
  • 成長率が 2%を切ると C が逆転する → クリティカルな前提

というふうに、「どの前提をどこまで信じる必要があるか」が浮き彫りになります。


3-3. 操作③ セットの差し替え(別の束に入れ替える)

もう一段階進めると、「前提の束」ごと差し替える操作ができます。

例:政策評価で、

  • セットX:
    • 前提:
      • 目的は GDP 成長
      • 雇用より効率重視
      • 短期(3年)で効果を評価
  • セットY:
    • 前提:
      • 目的は雇用維持
      • 効率より分配重視
      • 中長期(10年)で評価

同じ政策案でも、X と Y で結論が変わるのは当然です。
ここで重要なのは、

「前提セットを差し替えると、結論がどう変わるか」

を、意図的に比較することです。

これは、

  • 結論Cが「唯一の正解」ではなく、
  • 前提セットに依存した「条件付きの最適解」にすぎない

ことを可視化する操作です。


3-4. 操作④ 目的に応じて前提を組み替える

最後は、目的そのものを変えたときに、前提の束を組み替える操作です。

例:同じ事業案について

  • 目的1:利益最大化
  • 目的2:雇用維持
  • 目的3:ブランド価値向上

それぞれについて、

  • 何を「成功」と定義するか(What)
  • どの期間で評価するか(When)
  • どのステークホルダー視点を取るか(Who)

が変わります。
つまり、目的の切り替え=前提セットの組み替えです。

ここまで来ると、

「目的を変えると、前提が変わり、結論も変わる」

という構造そのものが OS レベルで見えてきます。
これを「操作可能なもの」として扱えるかどうかが、思考の自由度を決めます。


4. 操作できるからこその注意点(濫用リスク)

前提が操作できると認めた瞬間に、リスクも生まれます。

典型的な誤用は2つです。

4-1. 結論ありきで前提をいじる

  • 先に結論Cを決める
  • それに合うように前提Aを「調整」する

これは、論理ではなくプロパガンダに近づきます。

OSレベルのルールとして、

「前提を変えたら、そのことを明示する」

を自分に課しておく必要があります。

  • 「この結論は、前提A1〜A5を採用した場合の話だ」
  • 「前提をB1〜B5に変えれば、結論はこう変わる」

と、前提のバージョンと結論をセットで管理する
これが安全装置になります(有効だと見なす確率 70〜80%)。

4-2. 現実の制約と「前提」を混同する

  • 物理法則
  • 法制度
  • 既に起きた事実

は、前提ではなく 制約条件 です。
ここは操作してはいけない(あるいは、簡単には変えられない)部分です。

「前提は操作できる」=「現実を好きに捻じ曲げてよい」

ではありません。

  • 制約条件:操作不能 or 高コスト
  • 前提:その制約条件の内側での「単純化の仕方」

この区別を付けることが前提操作の前提になります。


5. まとめ:前提を「設定画面」として扱う

整理すると、主張はこうです。

  • 前提は、世界の真理ではなく、
    ある目的のために現実を単純化した 設定値 である。
  • 設定値である以上、
    • ON/OFF
    • 強く/弱く
    • セットごと差し替え
    • 目的に応じて組み替え
      という形で 操作できる
  • 操作の前提として、
    • まず可視化する(5W1H/S・P・A・C)
    • 定義を固める
    • 制約条件と混同しない

前提は「いじってはいけない土台」ではなく、
いじることこそが思考の核心作業です。

OS の設定画面に入り、
今どんな前提がONになっていて、何がOFFになっているのかを確認する。
ときどき設定を変えてみて、結論がどう変わるかを試す。

前提は操作できる。
その事実を自覚した瞬間から、
自分の思考OSの自由度が、一段階上がります。