結論:前提とは、「発話や判断の背後にある背景・文脈を、条件として明示的に書き出したもの」であり、要するに 背景や文脈の可視化作業そのものだと定義できます。
議論がかみ合わないとき、表面上は「意見の対立」のように見えます。
しかし実際には、多くの場合、
- どんな背景を想定しているか
- どんな文脈(状況・目的・時間軸)で話しているか
がすれ違っているだけです。
その「背景」と「文脈」を、条件として紙の上に引きずり出したものが、ここで言う「前提」です。
逆に言えば、
前提が可視化されていない議論 = 背景と文脈が曖昧なままの議論
です。
1. 背景・文脈とは何か(要素と構造に分解する)
まず、「背景」や「文脈」という曖昧な言葉を分解します。
1-1. 要素としての背景
要素レベルでは、背景・文脈はおおむね次のような情報の集合です。
- 誰が(Who)
- 何について(What)
- いつ(When)
- どこで(Where)
- 何のために(Why)
- どの手段・プロセスで(How)
これらは一つひとつは 要素 にすぎません。
1-2. 構造としての文脈
これらの要素が、
- どうつながっているか
- 何を優先しているか
- どの時間軸・空間軸を前提としているか
が「構造」としての文脈です。
例:
「この政策は危険だ」
という一文の背後には、例えば次のような文脈構造が埋まっています。
- Who:日本の有権者の視点から
- What:「危険」=国民の生命・財産へのリスク増と定義
- When:今後3〜5年を想定
- Where:日本国内
- Why:安全(生存確率)を経済成長より優先する価値観
- How:現行制度の延長で運用することを想定
これらが 背景・文脈の中身 です。
2. 「前提」とは、この背景を条件に変換したもの
上の例でいえば、前提(Assumption)は次のように書き換えられます。
- A1:危険かどうかは、「国民の生命・財産へのリスク」で測る
- A2:評価対象の期間は、今後3〜5年とする
- A3:比較対象は「現状維持」とする
- A4:安全は経済成長より優先されるべきと仮定する
- A5:制度設計は現行枠組みの延長線上で行うと仮定する
これはすべて、先ほどの背景・文脈の要素を
「〜とする」「〜と仮定する」「〜として扱う」
という条件文の形に書き換えたものです。
この変換こそが、「前提=背景や文脈の可視化」という意味です。
- 背景・文脈:
- なんとなく共有しているつもりの「空気」
- 前提:
- その「空気」を、論理操作可能な 条件リスト に変換したもの
3. なぜ「可視化」としての前提が重要なのか
3-1. 争点が「結論」から「文脈の差」に移る
前提を可視化しないと、
- 「賛成 vs 反対」
- 「楽観 vs 悲観」
といった 結論レベル だけがぶつかります。
しかし前提を可視化すると、
- 「実は When の想定が違う」
- 「実は Where(前提としている市場)が違う」
- 「実は Why(優先する目的)が違う」
といった 文脈レベルでの差 が見えてきます。
結論が違うのではなく、
「どの背景を前提にしているか」が違うだけ、というケースは多い。
3-2. 「どこまで通用する結論か」がわかる
前提を可視化すると、
「この結論は、A1〜A5が成り立つ範囲でのみ有効」
と明示できます。
- 時間軸が変わったら、結論も見直す
- 対象市場が変わったら、前提から組み替える
という「有効範囲」が見えるようになります。
前提が見えていない結論は、どこまで持ち出してよいか分からない汎用論です。
4. 前提可視化の簡易手順
実務で使えるレベルに落とすと、手順はシンプルです。
ステップ1:元の主張(C+S+P)を書く
例:
「この事業は、やれば必ず成功する」
- S:この事業
- P:成功する
- C:やるべきだ(暗黙)
ステップ2:5W1Hで背景を洗い出す
- Who:誰の視点(経営者/投資家/現場)?
- What:成功 = 何?売上?利益?市場シェア?
- When:いつまでに?何年スパン?
- Where:どの市場?どの国?
- Why:何のために?売上?ブランド?社会的インパクト?
- How:どの手段・体制・投資額を想定?
箇条書きでよいので、背景を文字にします。
ステップ3:それを「〜とする」の形に書き換える
例:
- 「成功=営業利益が3年で黒字転換と定義する」
- 「検討対象期間は今後5年とする」
- 「対象市場は日本国内のBtoB顧客に限る」
- 「当社は成長率よりも利益率を優先する」
これがそのまま 前提リスト になります。
5. 「前提=背景と文脈の可視化」として捉えるメリット
このように捉えると、前提にははっきりした機能があります。
- 議論の土台を共有できる
- 背景・文脈の違いを、言葉で揃えられる。
- 結論の有効範囲を限定できる
- 「いつまで」「どこまで」通用する話かが分かる。
- 前提の更新が可能になる
- 「A2(When)が変わったので、結論を見直そう」といった運用ができる。
- 価値観の差を浮き彫りにできる
- Why に関する前提(何を目的関数とするか)が明確になり、
「事実認識の争い」か「価値観レベルの争い」かが区別できる。
- Why に関する前提(何を目的関数とするか)が明確になり、
6. まとめ:前提=「空気」を条件文に変換したもの
整理すると:
- 背景・文脈:
- Who / What / When / Where / Why / How という要素+その結びつき(構造)
- 通常は「暗黙の了解」「空気」として扱われている
- 前提:
- その背景・文脈を、
- 「〜であるとみなす」「〜と仮定する」「〜として扱う」
という 条件文の集合 に変換したもの
したがって、
前提とは、背景や文脈の可視化である
という命題は、
背景・文脈(暗黙の要素と構造)を、
前提リスト(明示された条件)という形に変換する行為
だと再定義したもの、と言えます。
前提を考えるとは、
自分がどんな背景・文脈を前提として世界を見ているかを、
条件として外側に書き出す行為です。
前提が見えるほど、背景と文脈の違いを意図的に操作できるようになります。



