結論:前提を扱うときは、いきなり「正しいか/間違いか」を議論するのではなく、まず5W1Hごとに前提を腑分けして棚卸しするのがもっとも安定した手順です。
1. なぜ「5W1Hで腑分け」から始めるべきか
命題を S・P・A・C で書くと:
- S:主語(誰/何について)
- P:述語(どう述べているか)
- A:前提(S と P が成り立つための条件)
- C:結論(だからどうする/どう判断する)
このうち A=前提 は、たいてい文章の外側にあります。
「空気として共有されている」という前提で、省略されがちだからです。
ここで、
「前提を設計しよう」
と思っても、いきなり A だけをつまみ出すのは難しい。
そこで使うのが 5W1H(Who / What / When / Where / Why / How) です。
- 5W1Hは、「前提が埋まっている位置」を教える座標軸
- まずこのフレームを当てて、前提候補を**腑分け(分解・分類)**してから精査する
この順序にすることで、前提の抜け・ダブり・すり替えを検出しやすくなります。
2. 5W1Hごとに、どんな前提が潜んでいるか
2-1. Who:誰についての話か
- 誰が当事者か
- 誰の視点で語っているか
- 「みんな」「ユーザー」「国民」などの言葉は、具体的に誰か
典型的な前提:
- 「国民」は同じリスク感覚を持っている
- 「投資家」は合理的に行動する
- 「ユーザー」はこの機能を望んでいる
Who を明示しないと、主語 S 自体がぶれる。
前提設計の第一歩は、Who を具体名に落とすことです。
2-2. What:何についての話か
- 何を「成功」「失敗」「成長」と呼んでいるのか
- 何を成果とみなすのか
- 何をリスクとカウントするのか
典型的な前提:
- 成功 = 売上増
- 成長 = GDP増
- リスク = 短期の損失
ここは前回の「定義」の話と直結します。
What の定義が曖昧なまま前提を積むと、前提全体が意味不明な塊になります。
2-3. When:いつの話か
- いつからいつまでを対象にしているか
- 単発か、長期か
- 過去・現在・未来のどのフェーズを想定しているか
典型的な前提:
- 今後3年間、金利環境は大きく変わらない
- 向こう1年は景気後退は起きない
- 技術トレンドは少なくとも数年は継続する
When を外すと、
- 「短期では正しいが長期では誤り」
- あるいはその逆
の議論を混同します。
前提は必ず 時間範囲付きの仮定として書き出す必要があります。
2-4. Where:どこの話か
- どの国/市場/業界/セグメントか
- 「都会」「地方」「グローバル」「日本」のどこか
- オンラインなのか、オフラインなのか
典型的な前提:
- 日本の消費者は価格に敏感だ
- 欧米市場ではこのビジネスモデルが成立している
- 都市部では共働き世帯が前提である
Where が曖昧だと、
「どこでは成り立つが、どこでは成り立たないか」が見えません。
前提は常に 空間的・制度的な範囲とセットで書くべきです。
2-5. Why:なぜそれを良しとみなすのか
- 何を「望ましい」としているのか
- 何を目的関数にしているのか
- その目的を優先する理由は何か
典型的な前提:
- 成長は停滞より良い
- 雇用維持は利益率より優先されるべきだ
- 安全は効率より優先されるべきだ
Why によって、前提の価値観レイヤーが見えます。
ここを腑分けしないまま議論すると、
事実認識ではなく価値観の違いで争っているのに、それに気づけません。
2-6. How:どの手段を前提にしているか
- どうやって実現するつもりなのか
- どの技術・プロセス・組織構造を想定しているか
典型的な前提:
- この施策は既存の人員で回せる
- この施策は既存システムの改修だけで実現できる
- この施策は現行ルールの範囲内で運用できる
How を前提として書き出すことで、
「手段を変えれば前提が変わる」ことが見えるようになります。
逆に言えば、How を固めすぎると、必要以上に前提が厳しくなります。
3. 実務的な手順:5W1Hで前提を腑分けする
ステップ1:元の主張を書き出す
例:
「この新規事業は、必ず大きく成長する」
- S:この新規事業
- P:必ず大きく成長する
ステップ2:5W1Hの問いをぶつける
- Who:誰の事業?誰に売る?
- What:何をもって「成長」と呼ぶ?売上?利益?シェア?
- When:いつまでに?何年スパン?
- Where:どの市場/地域?
- Why:何のために?売上?利益?社会的インパクト?
- How:どんな方法・リソースで?
ステップ3:5W1Hごとに「隠れ前提」を文章化する
たとえば:
- Who:
- 「ターゲット顧客は都市部の20〜40代である」
- What:
- 「成長=売上高年率10%以上の増加と定義する」
- When:
- 「今後5年間の話としている」
- Where:
- 「日本国内市場のみを対象とする」
- Why:
- 「会社の中期戦略として、売上成長を最優先指標とする」
- How:
- 「現有メンバー+若干の採用で運営できると仮定する」
これらは全部、前提Aの中身です。
元の一文の裏側に、これだけの条件が隠れていたことが分かります。
ステップ4:どの前提がボトルネックかを見つける
5W1Hで腑分けされた前提の中から、
- 「外れたときのダメージが大きいもの」
- 「そもそも根拠が薄いもの」
に印を付けます。
たとえば、
- 「今後5年間、日本市場が年率3%以上で成長し続ける」
これは検証可能で、かつ外れたときの影響も大きい。
テスト(検証)すべき前提候補になります。
こうして、前提の中でも「クリティカルなA」と「補助的なA」を分けていく。
4. 5W1Hで腑分けすることの効用
5W1Hで前提を腑分けすることには、少なくとも次の効用があります。
- 前提の「位置」が分かる
- Who/What/When/Where/Why/How のどこでズレているかが特定できる
- 議論の争点を狭められる
- すべてを総当たりで議論するのではなく、
たとえば「この話は When と Where の前提が違うだけだ」と絞り込める
- すべてを総当たりで議論するのではなく、
- 検証の優先順位がつく
- どの前提からデータで確かめるべきかが見える
- 前提の「有効範囲」が可視化される
- いつまで/どこまで通用する前提かが明文化される
5. まとめ:前提はまず「座標」に乗せてから触る
前提は、直接いじろうとすると掴みどころがありません。
そこで、まず 5W1H という座標に乗せて腑分けする。
- Who:誰の話か
- What:何を指標・対象とするか
- When:いつの話か
- Where:どこの話か
- Why:何を目的とみなすか
- How:どの手段を前提にしているか
この6つに一度バラしてから、
どの前提を採用し、どの前提を捨て、どの前提を検証するかを決める。
「前提を考える」という抽象的な作業は、
5W1Hという骨格に分解してから行う方が、安全で再現性が高い。
前提は、まず5W1Hのフレームを手がかりとして腑分けする。
この順序を OS に焼き付けておくと、議論と判断の精度は確実に上がります。



