前提の設計方法

結論:「前提」は与えられるものではなく、①目的から逆算し、②制約として明文化し、③テストして更新する「設計対象」として扱うべきだ、という立場を採ります。


議論や分析がこじれるとき、多くの場合、対立しているのは「結論」ではありません。
水面下でこっそり支配している 前提(Assumption) です。

S・P・A・C の枠組みで言えば、

  • S:主語(何について語っているか)
  • P:述語(それをどう述べているか)
  • A:前提(それが成り立つために暗黙に置いている条件)
  • C:結論(だからどうする/どう判断する)

このうち A = 前提 だけが、たいてい文章に書かれません。
「わざわざ書くまでもない」と思われているからです。
しかし実際には、この A が一番「設計」すべき部分です。

このコラムでは、「前提をどう設計するか」を手順として整理します。


1. 前提は「発見」ではなく「設計」だと決める

まず、立ち位置をはっきりさせます。

前提は、自然にそこにある真理ではなく、
目的のために便宜的に採用する作業仮説である。

こう決めてしまうことが、前提設計の出発点です。

  • 「みんなそう考えているから」
  • 「昔からそう言われているから」
  • 「業界の常識だから」

といった理由で、そのまま飲み込んでいるものは、
前提ではなく 無自覚な思い込み です。

まずは、「自分は前提を選んでよい」「むしろ選ぶべきだ」という態度に切り替えます。


2. 目的から逆算して「必要な前提」を決める

前提は、目的とセットでしか評価できません。

  • 投資判断をしたいのか
  • 政策の是非を考えたいのか
  • 自分のキャリアの方向性を決めたいのか

目的が違えば、必要な前提も変わる からです。

ステップ1:目的を書く

まず、紙の一番上にこう書きます。

「この議論・分析の目的は何か?」

例:

  • 「この企業の株を買うべきかどうかを決める」
  • 「この施策を来期も続けるべきかどうかを判断する」
  • 「この商品のコンセプトが市場に適合するかを見極める」

ステップ2:「この目的のために、どこまで単純化してよいか」を決める

次に問うべきは、

「この目的のためなら、どこまで現実を単純化してよいか?」

です。

たとえば投資の話なら、

  • 「金利は今後2年、大きくは動かないと仮定する」
  • 「為替は、現在水準±10%の範囲とみなす」
  • 「マクロ環境よりも、この企業の競争力の方を重く見る」

これはすべて 前提の設計 です。
現実をありのままに再現することはできないので、
どこかで割り切って単純化しなければいけない。

その「割り切り方」を、目的から逆算して決める。
ここを明文化するかどうかで、思考の質が大きく変わります。


3. 前提を「仕様書」として書き出す

目的と単純化の許容範囲が決まったら、前提を箇条書きにします。

例(新規事業の検討):

  1. 市場全体は年率3〜5%で成長すると仮定する
  2. 今回の事業立ち上げ期間は3年とする
  3. 自社は初年度にシェア5%を取り、以後毎年+1%ずつ獲得できると仮定する
  4. 価格帯は現行商品の±10%の範囲内とする
  5. 規制環境は現状から大きく変わらないとみなす

ここで重要なのは、

  • 「それが本当に正しいか」ではなく、
  • 「目的のために、これくらいの単純化を受け入れる」と 宣言すること

です。

前提は、真理ではなく 暫定的な取り決め です。
だからこそ、仕様書のように書き出し、あとから見直せる形にしておく必要があります。


4. 良い前提/悪い前提のチェックリスト

前提を書いたら、次の観点でチェックします。

  1. 目的と整合しているか
    • この前提を置くことで、目的に近づいているか?
    • 逆に、この前提のせいで肝心な論点を外していないか?
  2. 反証可能性があるか
    • 必要なデータを取れば、「この前提はずれていた」と言える余地があるか?
    • 完全に検証不能な前提になっていないか?
  3. 有効範囲が明示されているか
    • 「今後3年」「日本市場に限る」「この顧客セグメントに限る」など、範囲を書いたか?
  4. 複雑さと実用性のバランスは取れているか
    • 前提を厳密にしすぎて、分析や判断が動かなくなっていないか?
    • 逆に単純化しすぎて、意味のない結論になっていないか?

これらを満たしていない前提は、設計し直す候補 です。


5. 前提は「固定」ではなく「更新サイクル」の中に置く

設計した前提は、一度決めたら終わりではありません。
むしろ、そこからがスタートです。

  1. 前提を明文化する
  2. その前提の下で結論(C)を出す
  3. 現実のデータ・結果を観察する
  4. 外れていた前提を特定し、修正する

このサイクルを回し続けることで、

  • 「前提の質」
  • 「結論の精度」

が少しずつ上がっていきます。

逆に言えば、

  • 前提を明文化しない
  • 更新ループも回さない

というやり方は、ずっと同じ思い込みで判断し続ける ことを意味します。


6. 「前提の設計」がもたらすもの

前提を意識的に設計するメリットは、単に思考が整理されることではありません。

  • 相手とどこで本当に意見が違うのかが、早く特定できる
  • 「この前提が変わったら、この結論も変わる」という依存関係が見える
  • 「いまの前提のまま進めてよいか」を定期的に問い直せる

特に、S・P・C に比べて、A は 目に見えないのに、最も強く結論を支配する部分 です。
だからこそ、ここを 無意識ではなく、設計対象として扱う ことに意味があります。


前提は、世界の「真実」ではありません。
あなたがある目的のために採用する、作業用の足場 です。

足場を設計し、試し、組み替えること。
それが、「前提の設計方法」です。