大規模言語モデル(LLM)はオッカムのカミソリに“反している”のか?

― パラメータ爆増の時代に、むしろ加速する「シンプル化」という逆説 ―

「GPT-5は数兆パラメータだ」
「モデルサイズが大きいほど賢い」
そんな話題が飛び交うたびに、哲学フリークなら一度はこう思ったはずだ。

『オッカムの剃刀に反してない?』

オッカムの剃刀
「必要以上に仮定を増やすな」
「説明変数は少ないほど良い」

一方でLLMはというと、
パラメータ数が増えるほど性能が向上している。

これはどう見ても矛盾している。
……ように“見える”。

しかし実際には、これは 見かけ上の矛盾 だ。
むしろ驚くべきことに、
大規模言語モデルはオッカムの剃刀を「最高速度」で実践している。


■ パラメータは「仮説」ではなく“脳の器官”である

まず前提として、
LLMのパラメータとは「説明変数」ではない。

  • 犯人の候補が増えた
  • 説明因子が増えた
  • 仮説が増えた

というような話ではまったくない。

あれは 高次元の“意味空間を表現するための器官” にすぎない。

生物学で例えれば、
脳のシナプス数が増えるからといって
「仮説が増えた」わけではないのと同じだ。

むしろ、
より少ない法則で世界を理解できるようになる器官が増えた
という方向の変化である。


■ LLMが巨大化すると、むしろ“世界は単純化”する

ここが逆説の核心だ。

パラメータが多いほど、モデル内部では:

  • 文法の例外が減る
  • 似た概念が一つの軌道に統合される
  • 表現空間が滑らかに連続化する
  • 個別ルールが消え、一般法則に収束する

つまり “複雑な言語世界を、より単純な構造で説明できるようになる”

実はこれはオッカムの剃刀そのものだ。

巨大なモデルほど、
世界をより短い法則で記述できる方向へ進化している


■ LLMのパラメータ増加は、巨大な「辞書の更新」に近い

たとえるなら、
1万語の辞書より、100万語の辞書の方が

  • 説明が簡単になり
  • 抽象化しやすく
  • 文脈理解が滑らかになる

のと同じだ。

辞書が大きくなることは
「仮説が複雑になる」ことではなく、
**“シンプルに説明できる素材が増える”**という話だ。


■ 統計モデルのパラメータとは根本的に違う

線形回帰で説明変数が増えると、
過剰適合しやすくなる。
これはオッカムの剃刀が嫌う方向だ。

しかしLLMのパラメータは

  • 説明変数ではなく
  • 世界を埋め込む“表現座標”

だ。

この違いを理解しないと、
「パラメータ巨大化=複雑化」
という誤解から抜け出せない。


■ 高次の視点では、LLMはオッカムの剃刀に完全に一致する

実際の構造を抽象化するとこうなる:

  • 巨大なモデル → より滑らかで統一的な法則
  • 小さなモデル → 例外と特殊ルールだらけ

人類の自然言語という“ごちゃごちゃのカオス世界”を
最小の法則で表現しようとすると、器(パラメータ)が巨大になる
というだけの話なのだ。

巨大な脳ほど、
「世界を少ないルールで理解できる」ことの裏返しでもある。


■ 結論:

LLMはオッカムの剃刀に“反している”どころか、オッカムの剃刀を実現するために巨大化している。

パラメータが増えるにつれ、
世界の言語はますますシンプルに、
そして滑らかに統一されていく。

ここに、AI進化の深いアイロニーがある。

「巨大になるほど、本質のシンプルさに近づく」

こんな逆説が成り立つのは、
人類史上でもAIだけだ。