
I. 神話の本質と類型:その定義と文化的機能
神話を「作る」という行為は、まず「神話とは何か」を厳密に定義することから始まる。神話は単なる古い物語ではなく、特定の文化的機能を担う、権威あるナラティブである。その本質を理解するため、類似の物語類型である「伝説」や「民話(昔話)」との比較分析は不可欠である。
I-A. 神話の定義:〈起源〉を語る物語
神話(Myth)は、その文化集団の根本的な思想を探る上で重要な鍵となる 1。その中核的な定義は、「世界の創造など概念的なものの起源を伝える物語」である 1。神話は、世界が「混沌から秩序へ」と移行したプロセスを説明し、その社会の文化的価値観や規範の起源を確立する。登場人物は神々や英雄であり、これらは必ずしも歴史的に実在した人物とはみなされない 1。
I-B. 伝説、民話(昔話)との峻別
神話の特性は、他の物語類型と比較することでより鮮明になる。
- 伝説 (Legend): 神話が〈概念〉の起源を語るのに対し、伝説は「物理的に現実に存在するものに関係する物語」である 1。その主題は「過去に実在した人々の物語」と関連しており、特定の場所や歴史的人物の行為に根差している 1。
- 民話 (Folk Tale) と 昔話 (Mukashibanashi): 民話は「民間に口頭で伝承されてきた説話の総称」であり、伝説や昔話を含む広範な概念である 2。その中で「昔話」は、特に「架空の物語」を指す 2。昔話の主人公は人間や動物であり、そのテーマは冒険、成長、恋愛など、時代や場所を超えた普遍的なものである 2。神話や伝説が「聖なる真実」や「歴史的真実」を主張するのに対し、昔話の重点は、語り手と聞き手が一体となって築き上げる「語りの世界」そのものにある 3。また、昔話は「話型群」(例:異類婚姻譚)と呼ばれる共通のプロット構造によって分類される特徴を持つ 3。
これらの分類は、単なる学術的なものではなく、神話創作者にとっての最初の実践的な分岐点を示す。創作者が「神話を作りたい」と考えるとき、その意図が、世界の〈存在論的真実〉(神話)を語ることなのか、特定の場所に関する〈歴史的真実〉(伝説)を語ることなのか、あるいは〈比喩的・道徳的真実〉(民話)を語ることなのかを決定しなければならない。世界の〈起源〉と〈根本思想〉を創造する意志がなければ、その作品は神話ではなく、伝説か民話の創作となる 1。
【表1】物語の類型比較(神話・伝説・昔話/民話)
| 類型 | 主題・テーマ | 登場人物 | 史実性・真実性 | 文化的機能 |
| 神話 (Myth) | 世界の始まり、概念の起源 1 | 神々、英雄 1 | 概念的真実、聖なる真実 | 思想の反映、秩序の確立 1 |
| 伝説 (Legend) | 特定の場所や事物、人物に関連 1 | 実在したとされる人々 1 | 歴史的真実(とされる) | 地域のアイデンティティ強化 |
| 昔話 / 民話 (Folk Tale) | 冒険、成長、教訓 2 | 人間、動物、擬人化された存在 2 | 架空の物語 2 | 普遍的テーマ、道徳的知恵の伝達 2 |
II. 神話の解剖(1):構造主義と環境的要因
神話は、文化や言語が異なっていても、驚くほど似通った構造を示す 5。この共通性は、神話が個別の物語としてではなく、「構造そのもの」として機能していることを示唆している 5。神話が「どのように」機能するかを解明するために、構造主義的アプローチとその構造を生み出す環境的要因を分析する。
II-A. 構造主義的アプローチ:二項対立の調停
神話の構造分析において、クロード・レヴィ=ストロースが提唱した構造主義的アプローチは極めて有効である。この視点では、神話は「二項対立」の組み合わせとして分析される 5。
文化は常に、「生 / 死」「自然 / 文化」「聖 / 俗」といった、論理的に両立し得ない根源的な対立に直面している。神話の基本的な機能は、これらの〈対立〉を物語の論理によって〈調停〉し、文化的な安定をもたらすことにある 5。
例えば、日本神話におけるアマテラスとスサノオの対立は、この構造で読み解くことができる。アマテラスは「天」「秩序」「文化(稲作)」を象徴し、スサノオは「海」「荒ぶる神(混沌)」「自然(嵐)」を象徴する。スサノオの乱暴によって天の岩戸に隠れたアマテラスが、「祭り」という「文化的装置」によって再び現れる物語は、まさに「自然 / 文化」という二項対立が調停され、新たな秩序が確立されるプロセスを描いている 5。
II-B. 環境が神話(二項対立)を生む:東西の神話的思考
神話が調停しようとする「二項対立」は、真空から生まれるのではない。それは、その文化が置かれた〈地理〉や〈気候〉といった環境的要因に強く規定される 1。
- 西洋(ヨーロッパ): この地域は古来より比較的安定した気候に恵まれていた。この環境が「合理的」な思考を発達させ、哲学を生み出す土壌となった。人々が向き合った対立は、自然よりもむしろ人間社会の内部にあった。その結果、人々は「自分よりも優れた人物」を敬う形で、唯一神や人格神(人体の神)といった神の姿を生み出したとされる 1。
- 東洋(アジア): 対照的に、東洋では水害や台風など、激しい気候変動が脅威であった。人々は「自分たちが太刀打ち出来ない自然」の力に日常的に直面していた。その結果、人々は制御不能な〈自然〉そのものを神(畏怖の対象)として認識する神話体系を発展させた 1。
これは、神話創作者にとって重要な設計指針を示す。神話の構造(二項対立)は、まずその世界の〈根本的な環境条件〉を決定することから始まる。その風土が、住民にとっての〈根本的な脅威(=対立)〉を決定する(例:東洋型ならば「人間 vs. 制御不能な自然」)。そして神話は、その対立を調停するための〈論理装置〉として(例:スサノオとアマテラスの物語として)創造されるのである 1。
II-C. 普遍的な象徴体系
環境が異なっても、人類は「抽象概念を具体的なイメージで理解する」という共通の認知的傾向を持つ 5。この象徴化のプロセスにも普遍性が見られる。
- 火: 「浄化」「破壊と再生」「知識」「神性」の象徴(例:プロメテウス、日本のカグツチ)5。
- 水: 「生命」「浄化」「無意識」「変化」の象徴(例:洗礼、禊、多くの創世神話における原初の水)5。
- 方位: 空間を四つに分割し、それぞれに色、動物、季節、元素を対応させる思考(例:中国の四神)5。
これらの象徴は、神話という論理装置を駆動させるための共通の「語彙」として機能する。
III. 神話の解剖(2):心理的アーキテクチャと「英雄の旅」
神話が文化や時代を超えて強力な共感を呼ぶのは、それが文化の構造(二項対立)を反映するだけでなく、人類に普遍的な「心の構造」を反映しているからである。ユング心理学の視点と、それを発展させたジョゼフ・キャンベルのモノミス(単一神話)理論は、神話の心理的アーキテクチャを解明する。
III-A. 集合的無意識とアーキタイプ(元型)
神話は、人類の集合的無意識が生み出す「心のテンプレート」、すなわち「アーキタイプ(元型)」の表現であると解釈される 5。
- 英雄(Hero): ギルガメシュやヤマトタケルに代表される。超人的な力を持つ一方で、しばしば悲劇的な最期を迎える。これは、個人が社会化される過程で経験する内的葛T}の投影とみなされる 5。
- 大母(Great Mother): ガイアやイシス。生命を育む慈愛の側面と、すべてを飲み込む恐ろしい側面という両義性を持つ 5。
- トリックスター(Trickster): ロキやスサノオ。既存の秩序を混乱させ、破壊するが、それによって新しい可能性を開く「文化的創造者」としても機能する 5。
- 影(Shadow): 英雄が抑圧した自己の側面が人格化した存在 5。
これらのアーキタイプは普遍的だが、その具体的な表出は文化の価値観によって変容する。例えば、ギリシャの英雄が「個人の栄光(クレオス)」を追求するのに対し、日本のヤマトタケルは「集団への献身」が重視され、集団主義的な価値観が反映されている 5。
III-B. モノミス(単一神話):「英雄の旅」の構造
神話学者ジョゼフ・キャンベルは、『千の顔を持つ英雄』において、世界中の英雄神話に共通する単一の構造「モノミス(Hero’s Journey)」を見出した 5。
この構造は、人間の心理的成長のプロセス、すなわち「通過儀礼」の構造を反映している 6。キャンベルが示した基本的な構造は、「分離 (Separation)」「イニシエーション (Initiation)」「帰還 (Return)」の3幕である 6。
具体的には、英雄は「ごく日常の世界」から、「人為の遠く及ばぬ超自然的な領域」へと冒険に出る(分離)。そこで途方もない力に出会い、決定的な勝利を手にする(イニシエーション)。そして、仲間(共同体)に恩恵を授ける力を得て、再び日常の世界へと「帰還」する 6。
この構造は、人間の「魂(プシケ)の運動」を定式化したものであり 6、古代の『オデュッセイア』から現代の『スター・ウォーズ』や『千と千尋の神隠し』に至るまで、時代と文化を超えて適用可能である 5。
III-C. モノミスの核心的装置:「鯨の胎内 (The Belly of the Whale)」
「英雄の旅」において、物語を単なる冒険譚から「神話」のレベルに引き上げる、極めて重要な論理的装置が存在する。それが「鯨の胎内」と呼ばれる段階である 7。
- 機能: この段階は、神話において英雄が「一度日常から完全に切り離され」、変容を遂げる場所を指す 7。
- 論理: これは、主人公が「後戻りできない状況」に物理的・精神的に置かれることで、「古い自己と決別し、再生するため」の〈論理的な装置〉である 7。
英雄の成長(変容)は自動的には起こらない。それは「古い自己の死」と「新しい自己の再生」を必要とする。「鯨の胎内」は、この「死と再生」を強制的に実行する場所である。現代の物語においても、村上春樹の小説で主人公が導かれる「井戸の底」や「人里離れたホテル」は、まさにこの「鯨の胎内」として機能し、主人公に自己変容を強制する 7。
III-D. 実践的応用:ボグラーの12ステップ
キャンベルの理論は、クリストファー・ボグラーによって、ハリウッド映画など現代のストーリーテリングに応用可能な、より実践的な12ステップのモデルとして体系化された 6。
この12ステップ(1. 日常の世界, 2. 冒険への召命, 3. 召命拒否, 4. 賢者との出会い, 5. 第一関門突破, 6. 試練・仲間・敵対者, 7. 最も危険な場所への接近, 8. 最大の試練, 9. 報酬, 10. 帰路, 11. 復活, 12. 宝を持って帰還)は、物語のプロットを構築する上で強力な処方箋となる 6。
しかし、神話創作者は、この12ステップのリストを「こなす」こと(外面的なプロット)と、神話的な「変容」を描くことは別であると認識せねばならない。物語を神話のレベルに引き上げるのは、12のステップをすべて網羅すること以上に、この「鯨の胎内」という〈変容の論理エンジン〉をいかに設計し、主人公が「物理的・精神的に孤立し、変容を強いられる」 7 究極の瞬間を描き切れるかどうかにかかっている。
IV. 意図的な神話創生(I):20世紀の巨匠による「世界の構築」
神話の構造分析を踏まえ、次に「神話の作り方」の具体的な実践例を検討する。20世紀において、J.R.R. トールキンとC.S. ルイスは、失われた神話を意図的に「構築」しようとした二人の巨匠であり、そのアプローチは対照的ながら、現代の創作者に二つの主要なワークフローを示している。
IV-A. ケーススタディ:J.R.R. トールキン(言語学先行アプローチ)
- 動機: トールキンは言語学者として、自国「ブリテン島(イギリス)」に、ギリシャ神話や北欧神話に匹敵する「固有の神話」が存在しないことを深く残念に思っていた 8。彼の中つ国の物語群は、この「失われた神話」を意図的に構築する試みであった 8。
- 思想(神学): 敬虔なカトリック教徒であったが 8、彼の目的は「キリスト教の再話」ではなかった 8。彼は、人間の想像力はすべて神から与えられたものであり、キリスト教「以前」の異教神話にも(キリスト教的)真理の断片が組み込まれていると信じていた 8。
- 構築プロセス(言語先行 / ボトムアップ): 彼の神話構築は「言語学」から始まった 10。彼はまず、フィンランド語の音韻に影響を受けた「クウェンヤ」や、ウェールズ語の文法特性(子音変化)を持つ「シンダリン」といったエルフ語を創造した 10。彼の神話世界(中つ国)と物語は、これらの「言語を話す人々」の歴史と文化として、後から創造された。
- 表現(象徴主義): 彼はキリスト教の教義を「寓話(アレゴリー)」としてではなく、物語のリアリティに根差した「象徴(シンボル)」として作品に埋め込んだ 9。それらは「最も注意深い読者」にのみ感知されるよう設計されている(例:レンバス=聖体、ボロミアの死=カトリックの告解の秘跡)9。
IV-B. ケーススタディ:C.S. ルイス(思想先行アプローチ)
- 動機: トールキンと同様、ルイスも神学、文学研究、SF、神話物語など多様なジャンルを往来した多作な作家であった 11。
- 思想(神学): 彼はキリスト教の弁証家であり、その作品群は「キリスト教神学」や「キリスト教の精髄」を中核的なテーマとしていた 11。彼の創作は、「受肉の言語としての神話」という明確な思想的意図に基づいていた 11。
- 構築プロセス(思想先行 / トップダウン): 彼の神話構築は「思想」から始まった。彼は「古代異教世界とキリスト教との関わり」や「憧れ(Sehnsucht)」といった〈概念〉を、いかに物語(神話)として効果的に表現できるかを追求した 11。
- 表現(寓話的): 彼の作品(特に『ナルニア国物語』)は、古典叙事詩や中世ロマンスの物語構造 11 を借りながら、キリスト教の思想を「寓話的語り」や「比喩」を用いて明確に表現している 11。
この二人の巨匠の比較は、神話創作者に提示できる二つの対極的な「実践的ワークフロー」を明らかにする。
- トールキン(ボトムアップ型 / 建築家・言語学者): 〈ミクロ〉から構築を始める。まず「言語」や「地理」という〈ディテール〉を設計する 10。そのディテールから文化と歴史が立ち上がり、世界が「リアル」であるがゆえに、思想は後から「象徴」として宿る 9。
- ルイス(トップダウン型 / 伝道者・哲学者): 〈マクロ〉から構築を始める。まず「思想」という〈概念〉(例:キリスト教神学)を確立する 11。その思想を最も効果的に伝えるための「寓話」として、世界とキャラクターが設計される。
神話創作者は、自らの適性(ディテールから構築するか、アイデアから構築するか)に応じて、どちらのモデルを選択するか決定できる 9。
【表3】意図的「神話創生」アプローチの比較(トールキン vs. ルイス)
| 比較項目 | J.R.R. トールキン | C.S. ルイス |
| 創作の動機 | 「ブリテン島のための神話」の構築 8 | キリスト教神学の神話的表現 11 |
| 構築の起点 | ボトムアップ:言語、音韻論、文法 10 | トップダウン:思想、神学、概念 11 |
| 神学との関係 | 象徴主義(Symbolism):暗示的、内在的 9 | 寓話主義(Allegory):比喩的、教訓的 11 |
| 参照した古典 | 古英語、北欧神話、フィンランド神話 8 | 古典叙事詩、中世ロマンス 11 |
V. 意図的な神話創生(II):現代における「神話」の応用と拡張
神話創生は、フィクション小説の領域に留まるものではない。「神話の構造」は、現代社会において、新たな「世界観(哲学)」を提示したり、「共同体(ブランド)」を構築したりするための実践的なツールとして応用されている。ここでは、①哲学的・芸術的批評、②商業的・社会的ブランディング、という二つの応用事例を分析する。
V-A. ケーススタディ:南方熊楠と「自然の神話」(批評的・哲学的アプローチ)
博物学者・民族学者である南方熊楠(1867-1941)は、西洋科学、民俗学、精神性を横断する独創的な研究を行った 12。彼の試みは、既存の神話(世界観)を〈批評〉し、新しい神話を〈創生〉するアプローチとして再評価できる。
- メタファーの発見: 南方は、植物、動物、菌類の境界を曖昧にする生物「粘菌」の研究を専門とした 12。彼は、粘菌が西洋的な「二元論的カテゴリー」(男性/女性、動物/植物、生/死)を超越する存在であることを見出した 12。
- 新しい神話の創生: 彼はこの粘菌の性質をメタファーとして、当時の支配的な「神話」であった社会ダーウィニズム(「適者生存」という資本主義的論理)に代わる、新しい文明論を提示した 12。南方が提唱したのは、階層構造を超えた「感情的人間性」に基づく、協力的で相互理解的な社会(=新しい創造神話)であった 12。
- 現代的解釈(芸術): この南方の視座は、現代アートにおいて「創造神話としての芸術」として解釈される 12。芸術は、単に世界を表現・反映するだけでなく、既存の認識論や階層構造に異議を唱える「クィア・ネイチャー」のような、異なる〈自然〉、異なる〈世界〉を〈創造する〉力を持つ 12。
この「批評家モデル」のワークフローは、①既存の神話(例:西洋二元論)を特定し、②それに当てはまらない〈メタファー〉(例:粘菌)を発見し、③そのメタファーに基づきオルタナティブな〈神話〉(例:新しい文明論)を構築する、というものである 12。
V-B. ケーススタディ:淡路島と「国生み神話」(キュレーション的・社会的アプローチ)
神話創生は、既存の文化的資産を「再定義」し、社会的・商業的な価値を創出するためにも用いられる。淡路島の伊弉諾神宮(いざなぎじんぐう)を中心とした地域活性化の事例は、その典型である 13。
- 神話の「発掘」と「再定義」: 商店街を中心とした地域コミュニティは、地元に存在する日本最古の神社と「国生み神話」(イザナギ、イザナミ)という文化的資産を発掘した 13。
- テーマの抽出(キュレーション): 彼らは神話全体をそのまま用いるのではなく、現代社会の課題(コロナ禍、経済低迷)に最も響くテーマを神話から〈抽出〉した 13。それが、イザナギが黄泉の国から帰還したエピソードに基づく「よみがえり(Revival)」であった 13。
- 実践的応用(ブランディング):
- アイデンティティ: 地域を「よみがへるまち」としてブランディングする 13。
- 商品開発: 神話のキーアイテム(イザナギを助けた「桃」)に関連する商品(まんじゅう、絵馬、お香)を開発する 13。
- イベント: 「よみがへる!開運まちアソビ」など、テーマを一貫して適用する 13。
- 成果: この戦略は成功を収め、「国生みの島」は日本遺産に認定され、伊弉諾神宮には年間180万人の参拝客が訪れるようになった。さらに、移住者の増加や若手のまちおこしへの参画を促し、地域コミュニティそのものの「よみがえり」に繋がった 13。
この「ブランド戦略家モデル」のワークフローは、新しい神話を〈発明〉するのではなく、①既存の資産(神話)を〈発掘〉し、②現代の課題に響く〈コア・テーマ〉を〈抽出〉し、③そのテーマに基づきプロダクト、イベント、アイデンティティを一貫して〈応用〉する、というものである 13。
VI. 神話創作者のための実践的フレームワークと結論
本レポートで解剖した「神話の構造」と「意図的な創生」の事例は、現代の神話創作者のための統合的なフレームワークとして再構築できる。
VI-A. 神話創生の4ステップ・フレームワーク
神話を意図的に創造するプロセスは、以下の4つの実践的な問いとして体系化できる。
- Q1. 〈目的〉の決定:何を語るのか? (セクション I より)
- 創作者は、自らが語る物語の〈真実性〉を定義しなければならない。「世界の起源と根本思想(神話)」、「場所と歴史(伝説)」、あるいは「教訓と知恵(民話)」のどれを創生するのかを決定する 1。
- Q2. 〈対立〉の設計:世界の根本矛盾は何か? (セクション II より)
- 神話は〈対立〉を〈調停〉する論理装置である。まず、その世界の〈風土・環境〉を設定し 1、そこから必然的に生じる根源的な〈二項対立〉(例:自然 vs. 文化、混沌 vs. 秩序)を定義する 5。
- Q3. 〈変容〉の設計:いかにして主人公は変わるか? (セクション III より)
- 神話的物語の核心は〈変容〉である。単なる12ステップのプロット 6 をなぞるのではなく、〈変容の論理エンジン〉としての「鯨の胎内」 7 を設計する。主人公が「古い自己」からいかに〈切断〉され、「新しい自己」として〈再生〉するか、その論理的な場所とプロセスを定義する。
- Q4. 〈起点〉の選択:どこから創り始めるか? (セクション IV, V より)
- 自らの適性に基づき、4つのワークフローから構築の起点を決定する。
- A. 建築家(トールキン型): 言語やディテールから〈ボトムアップ〉で構築する 10。
- B. 哲学者(ルイス型): 思想やテーマから〈トップダウン〉で構築する 11。
- C. 批評家(南方型): 既存の世界への〈批評〉と新〈メタファー〉から構築する 12。
- D. 戦略家(淡路島型): 既存の資産を〈発掘〉し、現代的に〈応用〉する 13。
VI-B. 結論:現代における神話の力
神話は単なる過去の遺物ではない。それは現代の映画、アニメ、ゲームといったポピュラーカルチャーにおいて、古代の構造そのままに再生産され続ける「心のパターン」の集積である 5。
神話の構造を理解することは、現代の物語やニュースに隠された論理を読み解く「リテラシー」を獲得することに繋がる 7。
そして「神話の作り方」を学ぶことは、フィクションの創作であれ、社会的実践であれ、単なる物語を超えた〈意味〉と〈アイデンティティ〉を世界に創出するための、最も根源的かつ強力な技術を習得することに他ならない。
引用文献
- 神話に関する基礎知識1 https://contest.japias.jp/tqj2007/90251/kiso/kiso1.html
- 民話と昔話の違い|鬼頭熱造 – note https://note.com/connectokt/n/nfb9c460d80ae
- 【昔話とは】 – ADEAC https://adeac.jp/lib-city-tama/text-list/d100030/ht090020
- 1 昔話とは https://www2.tosyo-saga.jp/kentosyo/web-mukashibanashi/mks(1)p3-4.pdf
- 神話はなぜ似ているのか?比較神話で読み解く世界の構造|朝日南 … https://note.com/reiji_asahina/n/n15574547eb0f
- ヒーローズ・ジャーニー – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%BC
- 「わかりやすい」ニュースに潜む罠:物語の論理を見抜く知的武装 … https://note.com/osamu_n_zen_knz/n/ndfa336ad414d
- 「著者の没後四年にして、ここに出版されることになった … – note https://note.com/chokolog/n/n4c703ade5be9
- ロード・オブ・ザ・リングは「氷と炎の歌」よりどう優れてるの … https://www.reddit.com/r/tolkienfans/comments/1b192e/how_is_the_lord_of_the_rings_better_than_a_song/?tl=ja
- トールキンは彼の言語を何に基づいて作ったの? : r/tolkienfans – Reddit https://www.reddit.com/r/tolkienfans/comments/k2pxd6/what_did_tolkien_base_his_languages_on/?tl=ja
- C. S. ルイス 霊の創作世界 | カーリル https://calil.jp/book/4779115183
- 自然の神話:南方熊楠の創造神話 | KINAN ART WEEK(紀南アートウィーク) https://kinan-art.jp/info/20034/
- 「国生み神話」を基盤にまちをブランディング。 めざすのは年間 … https://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/ganbarou_shoutengai/dl/23.pdf



