
韓国は2025年10月現在、世界AI競争の主要プレーヤーとして確固たる地位を確立している。政府と民間合わせて100兆ウォン(715億ドル)の5年間投資、26万台以上のNvidia GPU配備、そしてアジア初の包括的AI法制定により、2030年までに世界トップ3のAI大国を目指す野心的な戦略を実行中だ。Samsung、SK Hynix、Naverなど主要企業は独自の韓国語LLMを開発する一方で、OpenAI、Anthropic、Microsoftとの戦略的パートナーシップを通じてグローバル技術へのアクセスも確保している。しかし、深刻な人材不足(AI卒業生の40%が海外流出)と早期段階スタートアップ資金不足が、この急速な成長の持続可能性に影を落としている。
韓国企業の独自LLMが続々と進化
NaverのHyperCLOVA X THINKが2025年6月に発表され、韓国AI技術の到達点を示した。約6兆トークンの高品質な韓国語・英語データで事前学習されたこのモデルは、GPT-4の6,500倍の韓国語データを活用し、韓国語タスクで競合製品を凌駕する性能を発揮している。KMMPLUやKCSAT(韓国大学入試)などの主要ベンチマークで最高レベルのパフォーマンスを達成し、128Kトークンのコンテキストウィンドウと推論特化型アーキテクチャを備える。4月には軽量版のHyperCLOVA X SEED(0.5B、1.5B、3Bパラメータの3バリエーション)をオープンソースとして公開し、6月までに50万回以上ダウンロードされた。
Samsung Electronicsは2024年10月のSDC24でSamsung Gauss 2を発表した。Compact(オンデバイス動作)、Balanced(ハイブリッド)、Supreme(クラウドベース)の3バリエーションを展開し、マルチモーダル機能(テキスト、画像、コード同時処理)と9〜14言語対応を実現。処理速度は主要オープンソース代替品の1.5〜3倍で、Samsung DX部門の60%以上の開発者が内部コードアシスタント「code.i」を採用している。Galaxy S25シリーズ以降への統合が予定されており、全製品ラインにわたる「AI for All」戦略の中核を担う。
Kakaoは2025年2月4日にOpenAIとの戦略的パートナーシップを発表し、10月28日にChatGPTをKakaoTalkに統合するという画期的な展開を見せた。月間アクティブユーザー4,910万人を持つKakaoTalkに新しいチャットタブとしてChatGPTが組み込まれ、GPT-5モデルを利用できる。さらにKakao Map、Kakao Gift、Kakao Reservation、Melon音楽ストリーミングなどKakaoエコシステムとの連携を実現する「Kakao Tools」プラットフォームを提供。同時に独自AI「Kanana」(Nano、Essence、Flagの3モデル)の開発も進めており、2026年第1四半期にAndroid向けロールアウトを予定している。
LG AI ResearchのEXAONE 4.0は2025年7月にリリースされ、32B(ハイパフォーマンス)と1.2B(軽量オンデバイス)の2バージョンを展開。Artificial Analysis Intelligence Indexで韓国モデル1位、オープンウェイトモデル4位、全世界11位を獲得した。特にChart QAベンチマークで世界最高水準のスコアを記録し、企業文書解釈において卓越した能力を示している。金融、製薬、製造業の自動化をターゲットとし、政府の国家AI競争プロジェクトにも選定された。
SK TelecomのA.X 4.0は中国Qwen 2.5をベースに自社拡張を加えたモデルで、韓国語タスクでGPT-4oを超える性能を達成(KMMLU: 78、CLIcK: 83)。カスタマーサービスコールの要約に使用される「AIセクレタリー」として展開され、有料サービスとして推論・マルチモーダル機能の強化版が計画されている。
新興企業UpstageのSolar Pro 2(31Bパラメータ)は、韓国LLMとして唯一「フロンティアモデル」の称号を獲得し、「Intelligence vs. Cost to Run」効率指標で1位を獲得。MATH GPT精度0.488は、GPT-4の0.425を上回る。法律、金融、医療などの知識集約型分野をターゲットとし、国家ソブリンAIプロジェクトに選ばれた唯一のスタートアップである。
グローバルAI企業の韓国市場攻勢
OpenAIは韓国市場を米国に次ぐ第2位の有料登録市場と位置づけ、2025年5月26日に韓国子会社を設立、9月にソウルオフィスを開設した。月間アクティブユーザーは2025年4月に1,072万人(前年比11倍成長)に達し、モバイルアプリユーザーは1,740万人(人口の3分の1以上)に上る。週間アクティブユーザーは過去1年で4.5倍に増加した。
10月にはSamsung Electronics、SK Hynixとのパートナーシップを発表し、5,000億ドルのStargateプロジェクトの一環として韓国に2つのAIデータセンターを建設することを決定。メモリサプライチェーン確保を通じて100兆ウォン(720億ドル)以上の追加需要が見込まれる。
Anthropicも2025年10月23日にソウルオフィス開設を発表(2026年初頭に江南で開設予定)。韓国は世界トップ5のClaude使用国(総使用量・人口比)で、Claude Codeの全世界使用量の25%がアジア太平洋地域から来ており、韓国では4ヶ月で6倍の成長を記録した。特筆すべきは、世界トップのClaude Codeユーザーが韓国のソフトウェアエンジニアであることだ。SK Telecomとの2023年パートナーシップ(1億ドル投資)では、Claude搭載カスタマーサービスモデルが34%のサービス品質向上を実現した。
Google Geminiは2024年12月20日に韓国語サービスを開始し、10種類の韓国語音声オプションを提供。2025年8月には韓国の大学生向けに1年間無料のAI Proプランを提供し、27大学から100名の「Gemini University Student Ambassadors」を選出した。しかし7月2日の記者会見でGoogle自身が韓国市場で「まだ初期段階」にあることを認め、ChatGPTに後れを取っている状況だ。
Microsoft Azure AIは韓国企業との深い統合を進めており、KT Corporation(Microsoft 365 Copilot全社展開)、LG Electronics(Azure OpenAI活用のCHATDAプラットフォーム、Q9 AIホームロボット)、Amorepacific(AI美容カウンセラー)、Hanwha Qcells(30%以上の市場投入期間短縮)など、Fortune 500企業の85%以上が採用している。
AI工場革命:26万台のGPUが製造業を変革
2025年10月30-31日のAPECサミットで、韓国政府とNvidiaは26万台以上のNvidia GPUを国内に配備する史上最大規模の国家AI投資を発表した。この98億ドル相当の取引は、政府5万台(NHN Cloud、Kakao Corp.、Naver Cloud、国立AIコンピューティングセンター向け)、Samsung 5万台以上、SK Group 5万台以上、Hyundai Motor Group 5万台、Naver 6万台以上の配備を含む。
SamsungのAI Megafactoryは5万台以上のNvidia Blackwell GPUを展開し、半導体製造全体にAIを統合する。特に注目すべきは、Nvidia cuLithoライブラリを使用した計算リソグラフィーにおける20倍のパフォーマンス向上で、光近接効果補正(OPC)プロセスが劇的に高速化された。Nvidia Omniverseプラットフォームによるデジタルツイン技術が世界中のファブ施設の仮想レプリカを作成し、リアルタイムの生産分析、予測、最適化を実現している。
SK Hynixも5万台以上のGPUを配備したAI工場を建設中(2027年後半に第1フェーズ完成予定)で、4万人以上の従業員向けにNvidia NIMマイクロサービスを使用したAI搭載エージェントを展開。独自のGPU-as-a-Service(GPUaaS)モデルにより、2,000台以上のNvidia RTX PRO 6000 Blackwell GPUを持つアジア初の産業用AIクラウドを外部組織にも提供する。
LG InnotekはFC-BGA(Flip Chip Ball Grid Array)半導体基板に特化した「Dream Factory」(龜尾、2万6,000平方メートル)を2025年4月に公開した。10のすべての生産・物流ステップを完全自動化し、AI深層学習ビジョン検査システムがわずか30秒で微細欠陥を検出する。デジタルツイン技術により立ち上げ期間を50%削減、故障コストを50%以上削減し、毎日20万以上のファイルと100GB以上のデータを生成している。
Hyundai Motor Groupは2025年10月31日に30億ドルの物理AI投資を発表し、5万台のNvidia Blackwell GPUを自律運転、スマートファクトリー、ロボティクス開発に活用する。NVIDIA DRIVE AGX Thorプラットフォームを使用したADASと車載インテリジェンス、OmniverseとCOSMOSプラットフォームによる自動車工場のデジタルツインと地域運転環境シミュレーションを展開予定だ。
韓国半導体企業がAIメモリで世界をリード
SK Hynixは2025年9月12日に世界初のHBM4開発完了を発表し、AI半導体市場での優位性をさらに強化した。HBM4は前世代比で帯域幅2倍(2,048 I/O端子 vs 1,024)、消費電力40%改善、データレート10Gbps以上(JEDEC標準8Gbpsを25%以上超過)を達成。スタックあたり1.6TB/sの帯域幅により、AIサービスパフォーマンスを最大69%向上させる。2025年第4四半期に量産開始、2026年から本格販売が始まる。
現行世代のHBM3Eでは、SK Hynixが**世界市場シェア64%**を維持し、DRAM市場全体でも2025年第3四半期に35〜36%のシェアでSamsungを抜いて史上初めて首位に立った。12層HBM3E(36GB容量、9.2Gbps、1.2TB/s)はNvidiaのBlackwellプラットフォーム向けGB300 AIチップの独占サプライヤーとなっている。
2025年第3四半期の業績は驚異的で、営業利益11.38兆ウォン(79.5億ドル、47%マージン)、純利益12.60兆ウォン(88億ドル、52%マージン)を記録し、同社史上初めて営業利益10兆ウォンを突破した。2026年までのすべてのDRAMとNAND生産が完売し、HBM供給も2026年分の交渉が完了している。
SamsungもHBM4開発を進めており、11Gbpsの処理速度、第6世代10nmクラスDRAMと4nmロジック基板ダイを使用している。しかしNvidiaとのHBM3E認証で歩留まり問題に直面し、SK Hynixに遅れを取っている状況だ。2025年第3四半期の半導体部門営業利益は前年比80%増と記録的水準に達しており、2026年のHBM4量産に向けて巻き返しを図っている。
2025年6月にSK GroupとAmazon Web Servicesは蔚山に103MW(将来的に1GW)のAIデータセンター建設で合意し(AWS 40億ドル、SK Group 25億ドル投資)、初期6万台のGPUを配備する。10月にはAWSが追加で50億ドルの投資を発表し、**韓国史上最大の海外直接投資(計90億ドル)**となった。
Stock Farm Roadは全羅南道に世界最大3GWのデータセンターを建設中で(総投資額350億ドル)、2025年冬に着工し2028年完成予定。最大20万台のGPUを収容可能で、初期年間収益35億ドルを見込む。韓国政府とBlackRockも2025年6月に10年プロジェクトとして再生可能エネルギー駆動のハイパースケールAIデータセンターハブ構築でパートナーシップを締結している。
政府主導のソブリンAI戦略
韓国は2025年1月21日にアジア初の包括的AI法「人工知能基本法」を制定し(2026年1月22日施行)、EUに次いで世界で2番目に包括的なAI規制枠組みを持つ国となった。大統領直轄の国家AI戦略委員会が最高意思決定機関として設置され、8つの専門小委員会(技術革新・インフラ、データ、グローバル協力、社会、科学・人材、国防・安全保障、産業応用・エコシステム、公共部門応用)が政策を立案する。
2024年11月27日に正式発足したAI安全研究所(AISI)はETRIに設置され、リスク分析、安全評価基準、国際協力を担当する。AIセーフティコンソーシアムには、Naver、KT、Kakao、Seoul National University、KAIST、Korea Universityなど24の創設メンバーが参加している。
法律は透明性要件(AIとのやり取りをユーザーに通知、生成AIコンテンツへのラベル付け)、安全義務(10^26 FLOP以上で訓練されたAIシステム)、高影響AIの要件(リスク管理計画、説明可能性、人間の監視)を定める。外国事業者には年間収益1兆ウォン以上、AIサービス収益100億ウォン以上、または平均100万人以上の国内ユーザーがいる場合、国内代理人の指定を義務付けている。
2025年8月22日、政府は5年間で100兆ウォン以上(715億ドル)の「超革新経済」計画を発表した。AI中心の15プロジェクトには、ヒューマノイドロボット、自動運転車・船舶、AI搭載工場、AIオンデバイスコンピューティング用半導体、公共部門AI(福祉提供、税務コンプライアンス、医薬品承認)、データセンター・国立AIコンピューティングハブ、6Gハイパー AIネットワーク、韓国AI基盤モデル開発が含まれる。
2026年のAI予算は10.1兆ウォンで、前年度の3.3兆ウォンから3倍以上の増額となった。2025年には4,800億ウォン(3.49億ドル)が産業AIプロジェクトに、1.634兆ウォンが先進GPU 1万台確保に(さらに民間から3,000台リース)、530億ウォンがソブリンAI基盤モデルプロジェクトに配分された。
ソブリンAI基盤モデルプロジェクトでは、5つのエリートチーム(LG AI Research、SK Telecom、Naver Cloud、NC AI、Upstage)が選定され、GPT-4、Claude、Geminiレベルの能力を持つオープンソース韓国語基盤モデルの開発を競っている。6ヶ月ごとの進捗レビューで成績不良チームは除外され、最終的に2チームが選ばれる。
韓国AI研究の国際的プレゼンス
KAISTのKim Jaechul Graduate School of AIは、2020-2024年の主要AI会議(ICML、NeurIPS、ICLR、ACL、EMNLP、NAACL、CVPR、ICCV、ECCV)での論文発表数で**世界5位(アジア4位)**にランクされ、Peking University、CMU、Tsinghua University、Shanghai Jiao Tong Universityに続く。Google Brain、IBM Watson、Facebook AI Research、Disney Research、Microsoft Research、Nvidia Researchの出身者を含む20名のコア教員と43名の提携教員を擁する。
2025年の主要研究成果には、PIMBA(Processing-in-Memory)技術の開発があり、ハイブリッドTransformer-MambaAIモデルで4.1倍の処理性能向上と2.2倍のエネルギー消費削減を達成(MICRO 2025で発表)。5月にはデジタルバイオ・ヘルスAI研究センターが科学技術情報通信部のAIスターフェローシッププログラムに選定され、115億ウォンの投資(2025年5月〜2030年12月)を獲得した。
ETRIは国際標準化でリーダーシップを発揮しており、「AI Red Team Testing」標準(ISO/IEC 42119-7)のエディターとして、また「Trustworthiness Fact Label」標準(ISO/IEC 42117シリーズ)の開発をリードしている。過去3年間で1,500億ウォン(約1.1億ドル)以上のライセンス収益を生み出し、2024年には68件の新しい標準必須特許を確保し、累計1,215件のSEPに達した。
2025年7月、韓国はアジア初のEU Horizon Europe Association Agreement署名国となり、Pillar 2(産業競争力、グローバル課題)の850億ユーロの研究助成金に直接アクセスできるようになった。AI、量子コンピューティング、バイオサイエンスの分野で欧州機関との共同研究を進める。
10月29日には米韓テクノロジー繁栄協定(Technology Prosperity Deal)がAPECサミットで署名され、科学のためのAI、先端製造、バイオテクノロジーR\u0026D、プロイノベーションAI政策フレームワーク、AIフルスタック(ハードウェア、モデル、ソフトウェア、アプリケーション、標準)の輸出、米国Center for AI Standards and InnovationとKorea AI Safety Instituteのパートナーシップが合意された。
主要企業の戦略的展開
Naverは「オンサービスAI」戦略の下、HyperCLOVA Xを全コアサービスに統合している。2025年上半期に開始したAI Briefingは、ソース検証付きのAI生成サマリーを韓国語、英語、日本語で提供し、2025年末までに全検索クエリの20%をカバーする目標だ(当初1%から拡大)。3月12日にローンチしたNaver Plus Storeは、HyperCLOVA Xを活用した超パーソナライズされた商品推薦を提供するショッピングスーパーアプリで、単なる購入パターンではなくユーザーコンテキストに基づいている。
2025年6月にはシリコンバレーにNaver Venturesを設立し、AI人材の調達とスタートアップ投資に注力。2024年11月には6年間で1兆ウォン(7.2億ドル)の「Impact Fund」を発表し、韓国AIエコシステムの育成を支援する。2025年のAI投資は70億ドルに達する見込みだ。2025年第2四半期の収益は2.9151兆ウォン(前年比+11.7%)、営業利益は5,216億ウォン(+10.3%)、純利益は4,974億ウォン(HyperCLOVA X Visionによる50%成長)を記録した。
Samsung ElectronicsはGalaxy AI(20言語対応のLive Translate、Note Assist、Browsing Assist、Interpreter、Transcript Assist)を2025年末まで無料提供し、2026年から有料層を導入する可能性がある。2025年7月9日のUnpackedイベント(ブルックリン)でGalaxy S25シリーズとGalaxy S25 Edge(最薄のGalaxy Sシリーズデバイス)、初のXRヘッドセット「Project Moohan」を発表。2025年9月15-16日の第9回Samsung AI Forumでは、Yoshua Bengio(モントリオール大学)とStefano Ermon(スタンフォード)を招き、エージェントAI、生成AI、AI半導体に焦点を当てた。
LG Electronicsは「愛情のあるインテリジェンス(Affectionate Intelligence)」をビジョンに掲げ、2025年のCES(1月6-10日)で個人AIアシスタントFURONを発表した。リアルタイム空間センシングとライフスタイルパターン洞察により、家庭、モビリティ、商業、仮想空間全体でデバイス/サービスを調整する。OLED evo TVにはAlpha 11 AI Processor Gen2を搭載し、従来型OLEDの3倍の明るさを実現する「Brightness Booster Ultimate」、16億の画像設定と4,000万のサウンドプロファイルを分析する「AI Picture/Sound Wizard」を装備。
SK Telecomは2025年9月25日にAI Company-in-Company(CIC)を立ち上げ、5年間で5兆ウォン(36億ドル)投資、2030年までに年間5兆ウォン以上のAI収益を目標とする独立AI事業部を設立した。個人AIエージェントA.(A-Dot)は1日5,000万件以上のリクエストを処理し、2025年8月までに1,000万人の加入者を獲得。企業向けA-Dot BizはSK Group 25社の8万人の従業員に展開され、会議文書作成時間60%削減、レポート作成40%高速化を実現している。2025年3月には北米市場をターゲットとしたグローバルAIエージェント**Aster(A*)**のベータ版を開始した。
Kakaoは49.1百万人の月間アクティブユーザーを持つKakaoTalkへのChatGPT統合により、アプリを切り替えることなくAIにアクセスできる韓国唯一のプラットフォームとなった。しかし、ユーザーあたりの月間利用時間は674分(2025年8月)で、2021年7月の800分から16%減少しており、YouTube(月間アクティブユーザーで追い抜かれた)やInstagram(平均利用時間で追い抜かれた)との競争に直面している。AI統合はこのエンゲージメント低下を逆転させる戦略的な賭けだ。
AI人材の深刻な不足と争奪戦
韓国のAI業界回答者の81.7%が人材不足を主要なビジネス課題として挙げており、2020年の48.8%から大幅に増加している。中小企業の53%が従業員スキルの欠如をAI導入の障壁としている。韓国のAI卒業生の40%が海外勤務を選択しており、米国のテクノロジー大手が最高40万ドルの初任給を提示するのに対し、韓国企業は追いつくのに苦労している。
韓国国内のAI研究科学者の年収は1億7,000万〜3億ウォン(13万〜23万ドル)で、2023年からほぼ倍増した。AIエンジニアの平均は5,500万〜1億1,000万ウォン、経験豊富な専門家は8,500万〜1億9,300万ウォンを稼ぐ。それでも、GoogleやMeta、Amazonの国際的な報酬パッケージには及ばない。
スタートアップUpstageは4年間韓国でAIエンジニアを採用できず、米国とカナダの元Amazon/Meta開発者に依存している。Linerは第2四半期だけで1,000時間以上探してもAI人材を見つけられなかった。ExtriberはリードAI開発者をCEO以上の給与で採用した。2023年5月時点で、全ソフトウェア求人の39.9%がAI関連で、2022年10月から6.1ポイント増加している。
政府は2030年までに20万人のAI専門家を育成する目標を掲げ、2025年6月に24兆ウォン(175億ドル)の補正予算を配分した。これには150億ウォンの「グローバルAIチャレンジ」国際コンペティション、50億ウォンの世界トップレベルのAI研究者リクルート、400名のポスドク研究者(国内外)への世界クラスのサポートが含まれる。兵役免除がAI研究者に対して復活・拡大され(2025年8月)、外国人AI専門家向けの特別ビザ、永住権/帰化の迅速化が検討されている。
KAISTのKim Jaechul Graduate School of AIは2019年秋に設立され、韓国初のAI専門のMS、統合MS-PhD、PhD学位を提供している。20名のコア教員、43名の提携教員、7名の招聘/非常勤教員を擁し、2020-2024年の主要AI会議での論文発表数で世界5位にランクされている。Seoul National Universityは2025年7月にデュアルトラックAI人材育成計画を発表し、10月にはOpenAIとの連携を発表した。
AI市場の爆発的成長と投資ラッシュ
韓国のAI市場は2025年に71.7億ドルに達し(Fortune Business Insights)、2032年には**538.7億ドル(年平均成長率33.4%)**に成長すると予測されている。他の推定では2025年を43.4億ドル(27.63% CAGR)から90.6億ドル(Statista)まで幅があるが、いずれも急速な成長を示している。
2025年第3四半期のスタートアップ投資は**2.43兆ウォン(18億ドル)**で、第2四半期から152%増、前年比24%増となり、7四半期ぶりに2兆ウォンの閾値を超えた。AI特化型の資金調達は3,001億ウォンで、取引数が40%減少したにもかかわらず前年比35%増加した。シリーズBとCステージが総投資額の約70%を吸収し(以前の四半期の40-45%から増加)、実証済みのスケールアップ企業への資本集中を示している。
RebellionsはAI半導体スタートアップとして**シリーズCで3,400億ウォン(約2.47億ドル)**を調達し、過去3年間で韓国の未上場スタートアップによる最大の投資となった。Armが初のアジア投資として参加し、企業価値は1.5兆ウォン(11.5億ドル)に達し、韓国初のファブレス半導体ユニコーンとなった。ATOM AIチップはMLPerfベンチマークで勝利し、同クラスのQualcommとNvidiaの3.4倍の速度を誇る。
FuriosaAIは2025年7月にシリーズCブリッジで1,250〜1,300億ウォンを調達し、総調達額は2.46〜2.68億ドル、企業価値は7.35〜7.69億ドルに達し、ユニコーン地位に近づいている。2025年2月にはMetaからの8億ドルの買収提案を拒否した。第2世代AIプロセッサ**RNGD(Renegade)**は従来のGPUに比べてワットあたり性能が2.25倍高く、LG AI ResearchのEXAONE LLMに採用された。
Upstageは2025年8月にシリーズBブリッジで4,500万ドルを調達(韓国開発銀行主導、Amazon、AMD Venturesが参加)し、総調達額は1.57億ドルで韓国史上最も資金調達したAIソフトウェア企業を主張している。Amazonを優先クラウドプロバイダーとして指定し、Amazonは少数株式を取得。Solar LLMはAmazon Bedrock Marketplaceで利用可能となった。
Korea Global Fund 2025プログラムでは、6ヶ国の13のグローバルVCが選定され、総額2.4兆ウォン(18.4億ドル)、政府のマザーファンドからの拠出は1,700億ウォン(1.3億ドル)。韓国スタートアップへの必須投資は2,700億ウォン(2.07億ドル)以上。新たな優先セクターとしてAI、クライメートテック、セカンダリー投資が追加された。最大のAIファンドは、Jolt Capital(フランス)の9,492億ウォンで、韓国向けのこれまでで最大のAI特化VCファンドとなっている。
Startup Korea Fund 2025では、22のサブファンドに6,401億ウォン(4.75億ドル)が配分され、政府のマザーファンドから1,716億ウォン(1.28億ドル)、27の投資家から2,488億ウォン(1.85億ドル)が拠出された。初めての海外投資家としてTokyo Korean Business Center、CMIC(日本最大のCRO)が参加した。
グローバルAI競争における韓国の位置づけ
韓国のAI市場は世界市場の約2〜2.5%を占める(2025年の世界AI市場は約2,440億ドル)。しかし技術力では急速に追い上げており、米国(グローバルリーダー)との技術レベルギャップは2022年で88.9%に達し、2018年の81.6%から大幅に改善した。AIカテゴリー全体で米国との技術ギャップは1.0〜1.5年に縮小し、主要国の中で最も速い改善率を示している。
Tortoise IntelligenceのGlobal AI Indexでは、韓国は世界6位にランクされ、インフラ、開発、政府戦略、規模で高評価を得ている。KAISTは主要AI会議での論文発表数で世界5位(Peking University、CMU、Tsinghua University、Shanghai Jiao Tong Universityに続く)にランクされた。
韓国は**世界の半導体売上の23%**を占め、HBM(High Bandwidth Memory)において圧倒的な地位を持つ。世界の半導体市場は2030年までに1兆ドルに倍増すると予測され、Samsung、SK HynixはStargateイニシアチブを通じてグローバルAIメモリ供給をリードしている。
2025年のKOSPI指数は72%上昇し、10月だけでも16回の日中記録を更新。10月単独で21%の上昇を記録し、4,000マークを超えた。日本の日経225(+26%)、中国のCSI 300(+19%)を上回る成績で、AIチップブーム(Samsung +96%、SK Hynixの大幅な上昇)とコーポレートガバナンス改革が牽引した。
しかし課題も大きい。**中国は2030年までの5年間でAIセクターに1.8京ウォン(1.3兆ドル)**を投資しており、41万人のAI研究者を擁する。米国Stargateプロジェクトは5,000億ドルのコミットメントだ。韓国の2024年のAI投資は1.8兆ウォン(13億ドル)で、2030年までに100兆ウォン(715億ドル)にスケールアップする計画だが、絶対規模では米中に及ばない。
中国は3万のスマートファクトリーを構築済み(2025年2月時点)であるのに対し、韓国は2025年までに1,000の最先端5G+AIスマートファクトリーと100のK-Smartライトハウス工場を目標としている。人材面でも、中国41万人、米国20万人に対し、韓国は2030年までに20万人育成を目標としており、追い上げが求められる。
今後の展望と課題
韓国は世界で最も包括的な国家AI戦略の一つを実行しており、「G3」(世界トップ3のAI大国)の野心を達成する明確な可能性がある。半導体優位性、積極的な政府支援、確立されたテクノロジー大手(Samsung、SK、LG、Naver)のリソース、そして米国との1.0〜1.5年の技術ギャップの急速な縮小が強みだ。
AI生産性向上が総要素生産性を最大3.2%増加させ、高い補完性シナリオ下で生産高を12.6%押し上げる可能性があると推定されている。これは人口高齢化による2023〜2050年のGDP16.5%減少をAIなしで5.9%に抑制できる計算だ。2025年の成長率予測は0.9%(当初予測1.8%から下方修正)と低迷しており、AI戦略の緊急性が浮き彫りになっている。
しかし成功は構造的な人材課題への対処にかかっている。81.7%が人材不足を主要課題とし、AI卒業生の40%が海外流出、2031年までに5万6,000人のチップエンジニア不足が予測される状況だ。報酬の平等文化が国際競争力のある給与提示を制限し、トップダウンの監督が研究の自律性を阻害する可能性がある。
早期段階の資金調達ギャップも懸念材料だ。シリーズB/Cへの資本集中(70%)は実証済み企業への焦点を示すが、シードとシリーズAの取引量が44%減少しており、イノベーションパイプラインが空洞化するリスクがある。
それでも韓国のアプローチ——タイトな政府・産業・学界の調整、ソブリンAI開発と戦略的グローバルパートナーシップのバランス、半導体からデバイス、サービス、製造にわたるフルスタック統合——は、先進製造国のモデルとなっている。2025〜2026年の重要な時期における実行のスピード、人材維持、そして早期段階エコシステムへの持続的支援が、韓国がフロンティアモデル地位に到達できるか、あるいは専門ドメインでの成功的ニッチを確立するかを決定するだろう。


