
論理主義の命題、再訪:数学の論理への従属性に関する一考察
序論:確実性への探求
「数学は論理に従属する」という命題は、19世紀末から20世紀初頭にかけての数学界を席巻した、壮大な知的プロジェクトの核心をなす主張である 1。このプロジェクトは「論理主義」として知られ、単なる学術的な演習ではなく、無限や微積分学の理解をめぐる当時の数学の基礎に潜む危機への深刻な応答であった 2。本報告書は、この命題の真偽を徹底的に検証するものである。その物語は、ゴットロープ・フレーゲによる、数学を純粋理性の揺るぎない岩盤の上に築き上げようとする輝かしいビジョンから始まる。しかし、そのビジョンは、バートランド・ラッセルが発見した根源的なパラドックスによって無残にも打ち砕かれる。その後、『プリンキピア・マテマティカ』における英雄的な再構築の試みがなされるが、最終的にはクルト・ゲーデルによって、あらゆる同様のプロジェクトに内在する決定的限界が示されることになる。中心的な問いはこうである。この壮大なプロジェクトは成功したのか、失敗したのか、あるいは、論理と数学の関係についての我々の理解を、より複雑な形で変容させたのか。
第1節 論理主義プロジェクト:フレーゲの革命と基礎的確実性の追求
本節では、論理主義プログラムの起源、動機、そしてその最初の実行について、主たる設計者であるゴットロープ・フレーゲに焦点を当てて詳述する。
1.1 論理主義の定義:二重の命題
論理主義は、数学が論理学に還元可能である、あるいはその一部であるとする立場として正式に定義される 1。この還元は、単に証明において論理的演繹を用いるという以上の、より深遠な主張である。ルドルフ・カルナップによる、以下の二つの部分からなる正確な定式化を採用する 4。
- 概念的還元:数学のすべての概念(例:「数」「加算」「極限」)は、純粋に論理学的な概念のみを用いて定義することができる。
- 定理的還元:数学のすべての定理は、純粋に論理学的な公理と推論規則から演繹することができる。
このプロジェクトの目標は、数学的真理が分析的かつア・プリオリな真理の一種であり、その確実性が、思考の最も普遍的で揺るぎない原理と見なされていた論理法則そのものによって保証されることを示すことにあった 2。
1.2 フレーゲの哲学的動機:心理主義と直観との戦い
フレーゲのプロジェクトは、客観性への深い哲学的コミットメントに駆動されていた。彼は数学からあらゆる主観的、心理的、そして直観的な要素を追放しようと試みた 6。彼は、数学的真理が個人の心的プロセスに根差すとする見解である「心理主義」に激しく反対した 3。
また彼は、算術が幾何学と同様に、ある種の直観(カントにとっては純粋直観としての時間)に基づいているというカント的な見解も拒絶した 5。フレーゲにとって、数は経験や直観から導かれるものではなく、純粋理性にアクセス可能な客観的で抽象的な実体、すなわち「論理的対象」であった 5。彼の目標は、算術的真理がカントが主張したような総合的ア・プリオリではなく、分析的であることを示すことにあった 7。この目的を達成するためには、数学の確実性を論理学の確実性に帰着させることが不可欠であった。なぜなら、論理学こそが最も確実かつ普遍的な原理であると期待されていたからである 2。
この哲学的立場は、数学の基礎を主観的な心や偶然的な直観から切り離し、客観的な理性の領域に位置づけようとする試みであった。数学的真理の客観性と必然性を確保するためには、その源泉が個々の精神活動ではなく、普遍的な論理法則にあることを証明する必要があった。したがって、論理主義への還元は単なる基礎付けの試みではなく、数学という知識分野全体の認識論的地位を再定義する壮大な哲学的企てだったのである。
1.3 『概念記法』:純粋思考の言語の創造
自らのプログラムを実行するにあたり、フレーゲは自然言語が曖昧で論理的に不正確であるため不十分であると認識していた 6。彼の最初の記念碑的業績は、1879年に発表された『概念記法』(Begriffsschrift)の創造であった 3。
これは単なる新しい記号の集合ではなく、現代述語論理学の最初の包括的な体系であった。それは量化(「すべての」「存在する」)、変数、そして複雑な命題を明晰かつ正確に表現するための厳密な統語論を導入し、伝統的なアリストテレス論理学の限界を乗り越えた 7。この形式言語は、隠れた仮定や直観的な飛躍なしに証明を構築するために不可欠な道具であった 6。フレーゲ自身が強調したように、この言語は曖昧さや多義性を排除し、すべての前提を明確に記述し、推論形式を単純化するために、二次元的な広がりを持つ記法を採用していた 8。この言語の創造は、彼の哲学的目標、すなわち直観の排除と客観性の強制を技術的に実現するものであり、言語そのものが客観性を強制するメカニズムとして機能したのである。
1.4 数の定義:算術の論理的構築
論理的装置を整えたフレーゲは、中心的な課題である自然数の定義へと進んだ。彼の独創的な解決策は、数を概念に関連づけられた対象、具体的には概念の「外延」として定義することであった 5。
彼はまず、二つの概念が「同数」(equinumerous、それらの下に属する対象の数が同じであること)であるという概念を、純粋に論理的な一対一対応を用いて定義した 9。次に、概念$F$の数(基数)を、「概念$F$と同数である」という概念の外延として定義した 5。現代的な言葉で言えば、数3は、3つの要素を持つすべての集合からなる集合である。
この定義により、彼は特定の数を定義することができた。0は「自身と同一でない」という概念(何ものも属さない概念)に属する数として定義された。1は「0と同一である」という概念の数として定義された 5。そして、この基礎から自然数の全系列と算術の法則を導出することが可能になったのである。
第2節 基礎の危機:ラッセルのパラドックスと素朴な論理主義の崩壊
本節では、論理主義の第一段階を劇的な終焉に導き、論理的対象の直観的理解に潜む深刻な欠陥を明らかにした発見について物語る。
2.1 発見と運命的な書簡
自身の論理主義の著作『数学の原理』に取り組んでいたバートランド・ラッセルは、フレーゲの著作を綿密に研究していた。1901年、彼はフレーゲの公理から直接生じるパラドックスを発見した 10。
1902年の有名な書簡で、ラッセルは自身の発見をフレーゲに伝えた。それは、フレーゲの主著『算術の基本法則』の第2巻が出版されようとしていた矢先のことだった 11。フレーゲへの衝撃は壊滅的であった。彼は第2巻の付録でこの問題を認め、学問的な誠実さをもって次のように記している。「科学者にとって、仕事が完成した後にその建物の土台の一つが揺さぶられることほど不幸なことはないだろう」5。この出来事は、しばしば知性史における偉大な悲劇の一つとして引用される 13。
2.2 パラドックスの説明
このパラドックスは、「それ自身を要素(メンバー)として含まないすべての集合の集合」を考えることから生じる。これは、どんな首尾一貫した性質や述語も、その性質を持つものの集合(クラス)を定義するという、一見すると無害な原理(フレーゲも用いていた)に基づいている 12。
- 形式的バージョン:$R$を、$x$が$x$の要素でないようなすべての集合$x$の集合とする($R = \{x \mid x \notin x\}$)15。ここで問われるのは、「$R$はそれ自身の要素か?」という問いである。
- もし$R$が$R$の要素である($R \in R$)と仮定すると、$R$の定義により、それは「それ自身の要素ではない」という性質を満たさなければならない($R \notin R$)。これは矛盾である。
- もし$R$が$R$の要素でない($R \notin R$)と仮定すると、それは$R$のメンバーシップの条件を満たすことになるので、$R$の要素でなければならない($R \in R$)。これもまた矛盾である 14。
- 類推的バージョン(床屋のパラドックス):より直観的に理解するために、ラッセルは床屋のパラドックスを考案した。ある村に、自分で髭を剃らないすべての、そしてそのような人だけの髭を剃る床屋がいる。さて、この床屋の髭は誰が剃るのか? 10。論理は全く同じであり、同じく逃れられない矛盾へと至る。
このパラドックスは、「集合」という直観的な概念が、実は非常に危険なものであることを明らかにした。フレーゲとラッセルは共に、数を定義するための基本的な構成要素として集合(クラス)に依存していた 9。彼らは、明確に定義されたいかなる性質も集合に対応すると仮定していたが、ラッセルのパラドックスは、この仮定が矛盾を導くことを示した。したがって、欠陥はプロジェクトの数学的な部分(算術)にあったのではなく、確実なはずの論理的な部分(根底にある集合論)にあったのである。論理という「岩盤」は、実は流砂であったことが判明したのだ。
2.3 矛盾の源泉:フレーゲの基本法則V
このパラドックスは周辺的な問題ではなく、フレーゲの体系のまさに心臓部を突くものであった。この矛盾は、彼の基本法則Vから形式的に導出可能であった。この法則は、概念をその外延(集合)に結びつけるものであり、本質的には「無制限の内包原理」(いかなる性質も集合を定義する)に形式的な許可を与えるものであった 5。
ラッセルの発見は、この直観的な原理が、制限なしに適用されると論理的に矛盾することを示した。フレーゲが算術を構築したまさにその土台が、根底から欠陥を抱えていたのである 18。このパラドックスは、無制限の自己言及の直接的な帰結である。集合$R$は、それ自身を含む可能性のある「すべての集合」という全体を参照して定義される。そして、「$R$は$R$に含まれるか」という問いは、定義をそれ自身に適用することを強制する。この種の自己言及が論理的な袋小路を生み出すのであり、このテーマは後にゲーデルの仕事で再び現れ、形式体系における根本的な限界を示唆することになる。
第3節 壮大な再構築:『プリンキピア・マテマティカ』と階型理論
本節では、ラッセルとA. N. ホワイトヘッドが、パラドックスを防ぐために設計された新たな基礎の上に論理主義を再建しようとした記念碑的な試みを分析する。
3.1 確実性を再確立するための記念碑的努力
パラドックスの発見を受け、ラッセルはかつての師であるアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドと協力し、新たな安全な基礎の上で論理主義プログラムを遂行するための10年にわたるプロジェクトに着手した。その成果が、3巻からなる『プリンキピア・マテマティカ』(1910-1913年)である 20。
その目標はフレーゲと同じく、算術のすべて、そして実際には解析学の多くを、純粋に論理的な公理と推論規則の集合から導出し、数学が論理学の一分野であることを示すことにあった 20。『プリンキピア・マテマティカ』は記号論理学の画期的な著作であり、強力な形式体系を開発し、前例のない詳細さで導出を実行した 20。なお、この著作はアイザック・ニュートンの1687年の物理学の傑作『自然哲学の数学的諸原理』(Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica)と区別することが重要である。タイトルの類似性は意図的な敬意の表明であるが、主題は全く異なる 24。
3.2 解決策:階型理論と悪循環原理
ラッセルは、パラドックスの原因が集合$R$の定義における「悪循環」にあると診断した 22。この集合は、それ自身がメンバーであるような対象の集合(すべての集合)を量化することによって定義されていた。
これを防ぐため、彼は悪循環原理を導入した。「ある集合の全体を含むものは、何であれ、その集合の一員であってはならない」28。この原理は、階型理論(Theory of Types)を通じて実装された。この理論は、対象の世界を「階型」(タイプ)の厳密な階層に組織化するものである 16。
- 階型0:個体(基本的な、集合ではない対象)。
- 階型1:個体の集合(または性質)。
- 階型2:個体の集合の集合(または個体の性質の性質)、以下同様 30。
決定的な規則は、ある集合はより低い階型の要素しか含むことができないというものである。集合はそれ自身をメンバーとして含むことも、同じ階型の集合を含むこともできない。この論理的世界の階層化によって、ラッセルのパラドックス的な集合$R$の構築は、統語論的な規則によって不可能になる 16。
3.3 ピュロスの勝利:非論理的な公理
階型理論は既知のパラドックスを首尾よく阻止したものの、それは論理主義の命題にとって甚大な代償を伴うものであった。この厳格な枠組みの中で古典的な数学を再構築するために、ラッセルとホワイトヘッドは、自明に論理的とは見なされない公理を導入せざるを得なくなった 22。
- 無限公理:この公理は無限集合の存在を主張する。これは自然数を基礎づけるために必要であり、これがなければ自然数が無限に存在することを保証できない。しかし、宇宙が無限の対象を含むかどうかは、経験的または形而上学的な問いであり、純粋に論理的な問いではない。この公理の導入は、数学が論理以上のものを必要とするという大きな譲歩であった 20。
- 還元可能性の公理:厳密な階型の階層は、数に関する一般的な言明(例えば数学的帰納法)を述べることが不可能になるという別の問題を生み出した。これを解決するため、ラッセルは還元可能性の公理を導入した。これは、いかなる高階の性質に対しても、それと等価なより単純な(述語的な)性質がより低い階層に存在すると仮定するものである。ラッセル自身、この公理に深く不満を抱いており、明確な論理的正当化のないアドホックな解決策であることを認めていた 20。
これらの公理の必要性は、プロジェクトがその最も純粋な目的において失敗したことを示した。数学は論理のみから導出することはできず、実質的な、そしておそらくは数学的な仮定を必要としたのである 17。『プリンキピア・マテマティカ』の物語は、基礎付けのプロジェクトにおける安全性(矛盾の回避)と実用性(既存の数学の回復)の間の根本的な緊張を明らかにしている。安全性を高めるための階型理論は非常に制約的であり、数学的実用性を回復するための公理は、プロジェクトの論理的純粋性を損なった。このことは、より安全で制約的な論理的基礎は、数学を生み出す力が弱く、非論理的な「ブースター」公理を必要とすることを示唆している。
第4節 形式主義の生来的限界:ゲーデルの不完全性定理
本節では、論理主義および関連する形式主義の野心に対する、より深遠な第二の打撃について論じる。それは、いかなる単一の形式体系も、数学的真理のすべてを捉えることは決してできないことを示した。
4.1 ヒルベルト・プログラム:確実性への新たな希望
1920年代、数学の基礎をめぐる主要なプログラムは、ダフィット・ヒルベルトの形式主義であった。ヒルベルトは、数学を厳密な規則に従って無意味な記号を操作するゲームとして扱うことを提案した 3。
「ヒルベルト・プログラム」の目標は、強力な公理系(『プリンキピア・マテマティカ』や初期のZFCのような)を取り上げ、それを形式言語で表現し、そして有限で組み合わせ論的な方法(一種の「メタ数学」)を用いて、この体系が以下の二つの性質を持つことを証明することであった。
- 無矛盾性:決して矛盾(例:$P$と$\neg P$の両方を証明すること)を生み出さないこと 17。
- 完全性:いかなる適切に形成された数学的命題に対しても、その命題またはその否定のどちらかを証明できること 17。
これが成功すれば、数学の確実性に対する絶対的な保証が提供され、論理主義の夢の精神(たとえその文字通りの形ではなくとも)が実現されたであろう。
4.2 ゲーデルの定理:夢の不可能性
1931年、若きオーストリアの論理学者クルト・ゲーデルは、革命的な不完全性定理を発表した。これは『プリンキピア・マテマティカ』の体系および類似のいかなる形式体系をも直接の標的とするものであった 21。
- 第一不完全性定理:基本的な算術を表現するのに十分なほど強力ないかなる無矛盾な形式体系$F$も、真であるが体系$F$内では証明不可能な命題$G$を含む。
- ゲーデルの天才性は、「ゲーデル数化」と呼ばれる数コーディングの体系を介して、実質的に「この命題は体系$F$では証明不可能である」と自己言及する命題$G$を構築した点にある。
- もし$G$が証明可能であれば、体系は(偽を証明することになるため)無矛盾ではない。もし体系が無矛盾であれば、$G$は証明不可能でなければならない。しかし、$G$が証明不可能であれば、それが主張することは真実である。したがって、体系は不完全である 21。
- 第二不完全性定理:そのような体系$F$は、それ自身の無矛盾性を証明することができない。
- ゲーデルは、「体系$F$は無矛盾である」という主張自体が、体系内の式としてコード化できることを示した。そして彼は、この式が証明可能であるのは、体系が実際に無矛盾でない場合に限ることを証明した。したがって、無矛盾な体系は、決して自身の無矛盾性を証明することはできない 21。
4.3 論理主義と形式主義への影響
ゲーデルの定理は、ヒルベルト・プログラムと論理主義の壮大な野心にとって致命的な一撃であった。それは、すべての数学的真理を、証明可能に無矛盾な単一の公理系の中に捉えるという目標が、単に困難であるだけでなく、論理的に不可能であることを示した 21。
どれほど多くの論理的公理から出発しようとも、体系が算術を含むほど強力である限り、その演繹的到達範囲を超える数学的真理が常に存在する。数学は、深遠な意味で、いかなる単一の形式体系をも超越しているのである。これは、数学が論理やその他のいかなる固定された公理的枠組みにも完全に従属させることができないことを決定的に示した。ゲーデルの仕事は、ラッセルのパラドックスが集合論的な自己言及(メンバーシップ)のパラドックスであったのに対し、より深い統語論的な自己言及(証明可能性)の危機を明らかにした。ラッセルの階型理論は対象レベルでの自己言及を禁止したが、ゲーデルは構文を算術にコード化することによって、文がそれ自身について語ることを可能にし、自己言及がより根深い問題であることを示したのである。
第5節 現代の風景:実践的基礎としての公理的集合論
本節では、数学の基礎に関する現状を概説し、それを当初の論理主義のビジョンと比較対照する。
5.1 ZFCの台頭:論理的ではなく数学的な基礎
現代数学の大部分にとって事実上の基礎となっているのは、選択公理を伴うツェルメロ=フレンケル集合論(ZFC)である 33。
ZFCは一階述語論理の言語で表現された形式理論である 33。しかし、それは論理主義の実現ではない。その公理は純粋な論理の真理とは見なされておらず、集合の存在と性質に関する実質的な主張である 35。無限公理、べき集合公理、置換公理のような公理は、フレーゲやラッセルが「論理」と見なしたであろう範囲をはるかに超える強力な原理である。それらは、特定の強力な数学理論、すなわち集合論の出発点なのである。
5.2 ZFCはいかにしてパラドックスを回避するか
ZFCは、複雑な階型理論によってではなく、集合の形成に対するより直接的な制限によってラッセルのパラドックスを回避する。「無制限の内包原理」は、はるかに弱い**分出公理(または分離公理)**に置き換えられる 14。
この公理は、既存の集合$A$が与えられたとき、特定の性質を持つ$A$のすべての要素からなる新しい集合を形成できると述べる。性質からいきなり集合を形成することはできず、既存の集合から「分離」しなければならない 14。これにより、「すべての集合の集合」の形成が妨げられ、ラッセルのパラドックス的な集合は構築できなくなる。さらに、**正則性公理(または基礎の公理)**は、集合がそれ自身を含むような循環的なメンバーシップを明示的に禁止し、さらなる安全層を提供している 14。
5.3 基礎をめぐる哲学の比較分析
各々の立場を明確にするため、このサブセクションでは詳細な比較表を提示する。この表は、三つの主要な学派の複雑に絡み合った議論を、明確で比較可能な形式に蒸留することで、読者がそれらの核心的な違いを一目で理解できるようにする。この構造化された比較は、先行するセクションを統合し、論理主義がなぜ失敗したのか、そしてそれが現代数学を形成したより広範な批判的議論の一部であった理由を理解するために不可欠である。
| 特徴 | 論理主義 (フレーゲ, ラッセル) | 形式主義 (ヒルベルト) | 直観主義 (ブラウワー) |
| 核心的命題 | 数学は論理学の一分野である 1。 | 数学は形式的な規則に従った記号操作であり、その本質は無矛盾性にある 17。 | 数学は時間の直観に基づく人間の精神的構築の産物である 4。 |
| 論理の性質 | 数学がそこから導出される、究極的でア・プリオリな基礎 2。 | 数学体系の無矛盾性を保証するために用いられる形式言語と推論規則 17。 | 数学的直観から導出される道具。古典論理(例:排中律)は普遍的に有効ではなく、多くの文脈で拒否される 4。 |
| 数学的対象 | 客観的で抽象的な「論理的対象」(例:クラスのクラス) 5。 | 本質的な意味を持たない抽象的な記号。意味は形式的証明とは無関係 32。 | 数学者が明示的に構築しなければならない精神的構成物 4。 |
| 主要目標 | 数学を自明な論理的真理に還元することにより、その絶対的確実性を確立すること 2。 | 有限で安全な「メタ数学的」手法を用いて、すべての数学の無矛盾性を証明すること 17。 | 構成的証明の基礎の上に数学を再構築し、背理法のような非構成的手法を拒否すること 4。 |
| 主要な挑戦 | ラッセルのパラドックス。非論理的な公理(無限、還元可能性)の必要性 10。 | ゲーデルの不完全性定理が主要目標の不可能性を証明した 21。 | 古典数学の大部分の拒絶。実践的な数学者にとっては制約が厳しすぎると見なされた 17。 |
結論:命題の真偽値
本節では、全体の分析を統合し、ユーザーの問いに対するニュアンスに富んだ評決を下す。
評決:命題は偽である
本報告書は、「数学は論理に従属する」という命題が、フレーゲとラッセルが意図した強い還元的な意味においては偽であると結論する。提示された歴史的および論理的証拠は、これを決定的に示している。
- 理由1(公理の問題):『プリンキピア・マテマティカ』における試みは、最も洗練された論理的枠組みでさえ、それ自体が論理的というより数学的な性格を持つ公理(無限公理、還元可能性の公理)なしには数学を導出できないことを示した 22。数学は、論理だけでは提供できない、何が存在するか(例:無限集合)に関する実質的な仮定を必要とする。
- 理由2(不完全性の問題):ゲーデルの定理は、真理の体系としての数学が、いかなる単一の形式的論理体系が捉えうるよりも豊かで広範であることを示した 21。論理は構文と演繹の規則を提供するが、数学的真理の意味論的な内容を汲み尽くすことはできない。
ニュアンス:極めて実り豊かな失敗
論理主義プロジェクトはその究極の目標において失敗したが、それは不毛な試みではなかった。その失敗は、知性史において最も生産的なものの一つであったとさえ言える。結論として、その深遠で永続的な遺産を強調する。
- 現代論理学を創造した:フレーゲとラッセルが開発した道具(『概念記法』、述語計算、『プリンキピア・マテマティカ』の形式体系)は、現代の数理論理学、分析哲学、そして理論計算機科学のまさに基礎となっている 3。
- 厳密性の新たな基準を打ち立てた:完全に明示された公理とギャップのない証明を求める論理主義の要求は、数学の実践に革命をもたらし、隠れた仮定を許容しない文化を築いた。
- 関係を明確化した:プロジェクトの失敗は、最終的に二つの分野の真の関係を明確にした。論理は数学の親ではなく、その不可欠なパートナーである。それは、現代数学がその真理を正確かつ明晰に操作し、表現するための言語、構造、そして推論の枠組みを提供している。
最終的に、数学を論理に従属させようとする探求は、数学が論理だけでは完全には捉えきれない、創造的で、公理的で、そして汲み尽くしがたい性格を持つことを明らかにした。論理は文法を提供するが、叙事詩を書くのは数学なのである。
引用文献
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- Russell のパラドクスと λx.xx —— または自己言及がもたらす豊かさと危うさについて https://blog.ryota-ka.me/posts/2018/10/13/russels-paradox-and-lambda-x-x-x
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- 公理的集合論の基礎 https://www.sci.shizuoka.ac.jp/~math/yorioka/ss2019/sakai0.pdf
- 公理的集合論ZFCを論理記号なしで解説 – COPETEN https://copeten.com/math/set-zfc/
- 集合論の宇宙 Universe と Multiverse – 日本数学会 https://www.mathsoc.jp/meeting/kikaku/2017haru/2017_haru_usuba-p.pdf
- <論⽂>ブラウワーのバー帰納法におけ る基本仮定の理解に向けて https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/bitstream/2433/191036/1/ronso_40_081.pdf


