
第1章 世界の人口密度ランドスケープ
本章では、現在の世界の人口密度ランキングを提示・分析し、人類の居住分布に関する基礎的理解を構築する。単なるリストの提示にとどまらず、密度スペクトルの両極端で観察されるパターンを分類し、その背景を解説する。
1.1 人口密集の頂点:マイクロステート、都市国家、属領
世界の人口密度ランキングの最上位は、一貫してマイクロステート(小国家)、都市国家、そして面積の限られた属領によって占められている。この分析は、複数のデータソースで常に上位5位を占めるマカオ、モナコ、シンガポール、香港、ジブラルタルに焦点を当てる 1。
- マカオ(中国特別行政区): 1平方キロメートルあたり約22,000人
- モナコ: 1平方キロメートルあたり約19,000人
- シンガポール: 1平方キロメートルあたり約8,300人
- 香港(中国特別行政区): 1平方キロメートルあたり約7,000人
- ジブラルタル(イギリス海外領土): 1平方キロメートルあたり約5,800人
これらの地域は、極めて小さな土地面積(モナコは2 km²、ジブラルタルは6.8 km²、マカオは33 km²)と、高度な都市化という共通の特徴を持つ 2。その経済は金融、観光、貿易といった特定の分野に高度に専門化しており、物理的な国境をはるかに超えた広範な地域から資源を引き出すことで、狭小な領域に膨大な人口を維持することを可能にしている 4。
これらの最上位グループは、単に面積が小さく人口が密集しているだけではない。その多くが、独自の政治的・歴史的地位を最大限に活用する、いわば「主権を持つ経済特区」として機能している。マカオと香港は中国の特別行政区、ジブラルタルはイギリスの海外領土、そしてモナコとシンガポールは主権を持つ都市国家である。この特殊な地位が、資本と高度な技術を持つ労働力を惹きつける専門的な規制・経済環境の創出を可能にし、結果として極小の地理的領域に膨大な経済活動と人口を集中させている。これらの地域は、伝統的な人口密度の要因である肥沃な農地などではなく、グローバルな商業活動の超集積ハブとなることで、その極端な人口密度を形成している。この点は、肥沃な土地と農村部の人口集中によって高い人口密度を持つバングラデシュのような国との決定的な違いである。
この分析には、バーレーン、マルタ、モルディブといった他の高密度な小島嶼国や地域も含まれる。これらの国々もまた、限られた土地面積と戦略的な立地という共通の特性を有している 1。
表1:世界の人口密度ランキング(最新データ)
この表は、複数の情報源からデータを統合し、人口密度が特に高い上位30の国・地域と、特に低い下位10の国・地域をリストアップしたものである。
| 順位 | 国・地域 | 人口 | 面積 (km²) | 人口密度 (人/km²) |
| 1 | マカオ | 690,000 | 30 | 22,598.7 |
| 2 | モナコ | 40,000 | 2.0 | 19,124.3 |
| 3 | シンガポール | 6,040,000 | 719 | 8,396.2 |
| 4 | 香港 | 7,520,000 | 1,110 | 6,778.5 |
| 5 | ジブラルタル | 40,000 | 6.8 | 5,783.7 |
| 6 | バーレーン | 1,590,000 | 778 | 2,042.0 |
| 7 | マルタ | 570,000 | 320 | 1,794.8 |
| 8 | モルディブ | 530,000 | 300 | 1,759.3 |
| 9 | バチカン市国 | 1,000 | 0.4 | 1,736.4 |
| 10 | シント・マールテン | 40,000 | 34 | 1,275.0 |
| 11 | バミューダ | 60,000 | 53 | 1,215.0 |
| 12 | バングラデシュ | 173,560,000 | 147,630 | 1,175.7 |
| 13 | パレスチナ | 5,290,000 | 6,020 | 878.6 |
| 14 | ジャージー | 100,000 | 120 | 863.4 |
| 15 | マヨット | 320,000 | 374 | 858.0 |
| 16 | ガーンジー | 60,000 | 78 | 819.9 |
| 17 | 台湾 | 23,890,000 | 35,980 | 663.9 |
| 18 | バルバドス | 280,000 | 430 | 656.9 |
| 19 | モーリシャス | 1,260,000 | 2,040 | 617.4 |
| 20 | アルバ | 110,000 | 179 | 601.6 |
| 21 | ナウル | 10,000 | 21 | 566.2 |
| 22 | レバノン | 5,810,000 | 10,450 | 555.6 |
| 23 | サンマリノ | 30,000 | 61 | 555.3 |
| 24 | ルワンダ | 14,260,000 | 26,340 | 541.3 |
| 25 | サン・バルテルミー島 | 10,000 | 21 | 522.2 |
| 26 | 韓国 | 51,750,000 | 100,339 | 515.8 |
| 27 | ブルンジ | 14,050,000 | 27,830 | 504.8 |
| 28 | サン・マルタン | 30,000 | 53 | 491.1 |
| 29 | コモロ | 870,000 | 1,861 | 465.7 |
| 30 | イスラエル | 9,970,000 | 22,070 | 451.9 |
| … | … | … | … | … |
| 85 | カザフスタン | 20,590,000 | 2,724,902 | 7.6 |
| 86 | モーリタニア | 5,170,000 | 1,030,700 | 5.0 |
| 87 | ボツワナ | 2,520,000 | 581,730 | 4.3 |
| 88 | リビア | 7,380,000 | 1,759,540 | 4.2 |
| 89 | カナダ | 41,290,000 | 9,984,670 | 4.1 |
| 90 | アイスランド | 400,000 | 103,000 | 3.9 |
| 91 | スリナム | 630,000 | 163,820 | 3.9 |
| 92 | ガイアナ | 830,000 | 214,970 | 3.9 |
| 93 | ナミビア | 3,030,000 | 824,290 | 3.7 |
| 94 | フランス領ギアナ | 300,000 | 83,534 | 3.5 |
| 95 | オーストラリア | 27,200,000 | 7,741,220 | 3.5 |
| 出典: 1のデータを基に作成。人口および面積は概数。 |
1.2 人口希薄な広域:大陸国家と過酷な環境
ランキングの最下位に位置する国々は、モンゴル、ナミビア、オーストラリア、カナダ、アイスランドなど、広大な国土を持つ大陸国家が中心である 1。
- モンゴル: 1平方キロメートルあたり約2人
- ナミビア: 1平方キロメートルあたり約3.7人
- オーストラリア: 1平方キロメートルあたり約3.5人
- カナダ: 1平方キロメートルあたり約4.1人
- アイスランド: 1平方キロメートルあたり約3.9人
これらの国々の人口密度が低い主な決定要因は、広大で大部分が居住不可能、あるいは居住に不向きな地形の存在である。モンゴルのゴビ砂漠、カナダやグリーンランドの北極圏ツンドラ、オーストラリアのアウトバック、ナミビアの砂漠などがその典型例である 6。これらの物理的・気候的障壁は、人々の居住を国内のより温暖な、あるいは資源が豊富な一部の地域に厳しく制限している 5。
このような国々の低い平均人口密度は、国内における極端な居住分布の偏りを覆い隠す「空虚な内陸部(エンプティ・ハートランド)」現象を生み出している。例えば、ロシアの人口の85%は国土の23%に過ぎないヨーロッパ側に居住しており 1、オーストラリア国民の大部分は沿岸部に集中している 6。このパターンは二重の課題を生む。すなわち、周縁部に位置する大都市の管理という課題と、広大で人口が希薄な内陸部における公共サービスの提供、インフラ整備、経済的存立性の確保という課題である 5。この状況は社会的孤立を招き、医療や教育へのアクセスにかかるコストを増大させ、経済を多様なサービス産業ではなく、鉱業や林業といった資源採掘に依存させる傾向を強める 10。したがって、国全体の低い人口密度という統計値は、実際には高度に集積した人口分布という現実を隠蔽する統計上の加工品(アーティファクト)と言える。
1.3 人口大国:総人口と人口密度の峻別
本項では、世界で最も人口の多い国々を分析し、総人口の規模と人口密度の間にある決定的な違いを明確にする。
- インド: 総人口約14億5000万人、人口密度約441~488人/km² 1
- 中国: 総人口約14億1000万人、人口密度約147人/km² 1
- アメリカ合衆国: 総人口約3億4000万人、人口密度約36人/km² 1
- バングラデシュ: 総人口約1億7300万人、人口密度約1,175~1,333人/km² 1
この比較から、インドと中国は世界最大の人口を抱えながらも、その人口密度には大きな隔たりがあることがわかる。インドの人口密度は中国の3倍以上である。さらに、インドの8分の1以下の人口しか持たないバングラデシュは、インドの約3倍の人口密度を誇り、世界で最も人口が密集した大国となっている 3。
総人口と人口密度の関係性は、国家の発展経路そのものを形成する。
第一に、バングラデシュのような「高人口・高密度」国家は、限られた肥沃な土地(ガンジス川デルタ)を背景に、歴史的に農業経済を基盤とし、近年では労働集約型の製造業へと移行した。ここでは、人口密度そのものが中核的な経済要因となっている。
第二に、インドは「高人口・中高密度」であり、巨大な国内市場を形成する一方で、インフラや水・耕作地といった資源に極度の負荷をかけている 11。その人口密度は、超高密度の都市中心部と、広大で人口の多い農村後背地が混在する複雑な構造を持つ 11。
第三に、中国は「高人口・低密度」であり、広大な西部の砂漠や山岳地帯の存在が全体の密度を下げている。この地理的条件が、沿岸部に巨大な都市・産業クラスターを形成し、内陸部から人口を吸引するという国家主導の開発を可能にした。「低密度」の西部が「高密度」の東部の資源基地として機能する構造である。
第四に、アメリカやカナダのような「高所得・低密度」国家は、豊富な資源、郊外化の進展、広範な交通網を基盤とする開発モデルを育んできた。これは、人口が密集した国家には選択不可能な道筋である 11。
このように、人口密度は単なる人口統計上の数値ではなく、国家の経済戦略、都市計画、資源管理を制約し、方向付ける根源的な変数なのである。
第2章 人口密度の決定要因
本章では、第1章で分析した世界的な居住パターンを形成する、物理的および人的要因の複雑な相互作用を解き明かす。
2.1 物理的・環境的要因:地球の賦与
自然環境が人間の居住にとって有利または不利な条件をどのように作り出すかを詳述する。
- 地形と地勢: 低地の平野、平坦な河川流域(例:インドで4億5000万人、バングラデシュで1億2000万人を支えるガンジス平野)、肥沃な火山地帯は高い人口密度を促す。一方、ヒマラヤ山脈やモンゴルの草原地帯のような山岳地域は、建設や農業の困難さから居住を妨げる 8。
- 気候: 予測可能な季節を持つ温帯気候が最も魅力的である。カナダ、ロシア、グリーンランドの北極圏のような極寒地域や、サハラ砂漠、ゴビ砂漠、オーストラリアのアウトバックのような酷暑・乾燥地域は、高密度の居住に対する大きな障壁となる 6。
- 水供給: 信頼できる淡水資源への近接は、消費、農業、輸送のために高密度人口の前提条件である。また、沿岸地域は貿易を促進し、居住を惹きつける 9。
- 天然資源: 石油や鉱物といった価値ある資源の存在は、ドバイのような中東の都市のように、本来は居住に適さない地域でさえも高密度のポケットを生み出すことがある 4。
2.2 社会経済的・政治的基盤:人間の刻印
人間社会のシステムが、物理的な地理条件の上にどのように構築され、時にはそれを克服するかを探る。
- 経済的機会: 雇用の有無は移住と定住の主要な動機であり、工業地帯や都市中心部に高い人口密度をもたらす 9。
- インフラ: 発達した交通網(道路、鉄道、港湾)、衛生設備、エネルギー網は、高密度人口を支えるために不可欠である。遠隔地におけるこれらの欠如は、低密度を永続させる 8。
- 政治的安定と統治: 効果的な公共サービス(医療、教育)を提供する安全で安定した国は人口を惹きつけ、維持する。一方で、紛争や不安定は人々の避難を促し、人口希薄化につながる 9。
これらの要因は、都市化という強力な自己増殖的プロセスを生み出す。都市化は単にこれらの要因の結果であるだけでなく、それ自体が強力な駆動力となる。都市が成長するにつれて経済的な引力が生まれ、農村部からさらに多くの人々を引き寄せる 15。この労働力と資本の集中が、より高度なインフラやサービスの整備を可能にし、それがさらに都市の魅力を高め、人口密集化の自己強化サイクルを形成する。これが、20世紀初頭の主に農村的な世界から、現在では世界人口の半数以上が都市部に居住するという劇的な変化を遂げた中心的なメカニズムである 16。
第3章 主要国・地域の比較分析
本章では、特定の国や地域に焦点を当てた分析を行い、本レポートで議論された広範な原則を具体的に例証する。
3.1 文脈の中の日本:G7およびアジアの視点から
本項では、高密度な先進国としての日本の特異な位置づけを分析する。
- 日本の人口密度: 約327~341人/km² 1
- G7との比較(2022年データ): 日本(335人/km²)はG7の中で最も人口密度が高く、イギリス(280)、ドイツ(233)、イタリア(195)、フランス(119)、アメリカ(34)、カナダ(4)を大幅に上回る 20。
- アジアとの比較: 日本の人口密度は、バングラデシュ(1,350)、台湾(652)、韓国(515)よりは低いが、中国(147)やモンゴル(2)よりは著しく高い 3。
日本の高い人口密度は、その山がちな地形に起因する。この地形が、約1億2400万人の巨大な人口を限られた沿岸平野部、特に人口の約半数が集中する東京・名古屋・大阪の三大都市圏へと押し込めている 1。この地理的制約と、高度経済成長の歴史、そして旺盛な内需が組み合わさり、世界で最も集約的に開発された都市景観の一つを形成した 21。
表2:人口密度の比較分析:日本、G7、主要アジア諸国
| 国・地域 | 人口 (2022年推定) | 面積 (km²) | 人口密度 (人/km²) |
| 日本 | 123,980,000 | 377,975 | 328.0 |
| G7 | |||
| カナダ | 41,290,000 | 9,984,670 | 4.1 |
| フランス | 68,520,000 | 549,087 | 124.8 |
| ドイツ | 83,510,000 | 357,580 | 233.5 |
| イタリア | 58,990,000 | 301,340 | 195.7 |
| イギリス | 69,230,000 | 243,610 | 284.2 |
| アメリカ合衆国 | 340,110,000 | 9,525,067 | 35.7 |
| 主要アジア諸国 | |||
| バングラデシュ | 173,560,000 | 147,630 | 1,175.7 |
| 中国 | 1,408,980,000 | 9,562,910 | 147.3 |
| インド | 1,450,940,000 | 3,287,259 | 441.4 |
| 韓国 | 51,750,000 | 100,339 | 515.8 |
| 台湾 | 23,890,000 | 35,980 | 663.9 |
| 出典: 1のデータを基に作成。人口および面積は概数であり、データソースにより若干の差異がある。 |
しかし、アジアのメガシティには特有の現象が見られる。東京やソウルのような都市は、全体として極めて高い都市密度を誇る一方で、都心業務地区の「居住」人口密度が、周辺の都市圏リングよりも低いという「都心空洞化」のパラドックスを呈している 22。これは、多くの欧米都市とは対照的なパターンである。この現象は、戦後の開発モデルが都心部での居住よりも商業機能の集積を優先した結果、極端な通勤文化と郊外のスプロール化を招いたことに起因する。この事実は、超高密度国家の内部においてさえ、人口密度の分布は複雑かつ文化的に固有であり、「都市の中心部が最も密度が高い」という単純な仮定に挑戦するものである。
第4章 時間的ダイナミクス:過去の動向と将来予測
本章では、時間の次元を導入し、人口密度が劇的に変化してきた動的な変数であり、今後も変化し続けることを示す。
4.1 1950年以降の回顾:人口大加速の時代
本項では、歴史的データを分析し、未曾有の人口動態の変化が起きた20世紀半ば以降の人口密度の爆発的な増加を追跡する 23。
- バングラデシュ: 1950年の人口密度291.1人/km²が、2000年には1,010.8人/km²へと、50年間で3倍以上に増加した 25。
- バーレーン: 1950年の152.1人/km²から2000年の874.5人/km²へと、約6倍に増加した 25。
- 香港: 1950年の時点で既に高かった1,880.0人/km²が、2000年には6,346.3人/km²へと3倍以上に増加した 25。
- 世界的背景: 世界人口自体が1975年の40億人から2022年には80億人へと倍増した 16。世界の平均人口密度は、1975年の27人/km²から2022年には54人/km²へと増加した 26。
表3:主要国の人口密度の歴史的変遷(1950年、1975年、2000年、2025年)
| 国・地域 | 1950年の密度 (人/km²) | 1975年の密度 (人/km²) | 2000年の密度 (人/km²) | 2025年の密度 (人/km²) |
| 急増国 | ||||
| バングラデシュ | 291.1 | 545.9 (推定) | 1,010.8 | 1,350.0 |
| バーレーン | 152.1 | 390.4 (推定) | 874.5 | 2,099.0 |
| ナイジェリア | 25.1 | 65.3 (推定) | 131.4 | 260.8 |
| 韓国 | 207.2 | 358.9 (推定) | 480.0 | 522.2 |
| 緩増国 | ||||
| イギリス | 211.7 | 229.4 (推定) | 243.6 | 286.5 |
| ドイツ | 200.7 | 219.0 (推定) | 233.8 | 242.0 (推定) |
| 日本 | 221.7 | 295.4 (推定) | 345.5 | 326.7 |
| 出典: 3のデータを基に作成・推定。1975年のデータは線形補間による参考値。 |
この世界的な人口爆発は、すべての国に等しく影響を与えたわけではない。歴史的データを分析すると、二つの異なる密度増加の経路が見えてくる。
第一の経路は、アジアやアフリカの国々(バングラデシュ、ナイジェリア、パキスタンなど)に見られる「指数関数的成長」である。高い出生率と低下する死亡率により人口密度が急上昇し、資源やインフラに甚大な圧力をかけた。
第二の経路は、ヨーロッパの先進国(例:ベルギーは285.3から339.6へ、ドイツは200.7から233.8へ)に見られる「線形的・鈍化的成長」である。これらの国々は既に人口転換を経験していたため、密度増加ははるかに緩やかであった。
この分岐こそが、現在の世界の人口密度ランドスケープを形成した主要因であり、次節で予測される未来の変化の舞台を設定している。1950年から2000年は、「グローバル・サウス」が人口密度増加の震源地となった時代であった。
4.2 2050年および2100年への予測:世界の人口中心地の移動
本項では、国連などの予測を分析し、将来の人口密度の変化を予測する。
- 世界人口の将来: 世界人口は2050年までに97億~98億人に達し、2080年代に約104億人でピークを迎えると予測されている 27。世界の平均人口密度は、2025年の約55人/km²から2050年には約65人/km²へと上昇する見込みである 30。
- 成長の集中: 2017年から2050年にかけて、世界の人口増加の半分は、インドとナイジェリアを筆頭とするわずか9カ国に集中する 27。
- アフリカの台頭: アフリカの人口は2050年までに倍増し、26のアフリカ諸国では人口が少なくとも2倍になると予測されている 27。世界人口に占めるアフリカの割合は、2020年の17%から2050年には25%、2100年には38%へと増大する 28。
- 順位の変動: 2050年までに、ナイジェリアはアメリカを抜いて世界第3位の人口大国になると予測されている 27。コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニアもまた、世界で最も人口の多い国トップ10入りを果たす見込みである 28。
- 先進国の動向: 対照的に、ヨーロッパの人口は減少すると予測されている 28。日本やヨーロッパの多くの先進国では、出生率が人口置換水準を下回っている 27。
表4:主要人口大国の将来人口予測(2050年および2100年)
| 2024年 順位 | 国 | 2024年 人口 (百万人) | 2050年 予測人口 (百万人) | 2100年 予測人口 (百万人) | 2050年 順位 |
| 1 | インド | 1,451 | 1,680 | 1,505 | 1 |
| 2 | 中国 | 1,419 | 1,360 | 633 | 2 |
| 3 | アメリカ合衆国 | 345 | 381 | 421 | 3 |
| 4 | インドネシア | 283 | 320 | 296 | 6 |
| 5 | パキスタン | 251 | 372 | 511 | 4 |
| 6 | ナイジェリア | 233 | 359 | 477 | 5 |
| 7 | ブラジル | 212 | 217 | 163 | 9 |
| 8 | バングラデシュ | 174 | 215 | 209 | 10 |
| 9 | ロシア | 145 | 136 | 126 | 13 |
| 10 | エチオピア | 132 | 225 | 367 | 7 |
| 15 | コンゴ民主共和国 | 109 | 218 | 431 | 8 |
| 出典: 28のデータを基に作成。 |
これらのデータは、単なる人口増加ではなく、世界の人口密度の根本的な再編成を示唆している。2050年においてもアジアは絶対数で最も人口の多い大陸であり続けるが、その成長は鈍化している。一方で、アフリカは2100年まで急速な成長を維持すると予測される唯一の地域である 28。これは、多くのアフリカ諸国が、今後数十年で中密度国家から高密度国家へと変貌することを意味する。この「アフリカにおける密度革命」は、都市計画、食料安全保障、ガバナンスに前例のない課題をもたらす一方で、教育や雇用創出への投資が成功すれば、巨大な「人口ボーナス」を生む可能性を秘めている。21世紀は、20世紀におけるアジアの都市化に匹敵する、サハラ以南アフリカの急速な人口密集化によって定義されるであろう。
第5章 データの完全性と方法論的考察
本章では、専門的なレポートに不可欠な要素として、データ自体に対する批判的な評価を行い、なぜ異なる情報源がわずかに異なる数値を示すのかを説明する。
5.1 主要情報源の比較:国連、世界銀行、その他
本項では、主要なデータ収集機関とその方法論について議論する。
- 主要な情報源: 国際連合人口部(UNPD)と世界銀行が、公式な人口統計データの主要な情報源である 32。これらのデータは、各国の国勢調査、人口動態登録制度、各種調査に基づいている 32。世界銀行は、土地面積の指標に関して、国連食糧農業機関(FAO)のデータを使用することが多い 34。
- 方法論的なニュアンス:
- 人口の定義: ほとんどの情報源は、法的地位に関わらずすべての居住者を数える「事実上(de facto)」の人口定義を使用しているが、難民の定義は異なる場合がある 34。
- 土地面積の定義: 人口密度は、主要な河川や湖などの内水面を除いた「土地面積(land area)」を用いて計算される 34。しかし、これらの内水面の正確な定義や測定方法は機関によってわずかに異なる可能性があり、それが分母の小さな違い、ひいては最終的な人口密度の数値の差異につながる。
- データの適時性: 各レポートは異なるタイミングで更新されるため(例:国連世界人口予測2024年改訂版、世界銀行の2022年までのデータなど)、1、2、3のような情報源の間でランキングに若干の不一致が生じることがある。
5.2 平均値の先へ:算術密度の限界
本項では、単純な算術密度(総人口/総土地面積)がなぜ誤解を招く指標となりうるのかを説明する。
- 不均一な分布の問題: 広大な居住不可能な地域を持つ大国にとって、国全体の平均人口密度は人為的に低く算出され、国民の生活実態を反映していない。その典型例がエジプトであり、人口の4分の1がカイロ都市圏に集中している一方で、国土の大部分は砂漠である 1。同様に、ロシアの人口はヨーロッパ側に集中している 1。
- より高度な指標の導入:
- 生理的人口密度: 総人口/耕作可能地面積。これは、農業資源に対する人口圧力を示すはるかに優れた指標である 4。
- 人口加重密度: この指標は、平均的な個人がどの程度の密度環境で生活しているかを測定する。人口が密集している地域により大きな重みを与えるため、生活実感に近い密度を示す。例えば、コロンビアの算術密度は中程度だが、人口がボゴタやメデジンのような少数の高密度都市に極度に集中しているため、その人口加重密度(13,500人/km²)は世界で最も高い水準にある 11。この指標は、国内の典型的な生活条件や都市の圧力を、より正確に描き出すことができる。
第6章 結論と戦略的示唆
本最終章では、レポートの調査結果を統合し、現在の人口密度トレンドがもたらす未来への示唆を提示する。
本レポートの分析は、人口密度が経済発展、環境の持続可能性、そして政治的安定に深遠な影響を及ぼす根源的な地理的変数であることを結論付ける。世界は、グローバルな経済ノードとして機能する超高密度の都市国家から、困難な物理的地理条件によって定義される広大で人口希薄な国家まで、極端な格差に満ちている。
最も重要な戦略的示唆は、サハラ以南アフリカへの人口動態のシフトが目前に迫っていることである。この地域の急速な人口密集化は、21世紀を定義する人口動態トレンドとなり、国際社会に対して持続可能な開発、都市計画、資源管理の分野で最大の課題と機会を提示するであろう。
最後に、政策立案者に対して、特に人口分布が不均一な大国におけるインフラ投資や社会政策の策定において、単純な算術密度を超え、人口加重密度のようなより洗練された指標を活用することを推奨する。これにより、統計上の平均値に隠された国民の真の生活実態に即した、より効果的な政策立案が可能となるであろう。
引用文献
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