日本語文法と日本語文章の書き方 ― 実務に効く“設計&文法”

「いい文章」は修辞の妙よりも、最後までストレスなく読めることが肝心です。これは定義として押さえておきましょう。
そのための鍵は、書く前の設計(3W1H/ペルソナ/一文メッセージ)と、文法の基本(主語=述語、修飾語⇄被修飾語、助詞、接続語)の徹底です。


1. 書く前が9割:設計で迷子を防ぐ

1-1. 3W1H → ペルソナ → 一文メッセージ

  • 3W1Hを先に埋める(誰に/何を/なぜ/どうやって)。
  • 読者像をペルソナとして具体化(年齢・職業・悩み・目標など)。
  • 原稿の芯になる一文メッセージを事前に決める。

実践ワークの例(要約)

  • Who:買い物に行く時間が取れない30代共働き主婦
  • What:ネットスーパーの活用術
  • Why:時間節約と食材管理に有用
  • How:スマホ注文・定期便・保存法を紹介
  • メッセージ:「ネットスーパーを活用すれば、忙しい毎日でも効率よく食材を手に入れて、食生活を整えられる」

結論:この“書く前の準備”で仕上がりの9割が決まる。企画段階でここまでを小さなワークにしておくのが実務最強。


2. 文の背骨:主語、述語

2-1. 定義と原則

  • 主語=「誰が/何が」の主体、述語=行為・状態(〜する/〜した)。
  • 典型エラーは主語の欠落/述語の欠落/主述ねじれ/主述の距離が遠い

2-2. 図版①「主語と述語まとめ」の実務ルール

  • 主語と述語の基本関係を常に意識する
  • 主語欠落述語の不一致に注意
  • 主語と述語は近接させる
  • ねじれや構文崩れは必ず読み直しで修正

2-3. 例でわかるNG→OK

  • NG:「私が料理をしているとき、よくつまみ食いする。」
    OK:「私が料理をしているとき、妹がよくつまみ食いする。」(主体を明示)

3. 意味の輪郭:修飾語と被修飾語

3-1. 定義と要点

  • 修飾語=説明する語、被修飾語=説明される語。
  • 距離は近く、修飾は簡潔に。位置で意味が変わる点にも注意。

3-2. 修飾語と被修飾語まとめ」の実務ルール

  • 修飾語と被修飾語はなるべく近く
  • 修飾が長いときは分割して整理

3-3. 例でわかる距離の効果

  • 改善例:「すぐには売れなくても、丁寧に手作りされたこの商品を、できるだけ多くのお客様に届けたい。」
    (「できるだけ多く」⇔「お客様」を近づける)

4. 文を締める“助詞”:機能別ミニ辞典

4-1. 使い分けの要旨

  • :新情報・主体の強調(初出の主語に適する)
  • :既出の話題・比較や対比(以降の主題に)
  • :方向・目的地・受け手・存在
  • :動作の対象・通過
  • より:比較(語順=主語→比較対象(より)→述語

4-2. よくある混乱の“型”で覚える

  • 初出=が/続き=は(話題の切り替えサイン)
  • 方向には「に」(例:「彼は駅走って向かった」)
  • 比較の語順:「父は母より優しい」

5. 段落を運ぶ“接続語”:6分類で迷いゼロ

5-1. 6分類の一覧

順接/逆接/並列・追加/選択/補足・言い換え/転換。代表語は以下の通り。

  • 順接:だから・〜ので
  • 逆接:しかし・けれども
  • 並列・追加:そして・さらに・また
  • 選択:または・もしくは・あるいは
  • 補足・言い換え:つまり・たとえば・すなわち
  • 転換:さて・ところで・それでは

5-2. 例題で定着

  • 「朝から雨が降っていた。しかし、試合は予定通り開催された。」(逆接)
  • 「彼はリーダータイプだ。たとえば、発言力と判断力に優れている。」(補足・言い換え)

6. すぐ使える“原稿の運転免許”チェックリスト

  1. 3W1H・ペルソナ・一文メッセージが書き出し前に揃っているか。
  2. 主語=述語は対応し、ねじれ・欠落がないか。主述は近いか
  3. 修飾語⇄被修飾語は近接し、冗長なら分割したか。
  4. 助詞(が/は/に/を/より)の役割と語順は適切か。
  5. 接続語は6分類のどれかで、段落の関係が明示されているか。
  6. 音読して引っかかる箇所(主述ねじれ・修飾の離れ・助詞の違和感)がないか。→違和感はねじれ等の兆候

7. NG→OK集:そのまま使える“現場メモ”

  • 主題の導入(が/は)
    NG:「A君は野球をしていました。…A君が帰りました。」
    OK:「A君野球をしていました。…A君帰りました。」(初出=が/以降=は)
  • 方向の助詞
    OK:「彼は駅走って向かった。」(“に”は方向)
  • 比較の語順
    OK:「父は母より優しい。」(主語→比較対象→述語)
  • 修飾の距離
    OK:「…できるだけ多くのお客様に届けたい。」(修飾語を被修飾語へ寄せる)

8. 段落テンプレ:結論→理由→具体例→橋渡し

  • 結論(一文メッセージ)→理由(事実/データ)→具体例(たとえば)→橋渡し(だから/しかし 等)。
  • 「たとえば」は補足・言い換えの接続語として、前段の主張を具体に支える。

おわりに

“設計→文法→運用”の三点セットを回すと、情報は伝わる文章に変わります。明日からは、冒頭の3W1Hと一文メッセージを書き出し前に整え、本文では主述の近接と修飾の整理、段落では接続語の6分類を意識してみてください。企画書でも採用記事でも、読み手の迷子は確実に減ります。