AIインフラエコシステムにおける循環取引疑惑の法廷会計学的分析

I. 序論:1兆ドル規模のAIエコシステムと循環性の影
人工知能(AI)インフラセクターには、現在、前例のない規模の資本が流入している。この巨大な資金の流れの中心には、OpenAI、NVIDIA、Microsoftといった一握りの主要企業が存在し、彼らの間で結ばれる複雑な提携関係が業界の未来を形作っている 1。公式には、これらの取引は次世代AIを構築するために不可欠な共生的パートナーシップとして語られている。しかし、その裏では、売上と企業価値を人為的に膨らませるために設計された、高度な金融工学ではないかという疑惑が浮上している。
本レポートは、この対立する二つの見解を徹底的に検証するものである。ユーザーからの調査依頼に基づき、OpenAI、NVIDIA、Microsoft、そしてそれらを取り巻くパートナー企業(Stargateプロジェクトを含む)の間で交わされる、相互に連関した取引網を分析する。これらの取引は、AI開発という壮大な目標を達成するための正当な戦略的必要性から生まれたものなのか、それとも会計不正の一形態である「循環取引」や、その米国版である「ラウンドトリッピング」の特性を示すものなのか。この中心的な問いに答えるため、本レポートでは法廷会計学的なアプローチを採用する。まず不正の定義を明確にし、資金とリソースの流れをマッピングし、確立された不正の兆候(レッドフラグ)と照らし合わせて取引を分析する。そして最後に、公表されている経済的・戦略的正当性と比較検討することで、この巨大エコシステムの財務的実態に迫る。
II. 循環取引の解剖:法廷会計学的および法的フレームワーク
AIエコシステムにおける取引を分析する前に、その評価基準となる法廷会計学的および法的な枠組みを確立する必要がある。ここでは、日本における「循環取引」と米国における「ラウンドトリッピング」の概念を定義し、それらの不正行為を特定するための具体的な指標を提示する。
「循環取引」の定義と仕組み
日本の会計・法制度において「循環取引」とは、複数の企業が共謀し、特定の商品の売買をグループ内で繰り返すことによって、架空の売上や利益を不正に計上する行為を指す 4。その典型的な手口は、A社がB社に商品を販売し、B社がC社に転売し、最終的にC社がA社に売り戻すというA→B→C→Aのサイクルで示される。多くの場合、物理的な商品の移動は伴わず、伝票(インボイス)と資金決済のみが循環する架空取引である 4。
循環取引が行われる主な動機は三つある。第一に、決算期末に売上目標を達成するための「売上高の水増し」。第二に、損失を隠蔽するために他社から利益を付け替える「利益操作」。そして第三に、架空の売掛金を担保に手形割引などで短期的な運転資金を確保する「資金調達」である 4。
「ラウンドトリッピング」の定義(米国における相当概念)
米国における「ラウンドトリッピング」は、循環取引と類似した不正会計手法であり、「関連企業間で同一または類似の資産を繰り返し売買することにより、企業の財務健全性について投資家を誤解させたり、人為的な収益を生み出したりする欺瞞的な金融操作」と定義される 9。この手法には、証券市場における「仮装売買(wash trades)」や「見せ玉(churning)」といった形態も含まれる 9。
ラウンドトリッピングの核心は、取引の真の商業的性質を意図的に隠蔽し、実質的な経済的便益が何ら生じていないにもかかわらず、会計上の取引があったかのように見せかける点にある 10。
法的および規制上の影響
これらの行為は、日米双方で厳格な法的罰則の対象となる。
- 日本: 循環取引によって有価証券報告書に虚偽の記載をした場合、金融商品取引法違反に問われる。これには、個人に対して最大で10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、法人に対しては最大7億円以下の罰金が科される可能性がある 5。さらに、関与した役員は会社法上の特別背任罪や、刑法上の詐欺罪に問われるリスクもある 4。
- 米国: ラウンドトリッピングは、連邦法に基づき重大な犯罪と見なされる。電子通信手段を用いて詐欺的スキームを実行した場合、通信詐欺罪(18 U.S.C. 1343)が適用される。また、証券に関連して投資家を欺いた場合は、証券詐欺罪(18 U.S.C. 1348)として起訴される可能性がある 9。これらの犯罪の核心的な要件は、不正を立証するための「欺罔の意図(intent to deceive)」の存在である 9。
法廷会計士のチェックリスト:循環性のレッドフラグ
法廷会計学の観点から、循環取引やラウンドトリッピングの存在を示唆する危険信号(レッドフラグ)は、以下の三つのカテゴリーに分類できる。これらの指標は、後のセクションでAIエコシステムの取引を評価する際の基準となる。
- 取引レベルの兆候:
- 取引に商業的実態がない(後述) 10。
- 同額かつ反対方向の取引が同時に行われる 10。
- 取引金額が異常に大きい、または取引頻度が不自然に高い 6。
- 売掛金の回収サイトが買掛金の支払サイトに比べて異常に長い 6。
- 財務諸表上の兆候:
- 売上成長率が同業他社やキャッシュフローの伸びを大幅に上回る 10。
- 売上成長が異常に安定的、または報告期間末に急増する 10。
- 架空の売上を裏付けるために、在庫水準が不自然に高い 10。
- 大量の売上に対して売上総利益率が異常に低い 15。
- オペレーション上の兆候:
- 取引の権限が特定の個人に集中している 4。
- 内部監査体制が脆弱である 4。
- 同一の企業が、特定の取引において顧客であると同時に仕入先でもある 10。
これらの兆候の中でも特に重要なのが「商業的実態(commercial substance)」の有無である。会計基準上、収益を認識するためには、取引が企業の将来のキャッシュフロー、リスク、またはタイミングを実質的に変更するものでなければならない 10。したがって、法廷会計学的な分析の中心的な問いは、「資金が円環を描いて流れているか」だけでなく、「その円環的な流れが、単なる財務諸表の粉飾を超えて、真に防御可能な経済的価値を生み出しているか」という点になる。
III. 金融ウェブのマッピング:主要プレイヤーと画期的な取引
ここでは、現代のAIインフラエコシステムを定義する、複雑に絡み合った金融およびリソースのコミットメントのネットワークを詳細に記録し、図式化する。このセクションは、後続の分析の事実的基盤となる。
ハブ:Stargateプロジェクト
Stargateプロジェクトは、このエコシステムの中心に位置する巨大な構想である。
- 目的と規模: 米国内にAIインフラを構築するため、今後4年間で5000億ドルを投資する共同事業。初期投資として1000億ドルが即時展開される 16。
- 主要パートナーと役割:
- 株式出資者: SoftBank、OpenAI、Oracle、MGX(アブダビの投資ファンド) 16。
- リーダーシップ: 会長はSoftBankの孫正義氏(財務責任)、オペレーション責任はOpenAIのSam Altman氏が担う 16。
- 技術パートナー: Arm、Microsoft、NVIDIA、Oracle、OpenAI 16。
- 資金調達構造: 株式と負債の組み合わせで資金を調達する。OpenAIとSoftBankはそれぞれ150億ドル以上を出資する意向 19。Oracleはテキサスのデータセンター向けに70億ドル相当のチップを購入すると見られている 19。このモデルは、出資者から10%の株式出資を求め、残りを優先株やデットファイナンスで賄う可能性があるが、その返済は不確実な将来のAIサービス収益に依存している 20。
エンジン:NVIDIAとOpenAIの共生関係
最も直接的で疑惑の目が向けられているのが、NVIDIAとOpenAIの間の取引である。
- 取引内容: NVIDIAは、OpenAIが10ギガワット(GW)のNVIDIA製システムを導入するのに合わせて、最大1000億ドルを段階的にOpenAIに投資する 3。
- 資金の流れ: NVIDIAがOpenAIに資本(投資)を提供し、OpenAIはその資本(またはそれを裏付けとして確保した資金)を用いてNVIDIAのGPUやシステムを購入(売上)する 3。これが、最も直接的な「循環」フローを形成している。
- 戦略的共同最適化: このパートナーシップには、両社の開発ロードマップを連携させ、OpenAIのソフトウェアとNVIDIAのハードウェアを共同で最適化する、という技術的な側面も含まれる。これは後述する「商業的実態」の議論において重要な要素となる 21。
イネーブラー:Microsoftの枢要な役割
Microsoftは、このエコシステムにおいて不可欠な役割を果たしている。
- 投資と構造: 総額130億ドル以上の投資コミットメント 26。この投資の大部分は、直接的な現金ではなく、Azureクラウドの利用クレジットという形で提供されている 28。
- AzureとNVIDIAの連携: OpenAIは、提供されたAzureクレジットを使い、Azureのインフラ上で稼働するNVIDIA製GPUで大規模なワークロードを実行する 30。これは、MicrosoftからOpenAIへの「投資」が、Microsoft自身(Azureの消費)とNVIDIA(MicrosoftへのGPU販売)の双方の売上に直接貢献することを意味する。UBSの分析によれば、MicrosoftのAzure AI収益の最大半分がOpenAIのワークロードに関連していると推定されている 30。
- 利益分配: Microsoftは、130億ドルの投資を回収するまでOpenAIの利益の75%を、その後は所定の上限に達するまで49%を受け取る権利を持つ 27。この複雑な構造は、Microsoftの深い財務的関与を示している。
拡大するエコシステム
この中核的な関係の周りには、さらに複雑な取引網が広がっている。
- Oracle: OpenAIと5年間で3000億ドル規模のクラウド契約を締結 1。その一方で、Oracleはこの契約を履行するために必要なデータセンターを構築するため、NVIDIAから数兆円規模のチップを購入している 34。これにより、OpenAI → Oracle → NVIDIAという二次的なループが形成される。
- AMD: 6GW分のGPUを供給する数十億ドル規模の契約。この取引には、OpenAIがAMDの株式の最大10%を取得できるワラント(新株予約権)が含まれており、これはOpenAIがAMDの企業価値を押し上げる見返りに、実質的な割引価格でチップを確保する仕組みである 1。
- CoreWeave: 「ネオクラウド」と呼ばれる新興プロバイダー。NVIDIAはCoreWeaveの株主であり、OpenAIはCoreWeaveと数十億ドル規模の契約を結んでいる。ここにも三角関係が存在する 35。
表3.1:AIインフラエコシステムにおける資本とリソースの流れのマッピング
| 提供元 | 提供先 | 取引内容 | 公表価値 | フローの性質 | 主要な移転リソース | 典拠ID |
| NVIDIA | OpenAI | AIインフラに関する戦略的パートナーシップ | 最大1000億ドル | 段階的投資(株式) | 資本、共同最適化されたH/W・S/Wロードマップ | 3 |
| OpenAI | NVIDIA | GPUおよびシステムの購入 | N/A(1000億ドルの取引から派生) | 売上支出 | GPU(Vera Rubinプラットフォーム等)の発注 | 3 |
| Microsoft | OpenAI | 複数年にわたるパートナーシップ | 130億ドル以上 | 投資(現金およびクラウドクレジット) | 資本、Azureコンピュートクレジット、IP権 | 26 |
| OpenAI | Microsoft | Azureクラウドの消費 | N/A(クレジット利用) | サービス消費 | Azureインフラ(NVIDIA GPU搭載)の利用 | 28 |
| Microsoft | NVIDIA | Azure向けGPUの購入 | 300億ドル以上(2024年、約48.5万基) | 設備投資 | H100, GB200等の発注 | 41 |
| OpenAI | Oracle | クラウドコンピューティング契約 | 3000億ドル(5年間) | サービス契約 | OCIクラウドキャパシティの購入 | 1 |
| Oracle | NVIDIA | OCI向けGPUの購入 | 数百億ドル | 設備投資 | OpenAI契約履行のためのGPU発注 | 34 |
| OpenAI | AMD | GPU供給契約 | 数十億ドル | 購入契約+株式関連商品 | 6GW分のGPU購入、AMD株式10%分のワラント受領 | 1 |
| Stargate JV | 各種 | AIインフラ構築 | 5000億ドル(目標) | 設備投資 | 土地、電力、建設、設備(GPU) | 16 |
| SoftBank, Oracle, MGX | Stargate JV | 初期資金提供 | 330億ドル以上(株式部分) | 株式投資 | JV運営のための資本 | 17 |
IV. 循環性の立証:法廷会計学的証拠の検証
本セクションでは、セクションIIで確立した法廷会計学的フレームワークを、セクションIIIでマッピングした取引に適用する。これにより、これらの取引が不正な循環スキームの特性を顕著に示しているという論拠を構築する。
中核ループ:NVIDIAの「循環収益」
このエコシステムに対する疑惑の中心には、NVIDIAとOpenAIの間の取引がある。Goldman Sachsのアナリストをはじめとする市場関係者は、NVIDIAがOpenAIに投資し、その資金がNVIDIA製品の購入に充てられるという構造を「循環収益(circular revenue)」に類似していると指摘している 24。
財務諸表への影響を分析すると、この構造の巧妙さが明らかになる。NVIDIAの投資は「投資キャッシュフロー」からの支出として計上される一方、OpenAIからの購入代金は「営業キャッシュフロー」への収入(売上)として記録される。これにより、投資家が重視する売上成長率や営業指標を人為的に押し上げることが可能となる。この手法は、2000年前後のドットコムバブル期に見られたベンダーファイナンスのスキームと著しい類似性を持つ。当時、Ciscoなどの企業は自社の顧客に融資を行い、その資金で自社製品を購入させることで、実態のない需要を創出していた 45。ここでの重要な共通点は、需要が市場から自然発生したものではなく、供給者自身の資本によって作り出されているというリスクである。
相互依存のエコシステム:明白なレッドフラグ
この中核ループの周辺には、不正会計を示唆する数々のレッドフラグが存在する。
- 独立した第三者間取引の欠如: NVIDIAがOpenAIとCoreWeaveに投資し、さらにOpenAIがCoreWeaveに投資するという相互の資本関係は、これらの企業間の取引が独立した第三者間で(アームズレングスで)行われていないことを示唆する。このような相互に連関した所有構造は利益相反を生み、真に競争的な市場では成立し得ない取引を可能にする 35。
- 異例の取引構造: 特にAMDとの取引は、その異例さで際立っている。GPUの購入契約に、AMDの株式10%を取得できるワラントを付与するという資金調達メカニズムは、単なる部品調達の枠を大きく超えている 37。これは、取引の目的が純粋な調達だけでなく、金融工学的な手法を用いて互いの企業価値を吊り上げることも含まれていることを強く示唆している。
- 不透明性と集中リスク: 1兆ドル規模とも言われるこのエコシステム全体が、いまだ利益を上げていない一社のスタートアップ、OpenAIの財務健全性と指数関数的な成長に依存しているように見える 30。Bernsteinのアナリスト、Stacy Rasgon氏が指摘するように、Altman氏は「世界経済を10年間クラッシュさせる力も、我々全員を約束の地に導く力も持っている」 24。このような極端なシステミックリスクの集中は、それ自体が重大なレッドフラグである。
持続可能性への疑問
これらの取引の持続可能性には大きな疑問符が付く。OpenAIは、2025年上半期に25億ドルの現金を消費するなど、莫大なキャッシュバーンを続けており、収益性は確保されていない 30。Goldman Sachsの分析によれば、OpenAIは2026年だけで620億ドルの資金不足に陥る可能性があり、循環的な資金注入なしに現在の支出レベルを維持できるかは極めて不透明である 44。
これらの取引構造は、「バリュエーションの再帰性」とでも言うべき強力なフィードバックループを生み出している。まず、NVIDIAがOpenAIへの1000億ドル投資を発表すると、市場の信頼感が醸成され、OpenAIの企業価値が上昇する 46。次に、OpenAIがその資金でNVIDIAに大規模な発注を行うと、NVIDIAの将来の収益が保証され、その株価と時価総額が押し上げられる 47。価値の上がったNVIDIAは、さらに顧客への戦略的投資を行う余力を得る。同時に、AMDとの取引では、OpenAIの需要がAIセクター全体を押し上げることでAMDの株価が上昇し、ワラントの価値が高まる。これにより、OpenAIにとっての実質的なチップコストは低下する 36。このように、各社の企業価値がループ内の他社の行動によって正当化されるという自己増殖的なサイクルが形成されており、これは投機的バブルの典型的な特徴と一致する。
V. 正当性の主張:戦略的合理性と経済的必然性
前セクションで提示された疑惑に対し、本セクションでは強力な反論を展開する。すなわち、これらの前例のない取引構造は不正ではなく、特異な技術的・地政学的状況に対する合理的かつ必然的な対応であるという見方である。
経済的合理性:汎用技術(GPT)としてのAI
経済学において、蒸気機関や電気のように経済を根本的に変革する技術は「汎用技術(General-Purpose Technology, GPT)」と呼ばれる 49。AI、特に汎用人工知能(AGI)は、次なるGPTと見なされており、広範な収益性が確立される前に大規模な先行インフラ投資を行うことは合理的であると主張される 49。投資の規模は、期待される経済変革の規模に対する合理的な応答なのである 52。
この見解は、関係企業のリーダーたちの発言にも裏付けられている。Sam Altman氏の「すべてはコンピュートから始まる」という言葉や、Jensen Huang氏の「これは歴史上最大のAIインフラプロジェクトだ」という声明は、これらの取引が新たな経済の基盤を築くための基礎的投資であることを示唆している 21。
戦略的合理性:サプライチェーンの確保
- リソースの希少性: 最先端GPUの供給が限られている世界において、これらの大規模契約は、OpenAIが競合他社に先んじるために必要な、複数年にわたる巨大な計算能力を確保するための戦略的必然である 1。
- 高度な技術的共同最適化: パートナーシップは単なる金融的なものではない。NVIDIAとOpenAIの間でハードウェアとソフトウェアのロードマップを深く統合し、共同で最適化することが含まれている 21。この協力関係は、既製品の部品を購入するだけでは実現不可能な、より効率的で強力なAIシステムを生み出すため、真の「商業的実態」を持つ。これは、循環取引の要件である「経済的実態の欠如」という非難に対する直接的な反論となる。
- 供給者(NVIDIA)のリスク軽減: NVIDIAの視点から見れば、次世代の製造工場(ファブ)やチップを開発するために必要な莫大な設備投資は、極めてリスクが高い。OpenAIのような中核的な顧客から10GW分の需要を確保することは、この投資のリスクを軽減し、数十億ドル規模の研究開発や製造に踏み切るために必要な需要の可視性を提供する 55。
地政学的合理性:国家主権AIをめぐる競争
Stargateプロジェクトは、米国と中国との間の地政学的な競争という文脈で捉える必要がある 50。このプロジェクトは、「AIにおける米国のリーダーシップを確保し」「国家安全保障を保護する」ことを明確な目的として掲げている 16。この国家的な要請は、投資の規模と構造に対して、商業的なものとは別の強力な正当性を与える。プロジェクト自体が、新たな「マンハッタン計画」や「アポロ計画」になぞらえられていることからも、その性格がうかがえる 57。ホワイトハウスでの発表など、政府の支援や関与もこの文脈で説明できる 17。
これらの取引は、純粋な企業金融のレンズを通してだけでは分析できない。それらは、テクノ・ナショナリズムに基づく産業政策の手段としての側面を持つ。参加者や政府関係者が用いる「米国のリーダーシップを確保する」「国家安全保障」といった言葉は、通常の企業活動で使われるものではない 16。5000億ドルという投資規模は、民間企業の事業というよりは国家的なインフラプロジェクトに匹敵する 53。これは、投資収益率(ROI)がドルだけで測られるのではなく、地政学的な優位性や技術的主権といった指標でも評価されることを示唆している。したがって、法廷会計学的な観点からは、これらの取引は、もしOpenAIが典型的なスタートアップであれば狭義の「商業的実態」テストに不合格となるかもしれないが、重要な国家インフラを構築するための官民連携の取り組みとして見なした場合、より広義の「戦略的実態」テストに合格する可能性がある。この視点は、単純な不正の断定を複雑にする。
VI. 統合と専門家の結論:戦略的共生か、金融的幻想か
本セクションでは、セクションIVとVで提示された証拠を比較検討し、専門家としての多角的な判断を下す。ここでは、「合法的か違法か」という二元論的な結論を避け、金融リスクと正当性のスペクトラム上でこれらの取引を評価する。
証拠の比較検討
- レッドフラグの認識: NVIDIAとOpenAIの投資対売上ループに代表される金融構造は、歴史的な循環取引スキームと著しい類似性を持ち、数多くの法廷会計学的レッドフラグを示していることは認めざるを得ない。売上と企業価値が人為的に膨らまされている可能性は現実的かつ重大である。
- 経済的実態の評価: その一方で、技術的な共同最適化、希少な供給網の確保、そしてGPTという経済モデルといった反論が、これらの取引を正当化するのに十分な「経済的実態」を提供しているかを評価する必要がある。結論は、取引の主たる目的が戦略的必然性にあるのか、それとも金融工学にあるのかという点にかかっている。
結論:古典的な不正ではなく、高リスクな戦略的共生
これらの取引は形式的には「循環的」であるが、法的な詐欺の基準を満たす可能性は低いと結論付ける。詐欺罪の成立には明確な「欺罔の意図」が必要とされるが 9、前例のない技術的・地政学的な要求に基づいた正当化の主張は、たとえ極めて攻撃的で高リスクな金融構造を通じて追求されているとしても、真摯なものであるように見える。
したがって、このエコシステムは、意図的な不正スキームとしてではなく、**「過剰にレバレッジされた、高リスクな戦略的共生関係」**として特徴づけるのが最も適切である。参加企業は極度なレベルで相互に依存しており、信じがたいほど革新的であると同時に、財務的には極めて脆弱なエコシステムを形成している。ここでの「循環性」は、欠陥ではなく、前例のない規模の問題を解決するために巨大な資本とリソースを集中させる戦略の「特徴」である。しかし、それは約束された技術的・経済的リターンが実現しなかった場合に、壊滅的なバブル崩壊を招くという固有のリスクを内包している。
VII. 提言と展望
本最終セクションでは、対象読者に対する実践的な助言を提供し、AIセクターのリスクと今後の進化についての展望を示す。
投資家および規制当局への提言
- 見出しの売上を超えて見る: 投資家は、自社が多額の株式を保有する顧客から得られる収益を大幅に割り引いて評価すべきである。企業に対し、これらの関係性の透明な開示を要求することが不可欠である。
- オーガニックなエンドユーザー需要に焦点を当てる: エコシステムの健全性を測る真の指標は、主要プレイヤー間の取引額ではなく、投資ループの外部にいる第三者の法人および個人顧客から生み出される収益である。
- システミックリスクのストレステスト: 規制当局は、OpenAIのような重要な結節点での破綻がもたらすシステミックリスクをモデル化し、市場全体への連鎖的な影響を評価すべきである。
展望:AIバブルと長期的な持続可能性
ドットコムバブルの崩壊と同様に、持続不可能なビジネスモデルを持つプレイヤーを淘汰する市場調整、すなわち「AIバブル」の崩壊が起こる可能性は高いと見られる 24。
この投資モデルが長期的に持続可能かどうかは、AIが資本集約的なインフラ構築フェーズから、収益性の高いアプリケーション主導フェーズへと移行できるかに完全に依存している。この移行のタイミングが、最大かつ唯一の不確実性である。現在の循環的な金融ウェブは、AIの経済的価値が自己持続的になることが期待される未来への、一時的ではあるが危険な架け橋である。法廷会計学的なリスクは、その橋がどこにも繋がっておらず、それを築いた資本が価値に関する集団的な幻想に基づいていたという可能性に他ならない。
引用文献
- Nvidia, AMD, Oracle and more: ChatGPT-maker OpenAI has locked $1,000,000,000,000 in deals this year https://timesofindia.indiatimes.com/technology/tech-news/nvidia-amd-oracle-and-more-chatgpt-maker-openai-has-locked-1000000000000-in-deals-this-year/articleshow/124389858.cms
- From OpenAI to Meta, firms channel billions into AI infrastructure as demand booms https://indianexpress.com/article/technology/artificial-intelligence/from-openai-to-meta-firms-channel-billions-into-ai-infrastructure-as-demand-booms-10292668/
- ETtech Explainer: OpenAI deals with AMD, Nvidia spark bubble concerns https://m.economictimes.com/tech/artificial-intelligence/ettech-explainer-openai-deals-with-amd-nvidia-spark-bubble-concerns/articleshow/124364882.cms
- 循環取引とは? 違法性の判断基準・罰則・企業の注意点 https://corporate.vbest.jp/columns/6567/
- 循環取引は不正です! – 日本公認会計士協会 https://jicpa.or.jp/business/ipokansa/awareness.pdf
- 循環取引に対応する内部統制に関する共同研究報告 https://www.iiajapan.com/leg/pdf/iia/info/20240408_01.pdf
- 循環取引とは?行われる目的や定義、問題な理由や罰則を解説 | HUPRO MAGAZINE | 士業・管理部門でスピード内定|ヒュープロ https://hupro-job.com/articles/1010
- グルグルまわる循環取引 事例と解決策を説明!【JWBS ハラスメント相談窓口】 https://jwbs.co.jp/whistleblowing/5675/
- What Is “Round Tripping” in Trading? – Federal Criminal Defense Attorney https://www.thefederalcriminalattorneys.com/round-tripping
- Revenue Recognition Frauds for Lawyers: Round Tripping – Forensic Risk Alliance https://www.forensicrisk.com/news-and-insights/revenue-recognition-frauds-for-lawyers-round-tripping
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- To Me, To You: Round-Tripping Fraud – Sedulo Forensic Accountants https://seduloforensic.co.uk/crime-fraud/to-me-to-you-round-tripping-fraud
- 循環取引とは? グループ内で行う仕組みや罰則となる基準を簡単に解説 https://journal.bizocean.jp/corp03/c03/4614/
- Dont Be Fooled: Key Red Flags In Round-Tripping Strategies – Financial Crime Academy https://financialcrimeacademy.org/red-flags-in-round-tripping/
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- Top 8 Facts About The Stargate AI Project – Blackridge Research & Consulting https://www.blackridgeresearch.com/blog/facts-you-need-to-know-about-openai-stargate-ai-data-center-project-abilene-texas-united-states-us-united-arab-emirates-uae
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- Doomsday or new dawn: what will Nvidia, OpenAI’s circular dealmaking bring https://m.economictimes.com/tech/technology/doomsday-or-new-dawn-what-will-nvidia-openais-circular-dealmaking-bring/articleshow/124388110.cms
- With a Web of Circular Deals, OpenAI and Nvidia Fuel a $1 Trillion Ai Market – TradeAlgo https://www.tradealgo.com/news/with-a-web-of-circular-deals-openai-and-nvidia-fuel-a-1-trillion-ai-market
- Microsoft buys over 100000 GPU Nvidia’s $19,4 billion GB300 for internal AI teams https://en.gamegpu.com/iron/Microsoft-is-purchasing-more-than-100-000-NVIDIA-GB300-GPUs-for-19.4-billion-for-its-internal-II-teams.
- Microsoft Acquired Nearly 500,000 NVIDIA “Hopper” GPUs This Year | TechPowerUp https://www.techpowerup.com/330027/microsoft-acquired-nearly-500-000-nvidia-hopper-gpus-this-year
- Prediction: Nvidia Will Be the Biggest Winner in Microsoft’s $80 Billion AI Spending Spree https://www.nasdaq.com/articles/prediction-nvidia-will-be-biggest-winner-microsofts-80-billion-ai-spending-spree
- Goldman Sachs is not convinced with Nvidia’s investment in OpenAI … https://timesofindia.indiatimes.com/technology/tech-news/goldman-sachs-is-not-convinced-with-nvidias-investment-in-openai-and-intel-says-some-of-this-/articleshow/124367383.cms
- NVIDIA’s $100 Billion OpenAI Bet: The Risks of Circular Investment in AI Infrastructure https://elnion.com/2025/10/05/nvidias-100-billion-openai-bet-the-risks-of-circular-investment-in-ai-infrastructure/
- Do OpenAI’s multibillion-dollar deals mean exuberance has got out … https://www.theguardian.com/business/2025/oct/08/openai-multibillion-dollar-deals-exuberance-circular-nvidia-amd
- Nvidia to invest $100 billion in OpenAI : r/BetterOffline – Reddit https://www.reddit.com/r/BetterOffline/comments/1nnrkm8/nvidia_to_invest_100_billion_in_openai/
- Microsoft’s $33 billion bet on neoclouds exposes how far it will go to dominate AI power and Nvidia supply | TechRadar https://www.techradar.com/pro/microsoft-just-got-its-hands-on-100-000-nvidia-gb300-chips-and-all-it-took-was-investing-usd33-billion-in-these-startups
- Artificial Intelligence and Intellectual Property: An Economic Perspective – WIPO https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo-pub-econstat-wp-77-en-artificial-intelligence-and-intellectual-property-an-economic-perspective.pdf
- Artificial Intelligence and the Future of European Industrial Policy https://www.fondazionecsf.it/en/activities/research/commentaries/artificial-intelligence-and-the-future-of-european-industrial-policy
- ARTIfIcIAL INTELLIGENcE: REvOLuTIONARy POTENTIAL AND HuGE uNcERTAINTIES – World Bank Open Knowledge Repository https://openknowledge.worldbank.org/bitstreams/9040dbbb-8594-4083-a399-24592313f907/download
- AI and Venture Capital: Redefining Investment Strategies in 2025 https://www.mahdlo.net/blog/ai-venture-capital-innovation
- Acceleration of AI Investment and Its Impact – Cadira Capital Management https://cadiracm.com/news-en/42ho4wnh
- ‘The world needs much more..’: Sam Altman after OpenAI-AMD deal announcement https://timesofindia.indiatimes.com/technology/tech-news/the-world-needs-much-more-sam-altman-after-openai-amd-deal-announcement/articleshow/124343676.cms
- Quick View: Are NVIDIA investors missing the woods for the trees? https://www.janushenderson.com/en-gb/adviser/article/quick-view-are-nvidia-investors-missing-the-woods-for-the-trees/
- Nvidia vs. Microsoft: Which Stock Is the Better Buy After Their OpenAI Investments? | Nasdaq https://www.nasdaq.com/articles/nvidia-vs-microsoft-which-stock-better-buy-after-their-openai-investments
- [AINews] Project Stargate: $500b datacenter (1.7% of US GDP) and Gemini 2 Flash Thinking 2 – Buttondown https://buttondown.com/ainews/archive/ainews-project-stargate-500b-datacenter-17-of-us/
- OpenAI, Oracle, and SoftBank expand Stargate with five new AI data center sites https://openai.com/index/five-new-stargate-sites/


