個人投資家が、AI関連株のニュースを読んだ。見出しは「AIの循環取引は不正か」。
投資家は、記事を三本読んだ。三本とも、結論は合法の側に寄っていた。
不正ではないらしい。では、株は持ち続けてよいのか。
株を持ち続けるかを決める材料は、ゼロのままだった。
三本の記事は、なぜ投資の材料にならなかったのか。
2025年10月、AIのお金は輪を描いて回っていた
見出しの裏には、巨額の取引が網の目のように交わっていた。
NVIDIAは、OpenAIに最大1000億ドルを段階的に投資する。OpenAIが10ギガワット分のNVIDIA製システムを導入するのに合わせた投資だ。
OpenAIは、受け取った資本でNVIDIAのGPUを買う。
Microsoftの130億ドル以上の投資は、多くがAzureの利用クレジットだった。
2023年11月には、米メディアのSemaforが関係者の話として報じている。Microsoftの100億ドルの投資の多くが、クラウドの計算資源に結びついていた。
OpenAIは、Oracleと5年間で3000億ドル規模のクラウド契約を結んだ。Oracleは、契約をこなすためにNVIDIAからGPUを買う。
お金は、出資者から顧客へ渡り、また出資者へ戻る。
Goldman Sachsのアナリストらは、AIの取引の構造が循環収益に似ていると指摘した。分析によれば、OpenAIは2026年だけで620億ドルの資金不足に陥る可能性がある。
輪の一点で資金が詰まれば、輪につながる企業の売上に響く。株を持つ投資家にとって、見出しの問いより重い話である。
「不正か」の問いが答えていたのは、責任の行方だった
見出しの循環取引は、日本では会計不正の呼び名である。
複数の企業が共謀し、同じ商品の売買をグループ内で回す。回した売買で、架空の売上や利益を計上する。
典型は、A社からB社、B社からC社、C社からA社へ売り戻す輪だ。モノは倉庫に置いたまま、伝票とお金だけが回る例が多い。
米国で近い概念は、ラウンドトリッピングである。詐欺として立件するには、欺く意図の立証が要る。
収益として認めるには、商業的実態が要る。取引が、将来の現金の出入りやリスクを実質的に変えることだ。
AIの輪を正当化する側の言い分は三つある。汎用技術への先行投資、希少なGPUの確保、Stargateの官民連携が掲げる国家安全保障だ。
元の分析は、高リスクな戦略的共生と結論した。
不正か共生かは、崩れたときに誰が責任を負うかを決める問いである。三本の記事が答えたのも、責任の問いだった。
合法な輪も、不正な輪と同じ順番で止まる
合法なら安心だ、と読みたくなる。だが、欺く意図の不在を証明しても、資金が尽きた会社の発注は止まる。
輪の中のお金が尽きれば、合法な共生も、不正な循環と同じ順番で止まる。
順番は三段だ。
まず、結節点の資金繰りが詰まる。
次に、結節点への売上を見込んだ企業の受注が消える。
最後に、受注を失った企業の仕入れ先へ、連鎖が広がる。
逆の筋書きもある。輪の外の需要が計画どおりに伸びれば、いまの輪は、需要が育つまでの配管だったことになる。
どちらに転ぶかを分けるのは、法律の解釈ではない。輪の外から入る現金の量だ。
株価を最後に決めるのも、輪の外から入ってくる現金である。
決算資料をAIに渡す前に、問いを置き換える
不正かどうかを尋ねる問いは、責任の行方を探す問いである。投資の意思決定に要る問いは、三つある。
一つ目は、調べる企業が出資している顧客から得た売上の額。
二つ目は、輪の外の企業や個人の顧客が払う額。
三つ目は、結節点が傾いたときに連鎖が届く範囲。
決算ごとに、同じ三項目を記録する。数字の向きが変われば、意思決定を見直す合図になる。
次の文面のかっこの中を、自分の注目する企業に書き換えて使う。
次の決算資料から、三つの数字を抜き出してください。
資料:(例:注目している企業の直近の決算資料を添付します)
1 資料の企業が出資している顧客から得た売上
2 1以外の企業や個人の顧客から得た売上
3 売上の多くを占める取引先が支払いを止めたときに、影響を受ける事業
数字ごとに、資料の該当ページを示してください。
何を問うかを決めるのは、投資家の側だ。見出しの問いを、輪の外の現金という自分の問いに置き換える。
置き換えてから、AIに渡す。
四本目の記事を探す前に、開くもの
三本の記事が答えたのは、誰が責任を負うかだった。投資家に要ったのは、輪の外から誰がいくら払うかである。
四本目の記事を探す前に、決算資料を開く。輪の外の顧客が払う売上の一行が、最初の材料になる。
この記事の考え方は、拙著『ChatGPTではじめるAI株式投資』の「はじめに」のうち「なぜ勉強熱心なあなたが株式投資で勝てないのか」に書きました。読むと、巨額の取引のニュースが続く中で、何を基準に情報を選び、何を見送るかを自分で決められるようになります。
情報を集めるほど、判断がぶれるのはなぜか。
『ChatGPTではじめるAI株式投資』
成果を分けるのは、投資の軸の有無。AIを予言者ではなく壁打ち相手にして、自分の価値観を芯、軸、ルールの三段で言葉にする本です。
読み終えたとき、手元に残るもの
- やらないことまで書いた、自分の投資の軸
- スクリーニング、売買、ポートフォリオの三つのルール
- AIの知ったかぶりを見抜く1分チェック
- 失敗を次の判断に変える感想戦
本書は投資助言を行いません。特定の銘柄を勧める本ではありません。
出典
- Announcing The Stargate Project | OpenAI
- OpenAI and NVIDIA Announce Strategic Partnership to Deploy 10 Gigawatts of NVIDIA Systems | NVIDIA Newsroom
- Nvidia, AMD, Oracle and more: ChatGPT-maker OpenAI has locked $1,000,000,000,000 in deals this year
- 循環取引とは? 違法性の判断基準・罰則・企業の注意点
- Do OpenAI's multibillion-dollar deals mean exuberance has got out …
- Most of Microsoft’s $10bn investment in OpenAI has gone on cloud(TechRadar、2023年、Semaforの報道を引用)

