17世紀:オランダ共和国(Dutch Republic)の台頭
- 覇権背景・国際秩序:16~17世紀前半に独立したオランダ共和国は、東インド会社(VOC)や西インド会社(WIC)を通じて世界貿易を席巻し、17世紀半ばまで欧州随一の海上・金融国家となった。アムステルダムは当時「世界の中心」と称され、金融・商品取引の中核だった。
- 金準備・保有動向:オランダは貿易黒字によって大量の貴金属を受け入れ、アムステルダム銀行(ヴェクスル銀行)には金貨・銀貨の預金が膨大に蓄積された。17世紀末までに「貿易収支の黒字と銀行の政策により、共和国はコインや金銀の貯蔵庫となった」。実際、アムステルダム銀行の資本の大部分は金銀の地金預金が占め、95%相当の価値で銀行券が発行された。
- 金と覇権の関係:こうした金銀の蓄積は、質の劣る流通貨幣を高品質な貿易銀貨(金貨)に再鋳造することで、通貨の信認を向上させた。オランダの経済力は金銀の実物保有と裏付けられ、これが国際金融での優位性を支えたとされる。歴史文献でも、17世紀末のオランダは「金属貨と地金の貯蔵庫」として世界経済をリードしたと説明されている。
- その他の影響:当時はまだ金本位制は未整備で、オランダではギルダー(フローリン)が銀本位であった。貨幣は銀中心であったが、金貨も流通し、金の価格は銀との交換比率で変動した。オランダの覇権は海軍力と貿易に基づき、金銀自体は貨幣の裏付け資産として重要だった。
19世紀:イギリス(パックス・ブリタニカ期)
- 覇権背景・国際秩序:19世紀、産業革命を経たイギリスは「世界の工場」「太陽の沈まぬ帝国」と呼ばれ、植民地帝国・海軍力・産業力で覇権を確立した。ロンドンは国際金融の中心となり、世界の資本と情報を集約した。
- 金準備・保有動向:イギリスは1816年以降、スターリングと金を固定した金本位制を採用し、ポンドの1ポンド金貨(ソブリン金貨)を4.247ドル相当に定めた。金本位制下でポンドと金の固定相場が国際通貨の安定に寄与したと指摘されている。ロンドンは各国の金取引・再鋳造の中心であり、インド・オーストラリアなど帝国の金鉱山からの供給で豊富な金準備を背景に鋭い信用を保持した。
- 金と覇権の関係:当時の英国は金本位体制を主導し、国際貿易と金融において「金とポンドの固定」は世界経済の安定を支えた。イギリスの金準備は外貨準備の核であり、信認の高いポンドは世界各地で基軸通貨的に用いられた。歴史家は、英が金の固定相場によって国際通貨秩序を維持した点を評価している。また、イングランド銀行の存在が金融秩序の中心機能を果たし、19世紀世界経済を支えたともされる。
- その他の影響:19世紀後半は「古典的金本位制」が確立し、世界各国がポンドまたは金に通貨を連動させた。自由貿易(産業革命国家間の分業拡大)や帝国主義の広がりも、金本位制の下で金融・貿易の自由化を促進し、イギリスの覇権を補強した。なお、第一次世界大戦への参戦で一時金兌換を停止し、戦後は1925年に金本位に復帰したものの、1931年には再度停止した。
20世紀前半:アメリカ(ブレトンウッズ体制)
- 覇権背景・国際秩序:第二次世界大戦後、アメリカ合衆国は経済・軍事的に最強国となり、新たな国際秩序を構築した。1944年のブレトンウッズ会議でドルを基軸通貨とする体制が確立され、アメリカはインターナショナル・モネタリー・ファンド(IMF)などを主導した。
- 金準備・保有動向:戦後、アメリカは世界の金準備の約3分の2を保有していたとされる。連邦準備制度(FRB)と米財務省はフォートノックスなどに膨大な量の金を蓄えた。ブレトンウッズ体制下では、ドル1オンス=35ドルの固定相場で金と連動させ、他国の通貨はドルにペッグされた。初期にはアメリカが対外黒字で金を蓄積したものの、1960年代以降に米国が国際収支赤字に転じると、金の流出圧力が高まった。
- 金と覇権の関係:ドル=金固定はアメリカの信用力に基づき運営された。米国の莫大な金保有はドルの信認を支え、世界貿易・金融におけるドルの覇権を確立した。連合国の大半が戦後にドル建て準備に依存し、ドル・金体制が世界経済の基礎となった。経済学者は「戦後の米国支配的経済力と財政力がブレトンウッズの成功を支えた」と指摘している。しかし、1960年代後半には金保有を上回るドル準備が蓄積され、1971年の金兌換停止(ニクソン・ショック)によって実質的な金本位は終焉を迎えた。
- その他の影響:この時期は冷戦による軍事支出、マーシャル・プランなどで米国が世界各地へ資金を供給し、ドル覇権は軍事・政治力とも結びついていた。IMF・世界銀行の設立や欧州通貨のドルペッグも、ドル・金体制の下で行われた。
21世紀:近年の中国
- 覇権背景・国際秩序:21世紀、経済成長を遂げた中国は世界第2位の経済規模となり、内陸・海洋シルクロード構想(Belt and Road)やAIIB設立などで影響力を拡大している。人民元の国際化やデジタル通貨導入を通じて米ドル中心の金融秩序に挑戦しつつあり、新興の覇権候補とされる。
- 金準備・保有動向:2000年代以降、中国人民銀行は金準備の増強を加速させている。公式発表によれば、2000年に約395トンであった金準備は増加を続け、2024年1月時点で2,191.53トンに達した。2022年以降は報告を再開し、2024年末までにさらに300トン以上買い増した。直近の2025年第1四半期には約2,292.3トン(総準備の約6.5%)とされる。専門家は「人民銀行は数千トン規模の金保有を目指している可能性がある」とも指摘している。金の積み増しは主に市場からの静かな買いで行われており、外貨準備のドル依存度低減策の一環と見られる。
- 金と覇権の関係:中国では金が国家戦略資産と位置付けられ、金融安全保障や通貨主権の象徴とされる。金準備の増加は人民元を支える補強材としての役割を持ち、ドル覇権に対抗する戦略の一部と分析される。また、BRICS共同体や人民元国際化に向けて金と通貨多様化を推進する動きと連動する。近年の経済文献でも「中国は米ドル依存からの脱却を目指し、金と人民元という二本柱で国際金融秩序再編を図っている」と評価されている。
- その他の影響:中国経済の内需拡大や輸出戦略、先端技術・軍事力の強化といった要素が複合的に影響し、金準備増はその一環となっている。また、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)バスケットへの人民元組入れ、国際決済システムCIPSの運用開始など、金融面での覇権拡大策も進む中で金の重要性が再認識されている。
時代比較(比較表)
| 時代 | 覇権国家(時期) | 金準備・通貨制度 | 備考・影響など(例) |
|---|---|---|---|
| 17世紀(オランダ) | オランダ共和国 (1600–1670s頃) | 銀本位制(ギルダー)アムステルダム銀行の金銀預金で資本形成 | 貿易黒字と銀行政策で金銀蓄積、世界貿易の中心地〈アムステルダム〉 |
| 19世紀(英国) | 英国 (1815–1918頃) | 金本位制(スターリング)ポンド=金固定(4.247$/oz) | ロンドンが国際金融センター、自由貿易と金本位で世界通貨秩序を支配 |
| 20世紀前半(米国) | アメリカ (1945–1971) | ドル・金本位制(ブレトンウッズ)米国が世界金準備の約2/3を保有 | ドルが基軸通貨、IMF・世界銀行設立で米国主導の国際通貨体制形成 |
| 21世紀(中国) | 中国 (2000年代~現在) | フィアット通貨(人民元)金準備急増(2024年末約2,200トン超) | ドル依存低減と人民元国際化、金買い増しは金融主権・多様化の一環 |
まとめ:歴史的に、新興・覇権国家は高い金融裏付け資産(現代では金)を備え、国際通貨秩序を構築してきた。17世紀オランダは貿易黒字で金銀を蓄え流通貨幣を支え、19世紀英国は金本位制でポンドの信認を高めた。20世紀米国は戦後に膨大な金準備を元にドル覇権を築き、21世紀中国も近年金購入を加速させて金融の多様化・自主性を強化している。各時代とも通貨制度や軍事力・貿易政策等が絡み合うが、金保有の拡大は新たな覇権確立や既存秩序維持の重要な要素であったと言える。
参考資料: 各時代の経済史研究・金融史を踏まえ、信頼できるデータ・分析を引用した。



