1. 序論
近年、AIエージェントの開発が急速に進展しており、その多くが複雑なタスクを実行するために大規模言語モデル(LLM)に依存している。これらのエージェントが効果的に機能するためには、高度な推論、計画、およびタスク管理能力が不可欠である。しかしながら、特に複数のステップを要する推論タスクにおいては、標準的なプロンプティング手法を用いたLLMは依然として課題を抱えていることが指摘されている 1。
この課題に対処するために提案された技術の一つが、「思考の連鎖(Chain of Thought、以下CoT)」プロンプティングである 1。CoTは、LLMが最終的な回答に至るまでの中間的な思考ステップを生成するように促すことで、その推論能力を向上させることを目的としている。
本報告書の目的は、「CoTは、LLMがタスクを分解し、順序付け、実行する能力を通じて、AIエージェントの基礎となっている」という主張を、提供された研究資料 5 に基づいて批判的に調査し、評価することである。この評価は、CoTのメカニズム、利点、限界、および代替アプローチとの比較分析を通じて行われる。
本報告書は以下の構成をとる。まず、CoTの定義とそのメカニズムについて詳述する(セクション2)。次に、CoTがAIエージェントにおけるタスクの分解、順序付け、実行にどのように貢献するかを分析する(セクション3)。続いて、CoTが有効な具体的な応用例を示す(セクション4)。CoTがAIエージェントにとって基盤技術と見なされる理由とその根拠を考察し(セクション5)、その限界、課題、潜在的な失敗モードを探る(セクション6)。さらに、代替的または補完的な推論・計画技術を特定し、比較検討する(セクション7)。現在の研究動向と将来の方向性を概観し(セクション8)、最後に、調査結果を統合し、CoTの foundational な役割に関する主張を評価する(セクション9)。
2. 思考の連鎖(CoT):定義とメカニズム
2.1. 思考の連鎖(CoT)プロンプティングの定義
CoTプロンプティングは、LLMが最終的な回答を直接生成するのではなく、そこに至る一連の中間的な、逐次的なステップ(すなわち「思考の連鎖」)を生成するように促すことで、その推論能力を向上させるために設計された技術である 2。このアプローチは、人間が複雑な問題を段階的に解決するプロセスを模倣することを目的としている 11。
そのメカニズムは、LLMに自身の思考プロセスを「声に出して考える」ように、あるいは明確に表現するようにガイドすることにある 5。これは、複雑なクエリやタスクを、より単純で相互に関連した一連のプロンプトやステップに分解することを含む 5。各ステップは前のステップに基づいて構築され 5、モデルを段階的に問題解決へと導く。
CoTは、モデルが最終的な回答を直接生成する標準的な入力-出力プロンプティングとは明確に区別される。標準的なプロンプティングでは、特に複雑な推論タスクにおいて失敗することが多い 1。例えば、複数の計算ステップを要する算術問題において、標準プロンプティングでは誤った回答を生成する一方、CoTを用いることで正しい回答を導き出す事例が報告されている 3。
さらに、CoTは単純なプロンプト連鎖(prompt chaining)とも異なる。プロンプト連鎖が単に文脈に基づいて応答を生成することに焦点を当てるのに対し、CoTはAIに対して、前提と結論を含む論理的な議論や推論パス全体を構築することを要求する 12。
CoTの導入は、LLMとの対話パラダイムを根本的に変容させるものである。従来は直接的な回答生成が主であったが、CoTはガイド付きの逐次的プロセスシミュレーションへと移行させる 5。これは、モデルが単なるパターン補完を超え、プロセス自体を模倣することを示唆している。このアプローチにより、標準プロンプティングでは困難であった手続き的な思考を要する問題への取り組みが可能になる 1。したがって、CoTはLLMの活用方法におけるパラダイムシフトを表しており、単なるパターン完了からプロセス模倣へと移行している。
2.2. LLMにおける基盤メカニズム
CoTの効果は、LLMの基盤となるTransformerアーキテクチャに深く根ざしている 5。このアーキテクチャは逐次データを扱う能力に長けており、CoTが必要とする段階的な思考プロセスにとって不可欠である 5。
特に重要なのがアテンションメカニズムである。これにより、モデルは出力の各部分を生成する際に、入力シーケンスの異なる部分や以前に生成されたステップに焦点を当てることができ、複数ステップにわたる思考の一貫性を維持するのに役立つ 5。
CoTは、生成されたステップを後続のステップの入力としてフィードバックすることで、実質的に計算の深さを増加させる 16。これにより、単一のフォワードパスよりも複雑な計算が可能になる。この逐次的な処理は、論理的な人間の思考プロセスを模倣している 5。
決定的に重要なのは、CoTの有効性、特に複雑な思考タスクにおける有効性が、モデルのスケールに強く依存する創発的特性であるという点である 1。顕著な改善は、通常、非常に大規模なモデル(約1000億パラメータ以上)でのみ観察される 1。比較的小規模なモデルでは、一貫性のある思考連鎖を生成するのに苦労する可能性がある 8。
モデルスケールへの強い依存性 1 は、CoTが単なるプロンプティングの工夫ではなく、モデルの容量と訓練データの複雑性に関連する創発的な計算能力を活用していることを示唆している 5。CoTは、これらの大規模モデルが持つ強化された能力を多段階の思考タスクに適用するための必要な構造や活性化シグナルを提供しているように見える 2。したがって、CoTの成功は、本質的にモデルのスケール由来の能力と結びついており、思考能力がプロンプトの例から単に学習されるのではなく、CoTによって引き出される創発的特性であることを示唆している。これは、効果的なCoTベースのエージェントを展開する際のアクセシビリティとコストに影響を与える。
また、多様なウェブスケールの訓練データが、CoTが必要とする広範な知識ベースを提供している点も重要である。CoTが効果的に機能するためには、明示的にCoT用に訓練されていなくても、訓練データに論理的な思考や段階的な問題解決の例が含まれていることが重要となる 5。
2.3. CoTプロンプティングのバリエーション
CoTプロンプティングにはいくつかのバリエーションが存在する。
- Few-Shot CoT: 最初に提案された手法であり 2、プロンプト内に類似問題に対する段階的な思考プロセスを示す複数の例(exemplars)を含める 3。これはインコンテキスト学習(in-context learning)を活用する 3。例の数は1つ(one-shot)から少数(few-shot)まで様々である 9。
- Zero-Shot CoT: より単純なバリエーションで、明示的な例を提供せずに思考を引き出す。多くの場合、「ステップバイステップで考えましょう (Let’s think step by step)」のような簡単なフレーズをプロンプトに追加することで実現される 9。これは大規模モデルに内在する思考能力を活用する 12。
- Automatic CoT: CoTプロンプトを作成する手作業を削減することを目的とし、モデルが自動的に思考ステップを生成する。既存の例からパターンを学習する可能性がある 15。
- Multimodal CoT: CoTを複数のモダリティ(例:テキストと画像)に拡張し、結論に至る前にモダリティ間の情報を結びつける根拠(rationale)を生成する 15。
Zero-Shot CoTの存在 12 は、大規模モデルが、最小限の指示で活性化できる内在的、ただし潜在的な、手続き的思考能力を持っていることを示唆している。Few-Shot CoTが明示的な例を必要とするのに対し 2、Zero-Shot CoTは簡単なトリガーフレーズだけで機能する 15。これは、モデルがプロンプトの例からのみ段階的思考を学習するのではなく、ある程度この能力をすでに持っていることを意味する 12。トリガーフレーズは、おそらくこの既存の能力を活性化または集中させる役割を果たす。これは、逐次的思考のコアメカニズムがモデルのアーキテクチャと訓練に埋め込まれており、CoT(Zero-Shot形式)がタスク固有のデモンストレーションなしにそれを解き放つ方法であることを示唆している。
3. AIエージェントのタスク処理におけるCoTの役割
CoTプロンプティングは、AIエージェントがタスクを処理する上で重要な、分解、順序付け、実行というプロセスにおいて中心的な役割を果たす。
3.1. タスク分解
CoTの核心的な機能の一つは、タスク分解の促進である。LLMに対して、複雑な問題やクエリを、より小さく、単純で、管理しやすい一連のサブプロブレムや中間ステップに分解するように促す 3。
これは、プロンプトの構造(Few-Shotの場合は例を通じて、Zero-Shotの場合は「ステップバイステップで」のような明示的な指示を通じて)によって実現される。モデルは問題を全体として捉えるのではなく、逐次的にアプローチするようにガイドされる 5。これにより、モデルは各サブステップに個別に計算リソースと注意を割り当てることができる 3。
この分解能力は、単一のステップでは達成できない複雑な目標に直面するAIエージェントにとって基本的である。エージェントの基盤となるLLMが、初歩的な計画を策定することを可能にする。
3.2. ステップの順序付け(シーケンシング)
CoTは、分解されたステップを論理的な順序で配置するようにLLMをガイドする。各ステップは前のステップに基づいて構築される 5。LLMのテキスト生成が本質的に逐次的であるため、この順序付けられたプロセスに自然に適応する。
Transformerのアテンションメカニズム 5 は、一貫性を維持し、あるステップの出力が次のステップの入力またはコンテキストとなり、論理的な流れを維持するのに役立つ 5。「したがって (Therefore)」、「結果として (As a result)」、「これに基づいて (Building on this)」のような移行マーカーを使用することで、この流れをさらに構造化できる 17。
AIエージェントにおける効果的な計画と実行には、適切な順序付けが不可欠である。CoTは、LLMが分解されたサブタスクに対して妥当な操作順序を決定するためのメカニズムを提供する。
3.3. タスク実行
思考連鎖を生成することにより、LLMは実質的にタスク計画の実行をステップバイステップでシミュレートする 5。生成された各ステップは、シーケンス内のサブタスクの完了を表す。
CoT中に生成される中間ステップは、タスク実行プロセスにおける中間結果または状態と見なすことができる 3。これにより、潜在的な監視や検証が可能になる 14。
CoTは主にLLM内部での思考の実行に焦点を当てているが、この内部的な段階的プロセスは、エージェントが潜在的に外部アクションを実行する前の意思決定プロセスの認知的バックボーンを形成する(この概念はReActのような技術によって拡張される、セクション7参照)。
CoTは、古典的なAI計画パラダイムである「分解 -> 順序付け -> 実行」を、LLMの生成プロセス内で直接操作可能にする。AI計画はしばしば、目標をサブゴールに分解し(分解)、それらを順序付け(シーケンシング)、実行することを含む。CoTプロンプトは、LLMが問題を分解するように明示的にガイドし 5、本質的にステップを順序立てて生成する 5。各ステップの生成は、その暗黙的な計画部分の実行と見なすことができる 3。したがって、CoTは、逐次生成用に設計されたLLMが、言語で表現可能なタスクに対して初歩的な計画とシミュレートされた実行を実行するための自然な方法を提供する。
CoTの分解と順序付けにおける有効性は、潜在的なステップ間の暗黙的な論理的依存関係を理解するLLMの能力に大きく依存している。この能力は、広範な訓練データから学習された可能性が高い 5。成功するCoTは、タスクを単に分解するだけでなく、論理的に接続されたステップに分解する必要がある 5。モデルは正しい順序と、あるステップが次のステップをどのように可能にするかを推測しなければならない。これには、問題領域内の因果関係、時間的順序、論理的含意の理解が必要である。この理解は明示的にプログラムされるのではなく、LLM訓練に使用される大規模データセットに存在するパターンと構造から学習される 5。したがって、CoTの計画における成功は、LLMの訓練から得られた世界知識と暗黙的な論理的能力の質と幅広さに依存している。CoTの失敗は、この基盤となる知識のギャップから生じる可能性がある。
CoTは内部的な思考実行を促進するが、AIエージェントにとって一般的な外部との相互作用を必要とするタスクへの直接的な適用可能性は、他のメカニズムとの統合なしには限定的である。CoTは主にテキストによる思考連鎖の生成を含む 5。多くのAIエージェントタスクは、API、データベース、または物理世界との相互作用を必要とする。標準的なCoTには、これらの外部アクションを実行するためのステップが本質的に含まれていない。ReActのようなフレームワーク 20 は、CoTのような思考と外部アクションを交互に行うために特別に開発された。したがって、CoTはエージェントの内部思考プロセスの基礎となる計画/思考コンポーネントを提供するが、外部世界から情報を収集したり、外部世界に作用したりする必要があるエージェントにとっては、それ自体では十分ではない。それは「思考」部分を形成し、「行動」メカニズムとの結合が必要となる。
4. CoTの具体的な応用例
CoTプロンプティングは、様々なタスクにおいてLLMの能力を向上させることが実証されている。以下にその具体例を挙げる。
4.1. 算術的推論
CoTは、複数の計算ステップを必要とする数学の文章問題のパフォーマンスを大幅に向上させる 1。モデルは、問題を分解し、必要な操作を順序立てて特定し、各計算を実行し、その結果を次のステップで使用するように促される 3。例えば、取引後のリンゴの残数を計算する問題などが挙げられる 7。この効果は顕著であり、Few-Shot CoTを用いたPaLM 540Bモデルは、GSM8Kベンチマークで当時の最先端(SOTA)精度を達成した 1。
4.2. 常識的推論
CoTは、日常的な状況、物理的な相互作用、または社会的なダイナミクスに関する推論を必要とするタスクで役立つ 1。モデルは、シナリオの論理的な含意を段階的に追跡できる。例えば、いくつかの行動の後にコインが表向きか裏向きかを判断する問題 10 や、スポーツの文脈を理解するタスク 1 などが挙げられる。CoTは、CommonsenseQAやStrategyQAのようなベンチマークにおいて、特に大規模モデルで改善を示している 1。
4.3. 記号的推論
CoTは、記号や抽象的なルールの操作を伴うタスク、例えば論理パズルや簡単な代数問題などで有効である 3。モデルはルールを段階的に適用して結論に到達する。例として、単語の最後の文字を連結するタスク 10 や、カテゴリに基づいてフィルタリングし合計するようなタスク(PALに関連する野菜の例など、これはしばしば同様にプロンプトされるコード生成を使用する 20)が考えられる。標準的なプロンプティングでは困難な記号的推論タスクにおいて、CoTによって大幅なパフォーマンス向上が観察されている 3。
4.4. 計画と意思決定(暗黙的)
スニペット内で「CoT」単独で明示的にベンチマークされているわけではないが、その分解と順序付けの能力は、初歩的な計画立案に直接適用される(18はCoTが計画タスクを改善すると言及)。より速い経路を選択する例 8 は、段階的な評価に基づく単純な意思決定を示している。構造化CoT(SCoT)は、ビジネスアイデアの分析や財務分析を逐次的なステップを通じて行うために明示的に言及されている 17。ロボティクス応用では、CoTが環境入力に基づいて最適な次行動を推論によって選択することを可能にする、と述べられている 17。これらの例は、目標(例:「より速く職場に着く」)を段階的なオプション評価(オプション1の時間計算、オプション2の時間計算、比較)に分解することによって機能する 8。
CoTの有効性が算術、常識、記号といった多様な思考領域に及ぶことは、それが単にドメイン固有の知識を強化するのではなく、LLM内の一般的な手続き的思考能力を向上させることを示唆している。CoTは、算術 3、常識 1、記号論理タスク 3 全体で大幅な改善を示している。これらのタスクは異なる種類の知識と操作(数字、現実世界の物理/社会ルール、抽象記号)を必要とするが、共通しているのは、しばしば複数のステップと論理的依存関係を必要とする点である。CoTは、LLMが特定のドメインに関係なく、その知識を逐次的に適用し、依存関係を追跡するための構造を提供する。したがって、CoTは大規模モデルに存在する一般的で基礎的な多段階推論能力を引き出し、整理する可能性が高い。
これらの例は、CoTが、より意図的で段階的な評価を強制することにより、LLMが連想エラーを起こしたり、近道を選んだりする傾向を克服するのに役立つことを示している。標準的なプロンプティングは、多段階問題でしばしば誤った回答につながる 3。これは、モデルが表面的なパターンに基づいて推測しているか、必要なすべての中間計算を実行できていないことを示唆している。CoTは、モデルに各ステップを明示的に表現することを要求する 5。この表現は、モデルが次のステップに進む前に、各ステップの中間計算または論理的推論を実行することを強制する。これにより、重要なステップをスキップしたり、不完全な処理に基づいて性急な結論を下したりする可能性が減少する。したがって、CoTは認知的な強制機能として作用し、直接的な回答と比較して、より体系的でエラーの少ない思考プロセスを促進する。
5. CoTの基盤技術としての評価
CoTがAIエージェントにとって基盤となる技術であるか否かを評価するにあたり、その役割と利点を考察する必要がある。
5.1. 基盤的役割を支持する論拠
- 複雑な推論の実現: CoTは、標準的な手法では困難または不可能であった複雑な推論タスク(算術、常識、記号)におけるLLMのパフォーマンスを実証的に解き放つか、大幅に向上させる 1。この能力は、インテリジェントなエージェントにとって不可欠である。
- タスク分解と計画: タスクを分解しステップを順序付けるというCoT固有の能力(セクション3参照)は、エージェント的行動の基礎である計画のための基本的なメカニズムを提供する 14。
- スケールに伴う創発: CoTを使用した場合に、スケールの増大に伴って高度な推論能力が創発するという事実 1 は、CoTがエージェントのようなタスクのために大規模モデルの潜在能力を活用する鍵であることを示唆している。
- 広範な適用可能性: CoTは原理的に、言語と段階的な思考を通じて人間が解決できるあらゆるタスクに適用可能であり 3、様々なエージェントアプリケーション(例:QA 15、医療インサイト 15、ロボティクス 17)にとって汎用的なツールとなる。
- 先進技術へのインスピレーション: CoTは、Tree of Thoughts、ReAct、Self-Consistency、および様々な分解手法のような、より高度な推論・計画技術の概念的基盤または出発点として機能している 19。その単純さと有効性が触媒となった。
5.2. 基盤的主張を裏付ける主な利点
- 精度の向上と信頼性: CoTは、標準プロンプティングと比較して、複雑なタスクにおいてより正確で信頼性の高い結果をもたらす 8。これは、信頼できるエージェントのパフォーマンスにとって極めて重要である。
- 解釈可能性と信頼性の向上: 段階的な出力は、モデルの思考プロセスへの窓を提供し、デバッグ、失敗モードの理解、およびユーザーの信頼向上を可能にする 3。これは、エージェントを責任ある形で展開するために不可欠である。
- 汎用性と適応性: CoTは、タスク固有のファインチューニングなしに多様なタスクに適用でき 3、大規模な事前訓練済みモデルの汎用能力を活用する。Zero-Shot CoTはこの適応性を例証している 12。
CoTは、プロンプティングのみを使用してLLMから多段階の思考を引き出す、最初の広範に成功し一般化可能な方法を提供したため、基盤的と見なすことができる。これにより、スケールアップされたパターンマッチングと真の問題解決との間のギャップが埋められた。CoT以前は、LLMの思考能力の向上には、しばしばファインチューニングや複雑なアーキテクチャが必要であった 3 (ファインチューニングされたGPT-3を上回ったと言及)。CoTは、十分に大規模なモデルであれば、プロンプティングだけで大幅な思考改善が達成できることを示した 2。これにより、あらゆるタスクタイプに対してモデルを再訓練することなく、複雑な思考が可能になった。それは、プロンプティングを複雑な認知タスクのための実行可能なインターフェースとして確立し、事前訓練済みモデルに基づくエージェント開発への道を開いた。したがって、その影響は、単純で一般的なインターフェースを通じてLLMの既存の潜在能力を思考のために解き放つ方法を示した点にあり、それが基盤的なステップとなっている。
CoTの解釈可能性の利点 3 は価値がある一方で、もっともらしい響きの言語で内部的な論理の欠陥を覆い隠す可能性がある、諸刃の剣かもしれない。CoTはテキストによる根拠を提供する 3。このテキストはモデルの思考プロセスを説明しているように見える 11。しかし、LLMは基本的に、人間が内部で行う形式論理と同じ方法で実行しているわけではなく、もっともらしいテキストシーケンスを生成している。生成されたCoTは、他の内部メカニズムを通じて到達した答えの後付けの合理化である可能性があり、あるいは流暢な言語によって隠された微妙な論理的欠陥を含む可能性がある(19のエラーに関連)。したがって、CoTはブラックボックスの回答よりも透明性を向上させるが、デバッグや信頼のために生成されたテキストのみに依存することは誤解を招く可能性がある。「解釈可能性」は出力のものであり、必ずしも内部計算の完全な反映ではない。
CoTの基盤としての地位は、後続のより洗練されたエージェント思考技術の構成要素またはインスピレーションとしての役割によって強化されている 19。ReActのような技術は、CoTのような思考と行動を統合する 20。Tree of Thoughtsは複数のCoTパスを探求する 19。Self-Consistencyは複数のCoTを実行し、多数決をとる 13。多くの分解手法は、CoTの基本的な段階的アイデアに基づいている 19。これらの先進的な手法がしばしばCoTのコアメカニズムを明示的に参照、組み込み、または改良しているという事実は、CoTがそれらの構築基盤となる本質的な構成要素または概念的飛躍を提供したことを示している。この反復的な改善サイクルは、基盤技術の特徴である。
6. CoTの限界、課題、および失敗モード
CoTはLLMの能力を向上させる一方で、いくつかの限界、課題、および潜在的な失敗モードも抱えている。
6.1. パフォーマンスの依存性
- モデルスケール: CoTは、比較的小規模なLLMでは効果が大幅に低下するか、場合によってはパフォーマンスを損なうことさえある 8。その利点は、大規模なモデルサイズ(約1000億パラメータ以上)と強く相関している 1。これはその適用可能性を制限する。
- プロンプトの質: パフォーマンスはプロンプトの質に敏感であり、特にFew-Shot CoTの場合に顕著である。効果的な例を作成するには、人間の労力と慎重な設計が必要となる 14。例からの一般化は限定的である可能性がある 18。
6.2. 推論エラーと信頼性の問題
- 事実誤認とハルシネーション: 一見もっともらしい連鎖に見えても、思考ステップ自体に事実誤認や論理的誤謬が含まれている可能性があり、最終的に誤った回答につながることがある 19。CoTは本質的に正しさを保証するものではない。
- ステップの欠落/不完全な推論: モデルが必要なステップをスキップしたり、問題の重要な側面を考慮しなかったりすることがある 19。Plan-and-Solveプロンプティングがこの問題に対処するものとして言及されている 19。
- 計算エラー: 特に算術タスクにおいて、中間ステップ内でエラーが発生することがある 19。
- 意味論的誤解: モデルが問題文や中間ステップの意味を誤解する可能性がある 19。
6.3. 構造的および効率性の限界
- 剛直性: 線形的で段階的な性質は、あまりにも剛直である可能性があり、代替的な思考パスの探索や、あるステップが誤りであることが判明した場合のバックトラッキングを妨げる 17。これは人間の思考とは対照的である 23。
- 計算コスト: 長い思考連鎖を生成することは、直接的な回答と比較して、推論時間とトークン使用量を増加させる 17。
- 言語空間の制約: 思考は明示的な自然言語生成に制約されるため、すべての種類の思考にとって最も効率的または最適な表現ではない可能性がある。重要なステップは表現が困難である一方、流暢な言語はオーバーヘッドを追加する 16。
6.4. セキュリティと安全性の懸念
- ハイジャックに対する脆弱性: 明示的な思考プロセスが悪用される可能性がある。Hijacking CoT(H-CoT)のような技術は、攻撃者が中間ステップを操作して安全フィルターを回避し、有害なコンテンツを引き出すことができることを示している 24。モデル自身の思考表示が攻撃対象となる。
- 安全性思考プロセスの開示: 安全性に関する思考プロセス自体を表示することが、意図せずそれを回避するために有用な情報を明らかにする可能性がある 24。
CoTは、思考プロセス自体に固有の新しい失敗モードを導入する。これにより、課題は不正確な直接的回答から、潜在的に欠陥のある段階的な論理へと移行する。標準的なプロンプティングの失敗は、しばしば不透明な「間違った答え」として現れる。CoTの失敗は、可視化された思考連鎖内のエラーとして現れる 3 (デバッグが可能)。これらには、計算ミス、論理的な飛躍、スキップされたステップ、または根拠に埋め込まれた事実の不正確さが含まれる可能性がある。これは、CoTの評価とデバッグが、最終的な出力だけでなく、連鎖全体を分析する必要があることを意味し、検証の複雑さを増大させる 14 (検証を強調)。したがって、CoTは平均してパフォーマンスを向上させるが、単純な失敗を、異なる緩和戦略を必要とする潜在的に複雑な多段階の思考失敗と交換する。
CoTの限界(剛直性、エラー伝播、非効率性)は、より高度な思考技術(セクション7で議論)の開発を直接動機付けている。CoTは単一の線形パスをたどる 5。これは、いずれかのステップが間違っている場合に脆弱である。Tree of Thoughts(ToT)のような技術は、複数の思考パスを並行して探索することにより、これを明示的に対処する 19。CoTはエラーを起こす可能性がある 19。Self-Consistency 13 やSelf-Verification/CoVe 25 のような技術は、複数の連鎖を生成したり、検証ステップを追加したりすることで堅牢性を追加する。CoTは言語制約のために冗長で非効率になる可能性がある 16。Coconut 16 のような技術は潜在空間での思考を探求し、SoT 19 はスケルトンアウトラインを通じて効率を目指す。したがって、CoTの特定された弱点は、LLM思考における革新の直接的な推進力として機能し、より堅牢で、柔軟で、効率的な方法へと向かわせている。
セキュリティの脆弱性(H-CoT 24)は、AI思考における解釈可能性とセキュリティの間の根本的な緊張関係を浮き彫りにしている。CoTは思考ステップを公開することで解釈可能性を高める 3。この公開は、思考プロセス自体が操作される可能性のある攻撃対象を作り出す 24。攻撃者は、モデルが表示した論理を利用して、その安全チェックを覆すような入力を巧妙に作成できる 24。これは、思考を透明にすることが、信頼とデバッグには望ましい一方で、慎重に設計されなければシステムを同時に脆弱にする可能性があることを意味する。したがって、CoTベースのエージェント、特に機密性の高いタスクに展開するには、このトレードオフを考慮し、思考操作に対する保護策を実装するか、中間ステップの公開を制限する必要がある。
7. 代替的および補完的な推論・計画技術
CoTの限界に対処するために、多くの代替的または補完的な推論・計画技術が開発されている。
7.1. 代替技術の概要
以下に、提供された資料で特定された主要な技術を挙げる。
- Tree of Thoughts (ToT): CoTの線形性を克服するため、複数の思考パスを同時にツリー探索のように探求し、中間的な思考を評価して追求するパスを決定する 19。複数の「専門家」を用いたプロンプティング戦略を含むことがある 22。
- ReAct (Reasoning + Acting): CoTのような思考ステップと、外部ツール(例:検索エンジン、API)と対話するためのアクションを交互に行い、情報を収集したり環境に影響を与えたりする。インタラクティブなエージェントにとって重要である 20。
- Self-Consistency: 同じ問題に対して複数のCoT連鎖を生成し、結果間の多数決に基づいて最終的な回答を選択することで、堅牢性を向上させる。単一の連鎖における潜在的なエラーに対処する 13。DoTを強化するものとしても言及されている 23。
- 自己批評/検証手法: LLMが自身の思考や出力を批評または検証する技術。例:
- Self-Refine: 初期応答を反復的に改善する 25。
- Reversing CoT (RCoT): 解答から問題を再構築することでハルシネーションをチェックする 25。
- Self-Verification: 複数の解決策を生成し、テストする 25。
- Chain-of-Verification (CoVe): 初期応答を批評するために検証質問を生成する 25。
- Cumulative Reasoning (CR): ステップを段階的に評価する 25。
- 高度な分解手法: CoTの分解アイデアを発展させたもの:
- Decomposed Prompting (DecomP): タスクをサブタスクに分解し、ハンドラに割り当てる 19。
- Plan-and-Solve (PS): Zero-Shot CoTにおけるステップ欠落に対処するため、最初に明示的に計画を生成してから解決する 19。
- Skeleton-of-Thought (SoT): 効率化のため、最初に概要(スケルトン)を生成し、詳細を並行して展開する 19。
- Program of Thoughts (PoT) / Chain of Code (CoC): ステップ、特に計算をコード実行に委譲する 19。
- 潜在空間での推論:
- Coconut (Chain of Continuous Thought): 明示的な言語トークンを生成する代わりに、LLMの潜在空間(隠れ状態)で直接思考ステップを実行する。効率を改善し、言語制約を克服する可能性がある 16。幅優先探索(BFS)パターンを可能にする。
- 拡散ベースの推論:
- Diffusion-of-Thought (DoT): 拡散モデルを思考に使用し、ステップが時間とともに拡散することを可能にし、計算とパフォーマンスの間の異なるトレードオフを提供する 23。より良い効率と自己修正能力の可能性を主張する。
- その他のプロンプティング戦略: Least-To-Most 20、Self-Ask 20、Meta-Prompting 20。
7.2. 比較分析
これらの技術を、特にタスク分解、計画、順序付け、実行、エラー処理、効率、解釈可能性、およびAIエージェントへの適合性という観点から、CoTと比較する。
- CoT: 線形的、解釈可能(出力)、単一パスエラーを起こしやすい、大規模モデルが必要、基本的な分解メカニズム。
- ToT: 複数のパスを探求、エラーに対してより堅牢、潜在的により高いコスト、探索空間を持つ問題に適している。
- ReAct: 思考と外部アクションを統合、インタラクティブなエージェントに不可欠、CoTの内部焦点に対処。
- Self-Consistency: アンサンブルによりCoTの精度を向上、計算コストが増加、CoTの上に実装が容易。
- Self-Critique: 検証層を追加、信頼性を向上、複雑さ/コストが増加。
- 高度な分解 (SoT, PoT/CoC): 効率や特定のサブタスク(計算など)を対象とし、委譲されたステップの解釈可能性を低下させる可能性がある。
- Coconut/DoT: 根本的に異なるアプローチ(潜在空間、拡散)、潜在的により効率的/柔軟、思考プロセスの解釈可能性が低い、比較的新しい/確立されていない。
7.3. 比較表
以下の表は、AIエージェント設計に不可欠な次元にわたって、CoTとその主要な代替案の主な特徴とトレードオフを比較するための構造化された方法を提供する。これにより、読者はタスク処理に関連する相対的な長所と短所を迅速に把握できる。この表は、利用可能な技術のランドスケープ内でCoTを文脈化することにより、CoTの基盤的役割を評価するという報告書の目標を直接サポートする。
| 特徴 | 思考の連鎖 (CoT) | Tree of Thoughts (ToT) | ReAct | Self-Consistency | Coconut (潜在CoT) |
| 思考戦略 | 逐次的(線形)生成 | 並列探索(ツリー探索) | 思考/行動の交互実行 | 複数の逐次実行 | 逐次的(潜在空間) |
| 計画アプローチ | ステップ生成による暗黙的 | パスの明示的評価 | 明示的な計画追跡 | 暗黙的(CoT経由) | 暗黙的(潜在) |
| タスク分解 | コアメカニズム | 階層的分解 | ステップバイステップ | CoTから継承 | 暗黙的(潜在) |
| エラー処理 | 単一パスエラーを起こしやすい; デバッグ可能 | バックトラック/パス枝刈り | アクション/思考の再試行可能 | 多数決 | 不明(潜在的なBFS) |
| 外部ツール使用 | 固有のメカニズムなし | 固有のメカニズムなし | コアメカニズム | 固有のメカニズムなし | 固有のメカニズムなし |
| 解釈可能性 | 高(テキストでの思考ステップ) | 中(パス追跡可能) | 高(思考/行動のトレース) | 高(複数のCoT) | 低(潜在状態) |
| 計算コスト | 中(単一連鎖) | 高(複数ブランチ) | 可変(アクションによる) | 高(複数連鎖) | 潜在的に低い |
| スケールへの依存性 | 高 | 高 | 高 | 高 | おそらく高 |
| 主な利点 | 単純性、解釈可能性 | 堅牢性、探索 | 対話性、グラウンディング | 精度向上 | 効率性、柔軟性 |
| 主な限界 | 剛直性、エラーを起こしやすい | 複雑性、コスト | 複雑性 | コスト | 解釈可能性、新規性 |
思考技術のランドスケープはCoTを超えて急速に進化しており、堅牢性(ToT、Self-Consistency)、効率性(SoT、Coconut)、およびエージェント能力(ReAct)の強化に焦点を当てている。CoTはプロンプトによる思考のベースラインを確立した [セクション5]。その限界 [セクション6] は改善のための明確なターゲットを生み出した。ToT 19 は線形性に直接対処し、ReAct 20 は行動の欠如に対処し、Self-Consistency 13 は信頼性に対処し、Coconut 16 は言語制約に対処する。このパターンは、CoTの基盤の上に、より能力の高いAIシステムを作成するための明確な研究軌道を示している。したがって、CoTの主な役割は、複雑なエージェント思考のための最先端というよりは、概念的な出発点としてますます見られるようになるかもしれない。
主要なトレンドの一つは、思考と外部相互作用(ReAct)または計算(PoT/CoC)の統合であり、これはエージェントが純粋な言語操作を超えてグラウンディングされ、能力を持つ必要があることを反映している。CoTは主にLLMの内部知識と言語生成内で動作する 5。現実世界のタスクは、しばしば外部データへのアクセスや正確な計算を必要とする。ReAct 20 は外部ツールを照会するために明示的に「Act」フェーズを追加する。PoT/CoC 19 は計算をコードインタープリタに委譲する。これは、CoTによって強化されたLLMの思考でさえ、多くの実用的なエージェントタスクには単独では不十分であり、記号システムや外部APIとのハイブリッド化が必要であることを示している。
明示的な言語空間を超えた思考の探求(Coconut 16、DoT 23)が新たに出現しており、潜在的に根本的な利点を提供する可能性があるが、CoTの自然な解釈可能性を犠牲にしている。CoTの言語トークンへの依存は制約として特定されている 16。Coconutは潜在空間での思考を提案し 16、DoTは拡散モデルを使用する 23。これらのアプローチは、明示的な単語ではなく、内部表現(隠れ状態、拡散表現)で動作する。これにより、より効率的、柔軟、または強力な思考(例:CoconutのBFS 16)につながる可能性がある。しかし、思考プロセスは不透明になり、CoTが提供する段階的なテキスト説明 3 を失う。これは、エージェント思考システムにおけるパフォーマンス/効率と解釈可能性/デバッグ可能性の間の潜在的な将来のトレードオフを示している。
8. 現在の研究動向と将来の方向性
CoTおよび関連するAI推論・計画手法に関する研究は活発に進められており、いくつかの主要な動向が見られる。
- 堅牢性と信頼性の向上: Self-Consistency 13、Self-Critique/Verification 25 などの技術への継続的な焦点、および思考連鎖内のハルシネーションや論理エラーを削減する方法の探求。
- 効率性の向上: Skeleton-of-Thought 19 のような手法や、潜在空間での思考(Coconut 16)および拡散モデル(DoT 23)の探求を通じて、思考の計算コストを削減する研究。言語ベースのCoTの冗長性の問題への対処 16。
- より良い計画と探索: 線形的なCoT連鎖を超えて、ToT 19 や古典的なAI計画に触発された、より洗練された計画アルゴリズムへの移行。バックトラッキングや代替案の探索を可能にする。
- 思考+行動の統合: ReAct 20 のようなフレームワークのさらなる開発により、LLMの思考とツール使用および環境相互作用をシームレスに統合し、より能力が高くグラウンディングされたエージェントを作成する。
- 潜在空間と代替アーキテクチャ: Coconut 16 やDiffusion-of-Thought 23 のような非言語ベースの思考の継続的な探求。これが新しいパラダイムにつながる可能性がある。異なるモデルアーキテクチャがどのように思考をより良くサポートできるかの調査。
- 安全性、アライメント、セキュリティ: H-CoT 24 のような脆弱性への対処。思考プロセスが人間の価値観と一致し、操作に対して堅牢であることを保証する方法の開発。透明性とセキュリティのバランス 11。
- 適応学習: 経験やフィードバックを通じて思考および計画能力を向上させることができるエージェントの開発 11。
- 人間とAIの協調: 透明な思考(CoTやその改良版など)を使用して、人間とAIエージェント間のより良い協調と理解を促進する 11。
現在の研究は、初期のCoT定式化の限界を超えようとしており、これは、CoTが基盤的である一方で、その基本的な形式では将来の高度なAIエージェントには不十分である可能性が高いことを示している。焦点は、思考をより堅牢、効率的、柔軟にし、行動と統合することにある。
将来の重要な課題の一つは、非言語ベースの思考(潜在空間、拡散)の潜在的なパフォーマンス向上と、元のCoTの大きな利点であった解釈可能性と信頼性の必要性とのバランスをとることにある。
思考能力がより強力になり、潜在的により不透明になったり操作されやすくなったりするにつれて、安全性とセキュリティはますます重要な研究分野となっている 24。これらの問題に対処することは、責任ある展開にとって最も重要である。
9. 統合と評価:CoTはAIエージェントにとって基盤的か?
これまでの分析結果を統合し、「CoTは、LLMがタスクを分解し、順序付け、実行する能力を通じて、AIエージェントの基礎となっている」という主張を評価する。
9.1. 調査結果の要約
本報告書では、CoTがLLMの推論能力を向上させ(セクション2、4)、タスクの分解、順序付け、および(シミュレートされた)実行のためのコアメカニズムを提供すること(セクション3)を明らかにした。また、解釈可能性や汎用性といった利点(セクション5)を持ち、後の研究に影響を与えたこと(セクション5、7)も確認された。しかし、スケール依存性、信頼性、剛直性、効率性、セキュリティに関する重大な限界(セクション6)も存在し、これが多数の代替技術(セクション7)と継続的な研究(セクション8)につながっている。
9.2. 主張の評価
「CoTは、LLMによるタスク分解、順序付け、実行の実現を通じて、AIエージェントの基礎となっている」という主張を批判的に評価する。
- 肯定的側面: CoTは、LLMにおける多段階推論のための最初の広範に効果的なプロンプティング手法としての歴史的重要性を有する。プロンプティングを用いて複雑な認知プロセスをガイドするという原則を確立した。その分解/順序付け能力は、エージェント計画にとって必要(ただし十分ではないかもしれない)な基盤を提供する。その概念は多くの先進技術に組み込まれている。
- 否定的側面/限定条件: その有効性は条件付きである(大規模モデルが必要)。その基本的な形式は、堅牢なエージェントのパフォーマンスのためには、より高度な技術(ToT、ReAct、Self-Consistencyなど)を必要とする限界に苦しんでいる。それは本質的に外部相互作用(主要なエージェント要件)を扱わない。新しい手法(潜在空間、拡散)は、根本的に異なる将来の方向性を表す可能性がある。
9.3. 統合的評価
結論として、CoTは、LLMにおけるプロンプトによる推論を実証し可能にした重要な概念的ブレークスルーであり、現在のAIエージェント推論の構成要素またはベースラインとして機能するという意味で、基盤的であると言える。しかし、それが終着点である可能性は低い。その限界は、実用的で堅牢なAIエージェントが、基本的なCoTに基づいて構築された、あるいはそれを超えた、より高度なまたはハイブリッドな技術をしばしば必要とすることを意味する。それはエージェントの「思考」コンポーネントの基礎を築いたが、堅牢な計画、行動、および信頼性のためには増強が必要である。
CoTの基盤としての地位は、歴史的および概念的に最もよく理解される。それは、プロンプティングを通じて複雑な思考が引き出せることを証明し、エージェント開発への道を開いた。たとえその初期の形式が現在ではしばしば取って代わられているとしてもである。
この評価は、技術開発における一般的なパターンを浮き彫りにする。基盤的なブレークスルー(CoTのような)は進歩を可能にするが、しばしばその初期の限界に対処する、より洗練された方法によって改良または置き換えられる。真の「基盤」は、CoTがLLMに対して最初に普及させた、ガイド付きの段階的思考という概念そのものかもしれない。
10. 結論
本報告書では、大規模言語モデル(LLM)における思考の連鎖(CoT)プロンプティングがAIエージェントのタスク処理能力において果たす役割を詳細に調査した。CoTは、LLMに中間的な思考ステップを生成させることで、算術、常識、記号推論などの複雑なタスクにおけるパフォーマンスを向上させる有効な手法である。そのメカニズムは、LLMのTransformerアーキテクチャとアテンションメカニズムを活用し、問題を段階的に分解し、ステップを論理的に順序付け、内部的に実行をシミュレートすることを可能にする。これにより、タスク分解、シーケンシング、実行というAIエージェントの基本的な処理能力の基盤を提供する。
CoTの主な利点には、精度の向上、思考プロセスの解釈可能性、およびタスク固有のファインチューニングなしでの汎用性が挙げられる。これらの特性、特にプロンプティングのみで複雑な推論を引き出す能力を実証した点は、CoTをAIエージェント開発における重要な概念的進歩、すなわち「基盤的」な技術と位置づける根拠となる。
しかしながら、CoTには無視できない限界も存在する。その効果はモデルのスケールに大きく依存し、比較的小規模なモデルでは効果が薄い。また、生成される思考連鎖にはエラーが含まれる可能性があり、単一の線形的な思考パスは剛直性をもたらす。さらに、計算コストや、思考プロセスが攻撃対象となりうるセキュリティ上の脆弱性も課題である。
これらの限界から、Tree of Thoughts (ToT)、ReAct、Self-Consistency、潜在空間での思考(Coconutなど)といった、より高度で堅牢、効率的、かつインタラクティブな代替・補完技術が数多く開発されている。現在の研究は、これらの手法の改良や統合、そして安全性と信頼性の確保に焦点を当てている。
最終的な評価として、CoTはLLMにおけるプロンプトベースの多段階推論を可能にした画期的な技術であり、AIエージェントの計画と推論の概念的基盤を築いたと言える。しかし、その限界ゆえに、現代の高度で複雑なタスクを実行するAIエージェントにとっては、CoT単独では不十分な場合が多く、より進化した手法やそれらを組み合わせたアプローチが必要となる。CoTは重要な出発点であり、その核となるアイデアは後続の研究に受け継がれているが、最先端の実装においては、より洗練されたコンポーネントの一部となっているか、あるいは置き換えられていることが多い。AIエージェントの能力向上において、推論と計画の技術は今後も進化し続ける重要な研究領域である。
引用文献
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- Chain-of-Thought Prompting Elicits Reasoning in Large Language Models – OpenReview https://openreview.net/pdf?id=_VjQlMeSB_J
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- Prompt engineering – Wikipedia – UCSB MAT https://www.mat.ucsb.edu/~g.legrady/academic/courses/24f255/promptEngineering.pdf
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- Chain-of-Thought Prompting: Helping LLMs Learn by Example | Deepgram https://deepgram.com/learn/chain-of-thought-prompting-guide
- Chain of Thought Prompting: Enhancing AI Reasoning – Integrail https://integrail.ai/blog/chain-of-thought-prompting-enhancing-ai-reasoning
- What is Chain of Thoughts (CoT)? – IBM https://www.ibm.com/think/topics/chain-of-thoughts
- Unpacking chain-of-thought prompting: a new paradigm in AI reasoning – Toloka https://toloka.ai/blog/unpacking-chain-of-thought-prompting-a-new-paradigm-in-ai-reasoning/
- Chain-of-Thought Reasoning Supercharges Enterprise LLMs – K2view https://www.k2view.com/blog/chain-of-thought-reasoning/
- Chain of Thought Prompting: A Guide to Enhanced AI Reasoning – Openxcell https://www.openxcell.com/blog/chain-of-thought-prompting/
- Training Large Language Models to Reason in a Continuous Latent Space – arXiv https://arxiv.org/html/2412.06769v1
- Master Structured Chain-of-Thought Prompting for Better AI Results – Relevance AI https://relevanceai.com/prompt-engineering/master-structured-chain-of-thought-prompting-for-better-ai-results
- How far can you trust chain-of-thought prompting? – TechTalks https://bdtechtalks.com/2024/05/13/chain-of-thought-planning/
- Advanced Decomposition Techniques for Improved Prompting in LLMs https://learnprompting.org/docs/advanced/decomposition/introduction
- 12 Prompt Engineering Techniques – HumanFirst https://www.humanfirst.ai/blog/12-prompt-engineering-techniques
- How Self-Consistency Improves Chain of Thought Reasoning in Language Models? https://futureskillsacademy.com/blog/self-consistency-improves-chain-of-thought-reasoning-in-language-models/
- Tree of Thoughts (ToT) – Prompt Engineering Guide https://www.promptingguide.ai/techniques/tot
- Chain-of-Thought Reasoning in Diffusion Language Models : r/MachineLearning – Reddit https://www.reddit.com/r/MachineLearning/comments/1j1oe6n/r_diffusion_of_thoughts_chainofthought_reasoning/
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