定義しても消えないもの──意思決定の最後に「残る前提」

議論が噛み合わないとき、
私たちはよく「定義が曖昧だ」「言葉の使い方が違う」と言います。

それは正しい。
実際、多くの混乱は定義を揃えれば解消します。

しかし──
定義をどれだけ厳密にしても、
構造をどれだけ整理しても、
どうしても消えない前提が存在します。

今回は、そこだけを扱います。


定義で解ける問題は、すでに本質ではない

まず大前提として。

  • 用語の意味
  • スコープの範囲
  • 比較基準
  • 解釈のズレ

これらは重要ですが、定義すれば解消可能です。
AIもNotebookLMも、ここは非常に得意です。

問題はその先。

定義をすべて揃えたあとでも、
なお結論が割れる領域がある。

そこにこそ、意思決定の本丸があります。


最後に残る前提①

不確実な世界に生きているという事実

  • 未来は確定していない
  • 情報は常に不完全
  • 予測には必ず誤差がある

これは「定義不足」ではありません。
世界の性質です。

どれだけデータを集めても、
どれだけ精緻なモデルを作っても、
不確実性はゼロにならない。

ここを「定義で何とかしよう」とすると、
過剰な確実性幻想に陥ります。


最後に残る前提②

価値判断とトレードオフ

  • 何を成功とするのか
  • 何を優先するのか
  • どの犠牲を許容するのか

これは定義できても、解消できません

なぜなら、
価値判断は「正解」を持たないからです。

同じ事実、同じ定義、同じロジックでも、

  • 成長を取る人
  • 安定を取る人
  • 短期を取る人
  • 長期を取る人

結論は割れます。

ここは合意ではなく、選択の領域です。


最後に残る前提③

不可逆な制約

  • 時間には締切がある
  • 予算は有限
  • 人は増やせない
  • 失敗のコストは対称ではない

これらは事実ですが、
定義しても消えません

「理論上は可能」でも、
「現実には無理」という判断が生まれるのは、
この層の前提が効いているからです。


最後に残る前提④

責任と覚悟の所在

  • 誰が最終的に決めるのか
  • 失敗したら誰が責任を負うのか
  • どこまでやり直せるのか

この前提が曖昧な議論は、
ほぼ確実に迷走します。

そしてここは、
定義でもロジックでも代替できない

最終的に、

「誰が引き受けるのか」

という一点に収束します。


最後に残る前提⑤

人間は感情で動くという現実

  • 不安はゼロにできない
  • 反発は一定確率で起きる
  • 納得しないと人は動かない
  • モチベーションは揺らぐ

これは欠陥ではなく、仕様です。

定義して排除するのではなく、
確率として織り込むしかありません。


残る前提を一文でまとめると

定義で消える前提をすべて削ぎ落とすと、
最後に残るのは、これです。

不確実な世界で、
限られた資源と時間の中、
価値判断を誰かが引き受けて決めなければならないという事実

これ以上は、
AIにもロジックにも委ねられません。


なぜここを見極める必要があるのか

構造化や定義が進むほど、
意思決定は「人の領域」に純化されます。

だからこそ重要なのは、

  • 何をAIに任せるか
  • 何を定義で潰すか
  • 何を人が引き受けるか

を明確に分けること。


おわりに

思考を高度化すると、
人間の役割は減るのではありません。

むしろ逆です。

最後に残る前提を、
引き受ける覚悟が問われるようになる

それが、
現代の意思決定のリアルです。