「前提」を考えるための研修:企業研修用ケーススタディ(全6題:回答例付き)

Case 1:営業部と開発部の対立が止まらない

A社の新規プロジェクトは、開始当初から不安要素を抱えていた。
営業部は「顧客満足を最優先にすべきだ」と主張し、顧客からの要望はできるかぎり実装すべきだと考えている。
一方、開発部は「品質と工数を守ることが最優先だ」と判断し、仕様変更には慎重だった。

結果として、プロジェクト開始から3ヶ月の間に仕様変更が通常の3倍発生し、開発側は疲弊。
営業は「開発が協力的ではない」と不満を述べ、開発は「営業が無責任に要求を増やしている」と反発した。

納期は最終的に2ヶ月遅れ、顧客からのクレームも増加した。

問い:
この対立の原因はどこにあるだろうか?
そして、両部門が共有しなければならなかった「前提」とは何か?


Case 2:生産性が上がらないチーム

B社の企画部では、ここ数年生産性が伸び悩んでいた。
会議の数は増え続け、メンバーは常に資料作成に追われている。
週に15本以上の会議があり、その多くは長時間に及んだが、会議を終えても成果に結びついている実感は少なかった。

記録される議事録はどれも曖昧で、誰が何を決定したのか不明瞭なまま。
メンバーは「会議が多すぎる」「決めるべきことが決まらない」と口を揃える。

しかし、上司は「スキル不足」「段取りが悪い」とだけ判断し、問題は放置されたままだった。

問い:
この組織の生産性低下の“本当の原因”は何か?
そして、改善すべきは「スキル」なのか、それとも「前提」なのか?


Case 3:顧客クレームが急増するが原因が掴めない

C社のカスタマーサポート部門では、ここ半年で顧客クレームが30%増加していた。
現場は「人手が足りないからだ」と訴えるが、経営陣は「プロセスの問題だ」と見ていた。

調査すると、応対の遅延や処理ミスが多発していることがわかったが、原因は判然としない。
ミスが増えているのか、顧客の期待が変化しているのか、情報は散乱していた。

複数の部署が異なる原因を主張し、責任の押し付け合いが始まった。

しかし調べを進めると、思いがけない事実が判明する。
顧客はサポート連絡を「即時につながること」を当然と考えていたが、C社は「1時間以内なら許容範囲」と想定していたのだ。

問い:
このクレーム増加の“真因”は何か?
そして、企業と顧客の「どの前提」がズレていたのか?


Case 4:イノベーションが起きない理由

D社では、経営陣が「イノベーションを起こせ」という指示を繰り返していた。
だが、現場で行われているのは、小さな業務改善ばかり。
新しい事業案は出ず、組織は変わらないままだった。

経営陣は苛立ちを募らせ、「現場が保守的だ」と判断する。
一方、現場は「イノベーションと言われても、何をすればよいのかわからない」と混乱していた。

実は、両者が使っている“イノベーション”という言葉の意味がまったく違っていた。

問い:
経営と現場で“同じ言葉が違う意味に解釈される”と、組織にどのような問題が起こるか?
そして、このケースでは「イノベーション」という言葉をどう再定義すべきか?


Case 5:DX推進が定着しない企業の共通点

E社では、DX推進室が立ち上げられた。
しかし1年経っても現場での変化はほとんどない。
DX室はツールを導入し、「これでDXの第一歩だ」と考えていたが、現場はそれを「業務が増えるだけだ」と感じていた。

経営陣は「事業変革」を期待していたが、IT部門は「ツール導入=DX」だと理解していた。
結果、DX推進室は孤立し、現場からの協力を得られないままプロジェクトは停滞した。

問い:
この組織のDXが定着しない理由は何か?
部署ごとにどの「前提」がズレていたのか?


Case 6:AI活用が進まない組織

F社では、経営陣がAI活用を強く推し進めていた。
経営は「AIで戦略精度を高めたい」と考え、現場は「作業の自動化」を期待し、情報システム部門は「セキュリティリスク」を懸念していた。

3者の意見は平行線のまま、半年が経過してもAI導入の実績はほとんどできなかった。

ヒアリングを進めると、またもや“前提のズレ”が判明する。

経営は「AI=意思決定の補助装置」と認識していたが、
現場は「AI=作業の肩代わり」と考え、
情シスは「AI=危険なブラックボックス」と恐れていたのだ。

問い:
AI活用が進まない本当の理由は何か?
組織全体で「AIとは何か」という前提をどう統一すべきか?


🟦 【企業研修用・文章題の回答例(全6題)】


Case 1:営業部と開発部の対立が止まらない

▼ 回答例(模範)

この対立の“表面上の原因”は仕様変更の多さだが、
本質原因は、営業と開発が持つ「前提」がまったく違っていたことにある。

  • 営業の前提:
     顧客満足=顧客要望を最大化して聞くこと
  • 開発の前提:
     品質と工数を守ることが価値の源泉

この「前提の不一致」が、
要件定義の基準を曖昧にし、結果として仕様変更を量産した。

従って、両部門が共有すべきだった前提は、

「顧客価値とは何か(=課題解決か/要望充足か)」
「品質とスピード、顧客価値の優先順位をどう定義するか」

である。

前提統合によって、
営業と開発が「同じ物差し」で意思決定できるようになる。



Case 2:生産性が上がらないチーム

▼ 回答例(模範)

このチームの生産性が停滞している原因は、
スキル不足でも段取り不足でもなく、
“会議の目的”という前提が共有されていないこと
である。

現場では、それぞれのメンバーが次のように異なる前提で会議に出ていた:

  • 情報共有の場だと思っている人
  • 意思決定の場だと思っている人
  • 承認の場だと考えている人

こうした前提の違いがアジェンダの不明確さを生み、
議論が散漫になり、決定が進まなくなる。

改善すべきは“スキル”ではなく、
まず 「会議は意思決定の場である」という前提を揃えること

前提が揃えば会議が構造化され、議論の質と速度が大幅に向上する。



Case 3:顧客クレームが急増するが原因が掴めない

▼ 回答例(模範)

クレーム増加の真因は、
「顧客の期待値」と「企業側の前提」がズレていたことである。

  • 顧客前提:
     “即時対応”されるのが当然
  • 企業前提:
     “1時間以内なら問題ない”

この前提のズレが、クレーム増加の因果の起点になっていた。

人手不足やプロセス不備は“二次的な現象”にすぎない。
まず修正すべきは SLA(期待値の前提) であり、
顧客と企業が前提を揃えることでクレームは大幅に減少する。



Case 4:イノベーションが起きない理由

▼ 回答例(模範)

イノベーションが起きないのは、
経営と現場が“イノベーション”という言葉を
まったく異なる意味で使っていたからである。

  • 経営の意味:
     事業構造の変革/新市場創造のこと
  • 現場の意味:
     小さな改善や効率化のこと

同じ言葉が異なる「意味構造」を持つと、
行動基準が揃わず、組織は動かない。

再定義としては、

「イノベーション=新しい価値の創造」
「改善=既存価値の強化」

と二階建ての意味構造を設定し、
行動指針を明確に分ける必要がある。



Case 5:DX推進が定着しない企業の共通点

▼ 回答例(模範)

DXが定着しない理由は、
部署ごとにDXの“前提”が異なっていたことである。

  • 経営:DX=事業変革
  • 現場:DX=業務負荷の増大
  • IT:DX=ツール導入

この前提のズレが、
目的の不一致・抵抗感・誤解を生み、DXを失敗に導く。

DXを推進するには前提を統一して、

「DXとは、価値創造に直結する“業務OSの刷新”である」

という共通理解を作り、
ツール導入は“結果の一部”であると明確にする必要がある。



Case 6:AI活用が進まない組織

▼ 回答例(模範)

AI活用が進まない根本理由は、
「AIとは何か」という前提が組織内で統一されていないことにある。

  • 経営:AI=意思決定を支援する外部知性
  • 現場:AI=作業自動化ツール
  • 情シス:AI=セキュリティリスク

この前提差分によって、導入の目的・期待・対策が大きく食い違い、
半年経っても成果が出ない状態が続いた。

統一すべき前提は、

「AI=思考と判断の補助を行う“外部プロセッサ”である」

という認識である。

これにより、
“AI=作業代行”という誤解が消え、
“AI=思考を加速する装置”として実務に組み込まれる。