プロジェクト頓挫の病理:なぜ7割の試みは失敗に終わるのか

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序章:プロジェクト頓挫の構造的現実

国内外の様々な統計データが示す現実は冷厳である。システム開発やデジタルトランスフォーメーション(DX)といった現代の主要プロジェクトにおいて、その成功率は「せいぜい3割程度」に過ぎない 1。これは、実に「7割」ものプロジェクトが、所期の目標を達成できず失敗、あるいは「頓挫」していることを意味する。

この70%という数値は、プロジェクトの失敗が単なる「不運な例外」や「偶発的な事故」ではなく、現代のプロジェクト管理という行為に内在する「構造的なデフォルト(初期設定)」であることを示唆している。Standish GroupのCHAOSレポートに代表されるように、この低い成功率は長期間にわたり固定化している 2。もし失敗が個々のプロジェクトマネージャ(PM)の能力といった人的要因にのみ依存するのであれば、成功率は正規分布に近づくはずである。しかし、現実は著しく低い位置で安定している。

これは、システム自体(プロジェクト管理というアプローチ)が、対象(現代の複雑なIT・DXプロジェクト)に対して根本的な不適合を起こしている可能性が高いことを示している。したがって、頓挫は「ヒューマンエラー」であると同時に、より根深くは「システムエラー」であると診断できる。

本レポートの目的は、「なぜプロジェクトは頓挫するのか?」という問いに対し、単なる失敗要因の羅列ではなく、頓挫に至る「病理(Pathology)」と、失敗が次の失敗を呼ぶ「失敗の連鎖(Failure Cascade)」のメカニズムを解明することにある。分析は、プロジェクトのライフサイクル全体、すなわち「計画」「実行」「組織環境」の三つの側面から進められる。

第1部:計画の瑕疵(かし) — 失敗が埋め込まれる瞬間

プロジェクトの失敗の多くは、実行フェーズの混乱によって顕在化するが、その種子の多くは、プロジェクトの設計図が描かれる「計画フェーズ」にすでに埋め込まれている。実行段階での失敗は、計画段階の瑕疵が不可避的にもたらした結果であることが多い。

第1章:曖昧なビジョンと不適切なゴール

プロジェクトの頓挫は、技術的な実行以前の「戦略的整合性」の欠如から始まる。PMI(Project Management Institute)の調査によれば、プロジェクトが失敗する要因として「組織における優先順位の変更」(41%)が最大であり、次いで「プロジェクトのビジョンやゴール設定が不適切」(30%)であることが示されている 3

これら二つの要因は独立しているのではなく、明確な因果関係にあると分析すべきである。組織の経営陣が、真に戦略的価値が高い(=適切)と判断したプロジェクトの優先順位を、環境変化を理由に軽々しく変更するだろうか。むしろ、「優先順位の変更」という事象は、そのプロジェクトがもはや「やるべきこと」リストの上位にないと判断された結果に他ならない。

それは、発足当初から「不適切なゴール」(30%)が設定されていた、すなわち、そのプロジェクトには真の戦略的価値がなかったことの裏返しである 3。したがって、「優先順位の変更」(41%)は不可避な外部リスクではなく、多くの場合、プロジェクト発足時の「原罪」(=不適切なゴール設定)が、経営環境の変化というストレステストによって顕在化した結果に過ぎない。

プロジェクトのゴール、すなわち「成果の測り方」が不明確なまま進むと、チームは目的を見失い、「終了すればいい」という状態に陥る 4。その結果、リソースを投下して完成させたにもかかわらず、ビジネス価値を生まない「使われなかったプロダクト」4 が生み出され、プロジェクトは実質的に頓挫する。

第2章:要件定義の崩壊と「スコープクリープ」という病

戦略的ビジョン(第1章)を、実現可能な技術的仕様に落とし込むプロセスが「要件定義」である。特にITプロジェクトにおいて、この要件定義の曖昧さが、頓挫の最大の原因の一つとなっている 5

要件定義が曖昧なままプロジェクトが進行すると、開発途中で仕様変更が頻発し、後から追加機能が頻繁に増え続け、結果としてコストや納期が大幅に膨れ上がる 6。これは、顧客からの要求をヒアリングし言語化する要件定義書(5)の作成時に、何を(What)、なぜ(Why)、誰が(Who)、いつまでに(When)、どこで(Where)、どうやって(How)、いくらで(How much)という「5W2H」(5)が致命的に欠落していることに起因する。

この曖昧さが引き起こす典型的な病状が「スコープクリープ」である 7。スコープクリープとは、プロジェクトの途中で次々と仕様の変更や機能の追加が発生し、当初定めた要件(スコープ)が際限なく拡大していく現象を指す 7

この現象は、単なる「顧客のわがまま」として片付けられるべきではない。スコープクリープは、実行段階で発生する「イベント」ではなく、計画段階の「曖昧さ」6 が遅延して顕在化した「プロセス」である。

多くのプロジェクトにおける「小さな変更」7 とは、顧客が「新しいこと」を要求しているのではなく、「最初から決めておくべきだったこと」を、成果物のプロトタイプを見て決めているに過ぎない。つまり、スコープクリープとは、計画段階で明確化を怠った「曖昧さの負債」に対し、開発段階で「手戻り(コスト・時間)」という高額な利息を支払う行為そのものである。

これを防ぐためには、プロジェクトの初期要件を厳格に確定し 9、MoSCoW分析(Must, Should, Could, Won’t)7 などを用いて要件の優先順位付けを合意し、いかなる変更も厳格な変更管理プロセス(7)を通じて評価・承認するという規律が不可欠となる。

第2部:実行の迷走 — 制御を失うメカニズム

計画が不完全なまま実行に移されたプロジェクトは、必然的にコントロール(制御)を失い、迷走を始める。リソースは計画外の活動に浪費され、リスクは管理不能な「危機」へと変貌する。

第3章:進捗の「ブラックボックス」化

プロジェクトマネージャ(PM)やリーダーの力量不足は、頓挫の主要な人的要因である 6。その力量不足が最も顕著に、かつ致命的に表れるのが「正確な進捗を把握できていない」10 状態、すなわち進捗の「ブラックボックス」化である。

PMの責務は、タスクを割り振ること(Plan)ではなく、割り振ったタスクが実行されているか(Do)、そして「作業計画と実際の作業状況のズレ」(10)を常に把握し、計画との乖離(8)を分析すること(Check & Act)にある。

この「ズレ」の認識が遅れる 10、あるいは認識していながら放置される 10 と、問題はもはや軌道修正不可能なレベルに達し、プロジェクトの「炎上」(=頓挫)に直結する。

しかし、「進捗が把握できない」のは、単にPMが「管理ツール」(10)を使っていないからという技術的な理由だけではない。それは、チームや組織のより根深い問題の症状である。ステークホルダーに対して「都合の悪い情報を隠す」11 という行動は、チーム内部でも同様に発生しうる。メンバーは、自身の「スキル不足」(19)や割り当てられたタスクの遅延(10)といった「悪いニュース」を報告することを躊躇する。

したがって、「進捗のブラックボックス」化は、テクニカルな「可視化」の問題である以前に、アダプティブな「信頼関係」12 と「コミュニケーション」(18)の問題であり、失敗を早期に報告できる心理的安全性の欠如の表れである。

第4章:見過ごされるリスク、後手に回る危機管理

プロジェクトの「危険な兆候」として、計画の曖昧さやリソース不足と並んで「リスク管理の欠如」(8)が挙げられる。リスク管理が不十分な場合、「予期せぬ事態への対応遅延」(8)を招き、プロジェクトは目標達成から大きく逸脱する。

ここで混同されがちなのが、「リスクマネジメント(予防的対処)」と「危機管理(事後的対処)」の違いである 8。リスクマネジメントとは、発生する可能性のあるリスクを事前に特定・評価し、予防策(コンティンジェンシープラン)を準備することである 13。対して危機管理とは、すでに発生してしまった問題(=危機)に対処することである。

多くの頓挫プロジェクトは、「リスク管理」を行っていないのではない。彼らは「危機管理」に追われるあまり、「リスク管理」を行うリソース(時間・精神的余裕)を失っている。第2章で見た「曖昧な計画」と第3章の「不透明な進捗」を抱えたプロジェクトは、常に「小さな火事」(=危機)の消火に追われている。

この「事後的対処」(危機管理)の連続が、本来行うべき「初期段階での包括的なリスク分析」14 や「定期的なリスクレビュー」(予防的管理)13 の時間を奪う。結果として、チームは目前の小さな危機に対応し続けて疲弊し、その背後で迫っている「致命的なリスク」(特定漏れ 13)への備えを怠り、最終的にリカバリー不可能な事態に直面して頓挫する。

第5章:リソース(人・モノ・金)の枯渇

プロジェクトを成功に導くための物理的資源、すなわち「人員・スキル・予算」(8)の不足は、プロジェクトを物理的に停止させる、最も分かりやすい頓挫の要因である。

特に深刻なのは、人的資本の崩壊である。「メンバーのスキル不足」(10)や「PMの力量不足」(6)は、プロジェクトの遂行を困難にする。必要なスキルとエンジニアのスキルに乖離がある(10)、あるいはタスクと人材のアンマッチ(19)が発生すると、計画通りの進行は不可能になり、現場の負担は増大し、遅延や品質低下(5)を招く。

しかし、この「リソース不足」8 は、プロジェクト失敗の根本原因として捉えるべきではない。多くの場合、それは他の失敗が蓄積した結果として顕在化する「最終症状」である。

予算や人員はなぜ不足するのか。それは、第2章で見た「曖昧な要件定義」(6)と「スコープクリープ」(7)が、計画外の作業(手戻り)を大量に発生させ、当初の予算と人員(工数)を計画外の形で消費するからである 9。また、第4章で見た「リスク管理の欠如」(8)は、予期せぬ事態への対応コスト(=追加リソース)がバッファとして考慮 9 されていないことを意味する。

したがって、「リソース不足」とは、計画の失敗が実行段階で「現金化」された状態である。プロジェクトは計画の瑕疵という癌で死に向かうが、直接の死因は「多臓器不全(リソース枯渇)」と記録されるのである。

第3部:組織という「環境」の病理

プロジェクトは真空では実行されない。それは常に、組織という「培養基」の中で実行される。この環境自体がコミュニケーション不全や信頼欠如といった病理を抱えている場合、いかに優れた計画やPMを擁しても、頓挫は不可避となる。

第6章:コミュニケーション不全という「静かなる破壊者」

プロジェクト頓挫の最も普遍的かつ強力な要因の一つが「コミュニケーション不足」である 5

この問題は、単なる技術的な連携ミス(例:修正箇所のズレ、二度手間)による「業務効率の低下」(12)に留まらない。より深刻なのは、コミュニケーション不足が引き起こす組織的・心理的ダメージである。情報が共有されない環境は、「信頼関係の損壊」(12)を招き、チーム全体の「モチベーションの低下」(12)や「精神的ストレスの増加」(18)に直結する。特にリモートワーク環境下では、メンバーが「自分だけが孤立している」(12)と感じやすく、チームへの貢献意欲が失われ、最悪の場合は離職リスク(12)にさえ繋がる。

コミュニケーション不足は、単に「ビジネスチャットツール(12)を導入していない」という技術的な問題として捉えるべきではない。それは、「相談や悩みを口にしにくい環境」(18)や、「部門間や他部署でスムーズに連携が取れない」(18)といった、より根深い組織文化や構造的障壁が表出した症状である。

仮に敵対的な組織文化(例:失敗の非難、責任の転嫁)が存在する場合、いくら高度な情報共有ツールを導入しても、メンバーは(第3章で見たように)「都合の悪い情報」を決して共有しない。コミュニケーション不足とは、情報経路(ツール)の欠陥である以上に、情報の発信者と受信者の間の「信頼(Trust)」というパイプラインそのものの破綻を意味するのである。

第7章:ステークホルダー・マネジメントの死角

プロジェクトは、PMとチームメンバーだけで完結しない。顧客、経営層、関連部署、協力会社など、多様な「ステークホルダー(利害関係者)」(11)との協働であり、彼らの利害調整の失敗はプロジェクトを内側から崩壊させる。

この「認識のズレ」(11)や「期待値のズレ」(5)こそが、プロジェクトを頓挫させる時限爆弾である。この「溝」(11)は、以下の複合的要因によって体系的に生み出される。

  1. 特定漏れ:プロジェクトに影響を与える、あるいは影響を受ける可能性のあるステークホルダーを初期段階で特定できていない 5
  2. 理解不足:特定した各ステークホルダーが、プロジェクトに何を期待し、何を懸念しているかを十分に理解していない 11
  3. 計画の欠如:誰に、何を、いつ、どのような手段で伝えるかという、計画的なコミュニケーションが行われていない 11
  4. 一方通行と情報の非対称性:進捗報告が一方的で、フィードバックを求める双方向性(11)が欠如している。さらに、「技術用語や業界特有の専門用語の多用」、「都合の悪い情報の隠蔽」、「不正確な報告」(11)によって、ステークホルダーは正確な状況を把握できなくなる。

11に列挙されたこれらの失敗要因(専門用語、情報隠蔽、一方通行)は、単なる「怠慢」や「スキル不足」の産物ではない。それらは、プロジェクトチームがステークホルダーを「協力者」ではなく、「敵」または「管理・干渉してくる障害」と見なす、無意識的な「防御的姿勢(Defensive Posture)」の表れである。

「専門用語」は、相手を煙に巻き、自らの専門的権威を守るための「壁」として機能する。「都合の悪い情報の隠蔽」は、非難から身を守るための「自己保身」である。「一方通行の報告」は、ステークホルダーからの「介入(=面倒な要求)」を防ぐための「バリア」である。

この防御的姿勢こそが「認識のズレ」を意図的に固定化させ、最終的に「関連部署の協力が得られず、プロジェクトが進まない」(11)という形で、プロジェクトは組織的な支持を失い頓挫する。

第4部:頓挫を回避するフレームワークの功罪

人類は、プロジェクトの頓挫という高い失敗率(1)を克服するために、体系化された「方法論(メソドロジー)」を生み出してきた。だが皮肉なことに、その方法論の適用自体が、新たな失敗の形態を生み出すことがある。

第8章:PMBOK — なぜ「世界標準」は失敗を防げないのか

PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、プロジェクト管理の知識やベストプラクティスを体系化した「世界標準のガイド」である 16。その最大の功績は、「マイルストーン」「ステークホルダー」「スコープ」といった「共通言語」(16)を提供し、世界中のビジネスパーソンが同じ定義でコミュニケーションできる基盤を整備したことにある 16

PMBOK(特に第6版まで)は、「5つのプロセス群」と「10の知識エリア」(16)で構成され、本レポートの第1部〜第3部で議論した主要な失敗要因への体系的な対処法を定義している。例えば、第2章で問題となったスコープ(16)に対し、PMBOKのスコープマネジメントは、「計画を立てる」「要求事項を収集する」「スコープの定義づけをする」「WBSを作成する」「スコープの妥当性を確認する」「スコープを管理・調整する」という、極めて論理的かつ網羅的なプロセスを提示する 17

では、これほど体系化された「世界標準」16 がありながら、なぜ7割ものプロジェクトが失敗し続けるのか 1

その答えは、PMBOKが「地図」であり、「運転技術」ではないという点にある。PMBOKは、プロジェクト成功のために「何を(What)考慮し、管理すべきか」(16)という知識のフレームワーク(=地図)を提供するが、「それをどう(How)うまく実行するか」というスキル(=運転技術)は提供しない。

17が示すスコープ管理プロセスは論理的に完璧である。しかし、このプロセスを現場で遂行するには、顧客の曖昧な要求を引き出す高度なファシリテーションスキル(5)、ステークホルダーとの利害を調整する交渉力(11)、そしてそれを実行するためのリソース(8)が不可欠である。これらはPMBOKが「必要だ」と定義するものではあるが、PMBOKを読んだだけでは身につかない。

プロジェクトが頓挫するのは、地図が間違っているからではない。ドライバー(PM)の力量不足(10)や、車(組織)が整備不良(第3部で見た組織的病理)だからである。PMBOKという「世界標準」がありながら7割が失敗するのは、PMBOKが間違っているからではなく、それを実行するために必要な「人的・組織的成熟度」が現場に欠如しているからに他ならない。

第9章:アジャイルの罠 — 柔軟性が招く新たな混沌

ウォーターフォール型開発(PMBOKが典型)は、厳格なスケジュールや固定された仕様(15)には強い反面、「仕様変更」に極めて弱く(15)、第2章で見たスコープクリープ問題(7)を構造的に抱えている。この弱点を克服するために登場したのがアジャイル開発である 15

アジャイル開発は、「全体の要件が明確でない」「仕様の変更・追加が予想される」(15)プロジェクトに向いている。そのメカニズムは、「設計→実装→テスト」の工程を短いスパン(イテレーション)で繰り返し(15)、まずは実用最小限の製品(MVP: Minimum Viable Product)(20)をリリースし、ユーザーからのフィードバック(15)を受けて柔軟に軌道修正(20)することにある。

しかし、この「柔軟性」は新たな混沌と、アジャイル特有の失敗要因を生み出す。

  1. コミュニケーション不足:短いスパンで軌道修正を繰り返すため、コミュニケーションの密度は(ウォーターフォール以上に)重要である 15。認識の齟齬は即座に開発の迷走に繋がる。
  2. プロダクトオーナー(PO)の関与不足:PO(=要件と優先順位を決定する人)がプロジェクトに積極的に関与しない(15)場合、開発チームはビジョンを失い、クライアントが求めるニーズ(15)が反映されず、結果として「実用性の低いシステム」(15)が生まれる。
  3. 知識・技術の不足:仕様変更の多さ(15)から開発難易度が高く、アジャイル開発の経験者がいない体制で取り組むと、プロジェクトをうまく進められなくなる 15

アジャイルは、ウォーターフォール型の失敗要因(計画の硬直性)を解決する代わりに、失敗の要因を「人」と「コミュニケーション」(15)に、より高度なレベルで集中させる。ウォーターフォールは、失敗の責任を「計画書(ドキュメント)」に転嫁できる。アジャイルは、そのドキュメントを最小限にし、「継続的なコミュニケーション」(20)と「POの判断」(15)という「動的な人間」の能力に置き換える。

これは、アジャイルがPM(10)やステークホルダー(11)に対し、ウォーターフォール型よりも高いスキルと密な関与を要求する、「上級者向け」の方法論であることを意味する。アジャイルは頓挫の「万能薬」ではない。それは、第3部で議論した「組織の病理」(コミュニケーション不全、スキル不足、関与不足)を、より高速かつ致命的な形で露呈させる「触媒」として機能しうる。

以下の表1は、両開発手法が、主要な頓挫要因に対していかに異なるアプローチを取り、異なる脆弱性を持つかを比較したものである。

表1:アジャイル開発とウォーターフォール開発の失敗要因と対応力の比較

頓挫の要因ウォーターフォール型(PMBOK準拠)アジャイル型
要件の曖昧さ致命的。後工程での手戻り 15 とスコープクリープ 7 の主因。許容。「要件が明確でない」 15 ことを前提とし、反復(イテレーション)15 とフィードバックで解消する。
仕様変更(スコープ変更)極めて脆弱。前の工程に戻る必要があり、大幅な工数増 15 を招く。変更管理 17 で厳格に「防ぐ」対象。得意。「仕様変更は予想される」 15 ことを前提とし、柔軟な軌道修正 15 で「取り込む」対象。
スケジュール/予算管理得意。初期の要件定義とWBS 17 に基づき、予測可能性が高い 15困難。反復ごとにスコープが見直されるため、全体像と最終コストの把握が難しい 15
ステークホルダーの関与中程度。初期の要件定義とマイルストーンでのレビューが中心 17不可欠。プロダクトオーナー 15 やユーザーの「積極的かつ継続的な関与」 15 がなければ即座に迷走する。

結論と提言:頓挫から学ぶ「成功するプロジェクト」の条件

本レポートの分析が明らかにしたように、プロジェクトの頓挫は単一の原因で発生するのではなく、「失敗の連鎖」の結果である。

戦略的失敗(不適切なゴール 3)は → 計画的失敗(曖昧な要件 6)を生み → それが拡大(スコープクリープ 7)し → リソース枯渇(8)を招き → 管理不全(進捗ブラックボックス 10, リスク放置 8)に陥り → 組織的崩壊(コミュニケーション不全 12, ステークホルダー不信 11)を経て → 頓挫に至る。

この連鎖を断ち切るためには、単一のツール導入(10)やPM個人の努力に依存するのではなく、組織的な「仕組み化」が必須である。

  1. 計画の明確化(第1部への対策):要件定義書(5)の厳格化、5W2Hの徹底(5)、および厳格な変更管理プロセス(7)の確立と遵守。
  2. 進捗とリスクの可視化(第2部への対策):タスクと進捗状況をリアルタイムで共有できる進捗管理ツール(9)の導入。そして「予防的対処」(8)としての定期的(13)なリスクレビューとコンティンジェンシープラン(14)の策定。
  3. コミュニケーションの仕組み化(第3部への対策):ステークホルダーレビュー(14)の定例化、コミュニケーションルールの明確化(8)、および情報共有ツール(12)の戦略的活用。

最後に、フレームワーク(PMBOK 16, アジャイル 15)は重要だが、それらは「道具」に過ぎない。本質的な成功条件は、道具を使う「人」と「組織文化」にある。PMの力量(10)とメンバーのスキル(19)、ステークホルダーの積極的関与(11)、そして何よりも、失敗の兆候を早期に報告し共有できる「心理的安全性」(12)の醸成こそが、7割の失敗を回避する唯一の道である。

以下の表2は、プロジェクトマネージャおよび経営層が、自らのプロジェクトの健康状態を診断するために活用できる「危険兆候チェックリスト」である。

表2:プロジェクト頓挫の危険兆候チェックリストと診断

危険な兆候(観察可能な事実)診断(隠れた病理)処方箋(直ちに行うべき対策)
「進捗がよく分からない。報告が曖昧だ」 8進捗のブラックボックス化 (第3章)。PMの力量不足 10 または、チーム内の心理的安全性欠如(報告への恐怖)11タスク管理ツール 10 の導入と、進捗報告(計画と実績のズレ)のデイリースタンドアップミーティングの義務化 10
「顧客や他部署から小さな仕様変更・追加要求が頻発する」 7スコープクリープの初期症状 (第2章)。原因は初期の「要件定義の曖昧さ」 6 にある。「曖昧さの負債」の顕在化。全要求をリスト化し、MoSCoW分析 7 などで優先順位付けを再実施。厳格な変更管理プロセス 7 を導入・徹底する。
「主要ステークホルダーが重要な会議に出席しない」 11ステークホルダー・マネジメントの失敗 (第7章)。期待値のズレ 11 または「不適切なゴール」 3 により、プロジェクトの優先順位が(経営層の中で)低下している。ステークホルダーマップ 5 を見直し、当該人物の期待値・懸念点を個別ヒアリング。プロジェクトの価値を再定義し、関与を再要請する。
「チームがリスクや問題点について話さず、常に楽観的だ」 8リスク管理の欠如とコミュニケーション不全 (第4, 6章)。「危機管理」 8 に追われ「予防」が機能していない。または「口にしにくい環境」 18 の蔓延。「予防的リスク管理」 8 のための定例会(14)を強制的にスケジュールする。匿名でのリスク洗い出し(ブレインストーミング)を実施する。
「アジャイル開発でPO(プロダクトオーナー)が不在がち」 15アジャイルの致命的失敗 (第9章)。POの関与不足 15 により、開発チームがビジョンを失い、実用性の低いシステム 15 を作っている可能性が極めて高い。即時プロジェクトを停止し、PO(またはその代理)のフルタイムの関与を経営層に要求する。POの役割と責任を再定義する 15

引用文献

  1. 「なぜそのベンダを選んだのですか?」 システム開発失敗の7割は https://www.ocean-ap.co.jp/column/?p=7758
  2. 他社の失敗に学ぶ導入成功の秘訣 – CLYR https://www.clyr.co.jp/posts/lessons-from-other-companies-failures-for-successful-implementation-2730
  3. プロジェクトが失敗する要因は? – P3Mオフィス https://p3moffice.com/2025/07/causes-project-failure/
  4. めちゃくちゃ失敗プロジェクトを経験してきたアラフォーエンジニアが考える、プロジェクトを成功させるために必要なこと – Qiita https://qiita.com/sho0211/items/62a73da59bae2b9a826a
  5. プロジェクトが失敗する要因は?失敗の定義や回避ポイントを解説 – Jooto https://www.jooto.com/contents/failure-factor/
  6. システム開発の失敗事例11選|7割が失敗する原因と対策を完全解説 – 株式会社Walkers https://walker-s.co.jp/media/system-development-failure/
  7. 要件定義の失敗事例5選|システム開発におけるトラブルの原因と対策 https://lychee-redmine.jp/blogs/project/tips-definition-elements-failures/
  8. プロジェクト失敗の対策とは?事例から学ぶ成功への道筋 – Lychee Redmine https://lychee-redmine.jp/blogs/project/tips-project-failure/
  9. 実例から学ぶ!システム開発の失敗事例とプロジェクト成功のための対策集 https://sophiate.co.jp/real-world-lessons-from-failed-it-projects-practical-solutions-for-success/
  10. 炎上プロジェクトとは?炎上の要因や火消しの方法について解説! https://www.jooto.com/contents/backlash-project/
  11. すれ違う認識がプロジェクトを壊す ― ステークホルダー管理の重要性 – ビジョン・コンサルティング https://visioncon-global.com/insights/report/misunderstandings-can-destroy-a-project-the-importance-of-stakeholder-management/
  12. 社内コミュニケーション不足問題が引き起こすリスクと解決策とは? – TocaLot https://www.tocaro.media/column/c1053
  13. プロジェクト進捗管理の落とし穴:5つの共通ミスと解決策 – ONES.com https://ones.com/ja/blog/knowledge/project-progress-management-pitfalls-6/
  14. プロジェクト管理の落とし穴:確認漏れが引き起こす5つの致命的 … https://ones.com/ja/blog/knowledge/project-management-pitfalls-solutions-4/
  15. 失敗から学ぶアジャイル開発 成功へのヒント – システムエグゼ … https://www.system-exe.co.jp/blog/itknowledge19
  16. PMBOKとは?10の知識エリアと第7版の変更点をわかりやすく解説 https://crexgroup.com/ja/consulting/operation/pmbok-7th-edition-changes/
  17. スコープマネジメントとは?目的やプロセス、ポイントを解説 https://timecrowd.net/blog/scope_management/
  18. 社内コミュニケーション不足が抱える課題とは?原因と解決策を紹介 – Qiita Team https://teams.qiita.com/issues/
  19. プロジェクト炎上!?ピンチを切り抜ける方法5選 – Goodpatch Tech Blog https://goodpatch-tech.hatenablog.com/entry/crisis
  20. アジャイル開発でも要件定義は必要?業務システム開発の成功 … https://www.reqxign.net/column/19
  21. うちの会社でIT開発プロジェクトの炎上が続いているのはなぜ?|4大炎上要因と解決策 https://www.ricksoft.jp/lp/solution/101_0047.html